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つきのせ さぶろく
2025-01-11 00:46:44
906文字
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習作 2025/01/11
【境目卓SS.S】習作のS。直近の二人の雰囲気を書きました【ネタバレ無】
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頭上でカモメの声がした。コンクリートの低い壁に一枚挟まれて、僕ときみは海を目の前にしている。跳ね遊ぶきみの前髪がやけに気になって、白波よりもそれを見つめていた。気づいたきみがどうしたのかと尋ねてきたら、僕は曖昧に笑って海に視線をやるのだろう。その時が来るまではこの横顔を見ていたかった。
今日は白波が絶えないほど風が強い。小さな声ならきっとすぐにかき消されるだろうに、きみの声ははっきりと僕の耳に届いたのだ。
「砂浜まで降りようよ、ダーリン!」
その解顔は頭上の太陽よりも眩しい。短い金糸はいまだに強風に靡いている。身軽なきみはふいに僕の腕を掴んで、易々とコンクリートを越えていった。着地した砂はいくらか柔らかくてすぐに崩れてしまった。海水の味を知らないそれは白くて、表面は不定形でいつでも足先を飲み込もうとしてくる。いまだに水は少しだけ怖い。これは幾らかの語弊を含んでいるが、液体が苦手なのは今も昔も変わらないらしい。
きみは嬉しそうに砂浜の中腹まで駆けて行く。もちろん僕の腕は引っ張ったままだ。そして、行き場を失ってしまった漂流物の前で立ち止まって、大きな流木が動物のツノみたいだとか、明らかな人工物に記された言語に首を傾げたりだとか、楽しそうに世界に触れている。足元の砂には、太陽の光が砕かれて混ざっているようだ。少々の荒波にさえ目を瞑れば、ここはダイヤモンドのかけらが混ざった美しい場所なのだと思えた。しかしいつの間にか迫っていた寄せ波が二人の踵を舐めた時、はっと僕は空想という宇宙から地上に叩き落とされる。
「靴、濡れちゃうね」
小さな子供の歩行練習でもするように、今度は両手をゆっくりと弾かれた。足は波から逃れて、ダイヤモンドの砂に足跡をつけて行く。大丈夫だよときみが笑って、風にあおられたシャツの襟が頬を掠めた。
そうだった、今は雨でも曇りでもない。僕らはよく晴れた海岸にいる。
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