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森永
2021-04-26 19:58:01
6440文字
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べろがネコちゃんの风息
无风/内容要約:无限とはじめてキスしたら「猫の舌みたいだ」と微笑まれザラザラだと痛いかな…と思って変化の練習して人間の舌にしたのにいざそれでキスしたらちょっと残念がられて腑に落ちない风息/ちょっとギャグちっく
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恋びとと、はじめてキスをした。
キスどころか、抱きしめられるのも抱きしめるのも、手を繋ぐのも、そもそも誰かと恋びとになるのだって、风息は无限がはじめての相手だった。はじめてなので、风息には恋びと同士の作法もわからず、无限がびっくりするくらい優しい顔をしながら「抱きしめてもいい?」「手を繋いでも?」と尋ねながら手を伸ばすたびにどぎまぎして、固くなってしまう。もの慣れない风息の態度にも无限は嫌な顔ひとつせず、风息の握った手の甲を撫で、柔らかな声で名前を呼び、控えめに身体を寄せて、緊張の糸がゆるゆると解けるのを辛抱強く待った。彼はけっして风息に無理強いはせず、しかし絶対に手を引くことはしなかった。
そんなふうに、无限にあやされながら、恋びととしての触れ合いを教えられる恋愛初心者の风息は、少しずつ、触れ合うことでわかる无限の体温や匂いや触れる髪の感触を知っていった。
赤ん坊に例えるならやっとつかまり立ちし始めた頃だろうか。その時は风息にしてみれば突然やってきた。
「风息、キスをしてみてもいい?」
夜、あたたかいお茶を飲みながら二人でソファに並んで、ぽつぽつと続いた会話の途中だった。お気に入りの茶葉のおかげか、その日は不思議とゆったりとした気持ちで、风息のほうから无限の肩にぴっとりとくっついて、時折はだしの爪先で无限のそれにちょっかいまでかけていた。唐突にそう言った无限に、风息はきょとんと目を丸くした。
キスなら何回かされている。頬や、こめかみや、額、たまに鼻の先。风息の調子がいい
――――
つまり、ほどよく緊張がほどけているとき、无限は羽で擽るように軽く、唇で风息に触れる。无限が気負いなく、事ある毎にそうするので、近ごろは风息もすっかり慣れてしまって、擽ったがりながらそれを受け入れられるようになっていた。
いまさら改まって訊くようなことでもなかろうに。
风息は小首を傾げながら、「別にいいけど」と答えてみせる。ふ、と笑った无限は、「いつものじゃなくて」と首を振る。
「今日は、くちにしたい」
「
…………
くち?」
「そう、口」
ここに、と言いながら、无限が指の腹でそうっと风息の唇をつついた。お茶を飲んでぬくまっているはずの唇に、触れる无限の指の方が不思議と熱かった。
「あと、舌もつかう」
「した」
鸚鵡返しする风息には、頬にするキスと口にするキスの違いも、舌を使ってどうするのかも想像がつかない。ぼんやりと考える风息に、无限が「いい? 嫌?」と尋ねる。二択を迫られて、咄嗟に「嫌じゃない」と答えた。
「よかった」
ゆるん、とほほ笑んだ无限の手が、风息の手からカップを取り上げる。陶器にあたためられていた手が冷えるより先に、すかさず節くれだった无限の手が重なった。そっと、恋びとの白皙が近づく。
「苦しくなったら、鼻で息をするんだよ」
「
……
苦しくなるまで、するのか?」
「する」
柔らかく、穏やかで、そして断固とした口調で无限が言った。
するのか、苦しくなるまで。风息はちょっと不安になったが、まあ大丈夫か、と気を取り直した。馬鹿力の无限にきつく抱きしめられて苦しんだこともあるし、そのときだって別に死にかけたわけじゃない。鼻で息をすればいいらしいし、ほんとうに苦しくなったらやめてくれるだろう。そもそも妖精なので、多少の無茶をしたところでどうということも無い。
「风息」
いいね、と目線だけで无限がうかがってくる。ぴかぴかの硝子越しに見る、春の空みたいな瞳だ。無機質に見えてどこかあたたかい。うん、とほとんど吐息で风息はこたえる。
頬に触れていた无限の手がうなじに回って、やさしげな力加減でくい、と引き寄せられる。緊張する間もなく、ふたつの唇が重なった。
「ん」
反射で漏れた声がはずかしい。目を開けているのに、近すぎるせいで无限の瞳しか見えず、反応がわからない。それくらい近くにいて触れ合っているのだ、と再確認して、遅れた羞恥心がじわじわと込み上げてきた。首の裏をやわく押さえつけられているので今更逃げることもできず、やわらかな唇の薄皮どうしがこすれ合う感触をまざまざと味わうことになった。当たり前だが頬や額にされるのと、感覚がまったく違う。
何度か食むように无限の唇ではさまれて、さいごに下唇をちゅう、と小さな音を立てて吸われたとき、ひくんと勝手に跳ねた指先が重なった无限の掌をひっかいた。離れた唇に、終わりかと緊張でつめていた息を吐こうとした风息に、无限が顔を寄せたまま「くちをあけて」と言う。湿った呼吸が口の端にぶつかってわななき、「え?」と戸惑って薄くひらいた唇のあわいに、ふたたび无限が食いついた。そのままぬるん、となまあたたかいものが口の中にすべり込んできたので、风息は驚いて肩を揺らした。驚愕に見開いた紫水晶の眼を、无限の眼がひたりと見つめている。
(し、舌をつかうって、こういうことか!)
