花火大会当日は、淡い水色の空に雲一つない、すがすがしいまでの冬晴れだった。天気予報によると、夕方以降はぐっと冷え込むらしい。しっかりあたたかい恰好に着込んでから、私と爆豪くんは昼過ぎに車で東京を発った。
花火大会の会場は地元なので、感覚としては帰省するのにちかい。花火の終了時刻を考えると日帰りは厳しいので、せっかくだからと一泊してから東京に帰ることにした。
ただ、私の実家は両親そろって旅行に出かけており、ちょうど今日は不在にしている。勝手に入って泊まっていけばと、実家の母からは言われたけれど、爆豪くんと相談のすえ、今回は近場のホテルで部屋をとった。
爆豪くんの実家に一泊するという手もあったものの「どうせ年末年始にも顔出すだろ」という爆豪くんの一言で、その案は却下になった。私は別にそれでもかまわないのだけれど、たしかにこうたびたび宿がわりにしていては、光己さんと勝さんに気を遣わせてしまう。
夕方を過ぎた頃、ようやく花火大会の会場である港に到着した。駐車場はほとんど満車だったけれど、その程度の事態は織り込み済みだ。会場ちかくに住んでいる知り合いの家の駐車場に空きがあるということで、事前にそこに停めさせてもらえるようお願いしてあった。お礼がわりに爆豪くんがもらってきてくれた烈怒頼雄斗のサインを手渡すと、そこの家の子どもにめちゃくちゃ喜ばれた。
もこもこにコートを着込んで、花火大会の会場に向かう。服の下には貼るカイロを複数しこんできた。爆豪くんは服の下にヒーロースーツのインナーを着込む万全ぶりだ。
最寄り駅を出てすぐのあたりから、花火大会客とおぼしき人の列が形成され始めている。はぐれてしまわないよう、爆豪くんの腕に手を回して歩く。なにせ人が多いので、普段出歩くときよりもぴったりと身体を寄せあった。
爆豪くんの仕事柄、家の外でくっついて歩くなど、普段は絶対にありえない。腕を組んで歩くことすら稀だ。けれどこの状況では、そんなことも言っていられない。やたらと離れて歩いてははぐれかねないし、周りの人にも迷惑だろう。
まだそれほど遅い時間ではないものの、すでに日は沈みきっている。夏祭りのときと同様に飾り付けられた提灯や、出店に取り付けられたライトがそこかしこを照らしているおかげで、日暮れなりにもまあまあ視界が利く。
あたりを見回してみると、かき氷やアイスといった夏の定番のかわりに、揚げ物や熱い麺類の出店が目立った。あちこちに飲食用のスペースが確保されているのも、熱い食べ物がいろいろあるからだろうか。食べ歩きをしたときに、熱い汁物は大けがにつながりかねない。
「高校生のときに来たときは、出店はまったく見られなかったんだよね」
「今のうちに、なんか食いもん買ってくか」
爆豪くんが出店の看板の文字に視線を走らせながら言う。
「そうだねぇ、まだ始まるまで時間もあるし……。あっ見て爆豪くん、あそこにダイナマイトのお面売ってるよ。せっかくだし、私が買ってあげようか? ほら、今日の爆豪くん、変装薄いし」
食べ物そっちのけで、私は目についたお面屋さんを指さした。キャップをかぶってはいるものの、マスクもめがねもしていない今日の爆豪くんは、見る人が見れば一目で大・爆・殺・神ダイナマイトだと分かってしまうだろう。
「アホか、買うわけねえだろ。つーかあのお面、そもそも許可とってんのか? 俺ァあんなもん許可した覚えねえぞ……」
「まあまあ。あ、じゃあデクのやつは? 買う?」
「もっといらんわ」
くだらない話をしながら、人の波にもまれつつ、ふたりで手をつないで出店を見て回る。高校生の頃に来たときには、たしかベストジーニストのお面をかぶった子がいたはずだ。そのときには爆豪くんもいつか、ああして小さな子がほしがるお面になるような、そんなヒーローになるのだろうかと思った。
