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花筵シヂマ
2025-01-15 11:53:46
7598文字
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旺惑3
四十路父×十代前半の水(ショタ)の背徳的な話
年齢操作×転生父水
父はずっと前世から水を待っていた
親愛から恋愛に変わる話
1
2
幽霊との夏休みは楽しかった。
池で釣りをしたり、誰もいないので気にせず打ち上げ花火をした。朝顔の観察も順調で、宿題もそこそこ順調に終えた。
「学校が始まれば修学旅行に行くんだけど、約束忘れてないだろうな?」
寝転がって本を読みながら訊ねれば、幽霊は台所から白玉団子と果物が乗った甘味を運んできてくれた。
「覚えておるよ。お主らは新幹線で行くのであろう?どれ、どこらへんに行くんじゃ」
ランドセルの中から出した冊子を見せれば、幽霊は静かにスケジュールを確認している。幽霊は空を飛べるので、新幹線に乗らなくていいのだろう。だがその場合、京都まで歩いていくのだろうか。
「なるほど、八坂にも行くのじゃな。この班行動というのが自由時間のようなものかの?」
「そうだけど。俺は参加したくない」
クラスメイトの誰とも親しくないので、無理矢理に入れられたグループだ。特に何にも関心も無いし、できれば修学旅行だって行きたくない。幽霊がいなければいかないところだ。
「なら影武者でも立ててずっと儂といるか?」
大きな掌で頭を撫でてそう言われると、甘い選択だと思いつつも水木は素直に頷いてしまった。
「そんなことできるのか?」
「簡単じゃ」
「ならそうしてくれ。京都駅に着いたら、お前と遊びたい」
水木は生来、我儘など言わない子供だった。
だがこの幽霊の前だと自分は子供でいられるような気がして、なんでも高慢な我儘を言ってしまう。それを全て構わないと幽霊が許してくれるから余計に、益々と鼻につく言葉を連ねてしまう。
幽霊のあたたかな眼差しを、困惑に歪めたくなり、水木はまた我儘を言う。
「キスしてよ」
幽霊は目を丸めて、そっと唇を重ねる。体温が低い幽霊の唇は、羽根のように軽い。
狼狽すらしない幽霊に反して水木の胸はゴム鞠のように跳ね上がる。
水木は接吻を知らないが、父とあの担任がしていた接吻はもっと濃厚なもののように思う。だがそれを、幽霊に望むのははしたない気がして言えない。
「楽しみじゃのう。どこに行こうかのう」
水木よりも楽しそうな幽霊を見ていると、水木も少しばかりは修学旅行が楽しみになった。
夏休み明けの教室は日焼けしたクラスメイトがどこへ出かけたのかの自慢大会になっていた。水木にも誰にも言えない夏休みの記憶があるが、自慢などしない。水木と幽霊しかしらない秘密なのだ。
その秘密は教室の中で孤独に過ごす水木をほんの少し、優越感に浸らせた。
無論、自宅にも時折帰宅していたので、父に不在を悟られることはなかった。
なんでも上手く行っている、そう思っていた。
「水木くん、ちょっと」
帰宅して幽霊の家に行こうとランドセルを背負っていると、担任に呼び止められた。相変わらず顔に似合わない、桃色の口紅が目につく。
父と交わっていたおんなの顔を思い出したくなくて顔を背けた。
「あのね、アンザイさんから聞いたんだけど
……
空き家に出入りしているっていうのは本当なの?」
身を屈めて甘ったるい声でそう聞かれた。
大事な秘密を無粋に手で搔き混ぜられている不快感が胸を襲う。
「誰か大人の人と居たって言うけど、本当かしら?その人は誰なの?」
心配なのよ
———
