桜霞
2022-06-13 13:55:48
15806文字
Public 【twst夢】フライパンは無敵
 

リンさんちの今日のごはん

#twst #twst夢 #not監督生 #女監督生 #オリ女主
2020/04/29にpixivに投稿したものの再掲です。

 
 
 
 
 その日、リンは珍しく定時過ぎまで仕事をしていた。
 単純に時間のかかる手作業が多かったからである。そして間の悪い事に、いつもなら魔法でヒョイッと片付けてくれる事務員や先生方の手が軒並み空いていなかった。
 そもそもリンの仕事とは、魔法でヒョイッと片付くけれど、その「ヒョイッとする手間も時間も何もかもが惜しい」と誰もが感じる面倒な作業のことを指す。つまりは副業的要素だ。本業に集中したいときに限って時間を割かなければならないそれにリンが手を付けることによって、職場のストレスは大分改善されていた。
 とは言えヒョイッと終わることなので、本業が終わればその作業に手をつけることもやぶさかではない教員たちや事務員たちは、自分達の仕事が終わればリンの仕事を横からマジカルペンでヒョイッと片付けた。おかげでリンは大抵三時には館に帰れているし、そうでなくともリンが三時までに仕事を終わらせていることが多い。
 しかし、それも、今リンが操作している作業さえ終われば終了である。
 どこぞのスタンドもびっくりのオラオラのラッシュならぬオラオラのタイピングでラストスパートをかけたリンは、エンターキーに拳を叩きつけたい衝動をどうにか堪えることができた。いつも通り、軽くキーボードを押す。
 作業の成果を上書き保存し、タブをすべて消去し、リンはようやくほっと息をついて、ぐぐ、と椅子の背凭れに体を預けて伸ばした。
……っあー……はぁ肩凝った……
 脱力した姿勢のまま腕を伸ばし、マウスを操作してパソコンをシャットダウンさせる。画面が暗くなる寸前に見た時刻は午後五時過ぎ。普段なら夕飯を作り始める時間帯だ。
「おや、珍しいな。まだ残っていたのか」
「プロフェッサー・クルーウェル。まだ残ってましたよ、作業が終わらなかったので」
 今終わったので帰りまーす、とリンが手を挙げると、クルーウェルはどこか呆れたように肩を落とした。
「お前の格好のせいか、そうしてだらしなくしているとまるで学生 Studentだな」
 この学園に通う生徒 仔犬のようだとは言わなかったクルーウェルの学生という言葉を正しく受け取って、リンは今持っている中で一番マシな衣装のスラックスを弄り、ぱん、と叩いた。
「ま、私の故郷だとギリギリ学生でもイケる年齢ですからね」
「そうなのか」
 クルーウェルが瞬く。リンは「小、中……」と言いかけて口を噤んだ。少しだけ唸って、敢えて横文字で言い直す。
……エレメンタリー、ジュニアハイ、ハイ、ユニバーシティ、グラデュエイトスクール。これで全部なんですけど」
 リンは指を折って年を数えた。
「六歳ぐらいからのスタートで、六年、三年、三年、四年、二年。ぜーんぶ真面目に行ったら二十四で卒業ですね」
「長いな」
「でも大体がユニバーシティ……カレッジとも言いますけど、そこで卒業ですよ。私もそうでした。大学院は研究職のためにあるようなもんです」
 リンは薄っぺらい財布とオンボロ寮の鍵を持つと、首と肩をごきごき言わせながら立ち上がった。
「じゃ、お先です。お疲れ様でした」
「あぁ、ご苦労」
 リンはぺこりと頭を下げて、クルーウェルの傍を通り過ぎた。事務所を出るときに、「お疲れ様です、お先に失礼します」と声を上げることを忘れない。いつものように扉を閉めたリンは、振り返った先にいた人影の近さに「オワ、」と肩を跳ねさせた。
「わあ、もう、びっくりしたあ、なにいもう……
 そこにいたのはレオナとラギーだった。部屋から一歩出たらぶつかってしまいそうな距離にいた二人に、リンは心臓が大きく跳ねたのを聞いた。二人はニマリといつものように悪戯っ子のような笑みを浮かべている。
……何か用?」
 訝し気に聞いたリンに、「シシッ」と笑いながら口を開いたのはラギーだった。
「用、っつーか。伝言なんスけど」
「伝言。誰から」
「監督生からっス」
「ユウから?」
 目を丸くさせたリンに、ラギーはにこにこと伝言を口にした。
「『急遽、ハーツラビュルのみんなと食堂で夕食を一緒に食べる、なんちゃってパーティをすることになったので、グリムと私のご飯は要らないです』だそうっスよ」
「あぁそう、ハイ、分かりました。ありがとう」
 リンはそう言って軽く会釈した。だが、ラギーはにこにことするばかりで、何故かその場から動こうとしない。
……それだけ?」
「じゃないっス!」
 ラギーは元気良く声を上げた。くるりとまろい尻尾が回る。えぇ、とリンは身を引いた。その分だけ、ラギーがずいと体を寄せる。
「リンさん、オレ達に返さなきゃいけない借り、あるんじゃないっスか?」
 眉を下げて、口端を吊り上げて。ラギーがどこか嘲るように、得意げに笑う。至近距離で大きな耳がぴこぴこ揺れた。
 
