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いぬみ
2024-02-20 20:15:10
10307文字
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逆裁
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あなたを歌にして
6後のオドキョ、成立済み
6後にデレが強くなるおデコとさみしくてちょっとセンチメンタル気味響也の話。
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2
歌詞を見せた時、メンバーは全員「めずらしい」と口を揃えた。
「お前が選ぶテーマにしては」
「歌詞の構成も雰囲気も、なんかいつもと違うな」
自覚はしていた。見返して、思わず自分を疑ってしまうほどに。それでも変える気は起きなかった。
「でも悪くない。フレーズの響きに合ってる」
「今回もウケるぜ。この曲」
高音と低音が組み入れられ、反響し、心に訴えかけるようなメロディー。シンプルで、切なくも激しい。ジャンルとしてはロッカバラードになる。
──テーマは、別離。ぼくにしては難産な仕上がりだった。
もちろん今までだって、出会いやときめきだけじゃなく、別れや寂しさを匂わせることは多くあった。しかし、深堀りして書きとめたことはない。ほのめかすことはあっても、全編通してというのは、しなかった。そして、どんな歌詞でも、書いた本人と言えども共感や実感をこめないようにしていた。
ぼくは歌詞も曲も、思いつくままを書くようにしている。取り留めもなく想像したことを、いい感じのフレーズでまとめて、生まれゆくリズムに乗せていくのが常だった。ぼく自身の体験とは別のところにある出来事を、目で追ってつかまえるイメージ。そう、ちょうど事件の推理をするのと同じだ。〝第三者〟から見つめてみる感じ。
自身の体験をもとにはしない。他人の経験を聞いて、影響を受けて書いたことはあるけれど。そもそもそういう経験はないし、〝特定の子を作る〟ことに興味は持てなかった。かっこいい、ステキだ、と、憧れや感動で振り向いてもらうぐらいがちょうどよく思う。
だからだろうか、ぼくの歌詞は時々『リアリティがない』と言われることがあった。夢物語だ、非現実的だ。〝ロマンティック〟の裏返しは、〝現実味がない〟という批判に落ち着く。それでもかまわなかった、どころかむしろ、ぼくの目指すところだった。
仕事上、生々しい色恋沙汰、もつれた関係、愛にひそむ裏切りなんかも暴くことがある。確かに実体験はないが、リアルを知らないわけではない。知っているからこそ、かもしれない。
曲の中ぐらいは、都合が良いぐらいがちょうどいい。リアリティがあるのもいいが、夢がないと味気ない。実体験を曲に落とし込むなんて、なんだか重たいじゃないか。音楽を追いかけて、遊んでいるあいだぐらい、気楽でいたい
……
そのポリシーで、ぼくは書き続けている。
ぼくとしては〝失恋〟のイメージで書いたフレーズが、〝死別〟にとられたりする。そして共感を生み、涙を流させ、時に人を救う。個々の受け取り方の違いを実感するのは、おもしろいと思う。その曖昧さや柔軟性を、できるだけ失わないでいたいと心がけていた。
だからハジメテなのだ。〝ダレカ〟の面影を忘れられないまま、文字に乗せるのは。
歌詞に感情を込めるなんて、〝答え〟をつけるようで避けていたのに。避けきれずに、いつのまにか、〝カレ〟を思い出していた。
メンバーにも見せた草案に、また目を通す。何度見たって、フレーズひとつひとつが、ぼくの記憶をゆさぶる。それでもやっぱり、変えるには惜しい。感覚でも実感でもそう思う。〝実感〟をいれた歌詞に湧く情の厄介さに、驚いてしまう。
ダイアンがいたらどうだったのだろう。彼は問いただしてきただろうか。ガリューらしくない、と批判するのか、受け入れるのか、あるいは無視をするのか。そもそも気づかない場合もあるかもしれない。残念ながら、彼の意見は気軽に訊ねられなくなった。率直で飾りのない彼の意見には、幾度も助けられてきたのに。あの裁判の結果には後悔もなにひとつないが、少し惜しかった。
リーダーはぼくだが、バンドの空気そのものを引き締めていたのは、ダイアンだ。趣味の方面につっぱしりがちなメンバーを抑え、ぼくがガラにもなく熱が入りすぎたときはたしなめ、ぼくの音楽へのこだわりには応えてくれた。警察関係者ばかりというのもあって年長者が多い中、ぼくと歳が近いのもあって、気安く話し合えた。兄貴肌の彼はなんだかんだ面倒見がよくて、頼りになった。やっぱりこういうときにはまっさきに、〝眉月大庵〟の名が浮かぶ。
幸い、面会は拒否されているが、手紙を送るぐらいは、譲歩されている。見直して満足がいったら刑務所に送ろうと思った。そこで、もうひとり送ったほうがいいかもしれない相手を思い出した。
牙琉霧人、ぼくのアニキ。
始めたてのころは、ファッションや在り方について細々と小言を述べられたものだが、なんだかんだ言いつつ、最終的には認めてくれていたように思う。少なくとも、せっかくだからと渡しつづけたチケットは何度か使ってくれたし、歌詞や曲も的確に批判してくれた。歌詞作りがあんまりスムーズにいかなかったときに、助言を頼んだことだってある。気の置けない兄弟仲だった(と、少なくともぼくは思っている)から、そこらへんは信頼している。
アニキなら気づくだろうな、と妙な確信を得ていた。周りからやっぱり兄弟だから感性が似ているとよく言われていた。発言なり、立ちふるまいなり。確かに昔は憧れてわざと真似てみたりもしていたけれど、成長して趣味が相反しはじめた(特に、音楽方面──アニキはクラシックが好みだが、ぼくは聞けばわかるとおりロックを愛好している──)今も、時折言われる。血なのか、育ちの影響なのか。方向性は違うけれど、根本的な性質は一緒だろうと、ぼく自身も認めている。
たぶんアニキのことだ。気づいたうえで、無視するだろう。ぼくが誰のことを考えて歌詞にしてしまったのか、その理由まで、悟ってしまうかもしれない。それは気恥ずかしくもあって、誇らしくもある、はにかむような気持ちが含まれた。
ところどころ添削をしてみたけれど、やっぱり本筋は変わらないままだった。気に入らないときは何度だって、むしろ最初から書き直す勢いで変えることだってあるけれど、今回はこのままで良さそうだ。
最初から〝テーマ〟──〝インスピレーション〟を受けた相手、事象──がすっきりまとまっているときは、大抵、こんな感じだ。記憶に新しいものはあの大学生クンを基にしたものだ。あのときは元々あった歌詞を直前に変更したから、ダイアンが憤っていたっけ。彼はあのパンツくんに会っていないから、結局ぼくが受けた〝影響〟には気づけなかったようだ。
──今回の
真相
相手
は、ダイアンとアニキしか気づけない。
歌詞を書いている時に浮かんで離れなかった男の顔を知っているのは、彼らだけだ。
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