こしょこしょ声の読み聞かせ

チャ家とハイ家の子育て日記です。

 チャンドラが仕事をしすぎて有給が溜まっており、上役から少しは休むようにと指導されたと、ウィークデーに休みを取った。
 ハインライン家では第二子のソーマが生後六ヶ月。アルバートは急にねじ込まれたオーブ政府からの案件で仕事が立て込んでおり昨日から研究所に詰めているという。現在はノイマンが一年間の育休を取ってメインで育児をしているが連日の夜泣き対応で草臥れ果てており、チャンドラも休みだし、ランチをご馳走するからみんなでうちに来てゆっくりしたらどうかとメッセージを送ったところ二つ返事でお世話になります! と返信が来た。
 赤ん坊と、元気なコーディネイターの二歳児を抱えてヘロヘロになってチャンドラ家にやって来たノイマンは見るからに疲れており、コノエが子守りを引き受けるとリビングのソファーでうたた寝を始めた。
 まだ寝返りも出来ないソーマはともかく、二歳児のナタルがとにかくやんちゃで、一瞬でも目を離すと命に関わる危険な遊びをしていて、仕事より精神が擦り減ると言う。
 ましてナタルは極めて健康優良なコーディネイターの二歳児なので力も強いし俊敏で、その力の加減も身につけておらず不用意にソーマに触れさせると怪我をさせる恐れもあり、その辺りにも注意をしておかなければならない。
 ノイマンはナチュラルなのでコーディネイターの娘に手加減を教えるのも難しいようで悩みながらも日々育児に奮闘していると言うわけだ。
 ソファーで寝入ってしまったノイマンにチャンドラがブランケットをかけてやっているのを見ながら、七歳になったセレネに二歳児のナタルの手を引いてもらい、コノエはソーマを抱いて庭に出た。
 子どもが歩けるようになってから、庭の薔薇の蔦を絡ませたパーゴラの下に大きなソファとテーブルを設置した。天気のいい日はこの日影で絵本を読んだり、パズル感覚で出来る教材を使って勉強を教えたりしている。
 オーブは一年を通して温暖で、日影を作っておけば心地よい風が吹いて長時間外で過ごすことができる。
 ソーマがもう少し大きくなったらブランコや滑り台などの遊具を導入するのも良いだろう。
 セレネの教材のパズルをテーブルの上に広げて遊び始めると、二歳のナタルもほぼ完全に理解している様子で、流石ハインラインの娘だと遺伝子の強さを実感する。
 それにしても、仲良く遊ぶ娘達、可愛い。
 ナタルはセレネと遊ぶとお姉さんぶりたくなるようで、かなりおとなしくなるから助かる。とノイマンは言う。

 しばらく遊ばせていると、チャンドラが庭に出て来た。
「アレクセイ、ソーマは家の中で寝かせますよ。一人で三人もみるのは大変でしょう」
「今のところ大人しいから大丈夫そうだが。ダリダも少しは休んだらどうだ。働きすぎだと怒られたんだろう?」
「あんまり疲れてる感じは無いんですけどね~」
「なら良いが。ソーマは眠たそうだから寝かせてもらおうか。ランチを作る間はここを交代してくれ」
「了解です。二人とも、ノイマンが寝てるから静かにな」
 チャンドラがセレネとナタルに言うと声を合わせて「はーい!」と返事をする。かわいい。
 ソーマを受け取って家の中に入って行くチャンドラを見送り、コノエは娘達に提案した。
「砂浜まで散歩に行こうか」
 闊達な娘達は目を輝かせて「行く!」と答えた。
 
 砂浜を駆け回って遊んだ娘達を連れ帰り、庭の水道で砂だらけの手脚とサンダルを洗って、着替えさせた。
 水分補給をさせると、また庭で遊ぶと言ってハロを全部連れて庭に出た。
 コノエは書斎のチャンドラに声をかけて庭に出てもらい、交代でキッチンに入ってランチの支度をする。
 リビングではソファーでノイマンとソーマが二人で安らかな寝息をたてている。
 庭に出たチャンドラは娘達に絵本を読んでとせがまれてリビングに入ってきた。ノイマン達が寝ているソファーの近くで絵本を持った娘達が二人。
 ノイマンとソーマが寝ているから大きな声を出さないようにとチャンドラが注意すると娘達はまたハモって「はぁい」と小声で言った。
 チャンドラは静かにノイマンの隣に座ると二人を起こさないように小さな声で絵本を読み始めた。
 十一匹の猫が魚を獲りに行くというベストセラー絵本を小さな声で読み聞かせている。
 いつもと違うこしょこしょ声の読み聞かせは子ども達には楽しいようで、笑ってしまわないように両手で口を押さえてニコニコしながら聴いている。
 ただ、声が小さいせいか、午前中たくさん身体を動かして遊んだせいか、こしょこしょ声の読み聞かせは眠気を誘ったようでいつの間にかみんな眠ってしまっていた。
 チャンドラとノイマンの為のミールキット焼きそば、セレネとナタルの為の幼児用パンケーキ、ソーマのミルクが出来たのでランチにしようと呼びかけるためにリビングに来ると全員がソファーで寝ていた。
 座ったまま眠るノイマンと、その膝の上に向かい合って抱かれ、眠るソーマ。ノイマンの隣にはチャンドラが座って眠り、ナタルはチャンドラの膝枕で仰向けに、セレネはチャンドラにもたれかかって寝ている。
 コノエはランチの完成を知らせるのは止めて小声でハロ達を呼んだ。
「ハロ、録画だ。写真撮影も頼む」
 ハロ達は口々に最小音量で「マカセトケー!」と口ずさみ録画と撮影を始める。
 また、エプロンのポケットから端末を取り出すとカメラアプリを起動して写真を撮る。
 その画像をハインラインへのメッセージに添付して「天使たちのお昼寝だ。早く帰って来て直に見たほうが良い」と送信した。一分もしないうちに「今すぐ帰ります」とだけ返信が来た。
 研究所からチャンドラ家までどんなに急いでも十五分はかかるがどのくらいで帰ってくるのか楽しみだ。
 おそらく今日は八分を切ると見込んでいる。