 ───取り立てかよ。
 
 リンは内心で叫んだ。
 思い当たる節はある。先日のイソギンチャク騒動の、ほんの一端。リンはアズールに催眠術のようなものをかけられて、オクタヴィネル寮はモストロ・ラウンジVIPルームに連れて行かれた。
 それを何事も起こらない内にリンを助け出し、正気を取り戻させたのがレオナとラギーである。
 その際、二人は「貸しだぞ」と夜食にシチューを作ることを要求してきたのだ。リンはそれを渋々承諾していた。
……え、」
 忘れていたわけではなかったが、具体的な日時を指定されていたわけでもない。なんとなく有耶無耶になっていたそれをどうにかしなければな、とふとした瞬間に思い出してはいたのだ。しかし一学生と一事務員では話す機会など滅多に無い。
「えっ、今日?」
 なんの予測も心構えもできていなかったリンは、少しだけ戸惑った。
「オレはいつでもいいんスけどー、」
「今日はシチューの気分なんでな」
……
 ふんぞり返る、とまでは行かずとも、言外に作れ、と命じるかのような態度は、確かに王族のものであった。レオナのそれに、リンはやれやれと嘆息した。
「はぁ……まぁ……いいけど……
「決まりっスね!!」
 ラギーがぱっと表情を明るくさせる。リンの腕を弱くはない強さで取り、ラギーは意気漸うと廊下を進んだ。向かう先は鏡の間であろう。リンは「あー待って待って」と足に力を入れた。
「、ん? なんスか」
 ラギーは意外にも素直に立ち止まった。
「寮の冷蔵庫に使いさしの材料あっから、取りに行くわ」
「あー、了解っス。すぐ来てくださいね!」
「あいよ」
 ぱ、と腕が解放される。リンは素早く踵を返した。纏っていたショールが華麗に翻る。
 もしそのショールがプロの職人によって作られたものであったなら、きっと様になっていただろうなと思わせる所作であった。そういうものを見慣れているレオナは何とも思わず、すぐに視線を逸らしたが、ラギーは思わず「うわ、」と顎を引いてしまった。
 ラギーはそういう、上流階級を示唆するようなものは好きではなかった。富裕層に属するだろう権力者たちが嫌いだからだ。
「やっぱり、リンさんも金持ちだったのかな」
「腐ってはいねえだろ」
 間を空けず返されて、ラギーはにんまりと笑った。
……シシッ、確かにそうっスね」
 そういう為人を、レオナが厭わないはずがない。ラギーの鼻が捕らえないはずがない。
 リンはなかなか珍しく、生意気盛りの学生たちに「まあ舐めないでやってもいい」と思われるほどには、中身の成熟したひとであった。
 
 
 
 
 
 リンは念の為、大食堂へと寄り道した。馴染みになったバックヤードでは、スタッフ達が忙しそうに立ち回っていた。もうすぐ夕飯の時間帯なので、大食堂は生徒達でごった返すのだ。
「こんばんは」
「おう、リンさん。こんばんは。ちょうどいいときに来てくれた、これ持ってってくれ」
「あらあ、いいんですか」
 リンが手渡されたのはすっかり冷めきった手羽先だった。昼食に出されたバイキングの余りだろう。大皿に並べても見劣りしない量に、リンは目を瞬かせた。
「珍しい、お肉が残るなんて」
「今日は麓の街から人気のパン屋が出張販売に来る日だったからなあ。結構余ってるよ」
「あら、そうなんですか」
「野菜はこれと、これ。もう切ってあるやつ」
 リンは馴染みのスタッフに、丁寧に頭を下げた。
「有難く頂戴します」
「はい、どうぞ。台車に乗っけるといいよ」
「助かります。またお手伝いに伺いますので」
「いいよいいよ! 来てくれると助かるけど、遅くなると危ないから!」
 スタッフはにこやかにリンを見送った。リンは台車に乗せられた浅い底のコンテナにごろごろ転がるジャガイモやニンジンにほくほく顔になった。
 
 ───あのスタッフ、私が女だってことを知ってるのは自分だけだって思ってるんだろうなあ。
 
 自覚が無いだろう頬の緩み、声色の柔らかさ、融通の利くところ。舐めるような視線は夜の繁華街でこちらを食い物にしようと寄ってくる男のソレである。気付いているらしいことを察せないほど、リンは鈍くは無い。寧ろ聡かった。
 明らかにワンチャン狙ってるらしいあのスタッフは、何度かそれとなくリンに確認を取ろうとしていた。その度にリンはのらりくらりと躱していたが、敢えて何か言葉をくれてやるということはなかった。このまま転がしておく方が安く食材を手に入れられるからである。下心には気付いているが、すべて無かったことにしている。リンはなかなかいい性格をしていた。
 
