botanin5
2024-11-14 00:07:21
20797文字
Public トレ監♀(小説)
 

EAT ME!先輩!

魔法薬の影響で子どもになったり大人になったりする監の♣監
(※前半は小2レベルの漢字しかありません)
※監の設定は特になし



「お願いします!クローバー先輩!」
……本気で言ってるのか?」
「もうトレイ先輩しか頼れないんすよ、どうかこの通り!」


黒いかみの毛のお兄さんと、茶色いかみの毛のお兄さんにつられらて、わたしは赤いおしろの中にやってきた。もう小学2年生なんだから、手をつながなくたってへい気ですって言ったのに、黒いお兄さんはわたしの手をしっかりつかんで、はなしてくれない。




今、わたしは『まいご』らしい。
さっき、気がついたら、目の前に はい色のネコちゃんがいた。それだけでもびっくりしたのに、「おい、大丈夫なんだゾ?」なんてしゃべったから、もっとびっくりして、少しないてしまった。ほんとにちょっと。だって、しゃべるネコなんてはじめて見たのだ。黒いお兄さんに「ここがどこか分かるか?」と聞かれてまわりを見たけれど、知らない場しょだった。

わたしはどうして、こんなところにいるんだろう。こわくなって、お母さんをさがそうとしたけど、まわりには知らないお兄さんたちしかいなかった。こまった顔をしたネコちゃんをだっこして、じっとしていると、茶色いお兄さんに「んーと、お母さんとはぐれちゃったみたいだな。あとで見つけてやるから、少し我慢できるか?」と言われてしまった。なんだか声が出なくて、こくりとうなずいた。

黒いお兄さんに「自分の名前は言えるか?」と聞かれたけれど、知らない人に名前を教えてはダメってお母さんに言われている。でも、お兄さんたちはお母さんをさがしてくれるのだから、言ったほうがいいのだろうか?少しまよっていたら、ネコちゃんがわたしの名前をよんだのでびっくりした。

黒いお兄さんに手を引かれて、頭にネコちゃん(グリムって名前らしい)をのせた茶色いお兄さんもいっしょに歩いたけれど、お母さんはどこにもいなかった。ふくがおもい。さっき黒いお兄さんが、そでをくるくるってしてくれたけど、こんなふく わたしのじゃない。さらにしばらく歩き回って、お兄さんたちは、色んな大人の人たちにわたしをあずかってくれるか聞いていたけど、みんな いそがしいみたいだった。

そして、さい後にやってきたのが、この赤いおしろなのだ。
きれいなお花がたくさん咲いていてすごくびっくりした。「お兄さんたちは、このおしろにすんでるの?」と聞いたら、茶色にお兄さんにものすごく わらわれたので、「王子さまなの?」と聞くのはやめた。

そして、どこもかしこも赤くて白いろう下を通って、黒いお兄さんがコンコンとドアをたたくと、中からすごくしん長が高いメガネのお兄さんが出てきたのである。わたしは4月のしん体そくていで、たしか125センチくらいになっていたと思う。今はもう少し大きくなっているはずなのに、わたしの頭はお兄さんの おなかまでしかない。この人、わたしの学校の先生より大きい。


「いや〜先生たちにも聞いてみたんすけど、今夜は重要な会議やら仕事やらが立て込んでるらしくて。小さい女の子を連れ回すのは難しいって断られちゃって」
「待て、そもそも何があったんだ?この子は監督生……でいいんだよな?」
「はい。……今日、クルーウェル先生の授業で身体を小さくするための魔法薬を作ったんですが、失敗して。……エースのせいで」
「はぁー!?何言っちゃってんのデュースくん?お前があの材料を全部ぶち込んだからでしょーが!」
「適当でいいって言ったのはお前だろう!」

黒いお兄さんと茶色いお兄さんがケンカしはじめてしまった。ようやく黒いお兄さんの手がはなれたので「うるさくてかなわないんだゾ」と、こちらにぴょんと、とんできたグリムをだっこする。お母さんが見つからず家にも帰れない今、たよれるのはこのお兄さんたちだけなのに、こまったものである。

「なるほど、確認のために魔法薬を飲んでみてから、失敗と分かったわけか……そのままの頭身で小さくなるはずが、幼くなってしまったと。それで、どうして俺のところに連れてきたんだ……自分たちで面倒見たらいいんじゃないのか?身体が幼くなってるとはいえ、監督生だろ?」
「いや、それが……僕たちには難しいというか……妹がいらっしゃるクローバー先輩が適任というか……
「なーんか記憶も一緒に幼くなった、みたいな?こいつ、今は中身も見た目通りに7とか8歳?くらいで、オレらのことも分かんないんすよ」
「は?」

