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ふみかぜ@壁打ち
2025-01-21 21:03:57
4137文字
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【1/26新刊サンプル】よきバカップルの横でよく菓子食うレディ【ドラロナ+みっぴき再録】
1/26 TOKYO FES Jan.2025新刊の本編ドラロナ+みっぴきのweb再録本です、よろしくお願いします!/ヒナちゃん視点を中心に、クッキーモンスターがドラロナに知らず突っついたり後押ししたり巻き込まれたりする短編集/前半はべったー+に投稿済み、後半も3ヶ月後を目途に全文公開する予定のため、紙で欲しい方向けです/通販はこちら→
https://www.melonbooks.co.jp/fromagee/detail/detail.php?product_id=2773268
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【よきバカップルの横でよく菓子食うレディ】
ロナルド吸血鬼退治事務所の床下には、ヒナイチ副隊長が設けた監視任務の拠点が存在する。最初はただ身を隠すだけだったそこはビルの立て直しを機に大きくリフォームされ、今では別荘のような居心地のよさとなっていた。
日当たりこそ悪いがベッドとワークデスクを持ち込んでなお余裕のあるスペースに、仕事現場に直通した利便性。おまけに美味しいご飯やお菓子やクッキーをいつでも食べに行けるこの住まいは、十九年生きてきた彼女の人生史上最高のホームといっても過言ではないだろう。
初対面からふとどきな振る舞いをしてきたドラルクと、そんな吸血鬼にまんまと住み着かれてしまい吸対のマーク対象となったロナルドに感謝したいくらいだ。と、不謹慎な気持ちが芽生えてしまうくらい、ヒナイチは床上の彼らと過ごす日々を大切に思っているのである。
そんなある日のこと。
「ふぅ、すっかり遅くなってしまった」
深夜の三時を過ぎ、朝刊配達で家々を回るバイクの音が聞こえてくる頃。今晩騒ぎを起こした吸血鬼の事情聴衆を隊長と共に行っていたヒナイチは、やっと監視任務に戻るところだった。
「
……
今日は静かだな」
ビルへ入る前に事務所がある筈のフロアを見上げ、一人呟く。窓の奥は真っ暗で、彼らが大騒ぎする声も聞こえてこない。念のため、ドラルクが窓から放り捨てられていやしないかと辺りを軽く見回してみたが、今日はそんなこともないようだ。
ついさっきVRCへ搬送した吸血鬼の退治にはロナルドとドラルクも参加している。もう事務所には戻っていると思うが、この時間だと営業終了しても不思議ではない。
建物に入って階段を上り、三階へ到着したところで床下に潜った彼女は、どうしようかと考える。このまま明日の夜へ備えて休息を取るべきと思う一方、彼女の手元には今空のクッキー缶があった。
ファンシーな図柄がプリントされているそれは何処かのお店で買われたお菓子詰め合わせの使い回しで、見回りに出る前にはお手製のクッキーが入っていたものだ。巡回の途中で底を突き、お代わりを戴くべく事務所へ向かおうとしたところで吸血鬼騒ぎの連絡が入り、結局貰いそびれたまま現在に至るというわけである。
「うーん
……
」
腕を組み、事務所へ通じる床板を下から眺める。
ここに来れば彼らの話し声や物音が響いてくるものだが、今日に限っては何も聞こえない。クッキーに何か関連するものさえあれば、彼らがキッチンの奥に集まっていようと防音設備有りの予備室に篭もっていようとヒナイチの直感にビビッとくるものがある筈だが、今は何も引っかかってこない。
やはり明日に出直すべきか。いやでも、ひょっとしたらドラルクが休む前にお代わりを作っているかもしれないし。皆が自分の分を取り置いてくれている信頼はあれど、不法侵入ポンチでそれが台無しになる可能性もあるなら早めに保護するべきだし
……
。
「うーーー
……
よし!」
一頻り迷った末、ヒナイチは拳を握って気合いを入れ、頭上へ向かって腕を伸ばした。普段より勢いを殺して床板を押し上げ、頭をひょこっと出す。
だってほら、今持ってるクッキー缶は借り物だし、なら早めに返さないと悪いじゃないか。ロナルドはともかく、ドラルクは起きている可能性が十分にある。彼が何らかの理由で「もしここにヒナイチ君に渡した缶があればなぁ」と困っていたら助けなくては。
……
この缶が必要な理由は、ちょっと思いつかないけど、きっと要る筈だ。
己を納得させるための建前を得たヒナイチは、軽やかにジャンプして事務所の中へ乗り込んだ。その動き、吸対の制服を来ていなければ盗人や忍者、スパイと見紛うものである。
外から見た印象通り、部屋は照明が落とされ静かなものだった。窓から差す月明かりを頼りに様子を確認したが、二人と一匹は不在。門番役のメビヤツはロナルドの帽子を被って目を閉じてスリープモードに入っているし、依頼人を出迎える扉も内側から鍵がかかっている。やはり、今晩の営業は終了したらしい。
状況を確認したヒナイチは、続いて忍び足でリビング側のドアへ近づく。ドアノブへ手を掛けたまま、開ける前に聞き耳を立ててみる。
特に何も
……
いや?
