まんばは優秀な医師がいるというクリニックへ行った。第二性専門のクリニック。まんばには一生縁のないところ。
まんばはβだった。顕現してから今までずっとβとして過ごしていた。そしてこれからもずっとβとして生きるだろう。
「次の方」
診察に呼ばれ、まんばは中に入る。
「今日はどうしましたか?」
がしりとまんばは医師の手を握る。
「俺を、Ωにしてほしいんだ!!」
まんばには想いびとがいた。彼はαだった。何をしても優秀で、みんなからの人望も厚く、平々凡々なまんばの手の届かない存在だった。
Ωであれば彼の隣にいれたのに。そう何度も思った。
Ωは発情期にαを誘うフェロモンを出す。それで彼を誘惑して、番ってしまえば彼を自分の物にすることができるのだ。
そんなのずるい。Ωであるだけで、優位に立てる。βのまんばはその土俵にすら立てない。
Ωが羨ましい。Ωになりたい。まんばはそう思った。
「で?そんな理由でΩになりたいって??どうでもいいが、いい加減手を離せ」
「?なんだこの同位体」
すごく不機嫌そうな同位体が、医師の手を握ってたまんばの手をはたく。愛想が悪い。
「頼む
…!俺はどうしてもΩになりたいんだ
…!」
「そんなこと言われても
……」
医師は困ったようにしている。後ろで同位体が「無理だ無理。だから帰れ」と言っている。外野は引っ込んでろ。
「先生、お願いだ
……!」
「でもね、βだってαと恋人同士になれるわけだし
…」
「Ωが顕現したらそいつに奪われるんだろ
…!それにこの世には運命の番いってやつもいるはずだ、どう足掻いたって勝ち目はないじゃないか
……!」
「ほら、やってみないことには
…」
「やらなくてもわかる!俺なんて捨てられるに決まってる
……!」
医師はうーんと首を捻る。
「
…俺はΩになれないなら折れる」
「え!?」
「誰かと奴が番うところなんて見たら、生きてられない。そしてその日が来るのは遠くないはずだ」
本丸でまんばなんていてもいなくても同じだ。だからまんば一振りくらいいなくなっても困りはしない。
それならこの恋心を拗らせて折れた方が楽だ。
「わかった、そこまで言うなら
…」
医師がそう言った。
「性を変えるなんてリスクが高く難しい。だからちゃんと俺の言う通りにして。何を言われてもだよ。約束できる?」
「わかった、約束する。」
「まず、Ωのホルモン剤を打つね」
注射器を取り出されびくびく。でもΩになるためだからと頑張る。少しだけチクッとして終わる。
「次に、その人に告白しにいく」
「は!?なんで!?」
全然医学的なことと関係ない!とまんばは怒る。
「違うよ、今注射したホルモン剤を活性化させるために、ドキドキする環境を作らなきゃいけないんだ。特に性的欲求を伴う状況が効果的で、その論文も発表されている。もちろん空想や妄想でも良いんだけど、αがそばにいた方がそのフェロモンに影響を受けてΩ化しやすいからさ」
「な、なるほど
…??で、でも告白は
……」
「Ωになるために俺の言うことは聞くって約束したよね?ダメならΩ化は諦めるんだ」
「わ、わかった
…!行ってくる
……!」
まんばは会計を済ませ、本丸へ向かった。
診察室はしんっ
…と静まり返る。
「本歌」
「なにかな」
「詐欺で捕まるぞ」
「
……」
まんばは急いだ。ホルモン剤が溶けてなくなって、効果が薄れてしまうかもしれない。Ωになりたい、番いになりたい、その一心で走った。
「本歌
…!」
「?偽物くんか、何か用かな」
「え、あ、その
……」
呼び止めたは良いものの上手く言葉が出てこない。心臓はバクバク言っている。
このドキドキがΩになる大切な要素だ。
しかし告白する覚悟はできてなかった。
(本歌の前にいるだけでこんなにドキドキするんだから、これだけで十分じゃないか??)
