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木蔦(キヅタ)
2019-10-07 07:24:24
4181文字
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別れたふたりの結末は【ちょぎくに】
※小説です。
1
2
「む、無理だ
……
!すまない!」
国広は言った。
長義とは違い、国広のそれは萎えたままで、長義はすべてを察した。
国広の顔はこれ以上触れてくれるなと言っている。自分を守るようにぎゅっと抱きしめて、そして嫌悪感からか顔をうつむかせた。全身で長義の事を拒絶している。それだけで長義の心はズタズタになった。
「やっぱり無理だ
……
!すまない、俺には
……
!俺はあんたの事、好
……
!」
「すまなかったな、やめよう」
彼の言葉を遮って、言い放った。その先は聞きたくなかったからだ。
―――
『あんたの事、好きなわけじゃない』
そう続くことはわかっていた。
長義は自分の欲を抑え、ぎゅっと拳を握る。国広に触れないように身を引いた。触れてしまったら、抑えが利かなくなりそうだった。彼が嫌がっているのに自分の欲望のままに動くなんてできない。傷つけたくはない。これ以上怖がられたくない。
「今日はもうやめよう」
長義はそう言った。
そしてその数日後、長義は別れを切り出した。
『別れたふたりの結末は』
別れを切り出してさらに数日経った。長義は気まずくて、国広を避けており、彼がどんな様子なのか知る事は出来ない。
そもそも始まりは長義の告白からだった。前々から国広の事が好きで、押しに押してようやく了承をもらったのだ。何日、何週間にも及ぶアプローチの末の返事だった。その時は想いを返してもらえたと喜んだのだが、今になって思えばとんだ喜劇だった。
国広は長義のことなど好きではなかった。それなのに長義があまりにしつこいから、しぶしぶ了承したのだ。そして数か月付き合った後、寝所でいざとなった時に、自分が何をされるのか目の当たりにして、怖くなったのだろう。彼は長義のそれを見て、真っ青な顔で拒否をした。
男の物を受け入れるなんて、ましてや好きでもない男のなんて、どんなに心が広くてもできないだろう。
あの時の国広の顔がチラついて離れない。
「どうにも塞ぎ込んでしまっていけない」
長義は非番の日、そのことばかり考えてしまい、気を紛らわすために仕方なく外に出た。拓けた場所に出ると幾分か気分が良くなった。何をするでもなくブラブラと万屋に行き、店を見て回る。
昼間とあって、人は多い。彼らは皆楽しそうで、長義のことなど気にする人はいない。こんな気持ちで一人来ているのが虚しくなってきて、ふと彼のことを思い出した。ここにも彼を連れてデートしたことがあった。付き合ったのは短い期間だったが、休みのたびに色々なところへ連れ回した。
「あ、長義
……
」
そんなことを考えていたものだから、目の前に国広が現れて、一瞬、自分の妄想かと思った。正真正銘、自本丸の国広だ。
驚いたように目を見開いた後、気まずいのか目を逸らす。別れたばかりだから仕方がない。別れを切り出したのは長義とはいえ、国広の気持ちを察しての事だったし、気を使っての事だと国広もわかってるだろう。あれだけ愛を伝えた長義がまだ国広を忘れられないなんて、明白でもある。そんなに簡単に嫌いになんてなれない。
何かしゃべらないとと思ったのか、彼が口を開いた。
「か、買い物か
……
?」
「まあ、な。そっちは?」
「えっと、俺は主にお使いを頼まれて
……
」
「大丈夫?俺も持とうか?何を頼まれた?」
「あ、いや、ひとりで持てるから、大丈夫だ」
「あ
……
そう
……
」
沈黙が落ちる。気まずい。
やはり居た堪れないのか、国広は立ち去ろうとする。
「じゃあ、俺はこれで
……
」
「あ、待てよ
……
!」
何とか一緒にいたくて思わず呼び止めてしまう。しかし理由なんて考えてなくて「あー」とか「うー」とか言っている。しかも彼と一緒にいたとしても微妙な空気の中どうするのかなんて考えていない。
しかしこんな人ごみの中、彼をひとりにしておきたくない。彼は少し無防備な所があるから、変な輩に絡まれる可能性だってある。近くにいると胸がズキズキと痛むが、彼のそばにいたいという想いも確かにあった。
「どうせ一緒の所に帰るんだから、俺も付いて行っていいかな?」
「え
……
?」
予想外だったのか、国広はきょとんとしている。
「あの、まだ俺買い物終わってないんだが」
「わかってる、付き合うから」
「いやでも、まだ何軒もあるし」
「暇だから大丈夫だ」
もうこうなったら自棄だ、と押しに押す。彼は口下手だから断りの言葉も上手く出て来ず、無理矢理説得する事に成功した。
……
が、何も話すこともなく、彼も一言も発さず、微妙な空気のまま買い物をすることになった。
「主は何を考えてるのかな
……
!ぜんっぜんひとりじゃ持てないじゃないか!」
審神者の買い物を済ませていくとふたりの両手はいっぱいになった。きっと国広ひとりじゃ持てなかっただろう。長義は大きな荷物を両手で抱えているし、一方彼は買い物袋を両手に下げている。
