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櫨
2024-11-18 21:11:09
6847文字
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大事なきみの特別な一日
Re:valeの百さん、お誕生日おめでとうございます。
貴方にとっての普通の日のお話を書きました。
同居生活が終わりを告げた後の11月、百の部屋に料理を届ける千。
でも、本当の目的は。
時間軸はふんわりとデビュー二年目~三年目くらい。から、現在へ。
つきあってないユキモモです。
※百の部屋はアプリ版準拠です。
※うさ耳パーカー(百)のラビチャを踏まえた箇所があります。
(未読でも問題ありませんが、一部ネタバレになります)
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2
蜂蜜とバニラオイルの香りを閉じ込めて、濃い黄金色に焼き上げたスポンジ。
この色を見せるには、コーティングのクリームはごく薄く、ネイキッドスタイルのケーキがいい。
晩秋、オフの午後。僕の部屋で、ふたり一緒に過ごす自然な時間に似合うような、シンプルなデコレーション。
ホイップクリームの量は控えめにするかわり、マスカルポーネをブレンドする。滑らかなとろみが、飾りつけたコンポートからわずかににじむシロップを受けとめてくれるだろう。
スプーンに乗せ、味見、と差し出した桃のコンポートをつるんと口に入れて、今年は桃のケーキなんだね、と言ったモモに頷いた。
「うん。初心に帰って、モモには桃で」
「なにそれ」
モモが笑う。唇に少しだけ残ったシロップが、笑みとともにつやめいて光った。
「桃が初心なら、ユキがほんとのお菓子作り初心者の頃に作ってくれたいちごのケーキは何だったの」
「あれは初心者のショートケーキで、普通のバースデーケーキ。これは初心のショートケーキで、特別のバースデーケーキ」
「ややこしいね!?」
「そう? あの時は、単純に、普通のショートケーキで、普通に誕生日を祝ってあげたかったんだ。家族と一緒に過ごすみたいな」
懐かしく、少しだけ居心地悪く、思い出す。ふたり暮らしとひとり暮らしの、狭間にあった日々を。
あれからしばらくの後、橋を架けることが叶って、モモは家族との仲を回復した。
今年の誕生日も、当日とはいかないけれど、近い日付けに実家に顔を出す予定を入れている。きっと、いちごのケーキと、小さい頃からの好物を並べて、待っていてくれるのだろう。
「普通に、家族と一緒みたいに、って言うけれど。家族にもいろいろな形があるし、唯一の正しい普通なんて、きっとないんだよ。ユキんちだって、オレんちだって、どこのうちだって」
そう言って、モモがまた笑う。楽しげに、溌溂として。けれど、悪戯めいたなにかをも含んだ笑顔で。
「オレたちだってさあ。最初、ユキさんに家族になりたいって言われたよね。でも、ならなかった。なのにその後、夫婦漫才とかやっちゃってるじゃん」
「
……
え?」
思いも寄らない方向から話を持って来られて、束の間、頭の中が真っ白になる。
夫婦漫才。ふうふ。家族。そんな形って。
じゃあ、僕は、僕たちはもう、とっくに。
「
……
っふ、ふふ、あはは、そうか、そうだね。ふうふも家族か、なるほど、っくくく」
「あれ、ユキ、ツボに入っちゃった? 待って待って、いちどそれ置いて、息、整えて! クリームが吹っ飛んじゃう! せっかくの初心で特別なケーキが!」
慌てふためいて僕の手からパレットナイフを取りあげるモモの、身体を全部使ったコミカルな動きがまた楽しくて、かわいくて、どうにもこうにも、笑いが止まらない。
だって、十一月だ。いちばん大事なきみの、いちばん特別な日がやってくる。少しくらい笑い上戸になったって仕方がないと思う。
あの頃の僕は、モモに普通をあげたかった。モモの普通になろうとした。
ほんと、可笑しいよね。気がついていなかったんだ。
大事なひとの、普通になる。
家族みたいな、普通になる。
ずっと傍に居て、一緒の時間を積み重ねて。来年も、再来年も。十年後も。
それは、特別なことなんだって。
〈Fin〉
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