 ───なんちゃってパーティ? にはトレイもケイトも、なんならリドルだっていたし、そう悪いようにはならないだろう。
 
 バックヤードからは食堂の様子も伺える。リンはそれとなくハーツラビュル生たちが固まっているところへ視線を走らせていた。喧しさとも取れる学生らしい賑やかさに、リンは気付かれるはずもないのにそっと気配を押し殺して移動した。
 若人の青春には手を出さない。勿論、ユウの身の安全にも配慮しなければならないが、それはそれ、これはこれである。リンはできるだけ過保護にならないよう、細心の注意を払っていた。
「っひ~~~~!!! さっむうーーーー!!!」
 鏡を使っての移動にも慣れた。サバナクロー寮に飛び出た瞬間、冷えた風が薄いシャツを越えて肌をなぞり、リンは身を竦ませた。これは早いとこシチューを作って温まらねばなるまい。
「あ、来た来た! レオナさん、飯が来たっス!!」
「どもーウーバーリンさんでーす。ひとを飯呼ばわりすな」
「あでっ」
 とす、と拳を頭に置くと、ラギーは大袈裟に首を竦めて見せた。悪戯好きのこどもが親に見つかった時のような顔をして笑っているので、リンも笑みを深めてそれで許してやることにした。
「にしても、大量っスね」
「途中で食堂寄って、廃棄予定のやつもらってきた」
 塩をまぶしてグリルで焼いただけの美味い手羽先(大量)を掲げて見せると、ラギーは「ヤリィーーッ!!」と飛び跳ねて喜んだ。
「ワハハ手羽先祭りじゃ!! それにしてもひとが少ないね。なんで?」
 てきぱきと準備をしながら何とはなしに聞いたリンは、ラギーがにっこりと笑っているのに気付かなかった。「なんでですかねえ」と言うラギーの声は心底不思議そうだ。
「あ、でもほら、もうすぐ晩飯の時間っスから。今頃どっかで飯、食ってんじゃないっスか」
「それもそうか。そうか、じゃ、団体サマとはすれ違ってんだな」
 この時間ならエンゲル係数がとんでもないことになるんだろうなというリンの予測は外れたようだった。
 