びっくりした顔でメガネのお兄さんがわたしを見下ろす。さっきまでよく見えなったけど、かみの毛がみどり色なのが見えた。『ふりょう』だ。こわいお兄さんだ……!テレビのドラマで、頭がカラフルなお兄さんたちがケンカしているのを何回か見たことがある。
思わず目の前にあった茶色いお兄さんのふくをぎゅっとつかむ。わたしはこの、みどりのお兄さんにあずけられるのだろうか。つかんだふくをぐいっとひっぱると、茶色いお兄さんが「どうした?」としゃがんでわたしを見た。


「あの、わたし一人で帰れます。バスものれます。でもお金がないので、えっと、帰ったらお母さんにもらいます。それでかえすので、今はお金をかしてください。おねがいします」


グリムをだっこしたまま、ぺこりと頭をさげる。この知らない場しょから家まで、本当に一人で帰れるかは自しんがなかったけれど、このままここにいるのはよくないと思った。お兄さんたちもこまっているし、みどりのお兄さんといっしょにいるのもこわい。顔を上げて茶色いお兄さんを見たが、お兄さんはわたしの かたにりょう手をおいて、みどりのお兄さんを見上げた。


…………トレイせんぱーい……
……わかった」




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎





けっきょく、わたしはみどりのお兄さんにあずけられることになった。ここからバスは出ていないから、今日はとまっていったほうがいいと言われてしまった。黒いお兄さんと茶色いお兄さんも、このおしろの中にいるからいつでも会えるらしい。グリムはわたしといっしょにいると言ってくれたので、少しあん心した。

2人のお兄さんが出て行ったあと、みどりのお兄さんに言われてグリムをだっこしたままへやの中に入った。
出してくれたイスにすわると、お兄さんはわたしの前にひざをついて目を合わせてくれた。

「さてと……じゃあまずは自己紹介からいこうか。俺の名前はトレイ。君の名前は?」
「えっと、」

名前や年を聞かれて答えると、気分は大じょうぶか、いたいところはないかと聞いてくれた。こわいと思ってたけど、トレイお兄さんはやさしい人のようだ。わたしがこわいと思わないようにしてくれている。少し話をしたことで なれてきたので、思い切ってかみの毛と、もう一つ気になったことを聞いてみた。


「あの、どうしてかみの毛がみどり色なんですか?あと、なんでほっぺにみつばが書いてあるんですか?」
「ん?これか。珍しいか?」
「なんだ、お前このマーク知らねぇのか?くろーばー、って言うんだゾ」
「あ、そっかトランプだ!……お兄さんは『ふりょう』ですか?」
……ふっ、ははは、いや、違うよ。俺の髪は元々この色なんだ。ほっぺのは……うーん。お化粧みたいなものかな」


トレイお兄さんはきょとんとした後、おかしそうにわらった。おこられなくてよかった。
ほっとしたところで、ぐぅぅとおなかの音がなった。そういえば、ごはんを食べていない。「お腹空いたのか?」とお兄さんに聞かれてうなずくと、グリムも「そういえば、オレ様たち晩飯食ってねぇんだゾ」とおなかをおさえている。すると、お兄さんはわたしたちを広いキッチンにつれて行ってくれた。わたしの家のキッチンとちがって、おしろのキッチンはすごくかわいい。


「たしかキッシュが残ってたはず……お、タルトもまだあった。苦手なものはあるか?」
「にゃっはー!早く食べたいんだゾ!!」


お兄さんは、わたしとグリムに三角のケーキを2つずつ、おさらにのせて出してくれた。かた方はほうれん草とベーコンが入っていて、甘くないらしい。ほうれん草はべつにすきじゃないけど、食べられる。もう1つはキラキラしたイチゴがのったケーキだ。すごくおいしそう。


「あの……かってに食べていいんですか?」
「ああ、作ったのは俺だから大丈夫だよ」
「えっ!!お兄さんすごい!!どっちも?どっちも作ったの?」
「ははは、そんなに驚くことか?」


