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桜霞
2022-10-01 16:59:19
30756文字
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【twst夢】フライパンは無敵
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寒暖差アレルギー
#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主 2020/06/16にpixivに投稿したものの再掲です。
1
2
あぁもうジャケットは要らないな、ヒートテックも不要かしら、しかしまだまだ夜は冷えるねえ、と話していたあの日々は果たして幻覚だったのだろうか。
「あっっっっづい!!!!!!!!」
ばん、と音を立てて、リン、ユウ、そしてグリムはオンボロ寮の外へ出た。
ある日突然、オンボロ寮は灼熱の地獄に見舞われた。外に出た瞬間、冬が終わったばかりの冷たい空気が肌を冷やす。
「も~~~、一体全体なんなのよ! 呪い!? 呪いか!?」
「まるでスカラビアみたいな暑さなんだゾ!」
「全然寝付けませんでした
……
」
ストックしてあったスポーツドリンクをがぶ飲みしながら、二人と一匹はよたよたと学校へ移動した。何があったのか知っているかもしれないゴースト達はそそくさと逃げたようで、姿は見当たらなかった。一体全体何が起こっているのか、皆目見当もつかない。
「空調がぶっ壊れたんでしょうか
……
」
「ウチの空調は全部妖精の管轄の筈だけど。ユウ、ジャケットはやめて、せめてパーカーにしな」
「はい、ありがとうございます」
体のラインを分かりにくくするために上着は欠かせないが、ジャケットを着ていられるような気温ではない。学園までの道すがら、鏡舎の横を通った二人は「ウワッ」と目を剥いた。
「すご、ここだけ
日輪よ、死に随え
ヴァサヴィ・シャクティ
されてる」
「あれってそういう宝具でしたっけ
……
? でもすごいですね、ここだけ蜃気楼が
……
」
文字通り、鏡舎の建物が茹っているようだ。わらわらと出てくる生徒は口々に悲鳴や呻き声をあげている。どうやら鏡舎の中だけオンボロ寮のように亜熱帯になっているらしかった。
「あっ」
「ん?」
ユウが鏡舎の方を二度見する。立ち止まったユウに、リンも歩みを止めた。
どうした、とユウの方を顧みて、彼女の視線を追った先には、リンとて見慣れた長躯があった。
「
……
」
ふらっ、と。
長い影が続けざまに揺れる。ユウとリンは咄嗟に地面を蹴っていた。
「うわっ、」
どさどさと音を立てて、彼らは地に伏した。常からは考えられないその姿に、誰もが目を剥いて息を呑む。
「おいおい」
「マジかよ」
「はいはいどいてどいて、お前らも外に出る! 熱中症になるよ!!」
リンが張り上げた声に弾かれた様にして、立ち止まっていた生徒達が動き出した。
倒れた生徒は計三名。オクタヴィネルの寮長であるアズールならびに、双子のリーチ兄弟である。
「とりあえずユウはアズール運んで」
「はい! えっでもリンさんは、」
「往復する!」
言うが早いが、リンは器用に双子の片割れの長い手足をリュックのように持つと、一息にその長躯を肩に担いだ。
「っし、」
そしてそのままずかずかと外に出る。
ボケッとしてる場合じゃない、とユウも慌ててアズールの肩を担いだ。グリムが助け起こすのを手伝ってくれる。何とか持てない重さではないが、ユウとてこの暑さに眩暈がしそうだった。
「おい、ユウ、何してる」
「え、あ、ジャック!」
ふと声をかけてきたジャックに、ユウは助かった心地になった。
「ごめん、そこのリーチ先輩、運ぶの手伝って!」
「は?」
「リンさんのお手伝いです!!」
滅多に声を荒げないユウに面食らったのか、ジャックは何度か目を瞬かせて、言われるがままにその長身を担ぐはめになった。
「あ、こっちこっち。手伝ってくれたの? ありがと」
鏡舎は高い石壁に囲まれた作りになっている。真昼間以外なら、その壁の麓には長い影ができていた。
アズールとリーチ兄弟はそこに寝かされることになった。
「意識はあるみたいでさ、良かったよ」
目の前で倒れられたからびっくりした、と苦笑するリンは、ジャックに再度「ありがとうね」と礼を言った。
「あ、いや、ウス」
「フロイド先輩、ヤじゃないです、飲まないとぐらぐらしてるの治らないですよ」
ううう、という唸り声が大きく響く。スポーツドリンクを飲ませようとしていたユウはほとほと困り果ててリンを顧みた。
リンが何か言おうと口を開く前に、「助かりました、」とアズールが吐き出した。
「いやはや、茹蛸になるところでした」
「オレもう茹でウツボになった
……
食べていーよ小エビちゃん
……
」
「食べませんから、飲んでください」
ジェイドはごきゅごきゅと喉を鳴らしてアズールから受け取ったペットボトルを空にしている。
「あれは
……
」
「私らの。大丈夫、寮にストックはまだあるし、予備も持ってきたから。あんたも飲む?」
「あ、いや、オレは平気っス」
「そう? 無理はだめだよ」
にっこり笑ったリンは、すぐにアズール達へと視線を戻した。
「アンタ達、もう今日は寮に戻んな」
「いえ、それが
……
今朝から寮内もひどく暑くて、とても快適に過ごせたものではないんです」
「干からびたァ
……
」
ユウに体の下に膝を入れられて上体を起こされたフロイドがぐったりしながら言った。
「それで、外に出た方がいくらかマシなのでは、と
……
まさか鏡舎が鍋のようになっているとは、予想外でした」
そして鏡から出てきた瞬間、暑さにやられて眩暈を堪えきれずくらっと倒れてしまったのだという。
ジェイドが空のペットボトルをぐしゃりと握り潰した。「オクタヴィネルも?」とリンは片眉を跳ねさせた。
「オクタヴィネルも、ってことは、オンボロ寮もっスか」
「そうよ。朝から砂漠。サバナクローは?」
「こっちは豪雨っス。じめじめしてて、気持ち悪ィんすよ
……
」
苦虫を嚙み潰したようなジャックの表情に、リンは「ふむ」と思案する素振りを見せた。
どうやらこれは、そこそこ大きい問題らしい。
「ひとまず、フロイド先輩たちは人魚の姿に戻って、オクタヴィネルの海で過ごすことにしたらどうですか? 流石に海の中は荒れてないでしょう?」
「ええ、見たところは
……
」
「えー、でもさあ、それでまた鏡舎通るのだンぐっ!?」
ガッ、と音を立ててユウの持っていたペットボトルがフロイドの口の中に突っ込まれた。んごぼごとフロイドが何か言おうとしているが、ユウは自分の腕や背中に立てられた爪を意に介すことなく、容赦無しにフロイドの鼻を摘まんで嚥下を促した。綺麗な喉ぼとけが数回上下するのを見て、ユウはようやく肩の力を抜いた。そうしてフロイドの鼻から手を離し、ペットボトルを明け渡す。
「
……
おまえ
……
勇気あるな
……
」
「ユウさん、助けませんよ」
「オ、オレ様は関係ねえんだゾ!?」
ジャックがドン引き、アズールですら先手を打った。しかしユウはしれっと「フロイド先輩が脱水症状起こして死ぬよかマシです」と言い切って、あっという間に空になったペットボトルに「やっぱり飲んで良かったでしょ」とさえ宣った。
「ユウさん、今のは意識無いひとには絶対やっちゃだめだぞ!」
「分かってます、リンさん。すいません先輩、苦しかったですね。でも、残さず飲んでくれてありがとうございます」
「
…………
」
むっすりとむくれたフロイドは、何度か小さくけほっと咳込み、ぱきゃりとペットボトルを握り潰した。飲み口のところは鋭い歯のせいか、ところどころが抉れている。
「
……
溺れるかと思った
……
」
「でも、楽になったでしょ」
「もっと優しくしてよ」
「駄々を捏ねてたのはあなたの方でしょ、フロイド」
「
……
」
ジェイドに言われてしまえば黙る他無いのか、それっきりフロイドはむっつりと口を噤んだ。長い脚を抱え込んで、小さく座り込む。
もう支えは要らないだろうと判断したユウは立ち上がった。
「保健室には行かなくても良さそうだな。酩酊感が無くなったらユウの言った通り海に戻った方がいい。ただ、アズールは緊急の寮長会議があるかもしれん」
リンの言葉を引き継ぐようにして、アズールは「どうせこの様子では授業もままならないでしょう」、と双子に向き直った。
「僕はこちらに残ります。お前達は先に戻っていなさい」
「分かりました」
「いってら~」
フロイドがくしゃくしゃに細長くなったペットボトルをひらひらと振る。リンは立ち上がろうとしたアズールを手伝って、「気をつけてな」と一声かけると踵を返した。双子を残して、他の全員で校舎に向かう。
「ユウ、ジャック、それにグリムも。ちょっと頼まれてくれないか」
「はい、なんでしょう」
すぐさま返事をしたのはユウだ。ジャックとグリムは思わず顔を見合わせた。
「ちょっとひとっ走り行って校舎内の様子を見て来てくれ」
「それは
……
構わねえっスけど、なんでまた」
「寮内環境に耐えられない奴もいるだろうし、さっきの双子みたいにうっかり踏み込んだ先で倒れられたら困るからな。マップとお知らせ作る。マジカメのチャットで報告してくれればいいから」
「あ、オレ、マジカメやってねえんス」
「じゃあショートメッセージでいいよ。電話番号交換しよう」
「ウス」
それなら僕も、とアズールが手を挙げた。
「学園内は広大ですから、三手に分かれましょうか。僕は外を見ます。買いたいものもありますし」
「じゃあ、オレは上から見る」
「そしたら私とグリムは下からだね」
「任せるんだゾ!」
アズール、そしてジャックと連絡先を交換し、メインストリートを過ぎると、四人と一匹はすぐに解散した。
事務局はヒュル~ヒュル~、ヒュ~ル~ルルールールーと北風が吹いていた。
「っふーゆーでー、ごーざんーすー、じゃねーんだよ!!」