 ───まあいいや、どうせ食うだろ。
 
 キッチンのカウンターに頬杖をついているラギーを一瞬だけ顧みて、リンは気にせず好きな分だけ作ることにした。余ればグラタンにでもしてしまえばいいのだ。てれっとてんてん、とリンは口ずさんだ。
「まったくきみははながいい、げんかんまえですぐにきづいてさ」
「はい?」
 リンはさっさと野菜を刻んでいった。手羽先はそのままに、レオナの希望である骨付き鶏肉は筋に沿って切れ目を入れる。
 リンは少人数分を作るのは苦手だ。どう気を付けても三人分程度の量になってしまう。スーパーで買った材料はその日その時に使い切らなければなんだか気持ち悪く感じる性分だったので、結果的に食いでが増えるのは当然だった。
「はないきあーらげふがふが、ろうかすたこらかけてくーるんだ」
「馬鹿にしてます?」
「まさか!」
 リンは思わず肩を揺らして笑った。悪い悪い、と空っぽの鍋を火にかけて、バターを適量投げ入れる。
 一人暮らしのときは味を変え品を変え、二、三日は料理せずにすむだろう料理を作り揃えることが習慣になっていた。しかし、この世界では作れば作るだけグリムが太る気配もなくぺろりと平らげてしまうし、ユウが翌日の弁当に持って行ってくれるので、リンとしてはとても気が楽だ。歌ぐらい、いくらでも口ずさめてしまう。
「こんやはきみのだいこーぶつ、これたべたかったんでしょ」
「そう、これこれ……ってなんスかさっきから」
……!」
 まさか入るとは思わなかった正しい合いの手に、リンはばっと音を立ててラギーを顧みた。瞳どころか表情までが喜色に輝いている。ラギーは思わず体を強張らせて身を引いた。もしかしてまた何か下手を打っちまったのでは?(マジフト大会ぶり二回目)
「きみがそろえばこれでかんっぺーき、ごちそうと、みんなでまってたよー」
 頬を引き攣らせるラギーとは対照的に、リンは上機嫌で作業に戻った。
「あい、あむ、あ、えぷろんぼーい、」
「いやガールっしょ」
「えぷろんぼーい、わざをくりだせきっち、ん」
「聞かねえし」
「あいあむあえぷろんぼーい、」
 じゅあ、と玉ねぎが音を立てる。ごろごろとした大きさの野菜は揃ってレンジに突っ込まれた。大きめに切ったので一度軽く柔らかくするのだ。
「えぷろんぼーい、きみのえがおはぜっぴん」
 ラギーは自棄になってイーッと口を横に引き伸ばした。
「わ、がやのだんらんわらいごえまんたん、おちゃのまわんだーらーん、よだれでもでててあらったのおてて、あゆれでぃ、れでぃ!」
 野菜がレンジから取り出され、リンは少しだけ背伸びして鍋を覗き込み、そろっとボウルを傾けた。
「せ、ん、え、い、じゃしゅ!!」
「最後だけなんか違うっスよね、それ」
「たはー! バレたか!」
 ごろごろと野菜や肉が鍋の中に潜影蛇手される。リンはそれらをしばらく焼いた後、いったん火を止めて薄力粉を振りかけた。
「え、粉、入れるんスか」
「あー、うん、ちょっとどろっとするんだけど、嫌いかな」
「いや……食えるもんなら食うっスけど」
「パンとの相性は最高だから」
 パンあったっけな、とラギーはあらぬ方に視線を飛ばして記憶を巡らせた。リンはさっさと鍋の中身を混ぜて、焼いた肉をいったん取り出し、牛乳、コンソメ、この世界でのローリエもどきを投じた。
 後は一煮立ちするのを待てばいい。そうしたら鶏肉を戻してすこしかき混ぜ、完成だ。
「あーー、潜影蛇手っつってたら一番の奴で優勝したくなってきたな」
「さっきからちょいちょい分かんねえネタ挟むのやめてもらっていーっスか?」
「ビールだよ、ビール」
 リンはお玉を持っていた手を腰に当て、口をへの字に曲げて言った。
「麦からできる黄金色の発泡酒! この世界にも酒ぐらいあるだろ」
「あるっスけど……え、リンさん飲むんスか」
 ラギーの意外そうな声に、リンは「飲むよぉ」と半ば自棄になって返した。
「金がねえから飲んでねえだけでな……まぁ人並にね」
 ふうん、とラギーは相槌を打った。合法的に酒が飲めるようになるまで、ラギーはあと一年間待たなければならない。ある種、大人と子供の境界線であるそれを改めてリンに感じ、ラギーは何とも言えないもやもやとしたむかつきをどうにか胃の腑へ押し込めた。
……モストロ・ラウンジ、酒出るっスよ」
「えっ」
 リンは反射的にラギーを見やった。まじで、とその口が動く。
「マジもマジ。大体の国が十八から合法なんで」
「はー、そっか。サムの店にサイダーしかねえからてっきり教育機関でそういうのは扱わねえもんだと……そっかー、でも高そうだな」
「そういう噂っスねえ」
 鍋の中身をかき混ぜながら、リンは頭の中に財布の中身を思い浮かべた。一頻りうーん、と唸って、やはり諦めることにする。
 給料が増えるからと言って、安易に己の欲望を満たすよりも先に身だしなみを整えなければ。まずは基礎化粧品をユウの分も揃えて、アメニティも少しいいものに変えよう。余裕があればスラックスやシャツをもうワンセット欲しかったし、ユウにも私服を用意してやりたかった。
 週末になるとふもとの街へ出かけられるようになるのだ。課題や勉強などのせいで時間を割けないようだが、もうすぐホリデーがやってくる。ユウとて年頃の女子高生であるので、多少の興味は持っているだろう。……はずだ。聞いていないのでリンは確信を持てなかった。
 そうこうしているうちにシチューがごぽごぽと言い出した。じゃがいも、にんじんに火が通っていることを確かめて、これでもかと鍋に肉を潜影蛇手。バターで少しだけ味を調えて、リンが知るシチューの完成だ。
「レオナさーん!! 飯っスよー!!」
 リンが皿に盛りつけ始めたのを見て、ラギーがレオナの部屋に向かって声を張り上げた。それにしても寮の人気が無いな、とリンは反響する声に少しだけ耳をそばだてた。とは言え、確かに夕食の時分であるし、こんなもんなのかもしれない。
 眠そうに欠伸をしながら、レオナがぺたぺたと談話室に降りてくる。いっただきまーす、と嬉しそうにテーブルに着くラギーに「どうぞー」と返しながら、リンはサムの店で譲り受けた、売れ残りのフランスパンを適当な大きさに切り分けてやった。
 
 
 
 
 
