木蔦(キヅタ)
2019-06-04 22:22:00
5158文字
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【サンプル】双子審神者の初期刀【ちょぎくに】(ツイ民だけに先行公開)


※大阪インテ8/25(日)委託で発行予定の本です。(他にも1冊出します。⇒https://privatter.net/p/4693079)
※近くなったら改めてPixivでサンプルを公開します。(今回はツイッター民だけに特別に先行公開です!)
※通販はBOOTHさんを予定しています。




第一章

ここは二つの本丸が存在する地。
この地に配属されたのは双子の兄弟だ。しかし双子でありながら仲が悪く、それぞれ別の本丸を持った。
一つは天守閣の城で、その近くには湖がある。煌びやかで豪華な造りだ。そこを兄――以降は兄審神者と呼ぶ――が治めている。そしてもう一つは平屋建ての本丸御殿で、その後ろには森が広がっている。簡素で住みやすさを重視した造りだ。そこを弟――同じく弟審神者と呼ぶ――が治めていた。
しかし本丸は二つあるのに対し、時空門は一つしかない。そのため出陣・遠征などで外に出ようとすると、一方の本丸と顔を合わせることになる。

山姥切国広は、弟本丸の初期刀で、近侍を担っていた。国広は本丸の設立時にもう一振りと政府からこの地に連れてこられた。そのもう一振りは兄本丸の初期刀である。彼は本来ならば特別な任務の報酬により政府から賜る刀で、希少な刀剣だった。しかしそれが初期刀としてこの地に降り立った。何故そんな刀が配布されたかはわからない。政府の人間が双子ならばと面白がったのかもしれない。何故なら彼は、国広の本歌にあたる名刀――山姥切長義だった。国広と長義の顔は瓜二つであった、まるで双子のように。
価値は一目瞭然で、兄審神者は二振りを見比べるとすぐに彼を選んだ。刀匠備前長船長義の傑作である山姥切長義が望まれるのは至極当然のことだった。そのため弟審神者は余った国広で我慢するしかなかった。しかし心優しい彼は事あるごとに「お前が初期刀でよかった」「お前とは気が合う、話していて楽だ」という言葉を与えてくれる。写しというコンプレックスのある国広にはその言葉はお世辞だとしてもとても嬉しかった。

その日、国広はレベルの低いものを連れて出陣予定だった。国広の本丸では均一に刀を育てる方針である。だから本丸全員がほぼ同じ練度だ。ただし国広だけは新人の付き添いや演練など任されることが多いため練度が突出している。審神者から信頼されていると言えば聞こえがいいが。
今回は新人である明石国行のレべリングだ。先日池田屋への出陣で顕現し、この本丸にやってきた。愛染国俊などは大喜びだったし、明石も彼と会えて満更でもなさそうだった。

「おやおや、弱小本丸がお遊戯にでも行くのかな?」
今日も隣の本丸の部隊に会ってしまった。兄弟仲の悪い審神者の影響で、刀剣達まで顔を合わせると嫌味を言い合う。見下したような顔で話しかけてくるのは、兄審神者の近侍、長義だ。
「そっちは遠征か? お前が第一部隊じゃないなんて遂に左遷されたか」
「生憎、その心配は無用だよ。今回の遠征は気晴らしにと審神者からの配慮だからね。うちはどこかの本丸と違って優秀だからある程度の余裕はあるのさ」
「ハッ! 性格の悪さの所為で遂に審神者から見放されたと思ったぞ」
「はぁ? お前の自意識過剰な所よりはマシだと思うが?? 卑屈なのか自信過剰なのかどっちかにしたらどうかな!」
「俺のどこが自意識過剰なんだ! こんなにも控えめで誠実だって言うのに!」
「そういうとこだよ! 卑屈は否定しないんだな!」
暫く睨み合った後に、埒が明かないとばかりに顔を背けた。審神者から命を受けた身だ、いつまでも油を売っているわけにはいかない。二部隊はそれぞれ目的地に向かわんと門を潜った。

「もうもう! 何なの何なの! うちを馬鹿にしてさ!」
「全くです、どうしてあんな刀があちらの近侍なんでしょうね」
乱藤四郎がプンスカ怒りながら、続いて前田藤四郎がそれに同意するように続けた。
古参の彼らは今回新人育成のフォロー役として部隊に組み込まれていた。気心が知れた者がいると国広にとってとても安心する。練度こそ他の刀剣と同じだが、幾振りもの新人の世話をしてきただけあって手馴れている。
「まぁまぁ、あちらはあちらの思惑があるんでしょう」
「ただ単に性格悪い者同士がタッグ組んでるだけに見えるけどなー!」
あっちにいる刀は可哀想! 刀の本分を遂げられてない! と乱は不満そうだ。

兄本丸の刀は多い。恐らく八十振りは超えている。しかしその殆どが練度1のままで、戦いとはかけ離れた下働きのようなことをしている。畑当番、馬当番はもちろんのこと、厨当番、掃除当番まで雑用すべてだ。
兄審神者のお気に入りになった者だけが出陣部隊に組み込まれる。長義はその筆頭だ。

一方こちらの刀剣の数は少ない。五十振りに満たない。全振りを均等に育成している所為で全体的な練度は低めだ。強い敵のいる戦場にはまだ行けない。長義が弱小と称したのは正に図星だった。あちらの本丸は短刀が少ないながらも池田屋を突破し、さらにその先の戦場へと出陣している。

(また、あんなことを言ってしまった……
国広は頭を抱えた。
売り言葉に買い言葉、嫌味には嫌味をつい言い返してしまう。国広としては彼と仲良くしたい――いや仲良くまで行かずとも、普通に話したいと思っていた。

国広は長義に恋をしていた。

いつからかはわからない。気づいた時には惹かれていた。会いたいと思っていた。彼から嫌われているのは重々承知のため、この恋を成就させるつもりはない。これは秘めたままにするつもりだ。
(だけどせめて普通に話せるようになれれば――
いやなってどうする、どうせ叶わぬ恋だ、と思い直した。