ともすればすべての音がかき消されてしまいそうな強風が局所的に発生している。窓も開けていないのにどういうことだってばよ、とリンは頭を抱えたかったが、立っているだけで精一杯だった。耳元でごうごうと風が唸りを上げている。
「誰だよ北風小僧の寒太郎を呼んだ奴は!!! もうすぐ春だっつってんだろ!!! 春よ来い!!! 松任谷由実を呼べ!!!!!!」
「誰だそれは!!!!!」
隣の職員室も凄まじいくらいの暴風だ。それでも通るクルーウェルの声に、リンは負けじと腹筋に力を入れた。
「寒暖差で風邪引くわ!!!!! 何が起こってんの!!?!!?」
「今、学園長がいろいろ見て回ってる!!!!」
「ざっけんなあのファッキンクソ烏ほんまに仕事しよるんか!!?!?!?」
「とにかく対策を打て!!!!!!!!!!!!」
「ハァーーーー!!!?!!?!?」
「このままだと授業どころじゃない!!!!!」
「魔法でどうにかできないんですかァ!!?!?」
「できればとっくにしている!!!!!」
でしょうねェ!!!! と内心で絶叫し、リンはどうにかこうにか自分のデスクに辿り着いた。引き出しから素早くコードを取り出し、パソコンとスマホを繋ぐ。
事務室は大わらわだった。書類が宙を舞い、物は散らばり、ハサミやカッターなどの危険物が壁や床に突き刺さったり跳ねたりしている。
「まずはここを捨てるべきでは!?」
「っ
……
、それしか、ないな
……
!」
同僚の何人かは歯噛みしたが、それでも次の行動に移るのは早かった。
「書類とか、保管しなきゃいけないものはバックアップ取ったら戸棚に!! 外に散らばらないよう扉に魔法かけて!!」
「事務局対応不可のお知らせウェブにアップ完了しました!!」
「貴重品以外の私物は捨て置け!!」
「誰かタブレットかノートパソコン持ってる!?」
「あるよ!!」
事務員たちの怒号が飛び交う。システムデータをスマホに無理矢理入れたリンは、パソコンの電源を落とすと本体がきっと無事であるように祈りながら自分の上着をばさりと被せ、飛んできたガムテープを利用し、固定した。
「ここはもう使えない!! 外に行くぞ!!」
「ア゛イ!!」
すべての戸が厳重に閉められていることを確認し、事務員のひとりが凄まじい勢いでドアを蹴破った。途端に暴れる風が外に溢れ出し、何人かの生徒が被害にあったのか悲鳴をあげる。
それを聞きながら、事務員と教職員はどやどやと校舎の外へと移動した。蹴破った扉は教職員が瞬き一つで元に戻していた。ぴたりと風が止む。
「はー、えらい目に遭った」
「天候操作魔法とか無いんスか
……
」
「そんな大がかりな魔法、ホイホイ使えてたまるものか」
クルーウェルが吐き捨てる。リンは素直に「サーセン
……
」と謝罪した。
「しっかし、どうしたもんかな」
「まずは人命優先でしょ。保健室が無事かどうか確認しましょう」
「見てきます」
事務員の内、ひとりがすぐに駆け出した。
「それから
……
」
「今、生徒三人使って学園がどうなってるか見て来てもらってます。ここに直接情報来るようになってるんで、天気マップ作りましょう」
リンがスマホを掲げる。事務員たちはすぐに「そうしよう」と首肯した。
「無事な部屋は体調不良者と食料優先。特に水の保管。各寮も異常事態っぽいので、その場で数日しのげるような備品などの供給
……
」
「いっそ外でキャンプさせるか?」
「まぁ
……
候補に入れてもいいでしょうな」
「何事も、まずは現状把握からだ。対処は学園長に任せよう」
「はい」
事務局長の一言で、事務員たちはいっせいに動き出した。リンのスマホをノートパソコンやタブレットに繋ぎ、元々デスクトップで使用していたシステムの一部を移す。
「先生方は生徒達の現状把握をお願いします。体調不良者はそのまま安置してください、保健室の準備ができてたら連絡しますので」
「了解した」
「校庭に集めた方が効率もいいか」
「寮に残っている生徒もいるやもしれん。寮長に確認させよう」
教師陣はすばやく校舎内に散らばって行った。リンのスマホには先程からぽこぽこと通知が届いている。ジャックやユウ、そしてアズールからだ。
「しっかし、空調管理を妖精に委託してるからってこんなことになります? 絶対なんかおかしいでしょ」
「あぁ、まあな
……
」
「どの妖精が原因なんでしょう」
「えっ、火の妖精だけじゃないんですか」
目を丸くするリンに、同僚のひとりが「そう言えば冬に世話をしたって言ってたな」と何度か瞬いた。
「そうだよ。ウチには風や水なんかの妖精もいる」
「火の妖精は毎日の薪で生活してもらってるが、他の妖精は大体が学園長の管理してる魔法石で魔力を供給してるんだ」
「へえー
……
」
「
……
」
「
……
」
不意に、嫌な沈黙が場を支配する。互いが互いの顔色を窺って、ほとんどの事務員は全員が同じ推測に至ったのだろうなと察した。
───誰かが、その魔法石に何かをしたんだな
……
。
「許すまじ」
「先に仕事だ。ほら、お前の分のノートパソコン。予備があったからやるよ」
「へぇーい」
リンは大人しくそれを受け取って仕事に取り掛かった。
保健室は特にこれと言った天候の変化はなく、少しだけ寒いかなという程度だった。大食堂も暖炉に住み着いた妖精が働いてくれたらしく、保健室と同様に「長居するにはちょっと寒い」程度に収まっている。
しかし他の教室などはまちまちで、何故か室内なのに雨や雪が降っていたり、カンカン照りだったり、竜巻が大量発生して目も当てられないことになっていたりと、散々だった。
外は共通して冬の終わり、春の初めの麗らかな日差しと風が揺蕩っている。
このような異常事態に際し、学園側から出来るサポートは特になかった。委託先の妖精に万事任せきりだったので、機械的な空調設備も皆無で、このような天候を操作するのも大魔術の域に入るらしく、教師陣は手が出せない。
勿論、事務側ができることもたかが知れていた。
「授業はできませんから休校ですかね」
「しばらくはそうなるかな」
「だとすると、今なんとかしなきゃいけないのは鏡舎か」
授業ができないとなると生徒達は寮に滞在するしかなくなる。しかし食事は基本的に大食堂で用意されるので、生徒達は一日に最低三回は鏡舎を使って校舎へ赴くことになる。
その鏡舎は、ただいま絶賛サウナ状態と化していた。
「暑さだけでもどうにかなりませんか?」
「うーん
……
」
「ほら、魔法石を要に魔法を展開して涼しい風を
……
空気を入れ替える
……
みたいな
……
」
「
……
」
「
……
」
「スミマセン黙ります」
「あ、いや」
素人の発案にその場が静まり返る。居た堪れなくなったリンに、事務員は慌てて声をかけた。
「発想自体はすごくいいと思うよ。ただ前例があんまりないし、あったとしても大昔だから、先生がたでもできるかどうか」
「一応、古代ではそういうこともやってたっぽいんだけどねえ」
カレッジの卒業生であるらしい事務員がどうだったっけ、と視線を巡らせる。
「ま、あとでトレイン先生たちに相談だな」
そうこうしているうちに、カレッジ内の天気マップが完成した。寮ごとの天気も併記して、学生がアクセスできる学内ウェブページに掲載する。
リンは「※現時点での状況です。この先変化する可能性もあります」と記しておくのを忘れなかった。
「休校するとして、どれくらいするんだ」
「補講もするだろうし
……
」
「業者呼んで解決するかな?」
「まずは学園長からの連絡を待つ」
「
……
はい」
事務局長の言葉に、事務員たちは揃って口を噤んだ。
学園長から連絡が来たのはそれから間もなくの事だった。
「『フェアリー・ガラ』ァ?」
事務員たちの素っ頓狂な声に、そうだ、とクルーウェルが頷く。クルーウェルは事務員たちが束の間の拠点としている場所を後にして戻ってくるまでに何があったのだろうというくらいに草臥れていた。
「フェアリー・ガラとは、春を祝う妖精たちの祝祭だ。期間は約三ヶ月に及ぶ。その会場に、ウチの植物園が選ばれた」
「事前に連絡貰ってねーんすけど」
冬の間、ナイトレイブンカレッジの事務を預かっていたリンが手を挙げた。その目元には険が宿っている。
「会場に使うってんなら事前連絡くらいあるんじゃ
……
えっないの?」
「
……
妖精にそのあたりの人間の常識は求めない方がいい」
クルーウェルの言葉に、リンは目を剥いた。
「人外と人間の間に交流は無いの!? あれだけの研究論文とかあって!?」
「所謂『闇』だ、話が逸れるのでそれはまた今度にしよう。トレイン先生が幾らでも授業してくれるだろう」
「
……
」
リンは大人しく口を閉じた。Good、とクルーウェルが短く零す。
「で、だ。空調を任せている妖精たちに供給する魔力の源だった魔法石が、フェアリー・ガラに参加する妖精の郷の女王の冠の装飾に使われることになった」
「───」
場の空気が一気にお通夜状態になった。誰もが眉間に皺を寄せ、唇を引き結び、むつかしい顔で唸っている。なんとはなしにヤバい状況なんだなとリンは察した。
「学園として
……
いや、教師として、この先三ヶ月休校が続くのは頂けない。無理だ」
───あのクルーウェルが無理って言った
───なんでも
経費にする
押し通す
クルーウェルが
───無理って
この時、事務員の心がひとつになったことを、リンは皆の表情を盗み見て悟った。
「というわけで、ガラの成功を邪魔しないように魔法石を取り戻すことに落ち着いた───なんだ、リン」
「ちょっと中断してもらって、魔法石を返してもらうことはできないんですか?」
「ガラが中断したり失敗したらツイステッドワンダーランドは永劫冬だ。四季を運ぶのは妖精たちの仕事だからな」
「黙りァす」
リンは挙げていた手を下ろした。
「実行は進級を盾に取られた生徒たち
……
主に寮長達が行う」
学園長のやりそうなことだ、とその場にいた全員が思った。そして、リンは、それ大丈夫なんか、という事務員たちの心の声を聞いた気がした。クルーウェルは疲れた顔を隠しきれていなかった。
「魔法石が取り戻されるまで学園は休校、補講はまた後日に予定を詰める。生徒たちの生活はしばらく不規則になるだろうな。学園長からは一言、『頼みましたよ』と」
「
………………
」
