花筵シヂマ
2025-01-15 11:53:04
7061文字
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旺惑2

四十路父×十代前半の水(ショタ)の背徳的な話
年齢操作×転生父水
父はずっと前世から水を待っていた
親愛から恋愛に変わる話



 屋敷に帰るときは出て来た時より慎重に有刺鉄線を越えて屋敷の戸を開けた。
 これからはここを出る時は誰にも見られないようにしなければいけない。
 深呼吸を繰り返し、幽霊の姿を探して屋敷の中に入る。
 外の世界でかいた汗がこの異空間の秋風で渇いていく。
 鞄を下ろして居間に入ると、テレビが点いたままだった。ここでのテレビは不思議なことに、外界と同じ番組がしている。
 何となく腰を下ろしてテレビ画面を見ているうち、昼下がりのくだらないワイドショーが流れた。
「さて、えー、先日の〇●中学校の教諭が生徒と不適切な関係にあったという報道ですが、双方に恋愛感情があったと教諭のほうは釈明しているそうですが、××さんどうですかね」
 アナウンサーがひな壇の芸人らしきおとこに投げなけている。水木は思わず、持っていた携帯電話でその事件について調べていた。
 ——不適切な関係。
 なんだか引っかかる。その場に寝転がり、ワイドショーの会話の応酬を聞き流しながら次第に水木の胸がざわついていく。不適切な関係というのは、つまり、恋人同士だということらしい。水木の父と教諭が恋人同士であるように、大人であれば許されるのだが、未成年が相手であれば大人は酷く咎められるそうだ。
 携帯電話の画面をスワイプする指が止まり、大きな気づきを得た。
 水木が幽霊に求めていたものはこれではないだろうか。
 もし、幽霊と水木が不適切な関係だと周囲に露見すれば幽霊は困るはずだ。
 幽霊に世間体というもんがあるのかは知らないが。
 それなら、幽霊と不適切な関係になり、幽霊を脅迫すれば水木を裏切ったり、一人にはしないんじゃないだろうか。
 我ながらいい考えだ。
「水木、帰ってきたのか?焼き飯はいるかのう?」
 台所から顔をだした幽霊に、「うん」とだけ答えて水木は携帯電話の画面を消した。

 昼食を終えると幽霊はそわそわとしながら、水木に甚平を持ってきた。
 水木はすっかりと失念していたのだが、今日が祭りの日だったらしい。律儀にも幽霊は甚平も下駄も用意してくれていたのだ。聞けば、幽霊の息子のものだという。
 誂えたようにぴったりと似合う甚平を着て下駄を履けば、幽霊は浮足立ったように早く行こうと急かしてきた。
「まだ夕方じゃないだろう?」
「もう夜じゃ」
 やはり、水木よりも子供だ。
 戸を開ければ、そこはあの有刺鉄線ではなかった。
 お囃子の音が聞こえ、そして盆踊りの音楽が重なる。人々の浮足立つ声が聞こえてくる。見渡せば薄暗いが何台か車が停車しているのが見て取れた。どうやら祭りの会場の駐車場らしき場所らしい。
「空間を繋いだんじゃ。何度も使えぬが今宵は特別じゃ」
 水木は歩き出す幽霊の後に続き、赤い提灯が連なる通りへ躍り出る。出店の赤々とした照明に目を細めながら、金魚すくいや綿あめ、焼きそば、そして飾られたお面を見た。
「どれが欲しい?なんでも買ってやるぞ」
 そう言って幽霊は水木になんでも買ってくれた。
 気づけば腕に食べ物を抱えて神社の近くの古い社の前に腰を下ろしていた。幽霊は興味が無いのか、射的の景品の吹き戻しで遊んでいる。
 露店が並ぶ参道とは違い、森に近いこの社は人気も無い。黙々と焼きそばを貪り、綿あめを口に入れる。ちらと幽霊を見れば、幽霊は森のなかへ視線を投げている。
「何かいるのか?」
 幽霊は気まずそうに、またしても目を逸らす。
 綿あめを食べながら水木は幽霊の視線の先へと歩き出した。慌てふためき、幽霊が水木の手を引いた。
「いかんいかん、行っては」
「なんだよ」
「むう、その……じゃからのう……
 目を白黒させていることから、先日の父とおんなの行為を思い出す。
 男女がそういう、ことをしているのだろう。
 ならば好都合だ。
 水木は綿あめの棒を舌でゆっくりと舐め上げながら、幽霊の袂を引いた。
「なぁ」
「む?」
「キスしてよ」
……えっ、そ、それはお主」
 あからさまに狼狽するおとこの喉元へ、ナイフのように棒を突き付ける。
「俺の味方だっていうなら裏切らない証拠が欲しい」
 困惑する幽霊は俯いてしまった。白く長い髪を何時ものように肩で束ねているせいで、表情が読めなくなる。
「してくれよ、大事だって、いうなら」
 くだらないことを言っている自覚はある。
 声が思わず震えてしまった。
 幽霊が腕を上げたかと思うと、水木を抱き上げ、社の階段に座らせた。段差のせいで幽霊と初めて同じ高さで目線が合う。
 幽霊の端正な顔が近づき、唇が触れてくる。優しい口づけだった。
……俺を裏切ったら、全部、世間に言うからな。俺と、キスしたって。そしたらお前は困るだろ」
 幽霊はいつものように、顔をくしゃりとして笑顔を浮かべる。
「構わぬよ。儂は、どうなってもいい。お主が幸せであればいいんじゃ」
 頭を撫でる手つきが何だかいつもと違う。黒い髪の間に指を潜め、誘われたみたいにもう一度口づけられた。
「もういいって」
 次第に羞恥心に耐えきれなくなり、幽霊の胸を叩いた。
「しろと言うたり、いらぬというたり、難しいのう」
 他人事みたいにいいながら、また吹き流しを吹いている。
 水木だけの心臓がまるで太鼓のように激しく打っている。
 おとこの顔色が少しも変わらないのが、何だか無性に腹立たしかった。