 徒人よりは語感が獣のそれに近い獣人が多く在籍しているサバナクロー寮生にとっては、混雑しているときの大食堂程、喧しくて騒々しいものは無い。殴り合いの喧嘩をするときやマジフトの練習と嘯いて魔法をぶつけ合っているときはその状況に集中しているのでなんとも思わないが、そうでないときは煩わしいことこの上ない。
 しかし、空腹や飢えはもっと頂けない。懐に入れた仲間以外の大騒ぎを傍で聞いて素知らぬふりをするのはなかなかにストレスだが、世の中には耐えなければならないときがあるのだ。
「ハー、やれやれ」
「もう寝よ」
「明日も早えしな」
「魔法史のさあ、」
「錬金術で実技が……
 どやどや、がやがや、ぺたぺた、わいわい、ざりざり。
 無数の足音が心持ち静かなざわめきと共にサバナクローの夜に漂う。明日のことを考える者、ベッドへ飛び込むことしか考えていない者、寧ろ夜行性の血に逆らわず冷蔵庫を物色するつもりでいる者など、様々だ。
「ん、」
 それらが不意に、ぴたりと動きを止めた。なんとなく先頭を歩いていた生徒が立ち止まったからだ。
「んぉ?」
「なんだ、どした」
「いでっ! 急に止まんなよぶつかったろうがよ、」
「うるせえ当たり屋」
「うぜーんだよ!」
 首を絞められて脛を蹴られた生徒がぎゃあと悲鳴を上げる。やーめーろーよーとわざとらしい悲鳴が木霊する。ゆらゆらとじゃれつきながら、何人かの生徒はどこかへと揺蕩っていった。
「なんか、いー匂いする」
 鼻をひくつかせ、立ち止まっていた生徒は歩みを再開させた。
「ンー、なんだろこの匂い」
「牛乳?」
「分かんね」
「オイ誰だよ牛乳煮込んだヤツ」
「チーズでも作るんかよ」
「煮込んだらチーズできんの? 腐らせんだろ?」
「ちげーよハッコーだよハッコー」
「鶏肉」
 一瞬、静寂がその場を支配した。
 それっとばかりに生徒達が一斉に駆け出し、談話室へ駆け上がる。どたどたという重苦しい足音がこれでもかと響いた。
「まてまてまてまて」
「オイこら押すな!」
「オレが先頭だったろうがよ!!」
「うっせえ!! ボス気取ってんじゃねえ!!」
 先程ぺろりと完食した夕食などなんのその、これはそう、別腹である。
 談話室のような共有スペースで実に食欲を刺激する美味しそうな匂いを漂わせ、尚且つ他の寮生が帰ってくるまで食事に時間をかけている方が悪い。
 食卓は戦場だ。自分の食事は自分で守らねばならない。サバナクローは文字通り弱肉強食であった。
 こんな場所で美味そうな匂いをさせてのんびりしているのがお前の運の尽き、食後のデザート(肉)を誰が手に入れるかは早い者勝ちだ。
 
