全てを燃やし尽くす炎が、宙へ広がっていく。惑星ルビコンを包んでもなお、その勢いは止まない。宙の端を渇望するかのように、何処までも“終わり”を届けるように、相反する罪業と清算とがせめぎ合う。それらはいずれも融け合って、留まることなど知る由もないのだろう。
炎はあらゆるものを平等に懐へ招き入れ、たかが一機のACは無情にも呑まれていくしかなかった。計器の類はけたたましく叫ぶが、避けようのない定めの前ではいずれも壊れ果て黙りこくる。身体を灼く熱に、呻くことさえ苦しい。
視界はとうに壊れ、残る聴覚はノイズが混じりCOMの音声も途切れかけている。熱も痛みも身体を駆け巡り騒ぎ立てているが、しかし不思議と、この状況を他人事のように眺めていた。
暗闇の中、ただ死を待ち身を委ねるけれど、思っていたより待たされるようだ。仕事が終わり、次の依頼が届くまで待機している時のような、そんな束の間を思い出す。なんとはなしに、いつもの調子で新着メッセージの有無を確認しようとCOMへ問いかけるが、返事すらなくノイズが酷い。
――嗚呼、そうか。仕事は全て“終わった”のだ。
いつも隣に居てくれたあの二人は、もう居ない。
孤独を自覚した途端、暗闇が、熱が、痛みが、恐怖となって襲いかかる。火を点けたのは己だというのに、後悔は無いはずなのに……何故、心というものは先に燃え尽きてはくれないのだろうか。
だが、こんなものではまだ生温い。エアの意志、ウォルターの背負うものに比べれば、恐怖など軽いものだ。いつだって死線を潜り抜けてきたのだから、これくらい容易くあしらえずしてどうするというのか。
それでも、当たり前の日常への切望は未だ燃え残り、燻り続けている。宙に舞う灰と化したあの日々へ想いを馳せても、掴むことさえ叶わない。それは身を灼く炎よりも自身を苛み、苦痛を伴うものであった。
せめて泣くことができたのならと願うが、何より己自身がそれを許さず踏みとどまる。涙を流していたら、自ら選び取ったものが滲んで見えなくなってしまう。向き合うには、邪魔でしかない行為だ。
すでに感覚は遠のいて、再び死を待ち侘びるほかなかった。いよいよ、その瞬間を迎える時が来た――しかし鮮明に走る音が、暗闇に届く。
『……解除条……をクリア』
『ハンド……ウォルターからのメッ……ジを再生……す』
ノイズは相変わらずだが、COMはいつも通りこなしてくれた。そのメッセージは確かに再生され、かろうじて残る聴覚にウォルターの声が響く。
暗闇に輝く星を懸命に探し見つめるように、ただただその声に聞き入る。あれほど自身を苛ませていた苦痛と恐怖は何事も無かったかのように掻き消え、メッセージを聞き届けると、後には穏やかな気持ちが自身を包む。
最後の“報酬”は今、この身に受け取った。……そうだ、仕事はまだひとつ残っている。死を待っている場合ではないのだ。
この“火種”を、炎へ還さなければならない――自らの手で葬らなければ。それが、後始末というやつだ。
しかし贅沢な“報酬”に対して、この仕事は分不相応に感じる。何か他にできることはないかと考えを巡らせるが、時間はすぐそこまで迫っていた。死というものは散々待たせておいて今更、こちらの都合を考える気はなさそうだ。ブリーフィングの暇さえ与えてくれないらしい。
貴方なら、こういう時なんと言うだろうか。
君は、どう思うだろうか。
世界が無音で満ちていく中、ひとり揺蕩い、手をひらく。そして握り締めていた切望を捧げ、最期にひとつ願いを灯す。
どうかこの炎が眠りを妨げることなく、二人が安らかでありますように。
――さあ、仕事の時間だ。
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