と呟くおんなの声がいやらしく聞こえてしまい、水木は口元を覆ってしまった。その場に膝をついてしまい、せき込みだした水木に担任が狼狽する。
「どうしたの、水木くん!」
背中に触れられそうになり、おぞましさに手で叩き落としてしまった。
呼吸がまともにできず、ひぃ、ひぃと浅く呼吸を繰り返す。血の気が引いていき視界が徐々に砂嵐になっていく。
———
水木
ここにいるはずもない、声がした。
しかし背中に感じる体温は、あの屋敷で感じるものと同じだ。
「貴方誰なんですかッ!無断で校内に立ち入るのは
……
!」
頭上で担任の姦しい叫びが響くが、幽霊は水木しか見えていないように水木を抱き上げた。
「大事ないか。帰ろう、水木」
ランドセルを持って踵を返す幽霊の肩を担任が触れようとしたが、手を担任の眼前にかざしたかと思うと、担任の攻撃的な眼差しが突然に据わった。
「儂は親戚のものじゃ。許可は出ておろう?」
そう言えば担任は無表情で頷いた。じろじろと見ていた生徒たちもおしゃべりを止め、神聖なものを見るように黙してしまった。
「ゆうれい、おまえ、なんで」
「お主の助けが聞こえた気がしたんじゃ」
嘘でも堪らないぐらい嬉しかった。眦から溢れる熱い水滴を隠せずに幽霊の胸に顔を押し付けて泣いた。幽霊の高下駄の音だけがカランカラン、と廊下に響いていた。
屋敷に戻ると敷布団に寝かされ、作ったんだとお粥を出された。何も追及してこない幽霊に、「学校に行きたくない」と口にしてしまった。
「うむしかし、卒業はせねばならんよ。人の世は難しい、学歴と言うのは大事じゃろう」
「ならもう人間を辞める」
「滅多なことを言うでない、寝て落ち着けば、そんな考えはしなくなる」
そんなことは嘘だ。寝て起きても担任はずっと教室にいるし、父は家に帰らない。人であることはそんなに大事なことなのだろうか。
膝を抱いて顔を埋める。
「なら消すか。あのおんなを」
迚も低い、低い声量だった。夜闇の中白い手が手招くような、薄気味悪ささえあるものだ。
「消す、だなんてお前」
何時ものように笑ってくれると思っていた、が、幽霊は妙に冷めた眸をしていた。
「本気か」
「お主が望むなら」
「い、いいよ。そんなことしなくて」
幽霊の手が頬に触れ、喉元を撫でた。その手つきがいつもと違っている。
「そうか
……
」
寂しそうな横顔をしてから幽霊は廊下の外に消えた。
この屋敷で過ごして長いが、水木はこの屋敷の中を探索したことはない。
幽霊は時折、廊下の外に消え、後追いしようとしたがいつの間にか廊下から消えているのを何度か見かけた。
そしてあの暗い表情をやや明るくして帰ってくるのだ。
頭から布団をかぶり、幽霊が寝た後にこの屋敷を調べてみようと決めた。
幽霊は水木が寝入ったのを確認すると眠る。
寝たふりをした水木は音を立てないように起き上がり、廊下の外に出た。もし見つかっても手洗いだと嘘をつこうと考えていた。
薄暗い廊下を照らすために、台所からあらかじめ見つけた懐中電灯で照らす。床板を軋ませないようそっと歩き、いくつか連なる部屋の襖を開けようと手を掛ける。しかし開かない。どれも内側から何かでぴっちりと貼り付けられているようだ。
「無駄足かな」
懐中電灯で周囲を照らし、廊下の奥にまだなおも部屋があることに気付いた。
そこだけは襖ではなくドアノブだ。あんな部屋、手洗いに行く時も見たことがない。
黒いその扉に手を掛けてノブを回すと驚くほど軽くてすぐに開いた。
あまりに軽いものだから勢いでバランスを崩し、部屋のなかへ倒れ込んでしまう。懐中電灯が床を転がり、青い光に照らされた室内を回転して照らしていく。
