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木蔦(キヅタ)
2020-02-15 19:56:10
6148文字
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【サンプル】山姥切国広は月に七日間だけ女体化する【ちょぎくに】(ツイ民だけに先行公開)
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山姥切国広には秘密がある。
それは審神者以外、誰も知らない。誰にも告げず、秘密にしている。
最初にわかったのは、顕現して一か月も経たない頃だった。ある日どうにも体の調子がおかしく、気づくと体が変化していた。慌てふためき、審神者の執務室に駆け込んで口早に相談した。そして国広はそういう体質なのだと発覚した。
それ以来、国広には一か月おきにその現象が起きている。
山姥切国広は月に七日間だけ女体化する。
原因はわからない。バグや霊力の乱れかもしれないし、何かの影響を受けているのかもしれない。しかし審神者の判断により、政府には報告していない。そういった特徴のある刀は政府に押収される例があるらしく、それを危惧したため、報告は取り止めた。これは飽くまで噂だが、人体実験をされたり、研究材料にされると審神者が聞いたことがあるらしい。そこで彼は国広にこのことを隠すよう指示した。
この件は本丸の刀達にも秘密にしている。どこから漏れるかわからないこともあり、さらには敵を騙すにはまず味方から、とも言う。それにこれはあまり知られたい物でもない。他人からじろじろ見られることは嫌いだった。
だから国広は月に一回、女体化している間は山姥切国広としてでなく、別人としてこの本丸で過ごしていた。
「おや、後輩殿、来てたのか」
「はい、先ほど」
鶴丸に声を掛けられ、国広はそう返す。普段の言葉遣いの方が楽だが、女性なのに男言葉なんて変に思われ、そこから正体がバレかねない。だからこの姿の時は敬語を徹底していた。声は普段よりも高くなっているため、そこから国広を連想する者もいないだろう。ただ失敗だったのが、江雪だった。女体化した国広と初めて会話した際、何か言いたそうにしていた。
彼とは国広が打たれた直後に会ったことがある。あの頃は国広も未熟で、自我が保てなかったこともあり、記憶が曖昧だ。もし未熟度が現し身の外見年齢にも影響するならば、あの頃は幼子の姿だったのではないだろうか。そもそも打たれて間もないため、現し身が他の付喪神から見えていたかはわからない。もっと曖昧な存在だったかもしれない。幼子の姿だったと仮定した話だが、幼子は声が高いため女体化した時と似ている可能性が高い。その頃の国広を覚えているかわからないが、その場合江雪が小田原時代の国広を連想することはあり得る。幸いにも江雪は何も言ってこず、国広のことをただじっと見つめてくる。ただ何か心配そうに、たまに見守るように。
女体化した国広は審神者の後輩という事になっている。審神者として呪術面が未熟なので、月に一度この本丸に修行に来ているという体で滞在していた。審神者という生業の者は、一般的に刀剣男士に素顔を隠して過ごす。主従を結ぶうえで、立場が逆転するのを防ぐためらしい。励起させるほどの力があるとはいえ人間が神に敵うわけがない。過去に神隠しや刀剣達の反乱などの事件があったらしく、対策として時の政府は素顔と真名を隠すことを審神者に通達した。通達以降に発足した本丸の審神者は素顔を隠している。
それを逆手に取り、国広も審神者を装い、顔を隠して堂々と本丸で過ごしていた。
「まあ、退屈になったら、声掛けてくれれば相手になるからさ。手合せでも何でも」
鶴丸は国広の頭をポンポンと叩き、去って行く。
国広の推測だが、恐らく鶴丸は『後輩殿』の正体をわかっている。わかった上で黙っていて、さらに気遣いをくれる。そうでなければ、華奢な女性審神者に『手合わせ』などと言う言葉は出てこないだろう。
他にもそんな刀が何振りかいて、バレそうになった時さりげなくフォローしてくれたり、庇ってくれたりする。国広の存在を不思議に思っているだろうに詮索はして来ず、ましてや助けてくれるなんて、有り難い事だと国広は思っていた。
期間中はずっと狐の面で顔を隠している。これは審神者に貰ったものだ。祭りで買った面がたまたま有ったのでもらった。しかし人を化かす狐の面なんて、仲間達に自分を偽っている国広には良い皮肉だと思う。
女体化した国広は、女性の着物に着替え、審神者の部屋に向かっていた。途中、他の刀達とすれ違い、一ヶ月ぶりと言うこともあって声を掛けられる。適当に挨拶を交わし、目的へと向かった。
しかしそこには先客がいた。
「主、そちらは
……
?」
先客というのは山姥切長義
――
国広の本歌だった。不思議そうに国広のことを見ている。それはそうだ、長義は顕現後、女体化した国広に会ったことがない。これが初対面である。
「ああ、この子は俺の後輩。呪術の事を学びに毎月七日間だけ研修する約束になってるんだ。しばらくうちに滞在するからよろしくね」
審神者がすらすらと説明してくれる。
「そうなんだ、よろしく」
