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木蔦(キヅタ)
2021-04-25 17:27:22
5625文字
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まんばの愛を信じない長義くんの話【ちょぎくに】
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長義が顕現した時からまんばに何故か好かれていた。偽物云々と罵っても、手合わせで折る勢いでやってもそれは変わらなかった。
「本歌、好きだ!」
ついには白昼堂々告白してきた。
全然考えてることがわからない。Mか?と思った。
「ああ、そう」
軽く流した。
だけどそれだけでは終わらなかった。
まんばは事あるごとに告白してきた。どんなに冷たくしても、鼻で笑っても、茶化しても、何度も告白してきた。長義はどこか冷めた目で見ていた。
いつか諦めるだろ、そんな軽い気持ちで往なしていた。だけどいつまで経ってもまんばはやめない。
しかもまんばの行動は不思議だった。愛を告げるだけで、こちらの返答は求めてないようだった。
『付き合って欲しい』とか『俺のことどう思ってる?』とか『好いて欲しい』とか、長義に対しての要求は一切聞いたことがない。
「俺はお前のこと嫌いだけど」
わざとそんなことを言ってみた。
まんばは傷ついた様子もなく、「俺がただ単に好きなだけだからいいんだ」と嬉しそうに言う。よくわからない。
「俺の何が好きなんだ」
ため息混じりに言う。正直好かれるようなことをした覚えはない。
「全部だ、全部」
抽象的。
どうせ見た目が好きだとか、好きと言う気持ちが勘違いとかに違いないと思う。
ある日長義は厨当番で、食後に皿洗いをしなければならなかった。
ああ面倒くさい、とうんざりする。
そこにまんばが通りかかり、ピンと来る。
「なぁ、俺の代わりにこれをやってよ」
「片付けをか?」
「そう、俺のこと好きなんだよね?好きなら俺の頼み受けてくれるでしょ?」
きっと断るに決まってる。もしくはそんな非常識な事を頼んできた長義を好きじゃなくなるはず。
「いいぞ」
なんだか嬉しそうに了承する。
「え、なんで??」
想像してたのと違う。
それから長義は試しに何度か、とまんばが非番の日に当番を押し付けた。それでもまんばは嬉しそうだった。
「なんでそんなに嬉しそうなの?」
「本歌が俺を頼ってくれたことが嬉しい」
利用されてるって気づいてない。
「別にやりたくないから押し付けただけだよ」
「俺が勝手にそう思ってるだけだ」
「???」
利用されてるって思いたくないから、頼られてるって信じ込みたいってことか?と思う。
そんな風に思ったら、仕事する気なくなるだろうから、気休めにそう思いたいのだろう。
その辺りになるとまんばの告白はウザくなってくる。好きだとか言うが安っぽい。挨拶みたいな感覚。
軽々しい気持ちで言うなと思う。
まんばの告白をやめるには好かれなければいい。
長義はまんばをどうにか諦めさせる方法を考える。
酷いことや仕打ちはやったが効き目はなかった。利用するのもダメだった。
そうだ、ダメ男を演じて幻滅させよう。
長義は完璧な性格なので、ダメなところなどひとつもないが、まんばに嫌われるためにだらしない男を演じることにする。
「政府の対応ったらナイ。俺を誰だと思ってるんだ
…
!そんなことは別の誰かにやらせればよかったのに」
「主、うざ
…
。本当馬鹿だろ」
「猫殺しくんがそんなこと言い出して、はぁ?ってなったね俺は」
とりあえず悪口を言って性格悪いアピール。しかしまんばはうんうんと聞いてるだけ。
確認してみたら「本歌が俺に相談してくれた」という認識のようだった。違う。
恋びとを作ってみる。本当に作ると遺恨が残るといけないのでイマジナリー。
まんばに話す。
