雪華
2024-07-31 20:38:39
10373文字
Public オルサイ
 

【オルサイ】共に生きるということ【オメガバース】

すいとんさんお誕生日おめでとうございます!お祝いをしようと思い、大昔にリクもらってた『契り』のその後を書きました。時間軸的には『契り』→これ→『あなたとつなぐ』です。
※オルサイ小説同人誌『契り』のネタバレを含みます。オメガバース設定です。


四日間の休日は瞬く間に過ぎ去り、オルベリク達は再び日常へ戻った。休暇はどうだった、とからかう素振りを隠しもしないエアハルトを適当にいなし、日々の仕事をこなす。その内に、気付けばサイラスとの小旅行から半月が経とうとしていた。
今日はサイラスの方が帰宅が早いと言っていた。夕暮れ時に帰宅すると、室内のランプには既に明かりが灯っていて、台所から香ばしい匂いが漂ってきた。

「ただいま」
「おかえり、オルベリク! ちょうど夕飯の支度ができたところだよ、先に着替えておいで」
「ああ……

サイラスは元々仕事一辺倒で生きてきたらしく、特に料理に関しては、結婚してから身に着けたと言っても過言ではない。食事はオルベリクが用意したり、外に食べに行くことが大半だが、たまにサイラスも包丁を握る。大きな失敗はしないが、本人が食べて微妙な顔をしていることはままある。機嫌が良さそうなところを見るに、今日は上手くできたようだ。
勧められるまま、一旦部屋に向かって剣や篭手を外して軽装になる。ダイニングに戻ると、テーブルの上には既に料理が並べられていた。野菜を切っただけの簡単なサラダにバゲット、それから――とろりと溶けたチーズが乗ったラザニア。それも、自分がもう一度食べたいと切望したものによく似ていた。衝撃に立ち尽くすオルベリクの表情を窺うように、サイラスは僅かに首を傾げた。

「どうかな、味見はしたから不味くはないと思うが……
……驚いた、あの時のラザニアにそっくりだ……。どうやって作ったんだ?」
「実は店の女将さんに、レシピを送ってくれないかと頼んでおいたんだ。すると大女将さんが絵も添えて便りを送ってくれてね、早速作ってみたのだよ。お陰で見た目はそれらしくなったが、味の再現ができているかどうかはあなたの舌で確かめてくれ」
「いつの間にそんなことを……。作るのも随分手間がかかっただろうに」
「まあね。半日仕事だったよ」

サイラスは軽く笑って、二つの小皿それぞれにラザニアを取り分ける。オルベリクが何気なく食べたかったとこぼしたことを覚えてくれていて、得意でもない料理を態々時間をかけて用意してくれた。その事実だけでも既に、震えそうなほどの喜びが湧き上がってきていた。
座ってフォークを持つと、サイラスもその仕草を真似るように食器を取る。まだ湯気のたつそれに縦にフォークを入れ、ゆっくりと口に運んだ。酸味のあるミートソースとまろやかなホワイトソース、そして独特の風味のある羊肉が合わさり、不思議な調和が生まれている。じんわりと胃が温まると同時に、かつての感動が蘇った。

……ああ、この味だ。美味い」
「良かった……。うん、羊肉を使ったレシピは珍しいと思ったが、これはなかなか合うね。工程は多かったが、その価値がある味だ」

オルベリクの言葉にサイラスは頬を緩め、嬉しそうにラザニアを口に含む。思い出の味をサイラスにも共有したいと思っていたが、まさか彼自身が用意してくれるとは予想外だった。
――思えばあの時、サイラスが愛用の手帳を忘れるとは妙だと感じていたのだ。オルベリクと離れたあの一瞬で女将と話をつけたのだろう。自宅に届く郵便物の殆どがサイラス宛であるため、管理を一任していたのも、オルベリクが気付かなかった要因だ。

「ありがとう、サイラス。……仕事も忙しいだろうに、気を遣わせてしまったな」
「そんなことはないよ。確かにあなたに喜んでもらいたいと思ったのが発端だったが、実をいうと私もどんな味か興味があったんだ。それに、あなたが苦楽を共にした友人達と食べた料理を、私にも口にしてほしいと言ってくれたことが……とても嬉しかった」

サイラスは噛み締めるようにそう呟き、優しい眼でオルベリクを見つめる。
結局、二人は同じ気持ちなのだ。オルベリクが思い入れのある料理をサイラスに食べてもらいたかったこと、サイラスがそれをもう一度オルベリクに味わわせてやりたいと思ったこと。出会ってからの月日はそう長くはないが、互いの間には確かな愛情がある。

……美味しいね」
「ああ。あの時も絶品だと思ったが、今日はまた格別だ。……お前と一緒に食べることができて嬉しい。本当にありがとう」
「こちらこそ、一緒に食べてくれてありがとう。私にとっても特別な料理になったよ」
「そうだな、新しい思い出ができた」

互いの過去に寄り添いながら、新しく積み重ねていくこと。それが共に生きるということなのだろう。サイラスとならこの先もずっと、胸の中の灯火を絶やさずに一緒にいられるという確信があった。胸中で誓いを新たにし、輝石のような瞳を見つめ返す。すると彼はゆっくりと瞬きをして、穏やかな笑みを浮かべた。
――次はサイラスの思い出の料理を聞いてみようか。また彼の故郷に足を運んで、昔話をねだってみるのも良い。サイラスと暮らす日々は平穏で、時々刺激的で、あたたかくて愛おしい。幸せだとこぼせば、同じ言葉が返ってくる。こんな毎日が遥か未来まで続くことを願いながら、和やかな時間を過ごした。




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