なんとも言えない空気がその場に満ちた。
立ち直りが早かったのは学園長からの無茶振りになんだかんだ巻き込まれているリンだった。
「じゃ、副寮長以下有志の生徒を募って情報網を確立して、常に各場所の天気の動向を把握できるようにしましょう。それから寝られる場所は教室でもどこでも開放、サムさんに寝袋など安く貸与してもらえるよう取り計らって
……
アッ黙りやすって言った矢先にすいません」
つい、と気まずそうに視線を彷徨わせるリンに、「いや、いいよ、大丈夫」と事務局長が声をかける。
リンに続くようにして、事務員のひとりが声を上げた。
「それと、寮ごとの移動制限を緩めましょう。申告すればヨシ、というように」
確かに、暑いのは耐えられないけど寒いのはいける、という生徒は一定数存在する。その逆もまた然りだ。
「オンボロ寮はどうです?」
大丈夫ですよ、と言いかけてしかし、リンは一度口を噤んだ。
「
……
寝てる間に熱中症になるかもしれませんがそれでも良ければ」
「オンボロ寮はだめだ、そもそもユウとリンが使うスペース以外は埃だらけで人の過ごせる環境ではない」
クルーウェルがぴしゃりと言った。年末に大掃除をしてある程度の部屋を綺麗にしたリンからすれば反論したかったが、ぐっと堪える。
学園にて唯一の女子生徒が過ごす場所に、緊急事態とは言えカレッジの一般生徒を泊まらせ、出入り自由にさせるのは、なかなか勇気のいることだった。
「じゃ、それ以外ですね」
事務員たちはあっさりとそれを受け入れた。リンは一応、お気遣いありがとうございますと頭を下げておくことにした。
「ま、移動制限を緩くしたら、あとは勝手にやるでしょう。良くも悪くも自立した生徒が多いですし、本当にまずくなったら保健室と大食堂がある」
事務局長が少しだけ軽い声音で言った。リンは同僚の顔を見回した。
事務局長を含め、楽観的に思っている人間はここには一切いなかった。誰もがそう簡単にはいかないだろうなと、これから抱えるリスクについて様々考えを巡らせている顔だった。
───春の祝祭と言いつつ、裏側はその実、災害だな
リンは静かに気を引き締めた。
結局、学園は「快適な場所は外しかないので各々でキャンプをするか他の寮の環境で耐えうるならそちらに移動してね」というお触れを出した。
これを受けて、北国出身の生徒は雪かきの応援でスカラビアへ行くなどした。寮の前には誰ぞの発案でかまくらが大量生産されることになった。こんな時でなければお邪魔したかったな
……
とリンはユウと共に心底そう思った。
鏡舎など重要施設には緊急措置として他の魔法石を代用することになった。教師陣が魔法石を要に魔法を展開し、「まだマシだな
……
我慢できるな
……
」というレベルにまでその場の天候を落とし込んだのだ。流石は音に聞こえしナイトレイブンカレッジの教師陣である。
とは言え、フロイドはオクタヴィネルの海から出てこなくなったし、ジェイドも海で寝るようになった。他の人魚も同様だ。
ハーツラビュルは「人命を最優先」として、ハートの女王の法律は一旦脇に置かれた。他ならぬリドルの判断だった。
サバナクローは不気味な程に静かだった。
イグニハイドは主に暑さによる機器への心配で地獄だった。
ポムフィオーレはそれなりに騒がしかったが、あんまりバタつくと寮長が「美しくない」と苛立つので普段通りを装うために一番ぴりぴりしていた。
ディアソムニアは落ち着いていた。個々の能力が高いので、それぞれで環境を整えることができるからだ。
「魔法石から魔力が供給されないことを理由に妖精が怒ってこんなことになっているのか、それとも元々こういう場所だったのを魔法石と妖精の力で無理矢理抑えていたのか、『三ヶ月くらい別にいーっしょ!』と妖精に思われてボイコットされているのか、結局分からなかったな」とリンが気付いたのは、自分ができることをやってのけてオンボロ寮へ戻る道すがらだった。
敷居を跨いだ瞬間、そこは砂漠だった。今日は水風呂だな、夕飯は酢の物中心にしようと晩御飯の献立を考えているリンの耳に、「はっはっは!!!」と二人分の愉快な笑い声が突き刺さった。
「な、なにごと
……
!?」
声は談話室の方から聞こえた。ユウ達はもう帰っているのだろうか。リンはそうっと扉を開けて、中を覗き込んだ。
「ジャミル、てめぇ、自分が何をしたのか分かってんのか?」
「俺だって苦渋の決断です。でも
……
、俺たち素人がショーを成功させるには、ふたりの力を借りるしかない
……
!!」
「会場中の視線を釘付けにし、その隙にティアラを奪う
……
『ティアラも視線も独り占め大作戦』! 絶対に成功させるわよ!!」
「
…………
帰りてぇ
……
」
レオナが唸る。
───なんだこれ
ひとまず、リンは頭の中を整理した。
談話室には何やらやる気に満ち溢れたクルーウェルとポムフィオーレ寮長ヴィル・シェーンハイト、そんなふたりを輝いた目で見つめるカリム、苦虫を噛み潰したような顔のジャミル、そして本当に帰りたそうなレオナとドン引きしているラギー、ぽかんとしているユウとグリムがいた。
話の流れからしてどうやらこの面子で女王の冠に使用された魔法石を奪取しに行くらしい。実働隊はラギーかしら、とリンは思案を巡らせた。
ならばそれ以外は陽動だ。ショーを成功させるとかなんとか言っていたから、きっとガラのファッションショーに出るのだろう。
───えっ、『ガラ』ってウチの世界の『ガラ』と同じなのかしら
ここにいる全員分の衣装を俺が見立ててやろうと意気込むクルーウェルにいつかの「リンの私服を職場環境改善のためと宣って全て経費で落とした案件」がリンの脳裏に浮上する。リンは経理担当に向かって手を合わせた。心の中で。
───きっと今回も経費で落とされるんだろうな
……
南無阿弥陀仏
……
リンがそうやって胸の内で念仏を唱えていると、クルーウェルの指示棒が音を立てて空を切った。
「そこの!! 聞き耳を立てているクノイチもどき!!」
「アッハイ」
リンは思わず返事をしてしまった。えっいたの、とラギーとジャミルが目を見開く。
「リンさん! お帰りなさい、戻ってらしたんですね!」
「え、うん。てか先生、くノ一ってよく知ってるね」
───ということはこの世界にも忍者はいるな
リンは妙なところで埒外なことを確信した。
「俺の見識についてはまた後日いくらでも語って聞かせてやる。今はガラだ、お前たちの世界にガラはあるか?」
ユウはよく知らないのでリンの方へ視線を移した。リンは「あるよ」とあっさり告げた。
「主にハリウッドスター
……
映画スターとかセレブとかがスポンサーの招待を受けて毎年違うテーマに沿って作った衣装を身に纏ってレッドカーペットを歩くファッションショーみたいなやつ」
あ、とユウが声を上げた。
「たまに朝のエンタメニュースとかで見るやつ!」
「そうそう、アレね。元々は学術的なものなんだけど、まぁ
……
、こっちのも似たような感じ?」
「そうだな、」
頷いたのはカリムだった。
「だからオレ達が選ばれたようなもんだしな!」
「あぁ、セレブだから?」
「それもあるけど、今年のテーマが『エキゾチック』なのよ」
「、え」
ヴィルの言葉を聞いて、リンは一瞬ひやりとした。
ちら、とレオナとカリム、そしてジャミルに視線を走らせ、最後にユウを見やる。ユウは不思議そうに瞬き、小首を傾げた。
「
……
それは、
……
大丈夫なの?」
レオナがぴくりと柳眉をそよがせる。
「第二王子じゃ不満か?」
「違う。そうじゃなくて。ウーン
……
ハイ先生!! 質問!!」
「なんだ」
「この世界における『エキゾチック』の意味ってなんですか?」
「未知への尽きぬ憧れだ」
「
………………
ウゥーーーン
……
」
リンはぐにょりと顔を歪めた。
───いや、この世界には
そういう
・・・・
の無いのか!? 寧ろ肌の色でここまで敏感になってる私が逆差別!? でも、でも
……
数秒、百面相を披露したリンは、ぐぬぬと唸りながらもう一度手を挙げた。
「妖精にとってのエキゾチック対象は人界すべてだと思われるので
……
いっそのこと、ヴィルさまにもランウェイ歩いてもらった方がいいんじゃないでしょうか
……
!」
生徒達は互いに顔を見合せた。リンが何故ここまでむつかしい顔をしているのか、まったく分かっていない風情である。
「お前、どうした?」
「何か気になることでもあるんですか?」
聡いレオナとジャミルが本当に不思議そうに聞いてくる。
「
……
アタシが出るには、ガラに入り込むために使う妖精の粉が足りないのよ。それに、今回ガラを開いているタイプの妖精は、熱砂の国や夕焼けの草原みたいに四季の変化が小さい国には少ないの」
その通りだ、と言わんばかりにクルーウェルが指示棒を叩く。
「彼らにとっても、熱砂の国や夕焼けの草原のような場所、そこで育ってきた人間は十分未知だと思うわ」
「
………………
なるほど」
「納得して頂けた?」
リンは何度か首を縦に振った。
「分かりました。申し訳ない、不勉強で」
「いいえ、異世界からいらしているのだもの、そういうこともあるわよ」
「そう言って頂けますと救われます」
「やだ、よしてちょうだい」
珍しく食い気味に引き下がったリンが珍しかったのか、その場の空気が少しだけ中弛みしたが、クルーウェルの指示棒がぴしりと鳴るとそれも消え失せた。
「では、まずは衣装合わせだな。お前もついてこい、ユウの見立てに参加しろ」
「えっ、ユウもランウェイ歩くの?」
「いえ、変装的な意味で
……
制服だと目立つので。同じ理由で、ラギー先輩も」
「あ、そうなの。ふうん。
…………
」
リンはじいっとユウのことを見下ろした。頭のてっぺんから爪先まで検分するように見定められ、ユウは反射的に姿勢をぴしっと正した。
「ユウ」
「は、はい」
何故だろう、リンの目がどこか据わっている。こんなリンは初めてで、ユウはちょっとだけ心臓が逸るのを聞いた。
「───私たちの『異国情緒』も見せつけてやろうじゃねえの。極東の三千年をぶちかます!!」
「は、はいっ!!」
───なんだかよく分からないが、何かがリンさんに火をつけた!!
