冬灯夜
2024-11-18 21:45:24
4335文字
Public ルミナリア
 

手紙+紡ぐ

エドリディ合同誌「紅の真砂 藍の薄ら氷」に寄稿したものその二+ポスカ
本編後、手紙を交わす冒険者達

【手紙】

 荷造りの最中、ベルが鳴る。郵便を受け取ると、いつもの香りがした。
 書類だの勧誘だのは脇に避けておいて、四通の手紙を並べた。図ったように同時に来るのだから、考えることは皆同じというわけだ。
文箱からペーパーナイフを取り出す。こんな小物、以前は必要なかったけれど、五人の旅を終えてからはきちんと用意したのだ。文箱の蓋と、曲線を帯びたペーパーナイフの柄には五つの花弁をあしらった紋章が刻印されている。これを手に取ると、自然とわくわくしてしまう。


 まずは質のいい封筒。封蝋からほんのりと甘い香りがする。凝っているな、といつも思う。
 銀色の刃を滑らせて、手紙を広げた。

『拝啓

 暑くなりましたがリディはお元気ですか?
 こんな風に書き出すのも慣れてきましたわ。うふふ。
 うーん、ですがこうして声を文字にするのはまだ難しいですわね。
むむ? ううん? むーん? ああ、迷いますわ!
 そうそう、この前シャルルと一緒にお買い物に行ったのですけれど……――

 ――……ねえリディ、旅が終わったら期間限定スイーツを食べようと約束したのを覚えていますか?
 水蜜桃の甘々舟旅アイスパフェ~季節のベリーソースで彩って~のことですわ!
 今度こそ一緒に食べるのを楽しみにしておりますわ!
 それではまた。しっかり食べて元気でいてくださいませ。

 あ、そうですわ、エドが何か持って来てくれるそうですわ! 楽しみですわね!

 敬具
桃の美味しい夏の頃(早く食べたいですわ~!)
 アナマリア・マルシュナー
 リディ様(リディに様付けなんていつも新鮮ですわ)』

 彼女の手紙を読んでいると、いつも気付かぬ内に笑みが零れている。
 そうね、覚えてるわ、アナマリア。何かを一緒に食べよう、なんて約束、初めてだったもの。


 次は同じ封筒の、けれどどこか素っ気ない手紙を手に取る。

『リディへ

 今日もお嬢様は麗しく慈悲深い最高のお嬢様でした。
明日も明後日も美しく可憐で明るく素敵なのは確定事項なのですが。
 この間はお嬢様がリディ達にお土産をと仰ったので二人で買い物に……――

 ――……なので、喜び勇んで受け取るように。喜ばないなんてあり得ませんけどね。ボクも一緒に選びました。
 お嬢様がとても楽しみにしていらっしゃいますので、体調を崩して遅刻したり、ましてや来ないなどは言語道断です。絶対に許しませんからね。ボクもまあ、楽しみでないとは言いません。
 あとエドが毎度手紙であれこれ口煩いのでリディから何か言ってください。

シャルル』

 率直で、素直じゃないのに素直な言い方。
 相変わらずね、シャルル。それが何だか安心もするし、心配してくれるのがくすぐったくもある。


 次は花弁を透かしたお洒落な封筒。

『前略

 やあ、元気かい? お兄さんは元気だよ。
 元気だけど、やっぱり皆が何してるか気になってそわそわしちゃうな。
何かやらかしてないか気がかりだ、なんて意味じゃないかって? 含むけどそれだけじゃないよ、勿論!
 何せ一年も一緒だったからねえ。実はお兄さん、これだけ長いこと誰かと一緒に旅したのは初めてなんだ……――

 ――……だから年かな、なんて思っちゃって、いやお兄さんはお兄さんだけどね⁉
 また温泉にでも行って身体を癒したいよ。そうだ、今度はオズガルドにしようか。気が早いって? こういう約束はさ、たくさんしていいと思うんだ、お兄さん。
 ともあれ、会えるのを楽しみにしてるよ。それじゃ。

 草々
 創神歴千一年 ハリーオゥ猛る夏の頃に
 ラウルより
 リディちゃんへ

 追伸。エドが疲れてるみたいだから、労わってあげてね!』

 どうやら手紙に香水を振りかけているらしく、爽やかな木の香りがする。
 ラウル、自分のことを話してくれるようになったの、嬉しいわ。でも身体のことも少しは労わった方がいいわよ。