国広は返事の代わりにぺこりと頭を下げた。
審神者の部屋に長義がいたのは誤算だった。
長義は国広と関わりが深い。何かの拍子で正体がバレるかもしれない。しかも彼は他の刀と違って、国広の事を嫌っている。もしも正体を知られてしまったら、みんなの前で面を取られ、吊るし上げられることは目に見えていた。
「貴女は滞在中、どこのお部屋にいるのかな」
急に長義がそんなことを問いかけてきた。
国広は女体化したら、大半を審神者の部屋で過ごす。本来ならば自室に引きこもりたいが、客人が『山姥切国広』の部屋で過ごしていたら誰しもおかしいと思うだろう。それに客間なんてものもない。刀が増えすぎた所為で、今でこそ増築したが当時は部屋数が常にギリギリだった。そのため、国広は審神者の部屋に避難したのだ。それ以降は習慣で女体化すると審神者の部屋で過ごしている。それにこの姿の時に刀達と接するのも避けたいため、一日中部屋に篭っていることが多かった。それに対し、審神者は何も思っていないし、国広も正体を知っている審神者が側にいるのは安心だった。
「うーん、俺の部屋にいるなぁ」
「二人は恋仲なのか?」
「いや違うよ」
国広もフルフルと首を振る。審神者とそんな仲になるどころか、そういう対象に見たこともない。
「こんな男所帯の本丸に女性が一人で、鍵の付いた部屋も与えないなんて! それどころか、男である主と同室
……
!? 主、さすがにデリカシーがないんじゃないかな」
「え!? で、でも、ほら、後輩ちゃんは、その、ね!?」
審神者の言わんとしている事はわかる。女体化しても男同士だ。肉体的には男女と言えど、どうこうなるわけはない。それに例え審神者が変な気を起こしたとしても、女体化しているとはいえ、刀の付喪神がただの人間に負けはしないだろう。しかも審神者との付き合いは長いから、最早家族のような感覚だ。彼が危惧しているようなことは一切ない。
「いやでもね、うちに鍵の付いた部屋なんてないし
……
」
「女性への気遣いがなってないよ! 毎月来るなら彼女専用の鍵付きの部屋を作ってもいいじゃないかな」
「えーと、ほら客間もないから鍵をつけようにも
……
」
「ないなら作ればいいし、そもそも刀剣部屋ならあるだろう! 顔見知りとは言え男性とふたりきりの部屋はおかしいと思うよ!」
「いや、でも、ねえ?」
国広は既に自分の部屋がある。それなのに月に七日間過ごすだけの部屋を新たにもらうなど勿体ない。確かに女体化している間は出陣も内番もできないので大半を部屋で過ごすし、ひとりになりたいという気持ちもあるから個室は有り難いが、わざわざ写しである国広にそこまでの気遣いは必要ない。
国広は審神者に同意を示すため、コクコクと頷く。
「ほら、彼女も嫌がってるじゃないか!」
(ええー!? そっちに取る!?)
長義の解釈に審神者も国広も焦るが、長義はそのまま突き進んでいく。
「主、少し俺に任せてもらえないかな?」
「え!?」
「ちょっと失礼するよ」
「ええ!?」
長義は国広の手を取り、部屋を出て行く。国広は強引に引っ張られていくばかりだ。
(な、なんでこんなことに
……
! 主、助けてくれ!)
振り返るが、審神者は呆然としていて、助けてくれそうな様子はない。
(なんで止めてくれないんだー!!)
バレるかもしれない。その一点で国広は焦った。
「この部屋を使えばいいから」
そこは長義の隣の部屋だった。確かにそこは空き部屋だ。しかし他にもいくつか使ってない部屋はあるのに、何故ここに案内されたのかわからず国広は長義を見る。
「そのうち鍵を付けてあげるから。それまでは俺が隣の部屋で見張っててあげよう。誰か来れば気付くからね」
そこでようやくここが本丸の一番端にある角部屋だったということに気が付く。端であるため滅多に刀は通らないし、もし国広を訪ねてくる者がいたら、長義の部屋の前を通らなければならない。訪問者に長義が先に気付くはずだ。それでここに案内したのだろう。
しかしこんな部屋自分にはもったいない、とブンブンと首を振る。
「もしかして声が出せないのかな?」
声が出せないわけではない。だが声を出すことで正体がバレるという危惧があった。国広が打たれて間もない頃、彼は自分の傍にいた。江雪同様、声色で気づくかもしれない。だから正体がバレる不安要素を少しでも失くすため、国広は声を出さないよう努めた。
長義の問いに、こくり、と頷く。長義は勝手に病気か何かだと解釈したらしく、「そうか
……
」と呟いただけで、それ以上追及してこなかった。
しかしこの部屋で過ごすわけにはいかない。自分にはちゃんと部屋があるのだし、何より長義に見張られている感覚に緊張する。
「遠慮しなくていいよ」
嫌だという意を込めて、ブンブンと首を振る。
「うーん、困ったね」
お互い譲る気はない。じゃあこうしようと長義が言った。
「そんなに寂しいなら主の代わりに昼間は俺がここで一緒に過ごそう、夜になったら俺は隣に行くよ」
長義は国広が寂しいから審神者の元へ帰りたいと思っていると勘違いしたらしい。一人部屋は寂しいからここでは嫌だと主張していると思ったようだ。
それを聞いて国広は驚いた。
(昼間はここで!? じゃあ部屋にいる間は本歌と一緒なのか!? 本歌と過ごすなんて絶対嫌だ!)