ユウはわけも分からず、けれどもその勢いに乗せられて、元気よく返事をした。
そして、リンがユウに用意したのは、白の生地に薄い残雪色で細やかな刺繍が施された着物と袴だった。足元は音がしない方がいいだろうヒールの低いブーツで固めている。
袴には唐草紋様、そして着物の背には月と流水が刻まれていた。すべてリンの指示とクルーウェルの魔法によるものだ。
「わ、わ、わ、カッコイイ
……
!!」
メイクもばっちりとキメて、ユウはまるで別人のようになった自分に素直にはしゃいで小さく何度もぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「ほんとは帯もやってあげたいけど女物は胸が分かりやすくなっちゃうから
……
」
「十分です。かっこいい! 似合いますか?」
ユウがその場でくるっと回る。可憐だけれども大人っぽくて、天真爛漫なようでいてその実描かれたモチーフがミステリアスさを言葉少なに主張している。リンは胸を抑えた。
「ウッ 可愛い」
「やった~~!」
ユウは心底嬉しそうに、そして無邪気にくるくると動き回った。
「ウーン、会心の出来」
「いつにない気合いの入りようだったな」
「まぁ
……
ウチの世界だと、この状況は
……
ちょっと
……
物議を醸しかねないので
……
」
リンがごにょごにょ言っていると、クルーウェルは心底不思議そうな顔をした。
「そうなのか?」
「
……
」
きょとんとするクルーウェルに、リンはもしかして、と先程ちらりと浮かんだ疑念が段々確固としたものに変わっていくのを感じた。
───この世界では、少なくとも肌による差別は無い
……
?
だとすればそれは、どんなにか素晴らしい世界だろう。リンは唇を噛み締めた。
同時に、己の不自由さを呪った。ここはリンの知る世界では無いのだ。自分の常識を持ち込んで場をかき乱す真似はしたくなかった。
───でも、どこに何が転がってるか分かんないし、気をつけるに越したことはないな。
クルーウェルは未だ怪訝そうにこちらを伺っている。「なんでもありません、大丈夫ですよ」と笑って誤魔化し、リンはヴィルの厳しいウォーキング指導に視線を移した。
◆
ファッションショーにおけるウォーキングとは、ただ歩くだけのことを指すのではない。
ランウェイでは、いかに衣装を引き立てるかが重要だ。モデルに必要とされるのは衣装を引き立てる個性である。モデルの主張は必要ない。
限りなく無駄を削ぎ落とし、洗練されたウォーキングができるか否かで全て成功するか、崩壊するかが決まるのだ。
ヴィルの言った、「着る者によってはシルクもずた袋に見える」とは、つまりはそういうことである。
その日、食事の配給の指示や寝袋の貸与交渉、テントの管理などに精を出したリンは、ポムフィオーレのレッスンルームへと足を運んだ。ユウとグリムがラギーも一緒に様子を見に行くと言っていたので、夕飯のヒアリングも兼ねて、ちょっとだけ覗きに行くことにしたのだ。
「いよっ、張り切ってるかい?」
「あ、リンさ」
「勝手に座らない!!」
「ッデェ!!!」
ばしん、と強烈な音と共にヴィルの魔法がレオナの尻に炸裂する。リンは思わず「ウワァ」と目を剥いた。
「全然ダメ!! 姿勢を直しなさいって言ってるでしょうが!!」
「直してるだろうが!!」
「直ってないのよ!!」
リンはこそこそと移動して見学のためにちょこんと座っているユウの隣へ腰を下ろした。
「ユウさんや、素麺が手に入ったぞ」
「ほんとですか!! やりましたね!! えっ、というか、サムさんの店にあったんですか
……
?」
「ウン、どうやら仕入れてくれてたみたい
……
」
サム曰く、『オンボロ寮が砂漠のような暑さに見舞われたと聞いた時から極東の夏の風物詩的なものにニーズが出るんじゃ無いかと思ってたヨ!』だそうだ。リンはプロってこういうことを言うんだろうなと素直に感嘆した。
今日の夕飯は素麺祭りだ。湯掻く時間は地獄だが、それさえ過ぎればあとは天国である。何しろ食欲が少ないときでも食べやすい。
「なんスか、そのソーメンてのは」
ラギーに聞かれて、リンはこの世界の麺類を思い出した。
「ラーミーだっけ? それの亜種だよ。つるつるっとしてるの、コスパいいからラギー好きそうだね」
「食えるもんならなんでも好きっス! え、食いに行っていいっスか?」
お伺いを立てられたユウは、リンの方を顧みた。
「そう言われると思って、業務用のを買ったから、余裕はあるよ」
「分かりました。それならラギー先輩、お風呂掃除と後片付けで手を打ちましょう」
「乗った! やったァ、タダ飯っス!!」
素直に喜ぶラギーとは対照的に、レオナの表情は般若を通り越して不動明王になりつつある。リンは苦笑した。
「それにしても、よく逃げ出さないね」
「逃げたらルーク先輩に追っかけられるからじゃないですかね」
「副寮長の? なに、ヤベー奴なの?」
「ある意味ヤベー奴ッスよ」
いつになくラギーが神妙に言うので、リンはちょっとだけ目を丸くした。
「ま、でもこれ以上進展しねえとオレ達も困るんで
……
実働部隊補佐のユウくんを助けると思って、ここはいっちょ決めてください、リンさん!」
「うわっちょおっとと!」
ラギーに押し出され、リンはえぇ、と困惑した。ご機嫌取り! とラギーの口が動く。リンは眉を寄せて口をへの字に曲げた。
眼光だけで人を殺せそうなレオナの機嫌を取る事など我が身が可愛いリンにはできない。どうしたもんかと頭、そして腕に花瓶を乗せているレオナを見やって、リンはぽりぽりと頬をかいた。
「なに、何か文句でもあるの?」
レッスンが上手くいかないからか、ヴィルの言葉にも棘がある。美しいものには総じてあるもんだよなとそれらを受け流し、リンは一旦花瓶を退けた。
「あ、ちょっと」
「ままままま、ね、ちょっとね、ちょーっとだけ」
言って、リンは失礼、と言いながらレオナの肩に触れた。
「まずここに力を入れない」
「、」
ぽんぽん、と叩くとレオナは弱冠戸惑いがちに肩から力を抜いた。
「箒に乗ってるとき思い出すといいんじゃない? 立って乗ってたでしょ」
「
…………
」
レオナの醸し出す空気が微妙だ。なんかちょっと違うらしい。オッケー忘れて、とリンは素早く切り替えた。
「で、胸を張る」
リンの掌がレオナの背をそっと押し上げた。
「そのときに腰は反らない。きついね? それをキープ、息はちゃんとして」
「
…………
」
今度は有無を言わせぬ力で腰の位置を正される。次は膝にその指が伸びた。
「骨、入れて。そう、伸ばしたままね。でもここの力は抜いて」
そっと太腿に指が添う。レオナは何度か目を瞬かせた。
「重心の高さは腰、位置は腹と腰のちょうどど真ん中」
「
……
」
「うん、そう。最後に顎は引く」
細い指先がレオナの顎をまっすぐ押した。
「お腹きついね? そのままキープね、腕上げて。息止めないでね」
「
…………
」
レオナはむつかしい顔をして腕を上げた。リンは順番に花瓶をレオナに乗せると、「重心の位置を変えずに足だけ出して」と細かに指示を出した。
そのままゆっくりと、何歩か進む。ヴィルは「ふむ」とそれまでで一番マシな反応を見せた。
「目線は真っ直ぐね。息ちゃんと一定だね、流石。もう行けるでしょ、ゆっくり、失敗しないように半周してみて」
リンはレオナの前に立ち塞がるようにして、後ろ向きに同じように歩いた。
おぉ、と様子を窺っていたカリムが目を丸くする。
「ここまで来たら一周行けるね」
後半はレオナの隣を歩き、リンはじっとレオナのウォーキングポジションを観察した。
初めて水を零さず一周したレオナに、ヴィルは「やるじゃない」と素直に賞賛した。リンは「お疲れ様〜」と花瓶をどけてやった。
「
…………
ハラいてえ
……
」
レオナが本当に苦しそうに唸る。リンはその肩にぽん、と手を置いた。
「分かる
……
分かるよ
……
インナーマッスルマジで痛くなるよねほんと」
直後、リンは目を見開いてレオナにずいっと詰め寄った。
「だからって最後ちょっと楽して肩と腕に力入れるのはだめだよ」
「、」
「!?」
ヴィルが瞠目する。レオナもまじまじとリンを見やった。
「え、ジャミル、分かったか?」
「いや、分かるわけないだろそんなの。リンさんが真横から見てたからじゃないか」
リンはレオナから体を離すと「プロが見たら遠目にも手抜きって分かるよ」と静かに言い切った。
