urifuji
2021-09-12 21:02:01
17147文字
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普通を常識と思うなかれ(陰11話以降)

陰メンバーの日常。們天丸と鈴菜(女主)がおこす騒動と巻き込まれる仲間たち

「鈴菜、少しよいか」

 降霊の儀が失敗し、桔梗の父親である安倍晴明から忠告を受けてから既に10日以上。村の警護は勿論の事、鬼道衆幹部や仲間達もそれぞれ警戒を怠たることなく日々を過ごしていたこの日、朝礼が済んだ後大広間から出ようとする鈴菜を嵐王が呼び止めた。
 一緒に村を見回る予定だった龍斗も振り向いたが、鈴菜と目があったあとは軽く手を上げ背を向ける。大広間から出ていく龍斗を見送ってから鈴菜は嵐王に向き合った。

「はい。どうしましたか嵐王ちゃん?」
……お主、その呼び名だけはやめよと再三言っておるだろう」
 
 彼女特有の名称を伝えた途端怒気を顕にする嵐王に対し、鈴菜は能天気ともいえる程きょとんとした顔を浮かべた。不思議そうに軽く首を傾げている。

「だって嵐王ちゃんは嵐王ちゃんですもん。あ、それとも嵐ちゃんの方がいいですか?実はどちらがいいのか凄く悩んだんですよね」
「もん言うな。儂にはその二つの違いがさっぱり分からぬし、そもそもちゃん呼びをやめよと言っておるのだ」

 人は親しくなると愛称に変化していく事がありそれは双子も例外ではない。龍斗は基本的に名前呼びなので問題はないが鈴菜はどんな人物・性別であっても年下なら基本的にちゃん付けで呼ぶ。大事な事なので二回言うが、どんな人物・性別であっても彼女はちゃん付けで呼ぶのだ。
 無口の弥勒、孤高な霜葉、筋肉隆々の火邑や泰山も無論例外ではない。その面子でも平然に呼び、周りの驚愕の視線も気にしない彼女は大概どこかズレている。彼女の言葉を聞いた当初は馬鹿にされたと立腹し攻撃していた火邑も、鈴菜の「私は誰にでもちゃん付けしていますよ?」という言い分と彼女の他者の愛称を聞いてから「それならしょうがねェ」と納得している為この押し問答と続けているのは現在嵐王だけだった。
 何故皆受け入れる。何故その理由で納得する。
 不可解極まりない嵐王は今日も今日とて諦めず、鈴菜を説得していた。

「そうですか?とっても似合ってて可愛いのに……
「男に可愛さを求めてどうするのだっ。……まあ、この話をすると堂々巡りになるのでそれは追々するとしよう。鈴菜、式神に姿を映してから調子はどうだ?」

 残念そうな彼女の調子に巻き込まれそうになる嵐王だが、大概双子に調子を崩されて終わる事の多い彼は顔を振って早めに本題を切り出した。
 最近嵐王の作った式神羅写で実態を得ることの出来た鈴菜は、元気そうに浮いている。
 しかし見た目が変わりないと状態がいいのが同じであるのかは本人しか分からない。他の式神も話は出来るが鈴菜ほど会話が明瞭にいかない為、嵐王は調子を聞きだし現在の問題点を明確にして次の改良に役立てたいと思っている。いいものを作り出す為寝る間を惜しんで改良を繰り返す彼は【鬼哭村の発明王】として村内で有名であり、その冠名は伊達じゃない。

「絶好調ですっ!と、言いたいですが……。やっぱり前みたいにはいかないですね」
「ほう……?」

 楽しそうに話していた鈴菜だったが、その腕容の顔を一変し苦笑させた。彼女の予想外の言葉に嵐王は悩んでいるのか顎を緩々と触れている。仮面で表情は見えないが興味の引かれた様子の嵐王を見て、なんとか現状を伝えようと身振り手振りで訴えた。

「気が同調していないというのか安定していないというのか、調整が難しい感じなんですよね。弱く攻撃しようと思っても全力で出てしまう事もありますし、またその逆も……。一番困るのは出したいときに出せない事でしょうか。戦闘では少しの間違いも命取りになりますし」
「ふむ。他の式神では聞いた事もない現象だな」
「他の子達は装備した人が攻撃を受けた時だけとか対象者を守るために作られているので一瞬出現するだけじゃないですか。私は始終姿を出現しているので、もしかしたら式神羅写自体に負担がかかり不具合が起きやすいのかも

 他の式神も会話は出来るが人格を保持し人の身と同様に生活しているのは確かに鈴菜しかいない。彼女の推測があながち外れていない様に思えた嵐王は腕を組み考え始める。

「確かにそれはありえそうではある。して、どんな時に起きることが多いのだ?」
「う~ん、そうですね。なんていうのか……、言葉だと難しいので直接見た方が分かりやすいかもしれません。嵐王ちゃん、時間があるなら今から鬼岩窟に行きませんか?」
「嵐王ちゃんではないが今からか。儂は大丈夫だが二人だけで鬼岩窟に行くのもちと戦力的に不安は拭えぬ所ではあるな」
「それなら何人か腕試ししたい人を募って行きましょう!思い立ったら吉日です!私近くにいる人に声を掛けてきますね~」
「しかしそれにしてもまずは若に確認をっと、人の話を聞かず行ったか。そう言う所は本当に龍斗とよく似ておるわ全く」

 嵐王の話の終わらない中に鈴菜は飛び出していき、彼が振り向いた時にはすでに目の前には誰もいなかった。屋敷の外で楽しそうに仲間の誰かに声を掛けているのが聞こえた嵐王は仮面の奥でため息をつく。残念ながら今日も彼女に振り回される事が決定された瞬間であった。
 鬼道衆の頭脳であり真面目な彼は意外と苦労性な為、今日も今日とて双子に振り回されている。