「えっと、長義が申し出てくれて助かった
……
。ありがとう」
「ああもう!どういたしまして!」
帰ったら審神者には注意が必要だと考える。今回はたまたま長義が一緒にいたから良いものの、こんな量をひとりに任せたら大変なことになるだろう。再発防止のためにも審神者には改めてもらわねば、と考えたところで国広がボソリと呟いた。
「なんで俺の事が嫌になったのに、付いて来たんだ
……
?」
恐らく独り言だったのだろう。その呟きを拾ってしまって、長義はキッと国広を睨み付ける。主語はないが長義の事を指しているのは明確だった。
なぜと言った。長義の気持ちは知っているはずだ、あんなにも伝えたのだから。好きだったのに、別れたからと言って、気持ちまですぐに切り替えられるわけないだろう。
「それは聞き捨てならないな!嫌になったのはお前だろう!」
「き、聞こえて
……
!そんな、俺は嫌になったなんて
……
!」
「だってそうだろう!?あの時、お前ははっきり拒絶したはずだ!今まで断りきれなくて俺に合わせてたんだろう!?」
「違う!あんたこそ、俺なんかが嫌になって別れを切り出したんだろ!?」
「はぁぁぁ!?」
「勃たない俺を見て、呆れて、別れを切りだし
…
うぐっ!!」
「待て待て!こんな道端でしていい話じゃない
…
!何を言い出すんだ!」
国広の口を押え、黙らせる。今彼は確実にあの夜の事を言おうとした。
「だってあんたが聞くから
……
!」
「いやそうだけどTPOってもんがあるだろ!」
「てぃぴーおー
……
」
「ああもう、場所を変えよう!」
茶屋の個室を借りて、ふたりで膝を突き合わす。国広は納得していないように、少しむっとしている。それはこっちも同じだ。
「話を詳しく聞かせてくれるね?お前はあの夜『あんたの事を好きなわけじゃない』って言ったじゃないか。だから俺は別れを切り出したんだけど」
「?? 俺はそんな事言ってない」
「でもお前は無理だって言いながらそう呟いたよね?」
「
…
? 正直あの時は気が動転してて自分が何を言ったか覚えていない」
国広のその発言を受け、はぁ、とため息を吐く。
「覚えてないならしょうがない。わかった。ただ、お前は俺がしつこいから、嫌々付き合ってたんだろ? それは認めるよね?」
国広はそれを聞くと、図星なのか、目を丸くして俯いた。布の所為で表情を窺い知ることはできない。きっと後ろめたさでどう弁解しようか困っているのだろう。
「別にもう別れたんだから、本当の事を言って構わないんだよ」
優しくそう問いかけると、微かに小さな声で返答があった。
「
……
ない」
良く聞こえないが、否定の言葉が出てきたため『好きじゃない』だろうと推測する。ようやく認めたかと思うと同時にわかっていたこととは言え少しつらいなと落ち込む。
「分かってたよ、俺の一方的な想いだってことは、だけど
…
」
「す、好きじゃなくない!」
「へ?」
思いっきり顔を上げた彼は茹蛸のように真っ赤だった。ずっと俯いているから気付かなかったが、もしかしたらずっとこんな顔を隠していたのかもしれない。
「あんたが
…
ずっと、気持ちをくれるから、だから、だんだんあんたのが移ってきて、それで!」
たどたどしく言葉を紡ぐ。恥ずかしいのか目は伏せたままだ。
「寝てても起きててもあんたのことでいっぱいになってしまって、だから、その
…
好きに、なってしまって、
…
その
……
!」
「待って、好きなの?俺が?」
「そう言ってるだろ!何度も言わすな!」
「いや、何度でも聞きたい」
付き合う事になった時は、国広はただ頷いただけだった。だから彼の気持ちなんて聞いたことがなかった。初めて吐露された言葉に感激を覚える。まさか好いてくれていたとは思うまい。
目を見て言ってほしくて、国広の頬を両手で包みこみ、無理矢理こちらに向けさせた。恥ずかしそうに視線を逸らした後、ゆっくりとこちらを見上げてくる。眉は困ったように下がっていて、困らせているのは他でもない自分なのだと思うと気分が良かった。
「でもあの夜の無理って言うのは? もしかしてそういう行為が嫌悪感があった?」
「け、嫌悪感はない
……
ただ、」
「?」
「俺で勃ってるあんたを見て、俺はあんたで勃たないかもしれないって思って、自信をなくしてた、んだ
……
!」
脱力して国広の肩に顔を埋める。大きくため息を吐いた。
「ちょ、長義?」
「お前はそんなこと気にしてたの?」
「そこは重要だろ!?」
「全然。」
「ぜ、
……
!?俺は、好きなのになんで、勃たないんだ
…
ってショックを受けたのに
…
!」
もしやあの夜の言葉はそれだったのだろうか、と長義は考える。自分の早とちりだったかもしれない。確かに彼は長義が言葉を重ねた所為で、最後まで言わなかった。
「もうそこは俺の力量だし、男なんて擦ればすぐ勃つし、お前が望むなら口でも何でもやってあげるよ?」
「な
……
!くち!?い、いらない!」
「そう? それに俺はそういう行為自体に引かれたと思ったんだけど」
「え、だって俺もあんたのなら、した
……
い
……
」
カァァァァ、と再び国広が赤くなる。
「言ったな?」
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