「私はプロじゃないけど、最後にレオナがちょっと楽して腹から力抜いて他で支えたのは分かったからさ。ダメだよ、花瓶から脱したいなら普段からも重心の位置に気をつけて」
本当は小休止を入れるべきなのだろうが、レオナのポテンシャルと時間が無いのを鑑みた結果、リンは必要ないだろうと判断した。
「
……
」
レオナは憮然と文句を言いたげにリンを見やったが、当の本人はまったくもって気にしていなかった。
「体幹しっかりすると他でいいことたくさんあるから、頑張って! 姿勢いい方がモテるぞ!」
「やめろ
……
」
レオナが本気でそう言っていることに、リン以外の全員が気付いた。リンはあっさりそれを黙殺した。
「あと、変に他の場所へ力を入れるとバランスが崩れて水が零れるからよした方がいい。ペナルティ嫌だろ」
「
………………
」
レオナは大仰に溜息をついた。
これにはそうだなと言うしかない。ヴィルは物珍しそうにリンを見やった。
「さすがね
……
」
ユウがぱちぱちとしたり顔で拍手する。ラギーは「うーわ」と思いながらそれを横目で見やった。
「あなたのすごいところはレオナの扱いだけじゃなくてその指摘の鋭さよ。私でも最後のレオナのは自信が持てなかった。カマかけて指摘するつもりではあったけど」
「え? そう? 筋肉の動き見えれば分かるくない?」
「は?」
ヴィルが怪訝そうに眉を顰める。小首を傾げたリンに、ユウが目を丸くして訊ねた。
「リンさん、透き通る世界でも体得してるんですか?」
「してないしてない、あんな化け物どもと一緒にするない」
「筋肉の動き
……
?」
「ちょっとリンさん、ヴィル先輩が兄上になりそうですよ」
「あかんあかんあかん」
「、誰が兄上よ誰が」
「イヤ言葉の綾で。すみません、差し出がましい真似を」
リンはへらりと笑ってそそくさとユウの所へ戻って行った。
そのまま「夕飯の準備あるし、先に帰るね」と言い置いて、あっという間に部屋を後にする。「がんばれ!」という短い声援は、彼女の姿が見えなくなっても、どうにも長く響いているようだった。
レオナは居心地悪そうに肩や腰に手を当てた。リンの触れた部分に、彼女の手の柔らかさがまだ残っているようだった。
生徒達に着せるガラ用の衣装をどさくさに紛れて経費で落としたクルーウェルのおかげで、リンの私服は増えていた。しかし、それらは全て冬用だ。
リンはこの数ヶ月間眠らせていた自作の浴衣を引っ張り出した。春先とはいえ夜は冷える時分であるので、浴衣を着るのはまだ先かなと思ってクローゼットの奥にしまっていたのだが、こんなにも灼熱地獄が続くのであれば致し方ない。
リンは着流しのようにそれを着た。腰の辺りで帯をきゅっと締めて、上背の部分は脱ぎ捨てる。ブラトップ一枚になったリンは、「あっつぅ~」と悲鳴をあげながら素麺に添えるきゅうりやトマト、錦糸卵の準備をした。椎茸は細く切って、甘く炊く。
麺つゆは流石のサムでも「?」という顔をされたので、白だしと醤油、みりんを水で混ぜて自作することにした。冷やさなければならないので、これに一番時間がかかる。
ラギーも来るなら肉もあった方がいいよなぁ、とリンは鶏肉を蒸し焼きにすることにした。細く切って、電子レンジに放り込む。
そうこうしているうちに「今から帰ります!」というユウからのメッセージが届いた。リンは素麺の束をそのまま湯を沸かした大鍋に放り込んだ。
換気扇をぶん回し、窓を開けて風を通す。
「あ゛っ、クソ、氷忘れた」
水で冷やすしかない。リンはボウルと金網のおばけみたいなやつを取り出した。元々が寮だった故か、オンボロ寮にあるこういうものは大抵がどデカいのだ。
素麺が茹で上がる頃、おじゃましまーす、というラギーの声が階下から響いてきた。
「おーう!」
───あれ、足音がひとつ多い。
はて、とリンが小首を傾げていると、レオナがのそっと顔を覗かせた。その足元からリビングに駆け込もうとしたグリムが「あっついんだゾ!!」と絶叫する。
「なんだここ!? なんで煮物なんかしてるんだ!!」
「うわアッチィ~! つーかリンさんなんてカッコしてるんスか!?」
「馬鹿か?」
「あっちぃんだよ! お前ら夕飯抜きな!」
リンは金網ボウルに茹でた素麺を流し込んだ。ボコン、とシンクが音を立てる。
「夕飯抜きだとよ、タヌキ」
「オレ様は狸じゃねぇ!! というかお前らもだろ!? なんでオレ様だけなんだゾ!?」
「オレはこの後の片付けと風呂掃除で後払いなんで」
ラギーがにししと笑う。レオナは片手にぶら下げていた瓶を二つ、ドンとテーブルに置いた。
ひとつは「アファーム」、もうひとつは「ギネス」とラベルに書かれている。分かりやすく酒であった。
うむ、とリンはひとつ頷いた。
「許す!」
「ふな゛ーーー!? チョロすぎるんだゾ!?」
「グリム、文句言うなら手伝って!」
テーブルを拭くユウに言われ、グリムはふなふな言いながらランチョンマットを敷いた。ユウは箸を二膳、フォークを三つ出した。
「え、木の枝でメシ食うんスか?」
さしものラギーも目を剥いた。箸のことだとすぐに気付いたユウは苦笑した。
「確かにこれは自作ですけど、私達の国の文化ですよ。箸って言うんです」
「はし」
「橋?」
レオナのイントネーションが違う。ユウは箸を手に持って見せた。
「ご飯は大体これで食べますね。お料理もこれで」
ユウがリンを指し示す。水で締めた素麺を器に移し、薬味類を菜箸で丁寧に盛り付けるリンの所作は熟れていて、無駄がない。洗練されていた。
ラギーはばあちゃんを思い出したし、身分故に厨房に縁のないレオナは表に出すことはなくとも素直に感嘆した。
真っ白な素麺を飾るように、ぐるりと円を描いて添えられた野菜や鶏肉が色鮮やかで目にも涼しい。リンが器に盛られた素麺と薬味を配膳している間、ユウは飲み物用と麺つゆ用のグラスをがちゃがちゃと用意した。
「これは飲んだら辛いからね、やめとけよ」
そう言いながら、リンが冷蔵庫から出したつゆを配る。ユウは自分とラギー、そしてグリム用に冷えた麦茶を用意した。レオナとリンのグラスには、まずはギネスが注がれた。
「はい、お待ちどおさん」
「それじゃ、いただきます!」
「だゾ!」
ユウとグリムが手を合わせる。ラギーもイタダキァスと会釈した。レオナは勿論、何も言わない。むしろ千切りされたきゅうりやトマト、椎茸に嫌そうな顔をした。
「え、で、これどーすんの?」
フォークを持ったラギーが戸惑った様子でリンとユウを交互に見やる。
「こっちのつゆにつけて食べる」
リンは千切りにしたきゅうりと麺を一緒に摘むと、つゆにつけて、そのまま啜った。きゅうりがリンの口の中でシャクシャク音を立てるのが涼やかだった。ラギーもまずは同じように麺をつゆにつけてみた。
口に入れた瞬間、柔らかな冷たさが広がる。ちゅるっと一気に吸い上げて、ラギーはカッと目を見開いた。
「ンッ、んま!! つゆウマッ!!」
ユウも「生き返る〜」と相好を崩した。
「うますぎてウマになったわね」
リンは蒸した鶏肉をつゆにつけてから口の中に放り込んだ。そして、ギネスの入ったグラスを引っつかむ。
「デン! 一番のヤツよりちょっと良さそうなヤツ!!」
イタダキャース! とリンはレオナのグラスと勝手に乾杯すると、上機嫌でギネスを煽り、喉を鳴らした。やっぱり暑い日は麦酒にかぎる。
「ッハー!! うめー!!」
「安い女だな」
レオナが鼻で笑う。リンは「リーズナブルは志向!」と声を張り上げた。まったくその通り、とラギーは拍手した。
「んで、あれから進捗はどうなったのよ。ショーは上手くいきそう?」
「
……
」
「
……
」
「
……
」
「
……
」
「
……
エッ無視?」
軽い気持ちで聞いたリンは思わず箸を止めた。まさかここまで空気が重くなるとは思わなかったのだ。
「
……
いやー
……
それがっスね
……
」
「降りた」
「降りたァ!?」
レオナの短い一言に、リンは素っ頓狂な声を上げた。さっきまでそんな雰囲気ではなかったのに、一体どういうことだ。
そんなリンの視線を受けたラギーは辟易とし、ユウは困ったように眉を下げた。グリムは呆れながらも素麺を食べる手を止めなかった。
「なんでよ、ウォーキングはもう大丈夫じゃない」
「その次っスよ、その次」
「次?」
「ポージングです、リンさん」
「、あ、あぁ
……
」
そう言えばそんなのあったな、とリンはレオナの方を見やった。