今こうして実際にダイナマイトのお面が売られているのを見ると、感動もひとしおというものだ。正規のグッズであるのかどうかは別の問題だとしても。
「寒いし、何かあったかいもの食べたいよね。揚げ物なんか買わない?」
「激辛チキン」
「ひとりでどうぞ。私はふつうの唐揚げにするんで」
「雑魚舌。軟弱味蕾」
「爆豪くんが辛いのが平気なのって、爆豪くんの味覚がよぼよぼだからなんじゃない?」
「んなわけねえだろ!」
「辛いもの食べて飲み物ガブ飲みして、トイレ近くなるのも嫌だし」
「ガキかよ」
「そういえば飲み物持ってきてないや。お酒飲んじゃおうかなぁ」
「帰りの運転代わろうって気持ちはねえんか」
「運転代わってほしい? 爆豪くんが飲みたいなら、それは全然、代わりますけど」
「別に飲みたかねえ」
「じゃあやっぱり私が飲んじゃおうかな」
「つーかトイレ近くなんのが嫌なら、辛いもんやめるより酒やめるのが先だろ」
「たしかに」
やいやい言いながらからあげの屋台に並ぶ。爆豪くんの激辛チキンと私の唐揚げをそれぞれ注文し、列の横で揚がるのを待っていると、通りすがりの祭りの参加客たちが、こちらをちらちら見ていることに気付く。どうやら爆豪くんの正体がバレたらしい。私たちについて話をしている声が、そこかしこから聞こえてくる。
「あれってダイナマイトじゃね?」「うお、まじじゃん」「地元帰ってきてたのか」「すげえもこもこに着ぶくれてる」「横にいんのって嫁かな」「ダイナマの嫁って実在してんだ」「つーかダイナマイト、さっき嫁にキレてなかった?」「公衆の面前でもおかまいなしすぎる」「いざとなったらヒーロー呼んだほうがいいな」「いやあいつがそのヒーローなんだよ」「ダイナマに勝てそうなヒーロー来てるかなぁ」「デクかショート」「そんな花形はこんな祭りに来てねえよ」
普段から比較的、言われたい放題されている爆豪くんではあるけれど、今日はいつにも増してめちゃくちゃに言われまくっている。隣の爆豪くんを見上げれば、彼の額には青筋ががっつり浮きまくっていた。
こういうとき、プロヒーローを支える妻として、仲睦まじい円満アピールをしておいた方がいいのか、それとも余計なことはしないほうがいいのか。今のこの空気だと、円満アピールをしたところで「やらされてんなぁ、嫁」ととられそうな気もする。
「お待たせ、激辛ひとつと唐揚げひとつね!」
ようやく注文していた品を手渡された。そそくさとその場を後にしようとしたところで、
「おーい、カツキ。苗字も」
屋台の裏の作業用スペースから、ふいに声をかけられる。「あ゛?」とガラの悪いどすの利いた返事をした爆豪くんとともに、屋台の裏手をのぞきこむと、そこには祭り運営用の法被を着た男性が数名たむろし、しきりにこちらに向かって手招きをしている。
そのうちのひとりには、私にも見覚えがあった。同じ中学出身で、かつて爆豪くんの取り巻きだった通称かりあげくんだ。
近寄ってよく見れば、かりあげくんのほかにも何人か、名前は分からないものの顔だけ見たことある男の人が何人かいた。中学が同じだったことだけは、なんとなく分かる。
爆豪くんとともに、集団のほうへ呼ばれるまま寄っていく。関係者以外は立ち入り禁止なのだろうけれど、向こうが呼んだのだからお構いなしだ。
集団のうちのひとりが、気さくに爆豪くんの肩をたたいた。
「カツキ、おまえ帰ってきてんなら言えよ!」
「は? なんで俺が逐一てめえらに帰省した報告せにゃなんねンだよ」
「つれねえなぁ」
「地元の星が帰ってきてんだって思いたいだろ!」
「勝手に思ってんじゃねえ」