「ハッハー!! オレがいっちばングワーーーーッ!?」
 
 その光景をいの一番に視界へ入れた生徒は、驚きの余り目を見開いてたたらを踏んだ。勢い余って踏みとどまれなかった二陣、三陣がどやどやとその先へ押し入ろうとし、うわあと声を上げてその場に倒れ込んだ。
……なーにやってんのアンタら」
 聞き覚えのある声に、寮生がばっと顔を上げる。はわ、と口を半開きにして震える指でその人を指差していた寮生の手は問答無用で多方面から抑えつけられた。
「リリ、リリッ、」
「バーニンッ☆ナイッ!!」
「リンさん!!!」
「なにいまの」
「はっしまった、つい三つ子の魂が」
 リンは口元を綺麗に揃えた指で押さえた。
「なんでいるんすか!?」
「何作ってんの!?」
 衝撃から立ち直ったらしい生徒達が次々とリンが佇むキッチンカウンターへ移動する。群がる生徒は、目敏く煮立った鍋を発見した。それ以外の多くの生徒はさっさと自分の部屋へ移動するか、談話室や廊下の隅の方にある自分の定位置へ移動し、腰を落ち着けた。
「夜食だ!!」
「ヤッター!!」
「えっ材料は? タダ!?」
「奢り!?」
「違わい!!」
 カンカンカンカンカン、と鍋とお玉が小気味いい音を立てる。ぎゃあぎゃあぎゃあぎゃあ好き勝手騒いでいた生徒達は一斉に静まり返った。
……えっ?」
「じゃあなんでいるんスか」
 説明しようとして、リンはぱか、と口を開けたが、どこから言葉にしたものかと、いったん口を閉じて少しだけ逡巡した。
「あー……この間の騒動の時、レオナとラギーに助けてもらったから、そのお礼」
 リンがくい、と頭を傾ける。そこにはこちらから顔ごと視線を背けているらしいラギーと、泰然とした態度で指を舐めるレオナと、骨だけになった鶏肉が盛られた皿があった。
「たす……?」
 なんのことだ、と一人の生徒が首を傾げる。あれか、と一人が瞠目した。
「オンボロ寮の監督生の作戦に協力したってやつ?」
「違う違う、」
 リンは即座に否定した。
「あ、もしかして、あれっスか?」少しだけ遠くに追いやられた生徒が飛び上がって手を挙げた。「リンさん、モストロ・ラウンジでレオナさんに担がれてましたよね」
「あ、それ俺も見た」
 姿は見えないが声はする。リンは思わず視線を彷徨わせた。
「オレ、それでてっきりリンさんが寮長のモンになったんだと思ってた」
「違ぇよ」
 間を空けず、レオナとリンが否定する。吐き出された台詞が被ってしまったことに、レオナとリンは思わず顔を見合わせた。
「じゃあなんでレオナさんがリンさん担いでたんすか?」
 レオナはフイ、とそっぽを向いた。リンは内心でネコ科め、と思わず吐き捨てた。
 というか担いでたってなんだ。どういうことだ。話がイマイチ掴めなくて、リンはラギーの後頭部に視線を移した。
…………それはー……あれっスよ、……
 数多の視線を感じたらしいラギーは、それっきり口ごもった。口達者なラギーらしくもない様子に、寮生たちはまじまじと彼らを見やり、リンを見やり、礼だとか言われている美味そうな匂いの鍋を見やり、そして再びこの寮のツートップへと視線を戻した。
…………
……もしかして寮長……ラギーさんも……
「これにかこつけてリンさんの手料理を独り占めしようってハラなんじゃ……
「はァン!?」
 特に気の短い生徒が反応した。その一声で火が着いたのか、キッチン周りはあっという間に引火して喧々囂々、盛り上がりを見せた。
「いくらおふたりでもそれは許せねーっス!!」
「つーか何があったんスか!!」
「あのタコ野郎っスか!?」
「あいつリンさんに何したんすか!!」
 余りのうるささに、ラギーは思わず手で耳を押さえたし、レオナは思いっきり顔を顰めた。リンは鍋を見ていたので諸に大音声を食らったが、特にダメージは無かった。
「キャンキャン吠えるな、喧しい」
 レオナが吐き捨てる。ぐ、と一斉に寮生たちが身構えた。
 静かになったのを好機と見たのか、ラギーがそろぉっと口を挟む。
「ほら、まぁ、気付いたのはオレで、助けたのはレオナさんっスから……
 ね! とにこやかに言うラギーに、寮生たちは揃って半眼を向けた。
「アンタ……
「俺達だってあの場に居たのに……
「何があったか分かんないけど」
「リンさん助けられたのはきっと俺達のおかげでもあったのに……
「きっとそのはずだから俺達にだってこれを食べる権利はあったのに……
「独り占めしたいからって……!!」
「なんか文句あっか」
「ウゥッ……!」
 ぽん、と言葉を放り投げたレオナに睥睨され、寮生たちは再び大きな体を縮こまらせた。
「無いっす」
「スンマセン」
「滅相もございァせん」
「わはは!!弱肉強食!!」
 見事な掌クルーである。不屈とはなんだったのか。リンは快活に笑った。それがさらに寮生たちへダメージを与えた。グゥ、と呻いて胸を押さえた者もいれば、「所詮俺達はこの程度か……!」と床を拳で叩く者もいた。
「マ、捨てる神あれば拾う神ありとも言いますから」
「へっ」
 それまで所詮他人事といった体を取っていたリンが、にー、しー、ろー、やー、と寮生たちの頭数を数え始める。え、とラギーは思わず腰を浮かせた。
……まぁこの辺に居るやつの分くらいはあるかな」
「えっ」
「もしかして」
「あるの」
「あるよ」
 どっ、とまるで何かが爆発したかのような衝撃が談話室に叩きつけられた。
「ヒャッフーーーーーーイ!!!!!!!」
「えーーーーーーっ!!!」
「ヨッシャーーーーーー!!!!!!!!」
 途端にお祭り騒ぎである。学生ってこれだから、とリンは笑いを噛み殺した。
「オレ達だけじゃねーんスか!?」
 途中、挟まれた不満げな叫びはラギーだったらしい。リンは飄々として言った。
「それはそれ、これはこれ。こんだけ廃棄食材渡されても私達 オンボロ寮だけじゃ消費しきれんしさ。ハイ、並べー」
「アザーっす!!!」
「ィタダキァス!!」
「マジかよ……
 てっきり、グリムやユウの分をここで作って洗い物を減らそうという魂胆なのかと勝手に推し量り、信じ込んでいたラギーは脱力してその場に四肢を投げ出した。一方で、キッチン周りのテンションはブチ上がっていく一方である。
「ママーー!!!」
「産んだ覚えはねぇ!!!」
「ひどいママ!!」
「オレ達のこと忘れちゃったのママ!!」
「忘れてたまるか!!」
「ヒューーーーーッ!!!!!」
 大歓声が夜空に響いた。寒さなんてどこぞへ消えた。リンはママとふざけられたことに一瞬ヒヤリとしたが、上手く乗った方が賢明だと咄嗟に判断した。そしてそれは間違っていなかった。
 リンは小学校の給食当番を思い出しながら、手早くシチューを配ってやった。レオナは肉を多く食べたが、それでも余る程だったので、どうにか具は足りた。
「んえぇ……せっかく、ばれねぇようにしてたのに……
 レオナが舌を打つ。ラギーはちらりとその横顔を盗み見た。レオナは何も言わなかったが、その顔には「余計なことをしやがって」というのがありありと書かれていた。
 気難しいこの王サマの機嫌を取ることなぞ、今のラギーには考えられなかった。ラギーの心だって今ので多少ささくれだったのだ。
「リンさんは独占することの大事さっつーもんを分かってねーんスよ!!」
「なによ、シチューくらいで」
「シチューを笑うやつはシチューに泣くんスよ!!」
「ちょっと何言ってんのか分かんねえな」
 どっ、と笑いが起きた。おぉ、このネタはどの世界でもウケるのか、とリンは至極どうでもいい、もとい、あまり役立たない情報を手に入れた。
「この世界って独占禁止法無いの?」
 独り言ちるように言ったリンに答えられた者はキッチン周りにはいなかった。数拍置いて、レオナが仕方ないという風情でリンの言葉を拾ってやった。
「そりゃ、商売の話だろ」
「あるんだ。うーん、じゃあまぁ、しょうがないなぁ」
 リンは残っている具材をかき集めると、なにやらごそごそと作業をし始めた。棚の奥底の方に眠っていたペンネ(パスタの一種)を取り出すと、「これもらっていーい?」と誰にともなく掲げる。いーですよ、と気の無い返事が間を空けて響いた。なんでそんなものがウチにあったんだろう、と誰もが首を傾げた。
 