「そうか、よかったな!」
にこにこ。
本当にこいつ俺が好きなのか?と疑う。なんだかこれは恋愛的な好きではない気がしてきた。
恐らく長義の勘違いだろう。まんばは自分の元になった本歌を、人で言うと子どもが親を好きな感覚の好きと言うことだ。
じゃなければ恋びとが出来て妬かないなんてあるはずない。
もしかしたら親愛よりも崇拝のが近いかもしれない。盲目的な何かを感じる。
「いや、恋愛的な意味で本歌が好きだが?」
「は!?」
「今も好きだ。一番」
「でも俺に恋びとができて平気なの!?」
「本歌が幸せそうにしてると俺も嬉しいぞ?」
「????」
まんばの気持ちが全然わからない。
「例えば、夕食で本歌の好きなレンコンの煮物が出た時のちょっと嬉しそうな顔とか誉を取った時の清々しい表情とか、長谷部と口論してる時に上手く論理的にねじ伏せた時のドヤ顔とか、主に仕事振りを評価された時の嬉しいけどそれを表情に出さないように耐えてる顔とか、見ててとても嬉しくなる」
ちょっと一部おかしいのがあったが、それは置いておく。
レンコンが好きだなんて誰にも言ったことがないのに、何故知ってる。
「本歌が誰を好きでも構わない。本歌が幸福でありさえすれば」
全然気持ちがわからない。
まんばが好きだと言う言葉がつらくなってきた。前々からウザいとは思っていた。でも今はそれを聞くたびにざわざわして、時にはイラつく。
だから感情に任せ、長義はまんばに言った。
「お前のそれはもう聞きたくない!本当に俺のことを好きなわけじゃないのにデタラメなことを言うな!」
「それは
……
俺が邪魔ということか?」
「もう俺に話しかけるな!そばに来るな!」
「わかった」
まんばはそれ以来近づいて来なくなった。
もちろん一度も好きだと言われてない。
自分が望んだはずなのに、なんだかもやもや。
まんばが長義のそばに寄ってくることはない。普段は無表情なのに、長義の前では少し頬を緩め、長義が言葉をかけると嬉しそうにする。好きだと言って、こちらの返答も待たずに他の話題を振る。
なんだか調子が狂う。
いつもは部屋でひとりの時間を満喫するのだが、気になって縁側でお茶をする。誰かの気配がするたびにまんばでは?と振り向くが、別の刀。
まんばは今どこにいるのか、自分が近づくなと言ったのに来て欲しいと矛盾した気持ちになる。
自然とため息が出る。
気分転換に外へ出よう。
そう思ったのが間違いだった。
長義は自本丸のまんばが他の長義とデートしているのを目撃してしまう。
長義の特権だった笑顔を惜しみもなく晒し、楽しそうにカフェで話している。
その時長義はすべて気付いてしまった。
今までの自分の行動が何のためであったか。
まんばからの無償とも言える愛が信じられなかった。理解や共感ができないからずっと疑い続けていた。下心も利害もない、綺麗な心は信用できない。何か罠があるはずと考えていた。
気持ちが本当なのか、揺さぶりをかけた。利用されてるとか、大変な思いをすればきっと目が覚めると思った。
だけど健気にもまんばは長義を好きだと言い続けた。
本当に好かれているとわかると、好きな感情は勘違いだろうと疑った。軽い気持ちか、もしくは何かの感情を恋愛と取り違えてるに違いない。
そしてまんばが長義を好きじゃなくなって「ほらやっぱり」と言いたかった。
まんばはまっすぐで眩しい。そんな純粋な子が長義を好きだなんて信じられない。信じたくなかった。
でも気付くと後戻りできない所まで来ていた。
いつしか、まんばのことが好きになっていた。
まんばからの愛はぬるま湯に浸かるようで心地よい。
だけどまんばを好きになる自分は認めたくなかった。好きになってはいけないと思った。
長義はのめり込むのが怖かった。
本当の自分を知られるのが怖かった。まんばが好きなのは偶像の可能性がある。現実を知って「本歌にはがっかりだ」と幻滅されることに怯えていた。
