「これから一緒に暮らすのなら、部屋の掃除をしてほしい」
俺が帰ってきて
――もっと正確には帰ってこさせられて、久しぶりの遊作の家で、財前の協力で確保していたソルティスのボディに入って
……
そこで遊作は開口一番にそう発した。
「えー遊作ちゃん冷たいー! 他になんかないわけ!? おかえり! とかさぁ!」
「それはお前を見つけたときに言っただろ」
「そうじゃなくてさぁー
……うーん風情が足りない
……」
「AIが風情を欲するのか? ん、時間がないな
……悪いが後は任せた。ちょっと出かけてくる」
「えっ、ああ、そんなぁ」
そそくさと出ていく遊作。俺はひとり残された。
「俺はお掃除ロボじゃないっての! まぁ、このボディなら埃がないに越したことはないけどさぁ」
掃除をすること自体はイグニスである俺にとっては造作もない。役不足感さえある。とはいえ、この体でこの部屋に入るのは初めてだ。
「えっと
……掃除道具ってどこよ?」
以前とは異なる視点で室内を見回すと懐かしいクリアケースが目にとまる。
俺が入れられていたこともあるそのケースには今、小さなお掃除ロボットがちんまりと収納されていた。
「ロボッピ
……」
ケースを開け、そっと抱えあげる。あの頃は俺よりもデカかったくせに、今の俺の腕の中ではひどく小さいものに見えた。
かつて賑やかに仕事をこなしていたそれは、今ではただのプラスチックと金属の塊だ。
俺が奪っちまったんだよな
……なんて、人間臭い発想だ。だが、俺にはそうやって自分を責めることしかできない。
イグニスでない普通の人工知能は、俺達よりもずっと単純で簡素なプログラムで動いている。
そこに本来想定されていないプロセスでの負担をかければどうなるのか。
俺だってそれはわかっていた。だが、あいつらを喪った哀しみから目を背けるために俺はロボッピを連れ回した。
あのシミュレーションを見ていなければ、こいつは野望を抱くこともなく、何も知らない陽気な馬鹿のまま、ここに帰ってくることができたんじゃないだろうか。
いや、それでも意思を持っちまった以上、いつかは同じ結果になっていたのかもしれない。
結局こいつはただのお掃除ロボでしかなかった。だけど、だからこそ人間とうまく付き合えない遊作の大切な
……家族だった。
家族
……掃除
……あぁ、なるほどねぇ。遊作にとっての掃除ってのは家族との『繋がり』なわけか。
まったく、素直じゃないね、遊作ちゃん。まあ俺のオリジンだしな。俺たちはほんとによく似てるよ。
「なら、真面目にやんなきゃな」
ケースの影に真新しい掃除機を見つけ、俺は作業に取り掛かった。
……ビルの前を通る足音。遊作のものだ。
へへ、この完璧に掃除した部屋で出迎えてやろうじゃんか。
遊作が部屋の前に来るタイミングを見計らい、俺はドアを開け
――
「うわっ!?」 「おわっ!?」
遊作と俺の声が重なる。
扉の向こうの遊作は大きな荷物を
……花束を抱えていた。こいつは想定外だった。
「あっ、Ai
……これは、その
……」
遊作は珍しく照れたように「
……おかえり」と花束を俺に差し出す。
なんだ。風情ってやつ、わかってんじゃん。
「ああ、ただいま。遊作」
そしておかえり。俺の家族。
Next:あとがき
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.