氷紀
2024-11-28 17:15:08
6507文字
Public とある息子たちの話
 

その手に委ねて、ひとやすみ

ゲ謎派生パラレルワールドの〓×6期の👹 『とある~』シリーズの続き。
彼らにとって髪の意味するもの。まだまだぐずぐず中。

 窓の外は曇り空で、ぽかりと白い光を部屋に投げかけてくる。
 その雲と同じくらい、そのひとの髪は白い。
 まさに白髪と言える色なんだけれど、よく目をこらしてみれば、白髪の中に幾筋かの銀が混ざっているのが分かる。
 僕たちを二人まとめて覆う繭の中、僕は白いひと束を手のひらにすくって、銀糸を探り当てる。一本、二本――数え終わったらまた別のところをすくって、また数えて。
 そうして何度数えてみても、その割合は、僕の栗色の中に混ざる金糸の割合と、全く同じ。少しだけくすぐったい気分になった。本当に、そのひとが『とある未来の僕』なんだって感じたから。
……何してるんだァ?」
 寝起きのぼんやりした声が問いかけてきた。僕はちいさく笑って、答える。
「割合、同じなんだな……って」
「あー……
 僕とそっくりの笑い方で、そのひとも笑う。白髪に混ざる銀髪の本数を数えていた、とは言わなくても伝わったんだろう。そのひとは白い繭の中で、僕をやんわりと抱え直した。
「色、変わっちまったけどサ。やっぱり元々は、お前と一緒だから」
「白も、いいなって思います」
「そう? 父さんには残念がられたけど」
 それは前に聞いた話だ。数少ない母さんの名残が消えてしまったと思えば、確かに分からなくはない。
「あなたは、どう思いますか? 自分の髪の、色」
「んー……
 この上なくあいまいな声がする。それからたっぷり十秒くらいかけて考えて、そのひとはため息交じりに吐き出した。
「悪くはない、かな。人間の中に混ざってても、まだ言い訳の効く色だし……水色とか緑青色とかよりはネ」
 蛍光ピンクの髪を想像して、少し笑う。そういえば、美容師見習いとかバンドやってるとかで言い訳できる範囲ってどれくらいなんだろう、と想像してみたけど、僕にはよく分からなかった。
「それに……父さんと同じ色だって、思えば。そのこと自体は、悪くないナって思ってるヨ。この生まれからは逃げられない、って証でもあるけど……
 この世界がなかなか予断を許さない状況であることは、僕にも察しがつく。『鬼太郎』として生まれついてしまったことからは、そのひとも逃げられないんだ。僕と同じように。
 また指先で白をすくいあげる。触った感触も、僕の髪と全く同じだ。
「僕は……なんだか、憧れちゃいますね」
「え、なんで?」
「きれいだから。それに、……僕を包んでくれる髪、だから」
 空に浮かぶ雲。まぶしすぎる太陽から、そっと僕をかばってくれる色。
 今も、髪を通じて全身に流れ込んでくる力が心地いい。
「一番安心する色、……かも、しれません。今の僕には」
「だったら、嬉しいナ。僕の力が、殺し合い以外の役に立つっていうのはサ」
 そのひとの言葉に嘘はない、と声音で理解する。でも、聞いた僕の気分は少し複雑だった。
 一度からっぽになってしまった僕の器は、なかなか満ちてこない。
 元の器の大きさに対して、回復能力が全く追いついていない、と前にそのひとが教えてくれた。本来なら、何か食べたり、天地の気を取り込んだりして自分で自分を癒やせるはずが、元の世界で無茶をしすぎたせいで、自分を癒やす力そのものが、上手く働かなくなってしまったらしいのだ。
 僕の霊力の器が湯船で、天地の霊力が水道の水で、癒やす力の作用を蛇口だとするなら――今の僕は、冷え切った蛇口の中で水が凍って、細い水しか出せず、なかなか湯船に水が貯まっていかないような状態だという。それを元に戻すには、温めて蛇口を溶かす、つまり外から力を注いで、癒やす力が動き出すのを待つしかない、ということだ。
 それでもマシになってはいる。この世界に来たばかりの頃は、このたとえでいうなら『湯船にヒビが入って水漏れ』している上に、『蛇口が完全に詰まりきって』いて、放っておけば僕は渇ききって死んでしまうかもしれない、ギリギリのところだったという。癒やす力が止まる、とはそれくらいに危険なことなのだ。
 だから今も、そのひとは僕に力を分けてくれている。僕が乾かないように自分の水を分けながら、蛇口を温め続けてくれている。
 いつまで続くんだろう、と思った。
 僕の後ろ髪の長さは相変わらず、背中と腰の境目より短くはならない。欲しい、食べたいという餓えた感覚も、やっぱり体と心の奥底に疼き続けている。……ひと束だけ絡めた髪から考えたが伝わったのか、そのひとはぽつりと答えてくれた。
「湯船のヒビは、割と早く治ったけどな。蛇口の方がまだまだ」
 白い繭の中、そのひとの指先が、僕の髪をそうっと梳いた。
 背中と腰の境目まで指先を通して、するりと抜ける。
……お前の実感としては、楽になってはいる、よな?」
「前に比べれば、ずっと。人混みに出ても、めまいには襲われなくなりましたし……でも、そうか。水がたまってないから、力を使おうとすると……
「焦んなくていい、……って僕が言うのは、少し卑怯かナ」
 そのひとの声にも苦笑が宿る。髪から伝わる霊力に、ほんのすこし苦い気配が混ざった。僕にとってはなぐさめのような、甘いものだけど。
「けど、まだ放してやるわけにはいかないヨ。今無理矢理帰っても、早晩逆戻りだと思うネ」
「ですよね、きっと」
 言い訳かもしれない、という想いもきっと同じだろう。
 一緒にいるのが心地よすぎて、離れたくない気持ちがどうしてもあるから。だから今だけ、もう少しだけ、ここにいたい。
 居させてほしい。
……ん、」
 頭のてっぺんに優しい唇が触れて、僕は気がつけば笑っていた。そのひとの呼吸にも混ざる微かな笑みの気配に、深い安心感がやってくる。
 ほとんど同じ気配を持って、同じように愛された記憶を持って、同じ重さの痛みと苦しみを背負ったひとに、ただ抱きしめられているだけ。
 それがこんなにも暖かいって、僕はそのひとに出会って初めて知った。
 体や霊力の感覚だけじゃない。心も、もっと深い魂も、全部やわらかく包まれている気がして、またとろとろと、眠りの気配がやってくる。
……ありがとう」
 つぶやいた一言は、ちゃんと音になっただろうか。
 僕は小さく息をつくと、そのまま眠りの淵に沈んでいった。