びっくりした。わたしのお母さんはこんなに上手にケーキを作れない。お兄さんはもしかして、ケーキやさんなのだろうか。グリムはさっさとケーキをつかんで口に入れて、もごもごとかんそうを言っている。そのとなりで自分のおさらにあるケーキを見てかんどうしていると、トレイお兄さんはフォークと牛にゅうを用いしてくれた。「ありがとうございます」とおれいを言うと、頭をなでてくれた。ちょっとだけお父さんの手を思い出して、さみしくなってしまった。なみだが出るのは はずかしいので、フォークで切ったほうれん草のケーキをいそいで食べる。


「おいしい!」
「お、口に合ったなら良かったよ」


トレイお兄さんは、わたしのむかいにすわって、うれしそうにこっちを見ている。
なんだかはずかしくなったので、ケーキにしゅう中することにした。本当においしい。ほうれん草のことがすきになりそうだ。


「明かりが見えたから来てみれば、やっぱりトレイか。またタルトを作っていたのかい?……子ども?」
「リドル。ちょっと、世話が焼ける後輩たちに巻き込まれてな」
……またエースとデュースかい?困ったものだね。グリムがいるということは、もしかして……そこにいる女の子は監督生……?」
「ご名答。魔法薬で失敗してこの様らしい。元の記憶がないみたいで、俺が預かったんだよ」
「全く……彼らの首を刎ねてしまいたいよ」


キッチンの入り口から声がしたので見てみると、赤いかみの毛のお姉さんが入ってきていた。目が大きくて、お人形さんみたいだ。「こんにちは」とあいさつをすると「こんにちは。もう夜だから、こんばんはかな。キミは礼儀正しくて素晴らしいね」とほめてくれた。そのままお姉さんはわたしのとなりにすわる。トレイお兄さんをのりこえたわたしに、もうこわいものはなかったので、思ったことをそのまま聞いてしまった。


「お姉さんのかみの毛が赤いのも、トレイお兄さんと同じでもともとですか?」
「ふはっ」
「ふな゛っ!くっくっく、お前、なかなかいい度胸してるんだゾ!」
……ボクは男だ!」
「えぇ!?女の人じゃないの!?」


トレイお兄さんとグリムがおかしそうにふき出して、お姉さん……ではなく赤いお兄さんはほっぺを赤くしておこってしまった。いそいで「ごめんなさい!」とあやまると、「まぁ……悪気があるわけではないからね。とても複雑だけど、今回は許すよ」と言ってくれた。あぁ、びっくりした。こんなにかわいいお兄さんがいるなんて。


「そうだ、リドル。運動着を1枚貸してくれないか?このまま制服を折って着せておくとシワになりそうなんだが、オンボロ寮で監督生の私室を漁るのもちょっとな……俺のじゃ大きすぎるだろうし」
「ふん。仕方ないね。優しい『お姉さん』が貸してあげよう」
「おいおい、根に持ってるのか?」
「冗談に決まっているだろう。今取ってくるから待っていて」

ほうれん草のケーキを食べおわったので、こんどはイチゴのケーキにフォークをさす。キラキラしてほう石みたい。小さい声で「きれい……」と言ったら、トレイお兄さんはうれしそうにわらった。
だいじにゆっくりイチゴのケーキを食べおわり、もう一回入れてもらった牛にゅうをのんでいると、赤いお兄さんが赤いふくをもって もどってきた。


「はいこれ。2枚持ってきたから、替えに使うといい。あと私物だけれどハーフパンツも。」
「助かるが……リドル。お前の分は大丈夫なのか?」
「ボクは予備をたくさん持っているんだ。2枚くらいどうってことないよ。」
「そうか。ありがとう」
「ところで、監督生はいつ元に戻るんだい?何か薬が必要なのかな、それとも時間経過?」
「エースの話じゃ、明日クルーウェル先生が元に戻る薬を調合してくれるらしい。……ほら、お兄さんが服を貸してくれたから、ちゃんとお礼を言わないとな」
「ありがとうございます!」


ぺこりとおじぎをすると、赤いお兄さんは「どういたしまして」とわらった。




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎





「1人で入れないのか?」
……入れるけど……


トレイお兄さんの へやにもどって、グリムといっしょに はみがきをした。お兄さんのはみがきチェックはとってもきびしかった。しばらく むしばと さよならできそうだ。そして、つぎは おふろに入ることになった。
お兄さんがタオルを用いしてくれて、かしてもらった赤いふく(パンツはしかたないから、もういちどはく)をもって、お兄さんに手を引かれて おふろのあるへやまでやってきた。でもこまったことに、中は家のおふろよりずっと広くて、1人で入るのがちょっとこわいのだ。家のおふろなら、もうなれているので1人で入れる。たまにお母さんといっしょに入ることもあるけど。早く帰ってきたお父さんと入ることもある。