何の変哲もない和室だが、一つだけ仏壇が置いてあった。その仏壇の前には革張りのアルバムが置いてある。
水木は戸を締めるのも忘れて仏壇に近づき、アルバムを開いた。
「あっ」
白い髪の赤い片目のおとこが、よく似たこどもを抱っこしている。涙を浮かべて頬を擦り寄せる写真や、ビニールプールに入る子供が映っている。この屋敷で撮られたものだろう、居間の風景が同じ写真が何枚かある。どれも幽霊と同じ顔立ちでしかし、髪は茶色く目は黒い子どもがいる。これがもしや、幽霊の息子なのだろうか。
誰かがペンで走り書きしたシールが写真の横に張りつけられている。
「ゲゲ、ろうときたろう
……
」
どれもありきたりな家族写真なのに、胸が熱くなるほどに愛に満ちている。
水木には生れながらないものだ。
次々にページをめくっていくと、子供はやがて小学生になったのか、黒いランドセルを背負っている。そしてその傍らのおとこを見て息を飲んだ。
黒い髪、青い双眸、そして痛々しい左目を縦断する傷、欠けた左耳、傷こそ水木は持っていないが、見目は全く水木と瓜二つのおとこがはにかんで写真におさまっている。
「
………
みずき」
几帳面な字で、水木と、鬼太郎と書かれた場所を震える指でなぞる。
このおとこが水木と無関係とは思えなかった。
幽霊は水木を見た時から古くの知り合いのように名前を知っていた。
写真を見る限り、幽霊は老いておらず、顔も同じだ。ということは同一人物だろう。
それなのに、この「ゲゲ郎」という名前を水木には教えなかった。
「水木、何をしておる」
弾かれたようにアルバムを閉じた。焦って背中に隠したが時すでに遅し、戸口に立った幽霊が眠そうに目を擦っている。
「この部屋、何なんだよ」
「ああ、気づいてしもうたか」
何でもないように言い放ち、幽霊は仏壇の前に腰を下ろした。そして白い手を開き、水木の前に突き出した。
「そのアルバムをお返し。説明してやろう」
「本当に?」
「ああ」
おずおずとアルバムを渡せば、ありがとう、と言って頭を撫でられた。いつもなら堪らなく嬉しいのに、今はとても不愉快だった。
「この写真に写っておるのは、儂の人間の友人である水木という男じゃ。水木はもう何十年も昔に亡くなり、この世にはおらぬ。水木は人でありながら、儂と息子をこの家で世話してくれていた」
「俺とその人、何か関係があるのか?」
アルバムをめくりながら幽霊ははたと手を止めた。
俯いているせいで表情が読めない。覗き込めば、息ができなくなるほど強く抱きしめられた。
「お主は、死んだのじゃ
……
もう会えないと思うておったのじゃが、また会えた
……
儂は、儂はお主を守るためにここで生きてきたんじゃよ」
「お、おい」
「水木、どうか、今世では幸せになって欲しい」
涙で濡れた顔を拭いもせずにそう言われた。
一体、過去の自分はどういう生き方をしたのか全く思い出せないが、幽霊はなおも泣きながらもつらつらと言う。
「お主はのう、儂に名をつけてくれた。ゲゲ郎と。しかしそれは過去のお主がつけた名前じゃ、今世のお主にではない。じゃから引き続き幽霊でも構わぬ」
それではまるで、名を呼ぶなというようではないか。
水木は何も言えなくなった。
なぜなら、その過去の水木には、今の水木はどうあっても成り代われないからだ。
懐かしそうにアルバムを撫でるゲゲ郎に、水木は言葉を失った。
結局、幽霊は水木など見ていないのだ。
「わかった。もう、寝る」
それだけ言って重い脚を動かし、部屋に戻って布団を被った。溢れ出す涙を拭かずに無理に目を閉じる。そうしたらよく、眠れるような気がした。
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