urifuji
2021-04-08 22:57:52
7782文字
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亡者の献身

陽→陰前提の陰3話後の話。
男女双子主人公と御神槌の夜の過ごし方。





 そうして一仕事を終えたように満足して部屋に戻ると

「よう、お帰り」

 と予想外の声が返ってきた。

『あれ、たっちゃん起きてたの?』

 珍しく龍斗は起きていた。
 彼は夜型だが一度寝るとよっぽどのことがない限り起きることは無い。

「お前の気配が急に消えた感じがしたからな。まあ、きっと近くにいるとは思ったが」

 窓を開け月明かりで読んでいた書物をぱたんと閉じた龍斗は、目の前で最愛の姉を亡くしてから少し心配症になっている。鈴菜の存在を察知できなければ起きてしまうほどに。確かに龍斗の傍を長い間離れてしまうと、彼の氣で存在を維持している鈴菜の体は時間と共に氣が消耗し、最終的には枯渇し消滅してしまう危険性を考えてが故の事だろうけれど。

『起こしちゃってごめんね』

 彼の体から離れたのは半刻前。けれどきっと離れてすぐに気づいたのだろう龍斗に鈴菜は謝罪の言葉をかけた。

「いいさ、どうせ眠れなかったしな。気になったんだろ?」

 何が、とは言わない。

『分かる?』
「俺に隠し事が出来ると思うなよ。……お前も馬鹿だなあ」

 龍斗はそう言いながら優しく鈴菜の額を指で弾く。鈴菜はそれを受けたような仕草をして龍斗に反論した。

『それを止めないたっちゃんも大概でしょ』
……まあ、そうだな。あーあ、俺も同罪か」

 そう言ってふてくされた鈴菜に対し、龍斗は片方眉を上げ苦笑しながら天井を仰いだ。
 鈴菜の行動は全て龍斗に筒抜けだ。しかしそれを止めるのでもなく理解され好きなようにさせてくれる優しい弟に、彼女は感謝の気持ちを込めて頭を撫でた。
 龍斗は「何歳だと思ってんだか」と片眉を上げ不満を言っているが決して彼女の行動を咎めない。そんな龍斗をみて嬉しそうに笑い、横から抱き付く鈴菜を好きなようにさせつつ彼は告げる。

「言わなくていいのか?」

 何が、とは言わない。

『頭がおかしいと思われるのはたっちゃんだよ』
「そんな奴らじゃねえって事お前も知ってるだろ。……駄目か?」

 体を離し、鈴菜は龍斗の目を見て話した。真剣に話す彼の態度をみると、彼は鬼道衆の皆を信用しているんだろう。
 そうだね、皆優しい人達だ。……鬼と名乗るには優しすぎるぐらいに。

……駄目』

 だからこそ余計に。
 死者に引きずれやすい彼らをこれ以上の負荷をかけてはいけない。
 もう生きてはいないのだから。
 
 口の前に人差し指を立て告げる。一言に多くの意味を込めて。
 龍斗はその意味を正確に読み取ったうえで食い下がった。

「いずれバレるだろうよ、彼奴等の時のようにな。……それでもか?」
『そうなったらそうなった時だよ』

 それでも決して良いとは言わない。穏やかな口調のわりに頑固な面がある姉をみて、龍斗はは~っ、と大きなため息を吐いた。

「馬鹿馬鹿馬〜鹿、馬鹿鈴菜。チビで頑固な馬鹿鈴菜~」
『悪い口!』

 揶揄いながら非難する彼はきっと今の状況が口惜しいと思ってくれているのだろう。彼女の存在を感知できるのはたった一人だけなのだから。
 そんなふてくされている龍斗に鈴菜は希望に沿ってあげられなくてごめんねともう一度頭を撫でた。






「起きろっ‼龍斗‼」

 その声に鈴菜の精神は大きく揺さぶられ、慌てて龍斗の中から飛び出した。
 あれから少し話をしてから寝た龍斗はまだ布団の中で寝息をたてており、そんな龍斗の耳元で大声を出し起こそうとしている奥継。朝早く起きる彼はすでに着替え終えている。

