ガイベル
2024-12-08 17:50:37
6113文字
Public お話
 

大丈夫、

2023.11.27
原作の流れでバジルの解釈や視点を固めようとしていたときの残骸,
CP色無し(おそらく),支部投稿時より加筆有
+本文と同じくらい長そうな当時のメモと雑談

今日も何もできなかった。



みんなが散り散りになってしまったあの日から、どれほど時が過ぎただろうか。
大事な友達は、もう友達と呼んで良いのかさえわからなくなった。ぼくの周りにはもう、物言わぬ花たちしか残っていない。
唯一近くにいる肉親のおばあちゃんも最近は体調が芳しくない。会話らしい会話を最後にできたのは、いつだったろうか。
花の世話をしているときだけ、嫌な事から逃れられるような、無心でいられるような気がしている。
だって大好きなことだから。
……ううん、きっと厳密にはそれも違う。
──この子たちには、自分が必要だから。
ぼくがお世話をしないと、枯れて死んでしまうのだから。
だから、ぼくは大丈夫。



いつからか。いや、本当はわかっている。
あのアルバムを取られてから。
オーブリーちゃんはそれを返してくれない代わりに、ひどく辛辣な態度をするようになった。そしてそれに倣うように、周りの子たちもぼくにそうなっていった。
たとえば押し除けられたり、あるいは棘の含んだ言葉だったり。鈍い痛みが体のそこかしこから悲鳴をあげている気がする。

 大丈夫、落ち着いて。

宝物のアルバムのあれは、もちろん自分がやった事じゃない。わかってる。本当はわかっている。
誰がやったのかも、知っている。
本当に?
でも、ぼくがやっていないって、それを言って何になる?誰が救われる?
 大丈夫、落ち着いて。
だから、そう、きっと。
あいつがやったんだ。全部、全部。
本当に?
……大丈夫、落ち着いて。


久々にサニーくんを見た。
昔はいつも1番近くにいたような気がする親友に、今になってみると何を言えばいいのか全くわからない。
昔、一緒に新しい思い出を作ろう?と伸ばした手を拒絶された日から、ぼくの思考も黒く塗りつぶされてしまって、よく思い出せない。
友達にはどう接すればよかったんだっけ。
それでも、サニーくんはケルくんと一緒に、アルバムを取り返してくれた。やっぱり彼らは、
……彼は、とても優しい。


ケルくんにせがまれてしかたなく震える手で開いたぼくのアルバムは、思いがけず昔のように綺麗なアルバムになっていた。信じがたい気持ちながらも、こんな事ができるのは、1人しかいないと思った。
……オーブリーちゃん。
まだ、……また、話をできるって思っていいのかな。
オーブリーちゃんが綺麗にして、サニーくとケルくんが取り戻してくれた、このアルバムをよすがにできるだろうか。
戻れるかな。
もしも話ができたらもう少しだけ、あのときみたいに。
久しぶりに少し心が軽くなり、自然に笑えたような気がする。

このアルバムはサニーくんに持っていてもらおう。
そうしたら、もう大丈夫、きっと



普段のぼくの家の様子とは打って変わって会話のある賑やかな食卓に、落ち着かない気分になりながらも、少しだけ希望が持てたおかげなのかいつもより少し食べる気力も湧いてきた。
野菜のスープは優しい味がしている。
こうやって少しずつ、元に戻れるのかな。

……そう、思ったのに。
……
数日後、サニーくんは引っ越すという。
ぼくを置いて。
そんなこと、聞いていなかった。
いや、聞いた、っけ?本当に?でもどうして、なんで。
どうして、そんな事ができるの?

頭がそれを理解しようとすると、胃から食べたものが競り上がってくる感覚がする。喉から口に、酸っぱい胃液のような味が広がる。
まずい、まずいまずいまずい。
冷や汗が吹き出る。気を緩めたら目の前の食卓に全てをぶち撒いてしまいそうだ。腹と口を押さえ、言葉少なにトイレへと急ぐ。
……かろうじて、みんなの前で失態を犯す事はせずに済んだ。
ようやく戻ってきた、もう戻らない日々の……
最後の希望になるとも思えたアルバムは、彼に預けることにしたばかりだというのに。
彼自身が、この町から去るという。

またしても、ぼくの手には何も残らない。
期待と希望が出た、かぼそい蜘蛛糸をようやく手に掴んだと思ったら、またすぐに一番下まで突き落とされたような気持ちになった。

ぼくの様子を見にきたサニーくんに、咄嗟に助けを求めたけれど、怯えた表情をした彼はぼくの言葉が届いていないかのように、逃げるように去って行った。
ひとりぼっちになった部屋は空寒く、ただ暗い影が満ちている。ひとり。
ひとりだ。
今までと、同じだ。


