兎人
2024-12-10 00:56:00
1256文字
Public TRPG
 

豊志賀憑き【ひかおき】

ひかおきSS。
お題は《初恋》!ありがとうございました!

 初恋は不変であり自在である。それは檸檬の味だとか、磨りガラスの輝きだとか、鉛のような重さだとか人によって形を変え、記憶の底へ揺蕩い続ける。ではそれが望まぬ傷となったら、果たして恋と言えるのだろうか。
「おーい。どうしたんだよ?寝不足?」
「あァ、悪いね。ちっとばかし考え事サ」
 稽古や寄席以外の休日も良いだろう……とカフェのメニューを眺めていた。そこでこの江國に声をかけられたのだ。どういう巡り合わせか、この乱暴者とはよく顔を合わせる。
 目の前をひらひら舞う江國の手を、稲神は鬱陶しそうに退けた。
「んで何だ。初恋の話だったか?お前さんから生娘みてェな言葉を聞くなんざ思わなかったよ」
「だってそういう話、した事なかったじゃん?たまには恋バナしよ!って気遣いだよ」
 江國はケラケラ笑いながら、大きな口でアップルパイを頬張る。顔を合わせるだけで腹立たしかった相手と茶を嗜むなど、少し前なら考えられなかった。自分も少しは丸くなったかと息を吐いてカップを傾ける。
「アタシにも昔はあったよ。初恋」
「へぇ?何か意外かも。どんくらい昔?」
「幼稚園の頃だったと思うけどね。……今となっちゃ、アレが初恋かも怪しいモンだが」
 そうして稲神は淡々と、しかし朗々と語る。