心臓はこれ以上にないくらい速い。だいぶΩに近づいた気がする。
「な、何でもない!じゃ!」
「待て」
引き止められてまんばはギクリとする。
「何の話だったの?言いなよ」
半ブチギレ状態でまんばに言う。ひゃ、と悲鳴をあげたくなった。怒らせてしまった。
「いいいいや、別に大した話では
……!」
「大した話かどうかは俺が決める、お前なんかじゃない」
「オオクリカラサン」
ずんずん迫ってこられびくびく。壁際まで追い込まれる。
「もう一度聞く。話は何?」
折られる!
「お、Ωになりたくて!!αに告白したら、なれるって言われたから、しようと思ってた!!」
きょとんと長義はしてる。
「Ωに?」
「
……」
「なんでわざわざ?」
もうここまで言ってしまったら、告白したも当然だ。
これだけドキドキしたのだからΩになってるかもしれない。告白してしまおう。
「その、好き、だから
……」
「!」
やり遂げた。まんばはついにΩになった、やった、と思う。
「偽物く
……」
「ちょっと行ってくる」
「は?」
本丸を飛び出す。
向かった先は先程のクリニック。
「言う通りにした!Ωになってないか検査してくれ」
「えええ?」
医者は困り顔をしている。
「告白したの?」
「した!」
「それで反応は?付き合うことになった?」
「え?Ω以外はお断りじゃないのか?返事を聞かずに出てきてしまった」
はぁ、と医者がため息を吐いてる。それより検査検査!と急かすと注射針が出てきて、血を採られた。
「検査は時間がかかるから、また明日以降に来て」
「わかった!」
まんばは本丸へ帰る。
「どうしよう
…もし振られてたら
……検査結果なんてβのままに決まってるし、とりあえずドキドキが足らなかったことにして
……」
検査機に掛けて、頭を抱える。
ジジジ
……と結果が印字されていくのを聞きながら、汗ダラダラ。訴えられたらどうしよう。
「本歌」
まんばが呼ぶ。
「検査結果がΩなんだが?」
「は?」
まんばはβに近いΩだった。Ω性がなかなか目覚めず初発情期もまだだった。そのため自分はβだと勘違いしていた。
検査だって今回初めてした。だから誰しもまんばの正しい性を知らなかった。Ωを感知できるα以外は。
そしてその後まんばは検査結果を知り大喜びする。そして初発情期を迎えた後、見事長義と番いになった。
しかしこの後が大変だった。
まんばは喜びの余り「このクリニックへ行ったらΩになった」と触れ回った。元々Ωだったため、第二性が変化したわけではない。だから医学的処置は何もしていない。
しかし表面上はβからΩになったように見える。しかも院長自身もβからαになっている事実もあった。これはすごいとSNSで拡散され、この功績が世界に広がることになった。
院長は誤解だと否定するが、その噂だけが一人歩きし、このクリニックは有名になってしまったのだった。
ちょぎくにハピエン!お疲れ様でした!ありがとうございました!
どうでもいい設定
・本丸長義くんはまんばと付かず離れずだったんだけど、まんばの告白により誤解してます。まんばに好きなαがいるのでは?とか、ΩになのにΩになりたいとは?もしかして抱いてくれって意味なのか?未通なのを気にして??とか思ってます。
・β先生は自業自得。
・打ったのは栄養剤です。
・β先生は「βだからダメなんだ」と思い込んでるまんばに、何かの枠組みに縛られるんじゃなくて、自分の気持ちで勝負して欲しかった。例えまんばが振られたとしても、それは好かれないから仕方ない。第二性で生涯の人を選ぶのは違うって。
でも途中から、医者としてまずいことしたな
…と慌ててる。
→番外編①
https://privatter.me/page/675e818f48942
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