トレイお兄さんにいっしょにおふろに入ってほしいとおねがいしたけど、すごくこまった顔になってしまった。グリムは「今日は……お湯に入る気分じゃないんだゾ。別に、怖いわけじゃねーんだゾ!」と言ってどこかへ行ってしまった。グリムがいればまだこわくなかったのに。ふくをぎゅっとだきしめたまま じっとしていると、お兄さんはう〜んとうなって「ドア越しにお話するのはどうだ?」と言った。それなら こわくないかもしれない。

「わかりました」とうなずいて、おふろに入ろうと きていたふくをぬぎはじめると、お兄さんは「準備できたら声をかけてくれるか?」と言って、わたしの黒いうわぎだけもってドアをしめた。今度はシャツだ。ボタンがたくさんあって時間がかかりそうだったので、首の近くだけ外して上からぬいだ。ズボンもそのままぬげる。お父さんがしているみたいなベルトがあって、どうりでおもいはずだと思った。パンツもゆるゆるだ。本当に、どうしてわたしは こんなふくをきているのだろう。

そんなことを考えながらもう一枚きていたうすいシャツをぬぐと、びっくりするものがあった。なんだかごわごわするなと思っていたけれど、これは、これはいつもお母さんがむねにつけている、ブラジャー!自分がこれをつけていることにびっくりして、上から引っこぬくと思わず「お兄さん!」とドアに向かって声をかけた。「どうした!?」とびっくりしたようすでドアをあけたトレイお兄さんは、ぎょっとしてかたまると、わたしにタオルをかけて「どうしたんだ?」とやさしく聞き直してくれた。


「あの、これ、これお母さんのやつ、なんでか分かんないけど、えっと、」
「あーー……


わたしはブラジャーを手にもっておろおろしているのに、お兄さんはとおい目をしている。こんな色のブラジャーをお母さんがもっていたかは知らないが、わたしがつけているのはぜったいにへんだ。どうしてこんなことになっているのだろう。こわい。早く家に帰りたい。お母さんに会いたい。色んな思いがいっきにあふれてきて、ぐずぐずとなみだがこぼれてきてしまった。ふあんから たすけてほしくて、もっていたものをおとして おずおずと目の前に手をのばすと、トレイお兄さんはタオルごとふんわりとだきしめてくれた。


……くしゅん!」
「冷えてるな。……一緒に入るか。先に身体を洗って、湯船に入っててくれるか?すぐ行くから」
……いいの?」
「うーん……ははは……他のお兄さんたちには内緒にしてくれるか?」
「うん」
「よし、じゃあタオルをしっかり巻くんだぞ。身体を洗った後も、タオルを巻いたままお風呂に入るんだ」
「でも、タオルをおふろに入れちゃだめなんだよ?」
「今日は特別、な?」


ぽんと頭をなでてタオルをしっかりまき直すと、トレイお兄さんはわたしの せなかをおしておふろのドアをあけた。もういちどお兄さんを見上げると、「ちゃんと後で行くよ。ここで待ってるから、湯船に入ったら声をかけてくれ」とわらった。少しあん心したので、さい近 音楽の時間におぼえた合しょうの歌を思い出して歌いながら、頭とからだをいそいであらう。やくそくしたとおり、タオルをしっかりまき直しておふろにはいると「お兄さーーん!入ったよ!」と声をかけた。 

タオルをこしにまいたお兄さんがおふろに入ってきて、ほっとする。お兄さんはしん長が大きいから、なんだかあん心する。さいしょはこわかったのに。「俺が洗ってるあいだ、これでお風呂をあわあわにしてくれるか?」と口があいた小さいふくろをわたされた。中には こなが入っていて、お兄さんが「お風呂をあわあわにする魔法」をかけたらしい。家のおふろでも、こなを入れておふろをあわにしたことがある。さらさらとこなを おゆにとかして、うでを魚のヒレみたいにゆらゆらばしゃばしゃしてあわを作っていると、あらいおわったお兄さんがこっちへやってきた。