───これが、ポージング。モデルのように。
「
……
なかなか想像つかねえな」
「フフッ、」
正直なリンに、ラギーは思わず噴き出した。レオナは目を据わらせる。
「ルーク先輩やケイト先輩の協力の元、儚げでミステリアスな雰囲気を中心にしようかという方向になったんですけど」
「ンッフ!」
リンは思わず肩を震わせて口元を押さえた。うっかりギネスを吹き出してしまうところだった。
「失礼な奴だな」
「だってさ、夜目で遠目で傘の内ならまだそう見えるかもしれないけど、オーラのありすぎるお前に儚げは無理だよ!!」
「いやいや結構イケてたんスよ!!」
ラギーがスマホを取り出す。リンは画面に移るレオナを見た瞬間「ウワこっち見んなよ」と言ってしまった。見てねえよ、と唸り声が轟く。リンは気にすることなくジロジロと写真を眺めた。
「アー
……
ウンまァ
……
儚げなんじゃない
……
」
「失礼な奴だな
……
!」
レオナの手のひらに眩い光が集まりだす。リンは何を思ったのか「カッ消すって言ってみて!!」と目をかっ開き、「いい加減にしましょう」とユウに窘められた。レオナはラギーが食事中っスよと宥めすかした。
「でもアレだよ。儚げにしては眼光強すぎ。さすが獅子」
「まぁ迫力があるのは認めるっスけど
……
」
「儚いってのは人の夢って書くんだよ。お前は夢なんてタマじゃねーでしょ、どっちかと言えば野望でしょ」
「、
……
」
ラギーは瞠目した。レオナも瞬いて、しかしすぐに瞼を伏せる。フン、と鼻を鳴らすのを誤魔化すように素麺を啜ったレオナに、リンは目を細めたが、何も言わなかった。
「じゃ、リンならどうポージングするんだゾ?」
グリムが膨れた腹を擦りながら言った。何を思ったのか、ユウも目を輝かせる。
「リンさんのランウェイ見たいです!」
「そういや、レオナさんのウォーキング指導、完璧でしたもんね。やったことあるんスか?」
「てめーが代役だ」
言って、レオナはリンのグラスにギネスを注いだ。
「いやいや、モデルなんかしたことないから。あれはいい姿勢に直しただけだよ」
良い姿勢を維持するだけで、腹筋あたりの代謝が良くなる。それは体型の維持にも繋がるので、リンは普段から姿勢に対して意識を払っていた。
話を聞いていたユウがそれとなく姿勢を正したが、グリムは呆れたように見るだけに留めてやった。
「でも、レオナさん、マジなんスよ」
「え? 降りるって話?」
「そ。もーオレ達困っちゃって」
ラギーは分かりやすく耳をしょげさせながらマジカルペンを操ると、リンのグラスに魔法をかけた。麦酒がグラスごと、じんわりと冷えていく。
頼んますよ、とその目が雄弁に言っていた。
「リンさんからもなんか言ってやってくださいよ。ホラ、さっきのウォーキングのアドバイスみたいにさ」
「えぇー
……
? 専門外なんだが
……
」
リンはちらりとレオナを見やった。レオナはそっぽを向いて酒を煽っていた。彼の前の器には、トマトだけがちょこんと残っていた。瞬間、リンの目がカッと音を立てて見開かれる。
「───お残しは許しまへんで!!」
某忍術学園の食堂のおばちゃんよろしく雷を落としたリンに、レオナはびくりと肩を揺らしたし、ラギーは思わず椅子から転げ落ちた。
暑くて眠れないならアルコールを入れようか、という考えは水を浴びると同時に排水溝へ流れて行った。常時ならば冷たい、ぬるめの湯で汗を流し、リンは「風呂、お先ィ」とユウの部屋に向かって声を張り上げた。
「
……
」
しかし、いつもの「ハァイ」という返事が無い。代わりに階下のざわめきが耳について、リンは「はて?」と首を傾げ、寝間着用の浴衣のまま、騒がしい方へ移動した。
騒ぎの中心はやはりというかなんというか、談話室だった。ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあやかましい。
───発情期ですかコノヤロー
リンは眉間を指で押さえて嘆息した。いかん、落ち着かねば。
ここには寮に戻ることを厭ったレオナが寝ているはずだった。ラギーはレオナによって「てめーも泊まれ」と命じられ、来客用の個室を宛てがわれていた。ラギーの推測するところによると、夕飯の後にヴィルやルークがサバナクローに突撃するかもしれないので、それから逃れたいのだろうとのことだった。
リンは少しだけ迷って自分の格好を見下ろしたが、まァ構わんだろう、念の為ブラトップを着ているしと数度ノックしてから間を置かずにドアを開けた。直後、突然の闖入者に部屋がしん、と静まり返る。
「ユウ、お風呂空いたよ。グリムも入んな」
「、あ、ハイ!」
「おーう」
グリムがひょん、と尻尾を揺らしてリンの足元をすり抜けた。
「あんた達、騒ぐなら脱水とか熱中症とかにはならない程度にしときなさいよ」
「ウィ!」
「こいつ次第ね」
リンが一風呂頂いている間にオンボロ寮を訪れたらしいルークとヴィルが答える。ヴィルの視線の先には非常に機嫌が悪いらしいレオナがふんぞり返っていた。彼の傍に控えているラギーは無言で二リットルのスポーツ飲料用ペットボトルを掲げた。
「あら? あんなの冷蔵庫にあった?」
「さっき、アズール先輩たちが『先日のお礼に』って何本か持ってきてくださったんです。残りの二本は冷やしてあるんですけど、一本は
……
」
ユウがちらりとラギーを見る。リンはすぐに頷いた。
「あぁ、いいよいいよ。分かった、ありがと」
鏡舎で倒れたのを助けたことへの礼に、自分達が消費してしまったスポーツ飲料を買ってきてくれたらしい。彼らなりの礼の気持ちか、或いは対価か。どちらにしろ律儀な事である。
「レオナ、あんたほんとに部屋じゃなくていいのね?」
「いい」
「じゃ、毛布、そこの階段下の物置にあるから」
レオナはひょい、とマジカルペンを振った。ひとりでに扉が開き、薄い夏用の毛布がふわり、レオナの元へと漂った。それを見たヴィルの眦がぎりぎりと吊り上がる。
「あんったねぇ
……
!」
「知らねぇ。俺は寝る」
レオナは、ばさりと毛布を体に纏った。やれやれとルークが肩を竦め、ラギーは頭を抱えた。
しかし、ヴィルは先程とは一点、打って変わって目をこれでもかと見開き、口端を笑みの形にした。形のいいくちびるが、「みつけた」と微かに動く。
ハンターを名乗るルークは、それを聞き逃さなかった。「ン?」と目を丸くしている間も無く、ヴィルがレオナに掴みかかる。
「!?」
「きたわ!! インスピレーション!! 起きなさいレオナ!!」
「ング、」
「二十分、いや十五分寄越しなさい!! 今すぐに!! 早く!!」
ばしん、と音を立ててヴィルの魔法がレオナに炸裂した。レオナはもんどりうってソファから転げ落ちた。
「てんめぇ
……
!!」
「立つ!!」
ラギーは呆気に取られているし、ルークも呆然としていた。ユウはあんぐりと口を開けたが、瞠目しつつもすぐに立ち直ったリンに促されて談話室を後にした。分厚い扉を閉めても、ルークの張り切った声がくぐもって響く。
「だ、大丈夫ですかね、レオナ先輩
……
」
「ヴィルはプロなんでしょ? じゃあ大丈夫だよ」
「はぁ
……
そんなもんですか?」
「そんなもんよ」
プロと名乗るからには、それ相応の実力と誇り、そして仕事に対する自信が求められるのだ。ヴィルの立ち姿からそれらを正しく感じ取ったリンは、きっともう大丈夫だと、あとはのんびり、ガラの当日を待つことにした。
◆
数日後、フェアリー・ガラ当日。
リンは、ユウの着付けのためにポムフィオーレ寮へ呼び出された。
自分には事務仕事があるから直前の見送りには参加出来ないなぁと勝手に考えていたが、そんなことはなかった。
「すいません、ひとりで着付けられたら良かったんですけど
……
」
「この衣装を着たのは最初の併せの時だけだったもんね。仕方ないよ、また今度教えてあげる」
「はい、ありがとうございます」
衣桁などがこの学園にあろうはずもないので、リンの厳命により皺がつかないように和紙に近い包みで仕舞われていた衣装を一通り用意する。ユウの体型をタオルなどを巻いて誤魔化し、リンはばさりと長襦袢を広げた。
「ユウばっかり羨ましいんだゾ! リン、オレ様にもなんか作れ!」
「こら、グリム、我儘言わないで!」
口を尖らせるグリムに、リンは苦笑した。
「夏に合わせて、ユウとグリムの浴衣、作ろうか? 麻か綿の布を探してさ」
「、私、自分で作ってみたいです!」
