花筵シヂマ
2025-01-15 11:52:08
6004文字
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旺惑

四十路父×十代前半の水(ショタ)の背徳的な話
年齢操作×転生父水
父はずっと前世から水を待っていた
親愛から恋愛に変わる話



 夜のうちにあばら家に行って、あの幽霊に会えたが、昼間のうちはどうなのだろう。
 鉄柵で閉じられたあばら家の前で立ち止まった水木は、傘を畳んで昨日のように柵の隙間から身を滑りこませて侵入した。戸に手を掛けると、やはり開いた。足を踏み出した途端、秋めいた肌寒い空気を肌で感じる。
 目をきつくとじ、そして開けると頭上にはあのイチョウの木がある。
 尻に枯れた葉の感触がしてそっと立ち上がって幽霊を探した。
 木の前に佇む椿の垣根に囲われた日本家屋の前で、縹色の着流しのおとこが手を振っている。今日は長い髪を肩で束ねているので、幽霊は自在に髪を伸ばせるらしい。
「夢じゃ、なかったんだ」
 恐る恐る近づけば、幽霊は白い手で水木の顎をするりと撫でた。
「学校は楽しかったか?」
「う、うん、まぁ」
なぜ学校を知っているのだろう、と思ったが幽霊には子供がいると言っていたので幽霊の世界にも学校があるらしい。
「中に入って話を聞かせておくれ」
 導かれるように家の中に案内され、昨夜のように桃を出される。今日は硝子の器のなかに桃と白いソフトクリームが乗っている。水木は喉を鳴らし、それを口に入れた。
「ここで宿題してもいい?」
 家に帰って静寂に支配された空間で勉強するのは孤独だ。
 そう言えば、気にした様子もなく、幽霊はいいぞ、と返事した。
 ランドセルの中から教科書とノートを取り出すと、今日貰ったしおりが滑り落ちた。
「これは何じゃ?修学旅行?」
 まじまじと観察する幽霊に、水木は少し面倒くさそうに乱暴に返す。
「別に行きたくない、お金かかるし」
「ふむ、京都か。いいのう」
「幽霊のおじさんが行くならいってもいいかも」
 何となく口を衝いて出た言葉だった。無理なのは当然分かっている。
 肘をついて漢字を書きとりながら、ふう、とため息をついた。
「連絡するのが厭なんだ。父さんは僕が嫌いで、母さんはいない。自分の時間がある人に要求なんてできないし」
「随分と大人びておるなぁ。ならこうしよう」
 幽霊は水木の横でしおりを読んで嬉々として提案してきた。
「京都についたら儂と散歩せぬか?大丈夫、ばれぬよう、周囲には暗示をかける。それなら言ってもいいじゃろう?」
「そんなの、無理だって」
「無理ではない。儂の暗示は強力じゃ。ほれ、悪戯小僧どもは反省しておったじゃろう?」
 水木の背筋が冷たくなった。朝方見た同窓の異変はやはり、この幽霊のせいなのだ。
 だが不思議と悪い気はしない。
「じゃあ……いく」
「そうか、良かった。儂も楽しみじゃ」
「幽霊のおじさんは京都に行ったことあるの?」
「あるぞ。ざっと五十年くらいまえに」
「おじさん、おじいさんのほうが良かったかも」
「儂はまだまだ若いほうじゃ、ジジイなんぞ言わんでくれ」
 憤慨したように拗ねるおとこに、水木は急におもしろくなってきて腹を抱えて嗤った。
 その様子を驚いたように見ていた幽霊は、柔らかい笑みで見守ってくれている。
「水木は笑顔が一番じゃ。いつでもおいで。儂は待っておるよ」
 水木の頭を撫でる広い掌が温かくて、ずっとこうされたかったような気がした。