 ───まぁ、誰のでもいっか。取られるのが悪いんだもんな。
 ───あそこは共有スペースだし、実質誰のものでもねえだろ。
 
 誰もが似たようなことを思っていた。暴論である。
 ラギーは、何をしているんだろう、となんとなくリンが作業するのを眺めていた。リンは、流れる川や風のようにさらりと作業をこなしていた。慣れた仕草、とでも言うのだろうか。くるくるぱたぱた動き回る実家とは大違いだと思った。
 もう一度煮詰めた鍋の中身を耐熱容器に移し、リンはチーズをたっぷり振りかけた。そしてそれをオーブントースターへと潜影蛇手。いやオレまで毒されてどうする、とラギーは小刻みに頭を振った。
 チン、と小気味良い音を立てて出来上がったそれを保温できる容器に移し、蓋をすると、リンはキッチンから出てレオナとラギーの傍まで移動した。
「はいこれ」
「えっ」
「残りもんで悪いけど、冷めても美味しいクリームシチューチーズグラタン。明日のお昼までなら大丈夫。温め直して食べな。大食堂にレンジあったろ」
 レオナが当然のようにしてそれを受け取る。ラギーは先程の憮然とした表情からは一転、ぱあっと雰囲気を輝かせた。礼ぐらい言え、とリンは目を据わらせたが、今回は大目に見てやることにした。
 残り物には福がある、ではないけれど。これは、正真正銘、リンがレオナとラギーのおねだりに答えて作ってくれた、彼らだけのものだ。
「さっすがリンさん、分かってるっスねえ!!」
「えーーーーーーーっ!!!」
「ズリーーーーーーー!!!!」
 ラギーが喜色満面で言い放った途端にブーイングの嵐である。リンは肩を揺らし、レオナは取り付ける島を用意せず、ラギーはシシッとドヤ顔で口端を吊り上げた。
「寮長どうせ食わねえんでしょ!!!!」
「よこしやがれください!!!!」
「あ゛?」
 ぎらりとレオナの眼光が音を立てて寮生を射抜く。
「ヒッばか」
「スマセッ あのマジ、スマセッ」
「チョーシのりました ハイ」
「わはは!! 優勝劣敗!!」
 見事な掌クルー(数分振り二回目)である。不屈とはなんだったのか。リンは快活に笑った。
 しかし、やられっぱなしでいるような性根ならば、そもそもサバナクローには選ばれない。寮生たちはめげなかった。
「リンさんおかわり!!」
「リンさん!!味変!!」
「お代わり味変!!チーズ乗っけて焼いて!!!」
 弁当が無理ならせめて同じものを、と次々と皿を突き出す寮生に、リンはけろっと「あ、悪り、もうぇるわ」と言い放った。
「えええーーーーーーーーーーー!!!!!」
「えー、て」
 リンは苦笑した。もうそろそろお暇しなければユウに心配させてしまう。
「現実はいつだって理不尽だ……
「この世には不条理が溢れてる……
「不公平な現実だけが平等に与えられてるんだ……
 がっくりと項垂れる寮生たちに、リンは「後片付けはちゃんとしろよー」と言葉を投げた。
「へーい……
「ご馳走様っス!!」
「お粗末様」
 上機嫌に言うラギーに、帰ろうとしていたリンはふと足を止めた。そして改めてレオナとラギーに向き直る。
「先日は、お世話になりました。改めて、御礼申し上げます」
「あ、いやいや、まぁそれほどでもあるっス」
「あぁ」
 頭を下げたリンに、ラギーは同じように背中を丸め、レオナは微動だにしなかった。王族なんてこんなもんである。リンは気にしなかった。代わりに「どういたしましてくらい言いなさいよ」と軽口を叩いて見せた。
「じゃ、これで貸し借り無しね」
「えーっ」
「無しね」
……うぃーっス」
 レオナが鼻を鳴らす。肯定と受け取り、リンは今度こそ「じゃあね」と身を翻した。
「歯ぁ磨いて寝なさいよ。おやすみ!」
「おやすみなさぁーい」
「おやすみーっ」
 方々から様々なおやすみが飛んで行く。ひらりと手を振ったリンは、今度こそ宵闇に姿を溶け込ませた。
 