 最後に、飾り気のない雪のように真っ白な封筒。

『拝呈

 日差しの眩い季節、いかがお過ごしでしょうか。
 そちらはあの時以上に暑いだろうな。
 こちらは年中変わらないが、本当に短い夏の真っ最中だ。それでもリディには寒いだろうが、他国では見られない景色も多い。リディの興味を引く現象もあると思う。リディ達がマイシュを訪れた時には改めて案内をしたい。

 リディ達と旅をした一年は、本当に息つく間もないほどだった。あれほど濃密な時間はそうないだろうと思う。同時に、あれほど楽しかったと素直に思える時間もそうはない。
 今も今で忙しいが、やるべきことをやれる喜びに勝るものはない。
 ……リディやあいつらには、感謝している。ありがとう。

 だからやはり動向が気になるが、あいつらときたら手紙でもやかましい。リディへの手紙でもきっと同じだろ? これで実際に会ったらどれほどやかましいことか。
 こんなことを書くと、でもそれが楽しみなんだろう、なんて言われそうだ。だからあいつらには言わないでおいてくれ。

 もうすぐ約束の日だ。
 リディはただでさえ食が細いんだから、夏の暑さに負けないようにしっかり食べて、徹夜なんてせずにしっかり寝ろ。少なくとも四人、心配している者がいることを忘れるな。

 そうだ、この前、送ってくれた物はとてもよかった。ありがとう。今はマシな時期だが、どうしても指先が冷えるからな。あれはマイシュの地産品で造れるよう開発してくれたんだろ? リディが許可してくれるなら、量産できるようにしたい。きっと多くの民が厳しい冬を乗り越えるのに役に立つ。

 どうも書く順がバラバラになっちまうな。
 言いたいことが山ほど出てくる。オレはそう喋る方じゃないのに、こんな所でもお前達のせいだ。
 だからそろそろ終わりにする。後は言いたいことができても、直接会って伝えよう。……本当に、言いたいことはたくさんあるんだ。言うべきか迷っていることも。
 ハザールからあの旅を始めた頃は、こんな風に想うなんて想像もしなかった。リディ、会えるのを楽しみにしている。
 夏風邪などひかれませんよう、ご自愛ください。

 敬白
 創神歴千一年 美しい夏に
 エド
 リディへ』 

 本当に、愛想のないようでいて誰よりも世話焼きで。
 そっと手紙を撫でる。きっと国を渡るまでは含んでいただろう冷気も最早感じ取れない。



 開けたままだった文箱の中を覗き込む。
 手紙なんて、ガスパルから来るものが精々だった。それも読み終わった後には燃やすから、取っておいたことはない。
 今はこうして、何通も入っている。
 差出人は一緒に旅をした四人が一番多いけれど、たまに小説の騎士のような人、同じ双銃を使う人や、ガスパルからも来る。不思議な心地だ。でも、全然イヤじゃない。

 四人分、短い返信を認める。続きは直接会ってからがいい。
 それにしたって、誰も彼もエドのことを言ってきて。
まったく本当にお節介なんだから、とため息を吐いた。口の端が上がっているのは自覚していたけれど。
 返信と来たばかりの手紙をリュックに仕舞い込む。これで旅の準備は完了だ。

 さあ、行こう。
 皆に会いに。
 会えない間に何度も考えて、そうして決めた想いを伝えに。



『ねえ、エド。
 どんな顔してあの手紙を書いてくれたのかしら。分かってるわ、いつもの真面目な顔でしょうね。

 あれ、役に立ったのならよかった。あたしは天才だけど、暮らしたことはない場所だから、やっぱり実際に使ってみないと分からないもの。
 でも、そうね。あたしもマイシュに行きたいわ。

 あたしも言いたいことがある。
 でもまず、これまでどんなことがあったか、今どんな生活をしているか、そんなことを聞きたいの。あたしもそんなことを話したいの。
アナマリアとスイーツを食べて、シャルルとふざけあって、ラウルと本の話をして、皆でご飯を食べて、騒いで、同じ宿で眠りたい。

 そうしてから。それでもやっぱり、心が変わらなければ、伝えたい。
 ねえ、エド。この手紙、その後に読んでね。
 あなたがどんな想いで手紙を書いてくれたのか、あなたの傍で思いを巡らせたい。

 会えるの、すごくすごく、楽しみにしてる。
 じゃあまたね、エド。
リディより』