「いい加減に起きろっ、テメエが寝てると俺まで飯を食いっぱぐれるだろうが‼なんでテメエはこんなに寝汚ねんだよっ‼」
『それは夜中起きていたからですよってまあ聞こえませんね』

 聞こえないと分かっていてもついつい話しかけてしまうのは人の性だ、仕方ないと鈴菜は思う。
 それに彼の氣はなんだか安心するような構いたくなるような不思議な氣で、こんな風に聞こえるはずのない声を出しちょっかいをかけてしまう。

「大体なんで夜中にでっけえ独り言出してんだよっ‼うるせえったらねえんだよ‼ふざけんなっ‼」
『え、あんなに大きなイビキを立てていながら聞こえていたんですか?すごいすごい!恐るべき聴力ですね』

 ふむふむ。
 彼はこんな小さな成りですが、身体能力の高さといい周りの察知能力と言い、思っていたよりもたっちゃんと同じで天才肌かもしれないですね。
 そう感心しながら彼らのやり取りを観察していると、次第に龍斗の眉間に皺が寄り体がももぞもぞ動き始めている。しかし目の前で少しずつ不穏になっていく様子に起こすのに必死な彼は気づいていない。
 そろそろ本気で危ないんだけどなあと感じた鈴菜は、彼の耳元で大きな声を出した。
 まあ、聞こえないけど。

『奥継くん、おっきーくん!たっちゃんはそんなんじゃ起きませんよー。もっと殺気を感じるぐらい乱暴に叩き起こさないと、もう少しでうっとおしがる彼から反撃が……

 あるかもしれないと言いかけた時には、「っ、うっ、るせえっなぁ‼」の言葉と共に布団が彼に向かって迫るように飛んでいった。
 文字通り飛んでいる。布団が。
 不意な出来事に一瞬判断が遅れた奥継君はすぐに体制を整えるが、迫りくる布団の下側から龍斗のしなやかな足が迫っているのに気づくのは足首に当たる直前。空気を切り裂くような鋭い足払いを掛けられ、バランスを崩しもろに背中から畳に強く打ち付けた彼は、痛がっている間に飛んできた布団が体全体を覆った。
 急激な暗闇に混乱し布団の下でばたつかせている奥継に対し、みぞおちがあるだろう場所を読み取った龍斗が容赦なく掌打を打った。ぐえぇとカエルの潰れるような声が聞こえて、ぱたりと足が沈む。
 勝負あり。

『勝者、龍斗!わ~っ』

 パーパッパパーッという軽快な音楽を歌いながら、鈴菜は龍斗の右手を掲げ宣言した。
 朗朗快活な鈴菜とは対照的に朝の弱い彼は不機嫌の最高潮であり、鈴菜の行動を容認しながらも「あ゛あ゛ぁっ……?」と半目で此方を睨む。
 う~ん、人相が悪い。

『朝ですよ、たっちゃん』
「昨日の夜遅かったんだよ、知ってんだろ。お蔭で何かを打っちまったかもしれねえじゃねえか。それともう少し寝させろ」
「てめえっ‼起こしてやったのにその言い草は何だっ‼」

 自身の姉に対し言った言葉は彼女の姿が見えない奥継にとって自分に向けて言われていると思ったのだろう。とてつもなく憤慨している。
 まあ、親切に起こしたのにお礼代わりの拳じゃ怒りたくもなるでしょうね。

「あ゛~…………ああ、何だ、奥継か。お前ならいいわ」
「ふ、ざ、け、る、なあっっ‼‼」

 目の前で奥継が真正面から飛び掛かり、龍斗が鬱陶しそうに彼の拳を流れる様に受け流す。また楽しそうな喧嘩が再開されたが、このままだと本格的に食事におくれるだろう。

『もう!朝ご飯に遅れて食べれなくなりますよ。いいんですか?』

 部屋の中で叫び声や衝突音、風を切る音が響き渡っていたが鈴菜の注意にやっと今ご飯の時間だと気づいたのだろう。戦闘態勢をすっと止めた龍斗は、未だに続けようとする奥継に向かって告げる。

