ぎん
2024-12-02 00:15:23
3045文字
Public うちよそ話
 

若き冒険者と小悪党  ギンside

暴力/暴言 キア君とギン君の絡み



 砂の都『ウルダハ』そう呼ばれるここは周り一帯が荒野で囲まれている。昼は乾いた空気と灼熱の暑さ、夜がくれば空気は一気に代わり荒野の寒さと月の冷たさが身に染みる。それでも都市ウルダハにあるサファイアアベニュー国際市場は朝も夜も変わらずいつものように人で賑わっていた。

「チッしけてんな」

 サファイアアベニュー国際市場から外れ、少し路地に入ると、気怠そうにそう呟く青年が木箱に寄りかかりながら財布の中身を漁っている。彼の名は『ギン』ウルダハじゃちょっとばかり名が知られている小悪党である。日中はいつものようにサファイアアベニュー国際市場に来ては新米冒険者や気の弱そうな旅人、商人を狙い財布をスっていく。今回の獲物カモの財布の中にははした金しか入っていなかったが。

「商人ぽい見た目の割に全然金がねぇのな」

 ため息をついてその辺に財布を捨てる。今日のノルマまでは程遠い金額だ。指折り数え、あと何人スればいいのか考えスリをする為に場所を変える。移動している間にめぼしい獲物カモを探すのだ。ふと目についた身なりの整ったミコッテ族が1人でサファイアアベニュー国際市場で買い物しているのが見えた。冒険者だろうか?しっかりと整った身なりなのにまだ幼なさが残る顔立ち。藍髪に赤いメッシュが入っており肩まで伸びた髪が風にふかれ微かに靡いている。
 個人の第一印象としては金持ってそうでムカつく。きっと甘やかして育てられたのであろう、何も知らないような真っ直ぐな瞳が少しだけギンの心を苛立たせた。ギンは獲物カモを見つけたと言わんばかりに青髪のミコッテ族の後をつけていく。タイミングさえ間違えなければちょろい相手だ。お互いの距離を離し、様子を伺う。

「おにーさんいいお店あるよ!そこのお兄さんもどうだい?」

 そのミコッテ族は怪しげな男に話しかけられて足を止める。ギンも同時に少しだけ物陰に身を隠し、様子を伺う。ここからだと声は途切れ途切れでしか聞こえないがどうやら日中からそういう店への案内をしているらしい。ちらっとのぞいて声をかけた方を見ると、ここら辺じゃあまり見ない組み合わせの二人組だった。

「どう見てもあの2人はロクな生き方をしていないだろ。日中からそんな店に誘うやつなんか誘拐目的か日中から盛ってる奴なのか……

 馬鹿らしいと鼻で笑う。そんな見え透いた罠にわざわざ素直に行くなんて言う奴はいないだろう。そう思い、また様子を伺うために顔を出す。

「そうそう!お兄さんにぴったりのお店があるよ!」
「そうか、では案内を頼む」

 ギンの耳にははっきりと、案内を頼むという言葉が耳に入った。驚きを隠せず「マジ?」という声が出た。本当にバカなのか、それともそういうものに興味がある年頃なのか。自分より歳が下に見える少年の背中をギンは口を少し開けて見る。

「毎度あり〜」

 長身の男が意地の悪い笑みを浮かべ、少し奥のララフェルがニタリ顔を浮かべた気がした。ギンがそれを見逃すはずもなく、案内されて行くのを遠目に見送り、物陰で屈み込む。最悪だ。自分の勘が正しければあれは略取だ。よりによってその現場を見てしまった。あの道は入り組んだ道になっていて今から銅刃団を呼んだとしても、着いた頃にはもう誘拐なり殺されるなり犯されてる最中だろう。
 ギンは深いため息をつく。騙された方が悪いと思う自分と、ここで助けなきゃ夢見が悪くなると思う自分が居るからだ。大人とかならザマーミロと思うのだが、明らかに自分より年下に見える少年が連れて行かれたのだ。黙って見過ごす訳にはいかない。ギンは3人の後を追って、慣れた路地裏へと歩みを進めていった。

***

 3人の背中を追いかけ、他に仲間が居ないことを確認する。彼らが選んだ行き止まりは入り組んだ場所で仲間が潜んでてもおかしくないからだ。ギンは息を殺し、様子を伺う。

「何故こんな路地裏に?こんな場所にいい店なんてあるとは思えないのだが

 そう相手に話しかけるミコッテを制圧し、1人の男が縄で縛る。きつめに縛られて、身動きが取れない状態にされる。

「何をッ!」
「まんまと騙されてバカじゃねーの!ウルダハでの生き方を身体に教えてやるよ」

 高笑いをする長身の男に、ミコッテは相手を睨む。本当にただ騙されただけなんだなとこの辺りで理解する。他に仲間が出てくるような雰囲気もなく、相手は2人だけだとわかればこっちのものだ。ギンはいきなり影から飛び出し、長身の男の方を蹴り飛ばす。何が起こってるのかわからない男はフラリとよろける。ギンはすかさずもう一度頭の方に蹴りをお見舞いする。地面に倒れているのを確認してから、ギンはララフェルの方を見た。

「あ、あいつは!」

 たじろぐララフェルを見て、少しでも自分の事を知ってる奴なんだろうと分かれば軽く睨みを利かせる。縛られているミコッテの前に立てば、蹴られた男は頭をクラクラさせながら起きあがろうと躍起になっている。

「誰の許可取ってこんな事してんだよゴミが」
はぁ!?此処で許可なんて

 食ってかかってきた男の拳を避け、ギンはもう一度脚に蹴りをお見舞いする。よろけた所で顔面に一撃を喰らわせれば後ろに倒れる。ギンは見下した目で男を見ては、雑魚だなと鼻で笑う。

「あれ、此処らじゃ噂のヤツだよ!逃げるぞ!」
クソッ!」

 ララフェルが男を止めて、半ば半強制的に引き摺るようにその場を離れていく。逃げていく後姿を見ながら、ギンは呆れ気味に肩透かしすぎると思いつつ、芋虫のように地面に転がっているミコッテの縄を切るためにしゃがんで、自分のポケットからナイフを取り出して縄を切る。

……助けて、くれたのか?」

 赤と黄のオッドアイの瞳がこちらを覗くように、ホッとした顔で声をかけてくる。

「そんなんじゃねぇよ、ただムシャクシャしてただけだ」

 別に助けたかった訳じゃない。自分がアレを見逃して嫌な思いをしたくなかっただけだ。ただそれだけ。当たり前のようにお礼を言われるような事はしていない。袖で口を拭い、吐き捨てるようにギンは相手に言った。

「わかったからさっさとあっちにいけ」
「すまない、すぐ行く」

 ギンはミコッテにここから去るように空中で手を払う。表通りに出るなら左いって右行って、少し歩いて左行けばサファイアアベニュー国際市場に行けると教えたら、軽く洋服の土埃を払い、慌てて目の前から消えていった。

「本当にムカつく野郎だな、何も知らねー無知野郎ガキが、保護者なしでウルダハなんか歩いてんじゃねーよ」

 走り去る背中を見て、ギンはボヤく。表しか知らないヒトを見ると、自分は如何に惨めに生きてきたか少しだけ考えてしまう。何も知らないに越したことはないのは確かだが、それでも自分の過去の境遇と比べてしまう。走り去ったのを確認して、その辺に転がった木箱を蹴り、ギンはまた裏路地に消えて行った。