爆豪くんの口調はぞんざいだけれど、突き放すような感じでもなかった。私も爆豪くんも、中学までの友人とは一部を除いて、あまり親しい付き合いをしていない。同窓会にも顔を出していない。それでも、こうして顔を合わせれば、やはり懐かしさはあるのだろう。応援されている実感だってわくはずだ。
そんなことを他人事のように思いつつ、微笑ましく男子社会の交流を眺めていると、
「苗字も久しぶり」
かりあげくんが、静かに息をひそめていた私に声をかけてくる。会話の輪の中に引きずり込むような声のかけかたではなく、あくまで爆豪くんたちの会話の邪魔にならない程度に声を落として挨拶してくれたのが、私にとってはかなりありがたい。
「久しぶり、寒いのに元気だね。それ法被着てるってことは、かりあげくん運営やってるの?」
「いや、ただの下っ端。親戚のじいさんが商工会の顔役みたいなことしてるせいで、便利に使える若者として呼ばれてんだ」
「顎で使われてるんだ」
「企画の段階から、デク呼べとかダイナマイト呼べとか、めちゃくちゃ言われまくってやばかった」
「友達なら呼べんだろ的なね」
「呼べるわけねえのよ、上位ランカーどもを、俺の一存で」
「相応のギャラ払や考えてやんなくもねえ」
と、集団との会話を切り上げた爆豪くんが、私とかりあげくんの会話に割り込んでくる。見ると、さっきまで爆豪くんと話をしていた人たちは、それぞれ自分の持ち場に戻っていくところだった。
かりあげくんは「んな予算はねえ」と笑ってから、爆豪くんに視線を向けた。
「つーかカツキ、嫁同伴でこんな堂々としてていいのかよ。さっきからおまえ、めちゃくちゃ見られてるけど」
「てめえらが騒ぐからだろうが……!」
「いやいや、それより前から目立ってたって。目立ってるから俺らも気付いたんだし」
たしかに、爆豪くんはどこにいても人の目を惹く。上位ヒーローは大概そうなのだろうけれど、爆豪くんは特に、学生時代から大戦の英雄として、いやその前の体育祭優勝から、さらにいえば中学時代のヘドロ事件のときから、しっかり顔が割れている。注目されるのにも慣れっこだ。
「カツキはいいにしても、苗字まで一緒に目立っちまってんのはいいわけ? 一般人だし、一応隠してたんじゃねえの?」
「別に、こんなもん見られて困るほどの存在でもねえ」
爆豪くんが鼻を鳴らす。かりあげくんが呆れたように笑った。
「カツキが困るか困らないかって話? てことは、お忍びって感じではないのか」
「この感じだとSNSにもすでに、ダイナマ目撃情報上がってそうだよね」
「俺ァ無断アップロード肖像権侵害および個人情報漏洩さえなきゃ、基本的にはどうでもいい」
「誹謗中傷は?」
「ぶっ殺す」
「怖いんだよねぇ……」
「結婚しても変わんねえのな」
と、かりあげくんが苦笑したところで、遠くから、かりあげくんを呼ぶ声がした。声がした方を見ると、かりあげくんと同じ運営の法被を着た老人が、しきりと何か言いながら、こちらに向けてぶんぶん手を振っている。
「やべえ、呼ばれてる。じゃあな、応援してるぞ」
慌ただしくそう言い残し、かりあげくんは法被の裾をひるがえした。その背を見送る私に、爆豪くんが言う。
「おまえが俺の中学のツレとしゃべってんの見んの、有り得ねえ光景すぎて脳がバグんな」
「いまだにそうなの?」
かりあげくんとは特別親しくしているわけではないけれど、大戦のときに避難所が一緒だった縁もあり、会えばふつうに会話はする。結婚する前は実家で暮らしていたので、ときどき近所で会ったときなど、立ち話くらいはしていた。
「いまだにって、俺はおまえらの絡みを一ミリも見てねンだよ」
「あ、そうか。爆豪くん避難所にいなかったもんねぇ」
そう言うと、爆豪くんは少しだけ嫌そうな顔をして私を睨む。私の方には他意はないけれど、この手の話になったときの爆豪くんは、大体ちょっともの言いたげになるので面白い。