「ああ、飯の時間か。おい奥継、飯だ。早く来ないとお前の分食うぞ」
「俺が起こしにきたんだよっ!何でそんなに偉そうなんだ!ったく、朝っぱらなんで俺がこんな目に合わねえといけねえんだ……

 彼の言い分に気が削がれた奥継は、ぶつぶつ文句を言いながら合い部屋を出て龍斗の後ろを歩く。鈴菜も同じ様に彼らについて行こうとしたが、廊下の外に白木蓮が咲いていたのを見て動きを止めた。
 何となしに見つめていると、急に強い風が吹き、一枚の花弁がひらひらと宙を舞った。ふわり、ふわりと左右に羽が落ちるように揺らぎ動いて、地上にそっと舞い降りる。

———天使の羽っていうのは、こんな風に綺麗なのかな……

 彼の話す聖書の一節でこんな場面があった気がする。彼の話はとても難しい。難しいが、それ故に時々こんな風に考え、想像した。

「鈴菜」

 振り返ると先に言っていたはずの龍斗が真っ直ぐこちらを見つめている。

『すぐ行くよ』

 そういって彼のもとにふわりと飛んだ。先程見ていた白木蓮の花のように。






 一同がそろった食事が済んだ後、奥継は弾ける様に山に行った。どうやら先程何もできなかったのが相当悔しかった様で「覚えておけよッ!」と龍斗に捨て台詞を残していったが、その当事者の龍斗は頭をボリボリ掻きながら言う。

「何がだ?」

 捨て台詞は本当に無駄だったようだった。合掌。
 鈴菜は宙にふわふわと浮いたまま、『今日はどうするの?』と尋ねる。龍斗は腕を組んでう〜ん、と唸った。

「どうすっかなあ〜。特に頼まれ事してるわけじゃねぇしな。まあ気分がてら那智滝に涼みにいくのも……
「おや、そこに居るのは龍斗さんですか?」

 不意に聞こえた声に会話は途切れ、龍斗は声の聞こえた方を向く。
 彼と同じ方向を向くと、屋敷の方に向かってくる御神槌の姿があった。表情はいつか見たときよりも穏やかに見えたた為、鈴菜は龍斗に気づかれないようこっそりと安堵の息を吐いた。

「おはようございます」

 にこやかに挨拶をする御神槌をみて龍斗は目線だけをこちらに寄せるが、彼女は静かに首を振った。頭を軽くかき混ぜ、一息ため息をついた龍斗は挨拶をしながらこちらの方に歩いてくる彼に片手をあげる。

「おう、御神槌。おはようさん。よく眠れたか」
「ありがとうございます。久しぶりによく寝れましたような気がします。なんだか今日はすごく調子がいいんですよ。龍斗さんは本日はどちらにいかれる予定ですか?」

 穏やかな笑みを携えて龍斗に用事を尋ねる彼は、たわいない会話を楽しそうに話すが決して鈴菜の方を向かなかった。
 彼は彼女が見えない、知らない。だから何も気づかない。
 でも、それでいい。それがいいのだ。
 横で龍斗と話している御神槌は穏やかに笑っており、昨日の出来事が嘘のよう。やっぱり夜間に魘されているよりも、明るい日の下で笑うほうが彼にはずっと似合っている。日陰にいるよりも、この村の人達は龍斗と共に日向に行くべきだ。
 鈴菜は彼らを穏やかに見つめた後、祈るように目を閉じた。

 知らなくてもいい
 気付かなくてもいい

———だからあなたは あなたのままで










「そういえば最近夜に妙な気配を感じるので、桔梗さんに相談しようかと思っているのですが……
『「え゛っ……!?」』
……どうしました?」
「い、いや、それは悪いものでもないと思うぞ。多分トカゲだ、でっかいトカゲ!気にするな!」
『ちょっと、たっちゃん‼』
「でっかいトカゲ……?それはそれで嫌なのですが……
『馬鹿っーーー‼』
「やべ」