……なんだか、疲れたな。



それから日が明けて、ぼくは思い出に縋るように、ふらふらと秘密のたまり場に来ていた。

ここで昔、みんなでピクニックをしたり、サニーくんと湖を見ながら2人で話をした、と思う。
もう何を話したかなんて忘れてしまったけど、そのときひどく幸せだった事はまだなんとなく覚えている。
ぼんやりと立ち尽くしていたら、いつのまにか騒がしい声が聞こえてきた。どうやらオーブリーちゃんたちのグループのようだ。
ぼくの存在を認めるなり、みんなのたまり場に邪魔者はいらない、出て行けと言う。
なんだろう、邪魔者って……ぼくのことか。でも。

心臓がバクバクする。声が震える。
たくさんの目がぼくを見ている。
どうしようもなくなって、がむしゃらに助けを呼んだ。そうしてさらに騒がしくなって、誰かが言い合いをしている音が重なり出す。
ぼくは混乱のまま何もできずに立ち尽くしていたけど、少しずつ今この場にいるのが、この場にたどり着いたのが、ぼくの大事だったみんなだという事を理解してきた。
もし今、オーブリーが、……彼女が話を聞いてくれれば。
彼女とちゃんと話ができれば、そうしたら。
これが、本当にサニーと離れ離れになる前の最後のチャンスかもしれない。そう思ってぼくは思わず彼女に追い縋る。


後方に飛ばされ、湖に落ちる。
元々泳げない事もあったが、さらに昨日のことや寝不足、今の焦りもあって体力がすぐ底をつき、浮く事もできない。もがいたけれど、結局、ぼくはそのまま沈むように溺れた。



……どうやら助かったらしい事がわかったのは、自分の部屋の天井がうっすらと視界に入った時だった。
近くに大切な人の気配がする。
溜まり場での行動も結局、うまくはいかなかった。

『サニーくん……
もう……逃げようがないのかな?』

それが声になったかどうかもわからない。
そうして混濁する意識を手放した。

現実にあったはずのことたちが、全部悪い夢だったんじゃないかと思うこともあるけど。

──ぼくは本当は、今も。
眠ったあとでも、夢を見れないでいる。



おばあちゃんが亡くなった。
ぼくが溺れた次の日。
病院に駆けつけはしたが、ぼくは何もできなかった。
もし自分がもっと動けたとしたら、何かできる事があっただろうか。
そんな事、考えても仕方がないことなのはわかる。でも、何もない。結局何もなくなってしまった。

自分が良かれと思ってする事も、状況を悪化させ、役に立たず、相手を困らせることばかり。
どうしてだろう。
どうして、こうなっちゃったのかな。

いつも目の前の、手の中にあるはずの一番大事なものを守りたかっただけなのに。
結局、全部自分の掌からこぼれ落ちてしまう。



這いずる影は日に日に強くなっている。
昔、あの時は彼の後ろに立っていたはずなのに、今ではなぜかぼくの中から這い出ているようにも見えて、背筋がひんやりとする。
出て行って。出ていけ。僕の中から、彼の背後から、出て行ってよ。

"だって全部全部、お前がやったこと"
"お前のせいだ"

それは自分から『なにか』へと発せられた言葉なのか、影である『なにか』から、自分に向かって言われている言葉なのかどうかも、わからなかった。


……自分の中から這い出るようになったこれは、たとえばお腹を刺せば出ていくだろうか。

そうだ、そうしよう。
なぜ、今まで気づかなかったのだろう。
そうしたら、きっとあいつはいなくなる。
全ての事がうまくいく。
もう誰も、傷つく事もなくなる。
悪い夢は悪い夢として、忘れることができる。

今まですごくすごく疲れたけど、ここであいつをやっつけられればきっと、ようやく自由になれる。
そうしたら、彼が。サニーくんが、怯えた目をすることもなくなるだろう。
ぼくが守らなくちゃいけないんだ。

大丈夫、落ち着いて。

思いっきり、ひと思いに。それで、全部終わるんだ。全部、終わるから。

ぼくに張り付く影も、サニーくんの後ろの何かも、全部全部やっつけるんだ。
大丈夫。大丈夫。大丈夫。


ぼくはまた一つ深呼吸すると、使い慣れた園芸バサミを手に取った。


『──大丈夫、きっとうまくいく』


end.