ポケットに手を突っ込んでいる爆豪くんに、私は横から腕をからめる。そのまま手を爆豪くんのコートのポケットに入れて、なかで手を重ねた。「冷てえ」と文句を言う爆豪くんは、けれどその手を邪魔者扱いはしたりせず、そのまま受け入れてくれる。
「これもね、勝己くんがつないでくれた縁ですよ」
「んなもんつないだ覚えはねえんだが」
「まあまあ、そんなこと言わないで。というかあれだ、手ぇこうしたままだと、唐揚げ食べられない」
「ばーか」
「ばかって、爆豪くんも同じじゃん」
結局、手はすぐにポケットから出すことになった。それとなく周囲を見回すと、さっきまでの野次馬たちはすでにどこかへ行ってしまっており、私と爆豪くんに注目する視線はない。しばらくすればまた誰か気付くだろうけれど、ひとまず落ち着いて唐揚げを食べられそうなことに、少しだけほっとした。
ちょうど近くの飲食スペースに二人分の席があいていたので、そこに移動する。残念ながらテーブルはあいていないので、ベンチにふたり、並んで腰かけた。離れて座ると寒いので、できるだけぴったりと、寄りそうようにして座る。
花火の時間が近づいてきているからか、屋台が立ち並ぶ通りからは、少しだけ人気が少なくなったように見える。
「私のほうの友達とも、爆豪くんちょっとは仲良くなった?」
唐揚げを食べながら、私は爆豪くんに尋ねる。一年前の結婚パーティーのとき、爆豪くん側のゲストは高校のクラスメイトがほとんどだったけれど、私の方からは中学時代の友人何人かにも声をかけていた。いずれも、避難所生活で交流が復活した友人たちだ。
私の質問に、爆豪くんが眉間に皺を寄せた。
「仲良くなるように見えんのか? 俺が、あのおまえより輪をかけて閉鎖的な、コソコソ陰キャ根暗女どもと?」
「もう、そういうこと言うから怖がられるんだって。みんな『爆豪くんって思ってたよりちゃんとしてたんだね』って言ってたよ」
「どういう意味だ……俺ァ昔っからちゃんとしてんだよ。正道を歩んでんだ」
「それ高校入学してからでしょ。中学までの爆豪くんは、全然まったく正道なんか歩んでなかったよ」
「うるせえ、永年横道逸れ女が」
「いや、でも横道に逸れた結果、こうやって爆豪くんとぶつかってんだから、やっぱ爆豪くんも正道にいないんじゃん」
「てめえが正道歩む俺の横っぱらに横道から激突してきてんだよ」
「大事故すぎるし、私からしてみれば、どっちかいうと激突してきたのは爆豪くんだし」
「うるせえ。事故ってんのはおまえ」
「本当どうでもいいところで頑固……」
そのとき、会場内のスピーカーから打上げ花火開始のアナウンスが流れた。屋台での買い物列をつくっていた人のいくらかは、買い物を諦めて打上げ花火の会場へと向かっていく。
爆豪くんが視線をこちらに向けた。
「もっと近ェとこ行くか?」
その問いに、私はほとんど悩まず返事をした。
「うーん、いや、いいんじゃない? ここで。座れるし」
「やる気ねえな」
そう言う爆豪くんだって、ここを動く気はなさそうだ。竹串で激辛チキンを刺してはほおばり、ときどき寒そうに鼻をすすっている。
その様子を見ているうちに、爆豪くんってつくづく私のことが好きなんだなぁと、そんな思いがぼんやりと胸のうちに湧き上がった。
爆豪くんは多分、花火大会のことなんか心底どうでもいいんだと思う。そりゃあ高校生のときのドタキャンやら別れ話やら、爆豪くんにとっても苦い思い出であることに違いはないのだろう。けれど私と違って爆豪くんは、そうしたひとつひとつの事柄を、花火大会と紐づけて記憶してしまったりはしないはずだ。
爆豪くんはきっと、花火大会というものに対して良いも悪いも、特別な印象を抱いていない。そんなものは数多あるイベントごとのひとつで、それ以上でも以下でもない。