這入ってきた无限の舌は、あいさつをするように縮こまる风息の舌をひと撫ですると、口内のあちこちを探るように動き回った。頬の裏側、うわあご、歯列の際、ふだん意識することもない粘膜を舌でねとねととこすられるのが、頭がぼうっとするほど気持ちいいのを风息ははじめて知った。せっかく教えてもらったのに、鼻で息をすることをすっかり忘れている。今までの触れ合いよりずっとずっと生々しい行為に、気づけば開けていた目を閉じて必死に追いすがって、はふはふと下手くそな息継ぎをした。そうすると必然的に口が開きっぱなしになるので、後から湧いて飲み下しきれなかった唾液が溢れてたらりと伝う。
ひととおり口の中を弄って満足したのか、无限は動きの鈍い风息の舌をつかまえて絡ませ、吸い、またこすりあわせた。ぢゅるぢゅると下品な音がたつのがまた羞恥心を煽って、风息は耳まで赤くしながら愛撫に耐える。きもちよくて、押さえられている首のうしろから尾骨までがざわざわと落ち着かない。
しばらくそうして、风息の意識に靄がかかってぼう、とし始めた頃に口舌はほどかれた。风息が繰り返す荒い呼吸と、かすかにあがった无限の呼吸がふたりの間で溶け合う。やっとの思いで风息が瞼をあげると、怜悧な顔をすこしだけ紅潮させた无限が目を細めている。こころなしかうっとりとした眼差しの熱さに、落ち着くはずだった鼓動がまた跳ねた。ふだん清廉潔白そうな唇が、どちらのものとも分からない唾液で濡れてつやつやとしているのが目に毒だった。
「く、くるしかった
……
」
「うん、ごめん。初めてだからゆっくりしようとしたのに、うれしくてつい」
なんだか呂律のあやしい风息の弱々しい非難に謝りながらも、无限の表情はちっとも悪びれた風ではなかった。うれしくて、の言葉に戸惑う。何が、もしかして俺とキスしたのが?そう考えるとますます恥ずかしくて、同時に自分までうれしくなって、风息は続く文句を残った唾液と一緒に飲み込んでしまった。
「舌、ざらざらなんだな」
べとべとになった风息の口許をぬぐいながら、うっそりとほほ笑んで无限が言う。息の整わない风息はされるがままになりながら、「し、舌?」と聞き返した。なぜだか楽しげな様子で无限は頷く。
「うん。ざらざらしていて、猫の舌みたいだった」
猫の舌。
まだぼんやりする頭に、その一言がやけにひっかかった。
すっかり落ち着いて、マグカップを片付けている間も、じゃあ寝るかと揃ってベッドに横になった後も、どうしてだか风息の頭の中でその言葉が堂々巡りしていた。おかげで「猫じゃない」と否定することもすっかり忘れている。
猫の舌。ざらざらしている。
眠って、起きて、朝食をつくり、向かい合って食べ、任務に出かける无限を見送ったところで、风息はぴんと思い至った。
それって、舌が痛いということでは?
今まで、人型に変化している自分の舌のつくりを気にしたことはなかったが、もしかしなくても人間のそれとは違うのだ。あわてて洗面所に駆け込んで、鏡の前でべっと舌を突き出してみる。細かな棘のように逆立つ表面を指でなぞると、確かに、ざらりと荒い感触がしてがっくりと肩を落とす。
风息の本性は豹だ。猫ではないといつも否定しているが、ネコ科であることは事実で、舌のつくりだって猫とおなじく肉をこそげ落とすためにざらついている。それが风息という妖精にとってはごく当然のことで、きのう无限とキスをするまで人間の舌の感触を知らなかった风息が、そこまで合わせて変化などできるはずもない。外見は街を歩けばいくらでも見本がいるけれど、まさか体の中身まで見せてもらうなどできようもないだろう。
しかし、問題は无限だ。风息はぐるぐると考える。
キスするたびにざらついた风息の舌と触れなければいけないとなると、いつか彼の舌が傷ついてしまうかもしれない。そうなるとしまいには风息とキスするのも嫌になってしまう可能性は充分にある。誰が好きこのんで、痛い思いをしてまで触れ合おうとするだろうか。
なにより、风息自身が、嫌だと思っている。
恋愛のいろはも知らないとはいえ、好き合って恋びとになったのだから、自分の舌のせいで、せっかく覚えた愛情表現としてのふれあいができないのはとても惜しい。何より、いつもいつも风息に合わせてくれている无限に対して、何も返せないのを歯痒いと思っていたのだ。せめて不快感を与えないよう、努力することで返したい。风息は決意にぐっとこぶしを固める。
「待ってろよ无限、キスしても痛くない舌に俺はなるからな」
そして、风息の特訓が始まったのだった。
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