さもゆ
2024-12-10 01:57:33
4441文字
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【ダニレオ】ゴースト/ジーザス

1.ワンドロワンライお題『幽霊』
2.ダニレオの70歩手前。

2021.12.29 たまごのお粥pixiv投稿作品

左耳のやつもいる


 ウワァアァと明らかに他人の顔を見た途端情けない悲鳴をあげて素早く踵を返した糸目のガキの襟首を引っ掴んで引き寄せた。やめてください、離してください、勘弁してください、プリーズ三拍子を首が絞まりながらも連呼する活きの良さったらない。あんまりうるさいし体裁が良くないもんだから肩に腕を回して抱き寄せ黙らせる。「よォライブラの。お前にゃ前から訊きてえことがあったんだ」無能の集まりと言われても元は紐育を取り締まっていた警察だ、一般人ひとり押さえ込むのは簡単で、俺の片腕に押さえ込まれた限りなく特殊な一般人はサッと顔を青褪めさせて視線を逸らした。
「ぼ、ぼく何にも知りません。HLPDの警部補に教えられることなんて、なんにも」
「そうか? 合同作戦の時からやけに熱心に俺を見てたろ」
「み、見てません。ああ、ええと、み、見てました。前髪があんまり、その、素敵だなって、みみ見惚れてました」
「ライブラは人心掌握の仕方を教えてねえのか? よせよ、照れちまうだろ」
「いやーっほんっと素敵だナー! 前々から思ってたんすよ、カッコもだけど、やっぱこの街で生身で挑む志っていうんすか? マジ尊敬するっす! いつもありがとうございます! それじゃあ僕はこのへんでお暇」
「お前、見えてるな?」
 仕方を教えてもらっていないらしい人心掌握に挑戦していたガキはぐっと口を噤んだ。相変わらず、開いてるんだか閉じてるんだか分かりゃしない糸目は、決してこちらを向こうとしない。うねる癖毛に隠れがちな耳たぶに唇を寄せ、再度訊ねた。ほぼほぼ確定事項だ。
「見えてるんだな? お前にはどんなふうに見えてる」
……な、なんの話……
「“血塗れ男爵”の話だよ」
 ようやく糸目がハッとして俺を見上げた。すぐに視線を逸らし、ついさっきまで離れようとしていた腕を半ば縋るように掴んでくる。「ま、ま、まさか警部補も見える側の人っすか。そりゃ、そうっすよね。そういうなんか、特殊な部分ないと、ここじゃやってけないっすよね。特殊な目をお持ちで?」
「いや、俺には見えてねえ」言うと、またこちらを見上げて間抜けにぽかんと口を開ける様を、俺は大丈夫かこいつと見下ろして続けた。「勝手に結論出して質問しねえ方がいいぞ。なるほど、ただのガキじゃねえと思ってたが、特殊な目を持ってるってわけか。うちにも欲しいぜ、そーいうの」
 おぎゃあああ! 間抜けに開いていた口から悲鳴が飛び出る。「騙した! だ、騙したんすね、幼気な一般人を! 警察が!」
「幽霊が見えるのを一般人とは言わねーだろ」
「でも騙したことには変わりなっ――……ゆ、幽霊って。じゃあやっぱり、警部補も」見えてるんじゃないんですか、俺の肩の右上辺りを見上げながら言う。
「生憎と」右耳に指を突っ込む。「見えちゃいねえが、聞こえちゃいるんだ。昔っから右耳だけ」
……き、聞こえるって、何が」
「幽霊の声。たぶんな。見たことねえから断言できねえが。でも幽霊なんだろ?」
「た、たぶん。僕はもとから見えてたわけじゃないんで……でも異界人でもないし生きた人間でもない、幽霊だと思って見てました、はい。声が聞こえるんすか? 僕、聞こえはしなくて……なんかすごい怒ってるみたいなんすけど……
「野太い声がすっからな。ありゃ男爵が悪いだろ、大人しく死んどきゃいいものを」
「いえ、おばさんっす」
「は?」
「恰幅の良いおばさんっす。血塗れの。やけに背の高い。く、首が。ちぎれそうな」
「あー、ああ……? あ、そっちか! 声からして男かと! そりゃ事件内容と合わねえわけだ」
「ほんとに見えはしないんすね……
「しかも全部が明瞭に聞こえるわけじゃねーからな。雑音だぜ、こんなん」
「おお怒ってますよ、首、首が。ヒイッ」
 何かショッキングなものを見たのか腕に縋るどころかぐいぐいトレンチコートの内側に顔を突っ込み、下手くそに顔を隠す。「どうしよう俺きょう一人で髪洗えな、……、たばこくさ」
「勝手に受動喫煙すんな」
 ぐいとガキを追いやる。俺からようやく離された糸目は、身震いして「どうするんすか」と言った。
「髪くらい一人で洗えよ。むしろお前が怖がる理由が分からん。俺だろ」
「いやそーじゃなくて。その幽霊、どーするんすか」
「放っとく。何もできねえ。いつもそうやってきたからな」
「じゃあ何でわざわざ僕に確認したんすか!」
「気持ちわりいだろ。よく分かんねえもんが張りついてんのは。幽霊だって分かっただけ儲けもんだ。ありがとよ」
「わ、分かんねえー、それこそ分かんねえ」
 ぼやく特殊な目を持った少年に、それ以上未練もなくじゃーなと言って踵を返そうとすれば、コートの背中を引っ張られた。首だけで見れば、解放されて嬉しいはずの糸目がぐっと顔を引きつらせ俺のコートを掴んでいる。「何だ」
「め、目が合ってるんすけど。ずっと。ちぎれかけた首の、ガン開きのおばさんの目と」
「そいつは……」怖いだろうな。
「完全に視線が合っちゃってるんです。こんなん、離れたって感じますよ。僕の目はそーいう目なんです」
「はあ、それで」
「見えないのに視線を感じるよりは、見えながら視線感じる方がマシっす。気持ちわりいでしょ、一人暮らしの部屋でずっとおばさんの視線感じるのは」
「つまり?」
「い、一緒にいてください」
「分かんねえー」
 幽霊から見られているのが怖いのに、その幽霊が張りついている男と一緒にいるってのか。そっちの方がホラーだ。