そんなことしたら四六時中正体がバレるのではないかとヒヤヒヤし、気が休まらない。そもそもふたりで何を話すというのか。間が持たないし、沈黙も気まずい。
そうだ、出て行こう、別の空き部屋で過ごせばいい、と国広が思いつき、立ち上がる。
「ああ、お茶なら俺が淹れよう。客人は座っていて。確か小豆が今日のおやつにシフォンケーキを作ってたから、紅茶が良いね。少しここで待っていて」
(いやそうじゃない!!)
思い込んだら一直線、他の可能性など排除してしまうらしい長義は、先ほどの提案は決定だと思ったようだ。
国広は部屋の中に押し込められ、座布団に座らされた。机もどこからともなく長義が持ってきて、お茶を用意すべく出て行ってしまう。
(今のうちに出て行きたい。だけど、いなくなったらきっと探すよな
……
)
それもなんだか悪い気がして、大人しく部屋で待つ。しばらくするとふたり分のおやつを持った長義が戻ってきた。先程言っていたシフォンケーキの上に生クリームが乗っている。空のティカップが二つとティポットが一つ。ふんわりと紅茶の良い匂いがした。
その香りに、国広のお腹はぐうと音を立てる。
「そら、たんとお食べ」
シフォンケーキが乗った皿とフォークを国広の前に出し、長義はティカップに紅茶を注いだ。国広は長義とシフォンケーキを交互に見つめ、そして己の欲望に負けた。
現金だとわかっていつつも、甘いものを前にすると顔がニヤけてしまう。幸いなことにお面があるからニヤケ顔は見えてないはずだ。国広は手を合わせ、頂きますのジェスチャーをした。そしてフォークを手に取り、シフォンケーキを切り分ける。素顔が見えない程度に面を少しずらして、口に運んだ。
美味しい、頬が落ちそうだ。
「気に入ってくれたみたいだね」
こくこくと国広は何度も頷く。小豆の作ったお菓子は最高だ。
「甘い物は好き?」
こくりと頷く。長義はなんだか嬉しそうだ。そんな顔を見るのは久しぶりで、ドキドキしてしまった。気を紛らわすために、紅茶を一口飲む。
国広は長義の事が苦手だった。
偽物と罵られ、散々嫌味を言われ、いびられていたこともあって、極力近づかないようにしていた。
国広だと気付いてない所為でもあるが、女性だからというだけでこんなに優しくしてもらえるのはなんだか妙な感覚だった。くすぐったいような、だけどこの優しさは自分が受け取ってはいけないような。優しくされて嬉しい半分、もし国広だって知ったらこの優しさもなくなるんだろうと悲しく思った。
「主との付き合いは長いのかな?」
長いとはどれくらいだろうか、と考えながらも、どうせ女体化した自分は架空の存在なのだから適当に答えればいいかと思い直し、こくんと頷く。
「二人はどこで会ったの? 政府の審神者養成施設?」
なんだそこは、そんなところがあるのか、と思いながら、元々政府に勤めていた長義が言うならあるんだろうなと考える。自分が知らないというのもおかしいので、国広は少し考えた後、こくんと頷いた。
「何年前からここに来てるのかな」
国広は顕現してすぐにこの状態になった。だからもう既に三年ほどこうした生活を続けている。国広は指を三本立てて答えた。
「そうか、じゃあここの本丸ができてすぐくらいに通い始めたんだね」
(さすがは本歌だな。本丸のことをよく調べている。迂闊に答えるとそこから綻びが出るかもな
……
)
やはり彼との会話は気が抜けない、と国広は先程のいい加減だった気持ちを引き締めた。本丸の設立時期は恐らく政府が管理している情報を見たか、もしくは誰かに聞いたのだろう。そんな細かい情報まで把握しているとは、几帳面だなと思う。どちらかと言えば国広は大雑把な方なので、細かいことを聞かれ続ければ、どんどん立場が危うくなりそうだ。
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