「ははは、ずいぶん泡だてたな」
「やったことあるの!」


間に1人分あけてお兄さんがわたしのとなりにすわった。お兄さんが入った分だけおゆがながれてしまうので、あわが出ていかないようにそっと うででつかまえた。ふぅ、といきをかけると、あわがへこむ。家であわあわおふろをやった日を思い出して、楽しくなってきた。でも、もう ほいく園の時みたいにおふろでおよいだりはしないので、大人しくしていると、お兄さんがあわでシャボン玉をつくってくれた。さっきまでのこわい気もちは、ぱちんとすっかりきえてしまった。

先に出るように言われたので、きがえるへやに行って体をさっとふく。パンツはゆるゆるだけど、はかないよりましだ。赤いお兄さんがかしてくれたハーフパンツをはいて、こしのゴムをぎゅっとしばる。赤いTシャツもきおわったら、まだぬれているかみの毛をおおうようにタオルをかぶって、おふろにむかって「お兄さんきがえたよ!」と声をかけた。くもったガラスのドアごしに「先に部屋へ行っててくれるか?」と言われたので、元気よく「はーい!」とへんじをした。

きがえるへやから出ようとしたが、なぜかあかない。つまみを回してみたけれど、ドアノブはぜんぜんうごかない。お兄さんに「ドアがあかないの」と声をかけると、「あ、ちょっと待ってろよ。……人が入ってこないようにしたんだったな」と言って何かをつぶやいた。「もう開いてるぞ」という声が聞こえたので、もういちどドアをおしてみたら、こんどはあいた。お兄さんは、もしかしたら まほうつかい かもしれない。

言われたとおりへやに行こうかと思ったけど、グリムがいなくてさみしかったので、きがえるへやのドアの前で体いくすわりをして まっていると、うしろのささえがなくなって ころんところがった。そのまま上を見ると、お兄さんがわたしを見下ろして「ここで待ってたのか」とにがわらいした。


「グリムがね、いないの」
「そうか、どこに行ったんだろうな。って、こら。まだ髪が濡れたままじゃないか。ドライヤーは自分でできるか?」
「できるけど、やってほしい」
「はいはい」


へやにもどると「喉渇いてないか?」とコップに入った水をもらって、さいしょにこのへやに来た時と同じイスにすわった。ドライヤーをもってきたトレイお兄さんが、うしろからかみの毛をかわかしてくれる。自分でやるときは、ドライヤーがおもくて頭があつくなってしまうので、人にやってもらう方が気もちいい。お兄さんがやさしくて、ついお母さんみたいに あまえてしまう。そのままうとうとして首がかくんとなると、「おっと、もう少しがんばってくれ」とお兄さんがわらう。水をこぼしてはいけないので、ねむいのをがまんしてコップをしっかりもち直す。かみの毛がすっかりかわいたころになって、グリムがうれしそうにへやに帰ってきた。


「ふふん!オレ様お手柄なんだゾー!」
「あっ!グリムだ!どこにいってたの?」
「これを持ってきてやったんだゾ」


グリムがわたしの手にぽんとおいたのは、ふくろに入ったクッキーだった。お母さんの手作りクッキーに少しにている気がする。


「これを食べれば元に戻れるんだゾ!」
「元にもどるって何が?」
「グリム。これどうしたんだ?」
「さっきクルーウェルのやつから預かった。ほらほら早く食べるんだゾ!ここまで持ってくる間に、オレ様の魔力もたっぷり注入してやったからな!」 
「もがが」
……それ大丈夫なのか?」


グリムがふくろからとり出したクッキーを、わたしの口におしこむ。口の中の水分がいっきになくなって、あわててもっていた水でのみこんだ。クッキーのあじはふつうだ。お母さんのクッキーの方がおいしい。食べおわったわたしを、グリムはキラキラした目で、トレイお兄さんは心ぱいそうな目で見つめてくる。


……変わらないんだゾ」
「お腹が痛かったり、気持悪かったりしないか?」
「うん。なんにもないよ」


よく分からないが、食べても大じょうぶだったのだろうか。でも食べたものはもどってこない。グリムはなにやら「ふなぁ!騙されたんだゾ!」とすねてしまった。
外から帰ってきてよごれているグリムを、お兄さんといっしょに おゆであたためたタオルでふいて、そろそろねる時間になった。トレイお兄さんはソファでねると言ったけど、だだをこねていっしょにねてもらえることになった。グリムはまくら元で丸くなっている。お兄さんのふところにもぐりこんで、ぽつぽつと話をした。