「お、そう? じゃあ今度から一緒に作ろうね」
「はい!」
「ひゃっほい!! オレ様の、特別豪華にするんだゾ!」
「じゃあ、作務衣にでもするか?」
「さむえ?」
「ユウ、腕ちょっと上げてくれる」
「あ、すいません」
リンが膝を着き、着物を着たユウの胴に抱き着くようにして帯を回す。この角帯もどきを見つけたとき、リンは心底安堵した。クルーウェルの用意した衣装や布は、ほとんどがシルクで、柔らかな素材ばかりだったからだ。
着物の帯には、ある程度の硬さが求められる。今回はフォーマルな舞台なので尚更だ。リンが部屋着に使っている浴衣もどきのように布帯のようなものを使う訳にはいかない。
着流しならばこれで完成だが、慣れていなければ動きにくい。リンは裾をたくし上げて帯に挟み、ユウの前に袴を広げた。
「リン、俺だ。終わったか?」
「すいません、まだです」
「そうか。
……
入っても?」
リンはちらりとユウを見やった。ユウが頷いたので、「どうぞ」と答える。クルーウェルは素早く間仕切りの間から体を滑り込ませた。
「ほう、」
珍しい着せ方なのか、クルーウェルは瞠目した。
「なるほど、何に使うのかと思ったら、腰紐か」
着付けには多くの紐を必要とする。リンは「なんでもいいので長めの紐を数本」とクルーウェルに発注していた。
「最初の併せは襦袢がありませんでしたから、要らなかったんですけど。じゃ、これ持って」
「はい」
前袴をユウに抑えてもらっている間、背後に回ったリンが巧みに紐を操って結び目を作っていく。しっかり結んだら、後ろ袴についたヘラを角帯に差し、再び前で結び目を作る。器用に十字にしていくリンに、クルーウェルは感嘆した。
「見事なものだな」
「腰が固定されるので、姿勢が良くなるんですよ」
「それは良い」
「本当は」
きゅ、と帯を結び切り、リンはよっこいせと立ち上がった。
「帯はこの位置でもっときつく結ぶし、ユウの年頃ならもっと袖を長くしてもいいし、もっと華やかにしたいんだけどねぇ。しかも白なんて。ねぇ?」
「ふふ、角隠しには、ちょうどいいですね」
悪戯っぽく笑ったユウが、花飾りのついたキャスケットをぽふりと被る。こいつう、とリンはユウのことを軽く肘で小突いた。
「さ、あとはブーツだね」
グリムがえっちらおっちら特注のブーツを持ってくる。ユウは「ありがとう」とグリムを撫でると、リンに助けてもらいながらブーツを履いた。
「よし、これで完璧」
「あとは妖精の粉だな」
フラスコに入れられていたそれを、クルーウェルはユウとグリムの上にざっとばらまいた。黄金の粒子がユウたちに降り注ぐ。
「さぁ、皆が待ってるぞ」
「お待たせしてすみません! 行こう、グリム」
「おう!」
助走も無しに跳躍したグリムがユウの肩に着地した。リンの着付けは、それぐらいではびくともしなかった。
ボールルームでは、既に着替え終わったレオナ達が最終確認を行っていた。
「お待たせしました!」
「あら、前よりも随分きっちりしてるじゃない」
「分かりますか!?」
「当たり前よ、アタシを誰だと思ってるの?」
「スーパーモデルのヴィル様です!!」
「宜しい」
ヴィルは鷹揚に頷いた。
「いい、ランウェイは戦場よ。あんた達の全てで、会場中の視線を奪い取ってきてやんなさい!!」
「はい!!」
カリムが人一倍元気に返事をした。クルーウェルは満足気に「行ってこい」と微笑んでいる。リンも笑顔で皆を見送った。
「行ってらっしゃい、気をつけてね」
「はい、行ってきます!」
「行ってくるんだゾ〜!」
きらきらと眩い光を纏いながら、一行は部屋を後にした。
「さて、じゃ、アタシ達は移動しましょうか」
「お前も来い、リン」
「え、宜しいので?」
事務局に戻ろうとしていたリンは目を丸くした。
「人手は足りているだろう?」
「事務局ですか? まぁ足りてないことはありませんけど」
「イデア・シュラウドがドローンを使ってフェアリー・ガラの生中継をすることになっている。お前もいろいろ手伝ったんだろう? 仔犬共の勇姿を見届けてやれ」
「
……
」
そう言われては断るものも断れない。リンは「お言葉に甘えて、」とはにかみながら二人の後に続いた。
それにしても、この世界にもドローンが存在しているとは。リンは素直に驚いた。
普段から学園外に触れる機会が少ないので、リンはこの世界の多くを知らない。ユウのように学んでいるわけでもない。できることと言えばスマホを駆使してネットニュースに触れるように駆使し、時勢を把握しておく程度のものだ。
教室では青い炎の髪を持つイデア・シュラウドとケイトがスクリーンに映像を写し出していた。
「わー、やっぱりプロジェクターまである」
「、」
聞き慣れない声に、イデアがびくりと肩を跳ねさせた。
ここまで来ると、科学技術的にはリンの世界と同程度だろうか。もしかすると、魔法との相乗効果でもっと先を行っているのかもしれない。リンは自分が専門家出なくてよかったと思った。もし何某かの研究なら、今頃脳みそがパンクするくらい研究などに没頭していただろう。
「だ、だだだだ、だれ、」
「あ、イデアくん、会ったことなかったっけ?」
「初めまして、リンです。ここで事務員やらせてもらってます」
「あ、ど、どうも
……
」
折り目正しく頭を下げたリンに、イデアはどもりながら答えた。リンが辛うじて聞き取れるほどの声量だったが、リンは「人見知りするんだな〜」と特に気にしなかった。
「リンさんの世界にもプロジェクターってあんの?」
「あるよ! 照明と一体化してるやつとかこういうのとか、形はいろいろだけど」
「
……
」
イデアがちらりとこちらを見たことにリンは気付いたが、今視線を巡らせたら確実に逸らされるだろうなあとなんとなく察したので、そのまま空いている席のひとつに腰を下ろした。
「科学技術的にはそんな変わんないのかなぁ
……
」
「ふむ。その辺り、今度詳しく聞かせろ」
「えぇ
……
どっちにしろ詳しくないんですが
……
」
「構わん」
断られるという選択肢を全力で投げ捨てるクルーウェルに、リンは時間があればねと嘯いた。そうこうしているうちに、スピーカーから歓声が湧き上がる。ファッションショーが始まったのだ。
画面の端々には大きいものから小さいものまで、妖精とされる生き物が様々映し出されていた。
「はー、すごい、初めて見た」
「え、リンさんの世界には妖精とかいないの?」
「うーん、伝説とか逸話とかはいろいろ残ってるんだけどねぇ、実際に視えるひとは中々。おとぎ話の中の存在っていうのが一般的だね」
「それなら、季節はどう巡る」
「自然に巡るよ」
「妖精が自然の一部ということ?」
「
…………
そんな感じでいいんじゃないかな」
あながち間違ってもいないと思う、とリンは口を噤んだ。レオナ達の姿が見えたからだ。
『では、どうぞ!』
賑やかな音楽と共に、ジャミルとカリムが派手に入場してくる。リンは「うお、」と声を上げた。想像以上にふたりの動きがアクロバティックだったのだ。ブーツなどの踵の高い靴であるのに、よくもまぁ安定している。
その合間を、悠々とレオナが進んだ。長いランウェイだが、スカラビアの二人のおかげでまったく飽きない。
「あ、そういや、ポージングはどうなったの?」
リンに訊かれたヴィルは、ふ、とそれは美しい悪どい笑みを浮かべた。
「あいつの武器は、無駄にあるその迫力よ。だから、それを活かすポージングにしたの」
ま、見てれば分かるわ、とヴィルはスクリーンを顎で示した。様になっているその仕草に、リンは黙ってスクリーンへと向き直った。
「
……
鈴の音みたいなのは
……
」
「妖精の言葉だ。人間にはベルの音に聞こえる」
「へぇー
……
」
ランウェイの解説でもしているのだろうか。リンにはどうやら盛り上がっているらしいことしか分からない。
折り返し地点に到着したジャミルとカリムが、きっちりと動きを合わせて滑らかに動く。レオナが堂々とランウェイの中央に立つまで、リンはふたりが一歩下がったことに気付かなかった。
「わ、」
「おぉ、」
どんなポーズを取るかと思っていたリンは目を丸くした。
徐に、レオナがケープの留め具を外す。
重厚なそれは流されることなくはらりと自重に従った。それを、レオナの逞しい腕が荒々しく掴む。
ばさりと、白金が翻った。
───獅子、
ゆるり、レオナが踵を返す。
それはさながら、獅子の歩みだった。世界の全てを睥睨し、雄々しく進む。