そして今、もうすぐ打上げ花火が始まるというのに、爆豪くんの顔には楽しみだとか嬉しいだとか、そういう感情のひとつすら、浮かび現れてはこない。打ち上がった花火を見れば、それなりに何か思うのかもしれないけれど、それだけだ。いい大人なのだし「へえ、上がってんな」程度で終わりなのかもしれない。
爆豪くんが今こうして、寒いなか花火大会に参加しているのは、徹頭徹尾、私のためでしかない。私が行きたいと言ったから。私が花火大会というものに嫌な印象を持ち続けているのを、今こそ払拭したいと言ったから。だから爆豪くんは、寒いのが嫌いなのに、花火なんか別に好きでもないのに、それでもこうして、私に付き合ってくれている。
昔の私だったら、付き合わせて悪いと思っただろう。忙しい爆豪くんを興味のない催しに参加させるくらいなら、ひとりで来ればよかったと思ったかもしれない。
でも、今はそうは思わない。
どこかで誰かが「あ、始まった」と呟く。直後、冬の夜空に大輪の花が咲く。
視線を夜空に向けたまま、私は爆豪くんのほうに少しだけ体重をかけた。爆豪くんは「重い」と短く文句を言いつつ、そのまま私を受け止めていてくれる。
ぶ厚いコート越しだから、爆豪くんの温度は分からない。それでいい、それで十分だと思う。
「爆豪くん、私のこと好き?」
「知るか、ふざけんな」
即答だった。怪訝な顔すらされなかったので、思わず笑ってしまう。
「素直じゃないなぁ。好きでしょ、知ってる」
「知るかっつってんだろ」
「私は好きだよ、勝己くんのこと」
「…………」
爆豪くんが押し黙る。嬉しくなって、顔がゆるんでにやけた。まつ毛の先まで凍ってしまいそうなくらい寒いのに、全身がぽかぽかあたたかい。花火は大ぶりなものと繊細なものを取り交ぜつつ、色鮮やかに夜空を見上げる私たちの顔を照らしている。
すぐそばで花火を見上げていた女子のグループが、連れだってどこかへ歩いて行った。もっと花火を見やすい場所に移動するのだろうか。
からになった唐揚げのカップを、爆豪くんが私の手から取り上げる。あいた私の左手を、爆豪くんの右手がつかまえた。そのまま爆豪くんのコートのポケットに、私の左手が引っ張りこまれる。
「名前」
「んっ、んへへ」
「笑ってんな、気色悪ィ」
「ごめん、こらえきれなかった」
私の真摯な謝罪に、爆豪くんはうんざりしたように溜息を吐いた。爆豪くんの吐いた息が白く浮かぶ。たったそれだけのことすら、愛おしいと思う。
花火に照らされた爆豪くんの横顔。多分冷たくなっている耳たぶ。すこし赤い鼻と、コートの襟元にうずめた口元。
ポケットの中で私の手を握る爆豪くんの右手は、かつて一度世界のために壊れかけた手だ。たゆまぬ努力と折れない心があったから、今こうして、私の左手をぎゅっとあたたかく握りこんでくれている。
私の名前を呼ぶ、低くかすれた声。
世界で一番だいすきな、獰猛に燃え盛る赤い瞳。
「好きとかどうとか、いつまでもそんな、しょうもねえこと聞いてんじゃねえ」
うん、と私は小さくうなずく。爆豪くんの手が、ぎゅっと私の手を握りなおした。
「俺は一生てめえのもんだし、てめえは一生俺のもんだ。そんだけ分かってれば十分だろうが」
「十分かなぁ。もうちょっと、なんか欲しい気が」
「そこは『うん』つっときゃいいだろうが……!」
爆豪くんの唸るような怒声に笑った瞬間、今日一番大きな花火が頭上で花開く。ああ、もうこれで大丈夫になったと、そのとき不意に直観する。
来年からはきっともう、楽しく花火を見られる。来年の夏は爆豪くんと一緒にまたこの花火大会に来よう。帰ったら爆豪くんと、そんな幸福な未来の約束をしよう。
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