まんばの気持ちが本当だとしても、気持ちは移り行くもの。永遠なんてない。心変わりして、長義が見向きもされなくなる恐怖に怯えていた。
のめり込んでどうしようもなく好きになってしまったのに、まんばの気持ちがすべて消えていなくなってしまうのが、怖かった。
その恐怖と不安を、まんばへの苛立ちだと勘違いし、八つ当たりした。
そして今、愚かな自分に気づいてしまった。
でももう遅い。
長義はカフェで話しているふたりを見つめる。
まんばの愛は一心にあの刀に向かうだろう。自分に向けてくれていたたくさんの気持ちが、今度はあの刀に向かうのだ。
愕然とした。
彼らはカフェから出ると分かれた。まんばはもう帰るようだったので先回りして待ち伏せした。
自分のことを一番だと言っていたのに、他の男に目移りするなんて許せなかった。
「あっ
…
本歌
…
!」
まんばが長義を見て驚く。少し動揺してる素振りがあるので、後ろめたいことがあるに違いない。
フツフツと湧き上がる怒りのままにダンっと近くの木に突き飛ばす。そのまま壁ドンならぬ木ドン。
「どこ行ってたんだ?」
「いや、ちょっと、買い物に
…
」
まんばの目が泳ぐ。いつも堂々として言いたいことはハッキリ言うのに、言い淀むなんて嘘ついてますと言ってるようなもの。わかりやすい。
「お前が何をしてたか知ってる。会っていた男は誰だ?」
嘘を見破られたまんばは気まずそうな顔をした後、話し始める。
「俺が無理矢理、時間取ってもらっただけで、あの本歌は怪しいやつでは
…
」
「お前の本歌は俺だろう!!」
急に声を張り上げたらまんばはびくっと肩を跳ねさせる。
同位体なので本歌は本歌なのだが、まんばが本歌と呼ぶことであの男の物になったかのような印象。
あとまんばが『無理矢理』話したと表現したことから、まんばは彼に気持ちがあると取れる。このまんば個体は押しが強い。嫌がってもぐいぐい来る。体験したからわかる。
今は彼に猛アタック中なのだ。
「お前が俺を一番と言ったのは嘘だったんだな
…
!」
「え!?」
「いやあの時は本当だったのかも知れない。でも心変わりしたんだろ!?今はあいつが好きなんだろ!」
そら見ろ、やはり変わらないものなどない。好きだ好きだと言ってたのに、数日でコロッと変わる。
だから嫌だったんだ、のめり込むのは。本気にならないと抑えていたのに。
こんなにも好きにさせてから、捨てるなんて許さない。
「軽々しく口にしたこと、後悔させてやる
…
!」
「違う!俺は今でもあんたのことが一番好きだ!」
今何をしようとしていたのか。乱暴な思考に陥りそうになった。まんばのその声で踏みとどまる。
「今でも変わらない。心変わりなんてしない。本歌のことが好きだ」
まんばが長義の手をぎゅっと握る。
「それは変わらない、これからもずっと」
永遠なんてないと知ってる。
だけど不変なものがほしかった。不毛だと知りつつも。
「信じて、いいのか」
変わらないものなどない。それはまんばだって、同じだ。いつかは心変わりする。
でも、
こんなにもその言葉を信じたい。
「いいぞ、俺は長義のことずっと好きな自信がある」
綺麗にまんばが微笑む。ああ、その顔が見たかった。
ぎゅっと抱き寄せる。
「すまない、もう、離してやれない
…
」
「?なんで謝るんだ?」
「お前が例え嫌がって俺から離れようとしても、無理矢理繋ぎ止める。お前の意志を聞いてやれない」
「俺から離れるなんてない。だから大丈夫だ。」
ああ、この自信満々な発言に恐怖してるのは自分だけだ。まんばは1mmも可能性を信じてない。無鉄砲というか考えなしというか。
でもそれは長義にとって好都合だ。
「約束だからな」
「ああ」
言質は取った。可哀想な写しだ。これからずっと俺のものだなんて。
そう思いながら長義はまんばを撫でた。
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