「明日になったら、お母さんをさがすの てつだってくれる?」
……もちろんだ。そのためにも、早く寝ないとな」
「うん……


トレイお兄さんが せなかをとんとんとたたいてくれるリズムにのって、すっかりふかくねむってしまった。




✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎




お腹が苦しい。
ぎゅっと締めつけられている。目を閉じたまま手探りで自分のお腹辺りをまさぐると、ウエストの紐が絞られていることが分かった。結び目を探り、蝶結びの紐を引っ張るとふっと圧迫感がなくなる。

まだ眠くて、もぞもぞと抱き枕に身体を沈める。枕にしては硬いが、心地よい温かさだ。ぎゅうと抱きついて、再度眠りに浸ろうと呼吸を深くする。


…………は?かんとくせ……


突然動き出した抱き枕を、逃さないようにもう一度強く抱きしめて、押さえ込もうと足を伸ばす。


……!!…………頼む…………起きてくれ……起きろ!監督生!」
「ふぁい!?」


声に驚いて目を開けると、肩越しに、困った顔でこちらを振り向いているトレイ先輩が見える。
目の前に視線を移すと、たくましい背中があった。


「う、わぁぁぁぁぁ!!せ、先輩なんで……っいっだぁ!!」


驚いてトレイ先輩から離れて後ずさると、背後にあった壁に勢いよく後頭部を打ちつけた。ものすごく痛い。
痛みと共に、昨日の記憶が全てありありとよみがえってきた。そうだ、確か魔法薬を作る授業で、完成した薬を私が飲んで……
…………私は、とんでもない、ことをした!!


「監督せ」
「先輩!!……ほんっとうにご迷惑をおかけしました……申し訳ありません……
「なんだ、覚えてるのか」


「むにゃ……うるせーんだゾ……」と寝言を呟くグリムは置いといて、ベッドの上で粛々と土下座をする。いくら記憶が無かったとはいえ、ご飯を食べさせてもらったうえにお風呂へ強制連行し、ドライヤーで髪を乾かしてもらって挙げ句の果てには添い寝まで!!幼い私、図々しすぎる。そしてトレイ先輩は優しすぎる。子どもの姿とはいえ一緒にお風呂って、トレイ先輩は気まずすぎたに違いない。これはセクハラになるのではないか?泡風呂にしてくれた先輩の最大限の気遣いに、本当に頭が上がらない。ゆっくりと顔を上げて正座し、姿勢を整える。


「本当にごめんなさい……。図々しいクソガキですみません……。キッシュとタルト、ものすごく美味しかったです……あとあの……色々……首を刎ねてください……
「まぁ……戻って良かったよ。でも、お前少し……


先輩が優しくて泣きそう。言葉の続きを聞こうと背筋を伸ばしたら、先輩の視線が一瞬 私の胸元に落ちて、すぐ気まずそうに逸らされた。それが気になって自分の胸元を確認すると、赤いTシャツを押し上げる、つんとした主張が目に入った。一瞬頭が真っ白になる。そうだ、昨日、下着外してる!!私、この状態でトレイ先輩に抱きついてたんだ……嘘だ……これこそセクハラだ、いやもはや強制猥褻だ。首を刎られる。半泣きになりながら、急いで腕で自分の胸を抱き込んで隠す。


「おっ……お見苦しいものを……!」
……いや、悪い」
「セクハラしてごめんなさい」
「は?」
「あの……大変聞きにくいんですが、私の下着はどちらでしょうか……
「ああ、脱衣所から持ってきて、制服と一緒に置いてあるよ。そこの洗面所で着替えてくれ。……それと、お前自分の姿きちんと確認してみろ。たぶん元通りじゃない」


トレイ先輩の言葉の真意を確認すべく、急いで洗面所に駆け込む。
ハンガーにかけてある制服と、きれいなタオルの上にちょこんと置かれている下着を見て、羞恥で死にそうな気持ちになりながら急いで身につける。なんだか下着がきつい。いつもより胸が押し上げられている気がする。
目に入った鏡で自分の姿を確認する。あれ、なんだか……髪も背も少しだけ伸びている……?それに、顔立ちもなんだかあか抜けてないか……


「先輩!!」
「ふなっ!?」
「見てきたか」


私の声でグリムが飛び起きたが、今はそれどころではない。


「私、大人になってませんか!?」