がた、と何かが揺れる音がした。硬いものが床に落ちて僅かに跳ね返ったような、丈夫な箱の蓋が持ち上がろうとしたような、無機質で乾いた音だ。聞き間違いかと思った直後に、かた、かた、と今度は続けて数回鳴る。
話し声こそ聞こえないが、誰かがいるのは確かだった。事務所の皆か、はたまた侵入者か。いずれにしろ、現在の彼女に引き返す選択肢は存在しない。
がちゃり、とノブを捻る。鍵はかかっていない。それで、彼女はいつも通りにドアを開けたのである。
……
この行動が、晴天の霹靂となることも知らず。
「邪魔するぞ、ドラルク、ロナル
――
」
「あっつ
……
俺ちょっと水飲んで
――
」
事務所側と打って変わって、リビングは照明で明るく、その落差に目が慣れる必要があった彼女は状況を把握するのに一瞬遅れた。
後ろ手にドアが閉まる音と、棺桶の蓋が持ち上がって床に落下する音が重なる。
「ど、」
「へ、」
ヒナイチの緑色の瞳が捉えた視覚情報を彼女が理解するまで、たっぷり一秒かかった。じわじわと青い目を見開く相手も、同じだけの時間を要したことだろう。
玄関から四、五歩先の定位置に、吸血鬼ドラルクの棺桶は置かれている。その蓋はたった今開き、中から一人の男が起き上がったところだった。ここまではいい。
問題が二つ存在する。姿を見せたのが棺の持ち主である吸血鬼ドラルクではなく、そのコンビである人間、退治人ロナルドであること。
そして、ロナルドが辛うじてトランクス一枚履いている以外、何も身に纏っていないことだ。
ロナルドには、出来心で棺桶の中に入った前科があると聞いている。この町で退治人の服が脱げることなど些細な日常の一コマだ。どちらか片方であればまたポンチに当てられたのかと呆れ諌めていたに違いない。
しかし、一つずつ出された範囲では十分に対処できる筈の要素が二つ合わさることによって、ヒナイチを混乱の渦へ追い落とそうとする。最近ドラルクたちと共に観た映画の数々がシーンを継ぎ接ぎにして頭の中を駆け抜けていき、気の利いた答えを何も残さずに彼女を置き去りにする。
だが、この状況に更なる混沌が追加されるとは次の瞬間までヒナイチは思いもしなかった。
「
……
な」
何をしているんだ、と至極真っ当な疑問を叫ぼうとした直前、ヒナイチより先に割って入る声。
「せめてもう一枚着ろロナ造、誰か来たらどうす、」
ロナルドの足下、棺桶の中で灰色の塵が波打って吸血鬼ドラルクが姿を顕した。上半身にシャツこそ羽織っているが、ボタンを全開にして彼の特徴たる首のジャボも外され、あばら骨が浮き上がる痩躯が剥き出しになった状態で。
誰もが意図しなかったドッキリに見舞われて言葉を失い、硬直する空気。
ヒナイチが入室して五秒後、それは決壊する。
「ちーーーーーーーーーーん‼」
「アビャウォエナビャーーー‼」
「イャアギャーーーーーーー‼」
その場に立ち尽くしたヒナイチが絶叫し。
胸を両腕で隠したロナルドが奇声を発し。
ドラルクが悲鳴を上げながら塵と化した。
「お、お前たち、い、いいい一体、なんっ、何を」
顔を真っ赤にし、バグった機械のように全身を震わせているヒナイチを前に、慌てた様子のロナルドが棺桶から足を一歩踏み出そうとする。
「ちがっ、違うぞヒナイチ、何を想像してるか知らないが誤解だ、俺たちはただ」
が、手を先に再生させたドラルクが彼の足首を掴んだ。
「服を着るのが先だアホ! パンツ一丁で女子に迫る気か万年童貞裸族ルド!」
「ああ゛⁈」
足下からの罵倒を受け、ロナルドが足を戻して塵の山を踏み潰す。
「テメェだって同じようなもんじゃねーか! 砂で隠そうたってそうはいかねぇぞ下半身丸出しおじさん」
「ファーー貴様が着替える前に蓋を開けたんだろうが! こんのバカ造、次は起き上がれなくなるぐらいクッタクタにしてやろうか⁈」
「はっ、できるもんならやってみろよ雑魚砂ぁ!」
二人の間だけでヒートアップしていく口喧嘩に、ぷつん、とヒナイチの中で何かが切れた。
「
――
お前たち」
「「あ」」
上半身のみ再生し退治人へ掴みかかろうとするドラルクと、その脳天に拳を振り下ろそうとしたロナルドが同時に、玄関に立つ彼女の方へ振り返る。ぽかんとした顔の男二人と視線がかち合った瞬間、ヒナイチは心の底から声を張り上げた。
「ちん‼ ケンカする前に服を着ろ‼ ちんー‼」
これ以上見ていられず、彼女は身を翻して事務所の窓へダッシュする。最後の理性でガラス窓を素早く手で開け、背後から聞こえる制止の声を振り切り、軽やかに外へ跳躍した。
ビルから降下する彼女を慰めるように夜気が肌を撫でる。その晩、ヒナイチ副隊長は久しぶりに自宅
――
寮のベッドでふて寝したのだった。
(サンプルここまで)
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