 
 
 
 
 ◆





 翌日の昼休み、レオナとラギーは静かな植物園でグラタンを突いていた。野菜はごろごろしていて噛み応えがあるし、肉は言わずもがなである。ペンネとチーズも相性が良く、いい具合に腹を膨れさせた。
 不意にふたりの耳がぴくりとそよぐ。ひとより聴力に優れている二人の耳が部外者の足音を捉えたのだ。特にこの辺りを勝手に縄張りだとしているレオナは不機嫌そうに眉間の皺を深めた。リンのお手製弁当でレオナの機嫌を保ち、授業に引っ張っていく予定だったラギーも途端に不機嫌な表情になる。
 足音は落ち着いていた。淡々とした足運びに、ラギーは小首を傾げた。
「こんにちは、レオナ先輩、ラギー先輩」
 現れたのは異郷からの監督生、ユウだった。手には何かの風呂敷包みを持っている。
「なんだ、アンタっスか」
……何しに来た」
 レオナが唸る。しかしこの学園に来てリンに支えてもらいながらも生活を送ることによって、ユウはなかなか肝の据わった人間になっていた。つまりはまったく動じずに、「先日はリンさんがお世話になりました」とまで頭を下げた。
……はぁ……それを言いに、わざわざ……?」
「昨日の夜、シチューを作ったって聞きました」
「はぁ」
 ユウは淡々と言葉を続けた。
「今日のお弁当、リンさんちの昨日のごはんの味変らしいですね」
「そうっスけど」
「良かったですね」
 にっこりと、ユウが笑う。ん? とラギーは動きを止めた。
「きっと、今朝リンさんが一から作ってくれた唐揚げとか卵焼きとかインゲンのゴマ焼きとか朝一で炊いてくれたご飯とはまた違った美味しさがあるんでしょうね!」
「───」
「───」
 レオナとラギーはうっかり言葉を失った。
 
 ───こっ、こいつ、
 
 ラギーはひくりと頬を引き攣らせた。ユウは半ば怒鳴るようにして声を張り上げていた。
 
「羨ましいなあ! 大切に味わって食べてくださいね!! 私はリンさんが一から私のために作ってくれたお弁当を堪能しますので!!!」
 
 ───マウント取って来やがったーーーーー!!!!
 
 ぴしゃあん、とラギーは雷が落ちた音を聞いた。レオナの魔法かと思った。彼の手にマジカルペンから変貌した杖があるのではないかと空目した。
 同時に戦慄した。喉がヒュッと鳴った。
 まさかユウにここまでの胆力があるとは思いもしなかった。向こう見ずすぎる。ラギーたちが特別感に浸って優越を楽しんでいるのを見越して、敢えてこのような言葉を選んだのだ。そしてそれが分からないレオナとラギーではなかった。
「それだけです!! それじゃ!!」
 失礼しました!! とユウは脱兎のごとく走り去った。あっという間に人混みに紛れ込んだのか、足音がどこへ行ったのか分からなくなる。
…………
…………
 沈黙が痛い。ラギーはもう何度も心臓を貫かれたような心地だった。
……弁当なぞ、クソほどどうでもいいが」
 嘘つけ。
 ラギーは瞬発的に反論した。
 レオナがなんだかんだリンの手料理を物珍しさも手伝って気に入っているのを、ラギーはとっくに気付いていた。
「草食動物如きが、この俺にマウント取るたぁ、いい度胸だ……なぁ、ラギー」
……そっスね」
 ラギーは十字を切った。この後、授業に出るどころではなくなるだろう事、そしてレオナを授業に連れ出せず、自分もサボってしまう羽目になり、後で先生に怒られるだろうこと。その他諸々きっと道中で重なるだろうから、それらのほとんどを甘んじて受けねばならないだろう未来の自分に祈りを捧げ、賛美歌を歌った。三秒くらいで。
 腹ごしらえは完璧だ。信じていない神様にも祈った。どこかの隅でガタガタ震えて命乞いをする準備は───監督生がすればいい。

 
 ───ゆらり

 
 サバンナを代表すると言っても過言ではない肉食動物が二頭、立ち上がり───
 
 

 ───昼休みいっぱいをふんだんに使った、地獄のおにごっこが幕を開けた。
 
 
 

 
 
 To be Continued...?