───惜しい、
……
生で見たかった。
往路と比べても最早別人の風格だ。ぱちぱちと拍手するリンの横で、ヴィルが満足そうに笑みを深くした。
「あいつのポージングに足りないのは、あいつらしい野蛮さだったのよ」
「流石だ、シェーンハイト」
クルーウェルが手放しで褒める。ケイトは心底から意外そうにヴィルを顧みた。
「あんなに苦戦してたのに。どうやって思いついたの?」
ヴィルはここぞとばかりに溌剌とした顔で毅然と言い放った。
「毛布を被る動きよ!!」
「あぁ、もうふ」
「
……
えっ毛布?」
「えっ!?」
イデアとリンの声が被る。ひとり、ケイトだけが素っ頓狂な声を上げた。
「毛布
……
って、」
「あいつが不貞寝をしようと毛布を被ろうとしたその動きからインスピレーションを得たの」
「
……
」
それはもしかしなくとも数日前にウチに泊まったときのアレか、とリンは遠くを見やった。
「
……
まぁ何にせよ、上手くいっていることは確かだ」
グッボーイ、とクルーウェルが指示棒を叩く。
「雄々しい動きに、衣装が輝いている。俺も作った甲斐があるというものだ」
「いやぁ
……
会場中の妖精を虜にしちゃうって、さすがレオナくんだね!」
「想像するだけで吐きそ
……
」
イデアがげんなりとして言った。
スクリーンの向こうで、レオナがばさりとケープを奮っている。
───戯れに吼える獅子
……
そして、会場の雰囲気を確かに温めて煽っている、熱砂の踊り子たち。
素晴らしい以外の言葉が思いつかない。リンは黙って拍手をし続けた。
陽動であるレオナ達が上手くいったのだ。『手癖の良い』ラギーが失敗するはずもなく、魔法石は無事に取り返された。
その日のリンは、悲しいかな、勿論残業だ。
魔法石が戻ってきたとあらば、学園の空調設備は即座に整えられた。どうやら妖精たちの機嫌が直ったらしい。
事務局はすぐに空調設備が整ったことを発信、全ての生徒へ帰寮を促した。テントや寝袋などは事務局から貸し出していたものもあったため、返却手続きに追われたり、それをサムの購買部に届けに行ったりと中々慌ただしい時間が過ぎ去って行った。
そして、翌日から再開される授業の準備もしなくてはならない。結局、リンがオンボロ寮に戻れたのは、ユウやグリムが寝静まってからのことだった。
「おや」
鏡舎の横を通る道すがら、リンはふと歩みを止めた。見慣れた姿が、ひょんと尻尾を降っている。
「誰そ彼か、お尋ねしても」
飄々と言ったリンに、レオナは「あぁ?」と訝しげに片眉を跳ねさせた。リンは「冗談さ」と肩を竦めて笑った。
「夜分遅くに、こんばんは。ファッションショー、お疲れさんだったね」
「
……
ふん」
まぁな、と言わんばかりの態度に、ランウェイのときの面影はあるようで無い。化けるおしろいを化粧と言うのはよく出来ていると、リンは埒外なことを思った───数日間の異常気象に久々の残業とあって、疲れているのだ。
「本当に、遅かったな」
待ちくたびれたと、レオナは欠伸を堪えなかった。リンは自分に移ってきたそれをどうにか堪えて、「何か用だった?」と本題を促した。
レオナはゆるく頭を振って植物園の方を指した。
「あそこに集う妖精は基本的に人間嫌いだが、だからこそ目を付けられれば厄介だ。お前は自分で自分の身を隠せねえしな」
「
……
はぁ
……
」
確かに、リンの世界でも妖精に魅入られて幽世のような場所へ連れ去られたという逸話は数多く残されている。だが、それとレオナがここにいる理由が繋がらない。
リンは素直になることにした。
「久々の残業で疲れてるんで頭が回りません。単刀直入でオナシャス」
「
…………
寮まで送ってやる」
「アザース」
リンは素直に頭を下げた。嘆息したレオナが踵を返す。ゆらりと長い尻尾が揺れた。
───あ、
眩いランウェイが重なる。よくよく見れば、姿勢が良いままだ。リンはなんとなく嬉しくなって、レオナの隣に並んで歩いた。
「送り狼ならぬ送り獅子ってか!」
「あァ? ンだそりゃ」
「あら、この世界には無いの、送り狼。平和だこと」
無論、リンはレオナが送り獅子になるなど、微塵も思っていなかった。せいぜい互いで互いを揶揄って、寮までの道のりの暇潰しになるかしらと思ってのことだ。
「それじゃ、どういう風の吹き回し?」
「
……
頼み事だ」
「アレマ、珍しい」
リンは思わずレオナの方を見やった。彼は忌々しそうに植物園の方を睨んでいた。
「
……
縄張りを妖精共に貸し与えることになるなんぞ、思ってもみなかった。
……
格好の昼寝場所だってのに」
「
…………
ははーん、それで?」
「
………………
寝床を貸せ」
「ユウに言え」
リンは即答した。
「何度も言うが、私は居候。管理権限はユウが持っている。ユウが許すと言ったならば従うさ」
「
……
」
レオナの喉が不満げにぐるぐると鳴った。
「
……
ま、ボディーガードのお礼に、昼間だけならいいんじゃないとは、一応言っておいてあげよう」
でも決めるのはユウだよ、と念押しすると、レオナは「分かった分かった」と渋々頷いた。
「、
……
」
「
……
なによ」
視線を感じたリンがわざとらしくつっけんどんな態度を取る。レオナは淡々と応じた。
「
……
サボるなとは言わねえんだな」
「あ? なに、説教して欲しいの」
レオナの顔が瞬く間にげんなりとする。リンはケラケラと笑った。
「しないわよ、あんた留年しても困んないもの」
「そりゃそうだ」
「『私が』じゃないわよ」
「、」
鋭い一言に、レオナは思わず面食らった。
確かに、レオナが留年しようがリンは困らない。しかし、リンは違うと言った。
「困らないのは『あんた』でしょ。金持ちで権力もあるけどあんたは自由だもんね。ただの王子だから」
「
………………
」
「事実でしょ」
その通りだ。だからレオナは拳を握り締めるだけに留めた。
リンは事実を述べただけだ。そこには衒いも侮蔑も同情も無かった。
レオナはもう、事実に対して声を荒げて癇癪を起こすほどの気力を持ち合わせていなかった。斜に構えて、ひねくれた嫌味を口の端に乗せるだけだ───事実に対しては。
「立場もある。金もある。追い出されるわけでもない。食うにも寝るにも困らんだろう」
「困らんだけだ」
ただただ、困らないだけだ。
そこには歓びも哀しみもない。
空虚だった。
だったら帰らない方がマシだと、レオナはそう判断していた。
虚しさに耐えるのにはもう慣れっこだが、積極的にそういう思いをしたいわけではない。
「
……
お前の世界に獣人はいねえのか」
「いねえよ。来ねえ方がいい、見世物にされる。
……
それとも私が飼ってやろうか」
「抜かせ」
小さく、けれども重々しくガオウと吼えると、リンは「おお怖」と首を竦めて見せた。そうして、くつくつと喉の奥で笑う。首の裏を手で抑えたのは本能だろうか、それでもリンの纏う空気がレオナの小さな咆哮を本気にしてはいなかった。
レオナは立ち止まった。オンボロ寮を囲う鉄柵の前まで辿り着いたのだ。リンは鉄柵の向こうに行って、腰の高さの門扉を閉めた。そして月光の下、柔らかく微笑む。
「ありがと。やっぱり夜道はおそろしいから、助かったよ」
「せいぜい結果で返せ」
「ユウの胸三寸だ」
レオナは鼻を鳴らした。
「俺に小娘のご機嫌取りをしろってか?」
「尻尾を振るくらいはした方が良いな。まぁ無下にはせんだろうさ」
「なに?」
「期限付きだろ」
フェアリー・ガラが開催されるのは三ヶ月間だけだ。
「お前の好きにしたらいいさ」
「、」
それが何に対しての言葉なのか、レオナは咄嗟に図りかねた。
「
……
説教か?」
「はは、それなら私はもうこれ以上、お前には何も言えないな」
リンは快活に笑った。「おやすみ!」
返事を聞かずに、その姿はあっという間に館の扉の前に立った。
言葉を返すことは勿論、あぁ、とも、おう、とも、レオナは返せなかった。
───せめてあいつが振り返れば、
ばたん、と扉が閉まる。
レオナは長く息を吐いた。そうしてぐしゃぐしゃと頭を掻き回す。
「
…………
何やってんだ、俺は」
らしくもない。いや、ここ数日間はずっとらしくなかった。
「
……
寝るか」
くるりと踵を返す。ゆらりと尻尾がそれを追う。
獅子の後姿は、すっかり元通りの猫背になってしまっていた。
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