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うよ
2024-11-13 23:24:06
4821文字
Public
サブドムスモロ
サブドムスモロ~半年前~
サブ🚬×ドム🐯
2024/1インテで発行した「転がる夢も」の半年前のそれぞれ。2024/6JBFでひみつ無配だったものです。
1P🐯視点、2P🚬視点
1
2
Side~S~
夢は見ない。忍び寄ってくる前に起きるからだ。
薬は一錠。朝食後と書かれてはいるものの、毎日同じ時間に服用することは難しいと言ったスモーカーに、「朝でも昼でも、夜中でもいいから、とにかく一日一錠飲んでおくこと」とかかりつけの整形外科医は指導した。つまり気がついた時に飲めばいい、一錠。歯磨き粉を濯ぐついでに口に放り込んで飲み込む。いったいこれのどこに効果があるのかわかったものではない。飲み忘れることも多く、陸のロッカーに皺の寄った袋がいくつも詰め込まれている。船に乗る時は、がさりと掴んだ分をジップ付きのビニール袋に入れてポケットに入れてあった。たしぎの助言だ。十代でSubだと診断を受けてから、Domのコマンドを欲しいと思ったことなど一度もない。そんなもので体のパフォーマンスがよくなるだなどと、初めて説明を受けたとき鼻で笑った。第二性が判明するより以前から、ゆっくりと眠れないことは常だった。煙草と香水、金切り声と怒鳴り声。ふと揺すられたときに、寝たふりをするかすぐに飛び起きるかの判断を誤ってはならない。夢など見る暇もない。そうした夜の積み重ねは、現在の職務においてはむしろ役に立っているといってもいい。底からすぐに這い出して、どれだけ手足が重かろうが時間には持ち場につく。だから眠りに薬を使うなどという選択肢はスモーカーにはなかった。当然、こんな一錠で、眠りが充実することなど、ない。
業務に入ってすぐだった。交代で休憩に入る班のうちひとりが体調不良を申告してきた。Sub性の男だったが、乗船前の健診に異常はなし、薬を持参しているとのことだったので服用するように伝える。帰港まであと二日。
「大丈夫か、場合によっては救援を呼ぶが」
「それには及びません。なんというか、少し風邪っぽいような、その程度です」
「ひどくなるようなら言ってくれ。小さなことでも報告は大事だ」
彼と同じ班の人間に、具合の悪いのがいるから注意しておいてほしいことを伝える。乗務員の情報を把握する長以外に、本人の第二性を公表することは業務規程で許可されていない。倒れるようなことがあれば本部と連絡を取って提携の救急病院に連れていくか、もし救難が入れば別で救助船を出してもらうことになる。
「無理はするな。班のやつらにはおれから言っておくから回復するまで寝ていてもいい」
「いえ、そういうわけには」
若くて勤勉というのは悪いことではない。だが船を預かるスモーカーとしてはできるだけ日程を完遂したいという思いもある。本人を観察しながら考えたのち、彼の申告を飲んでスモーカーは業務に戻った。待っていたかのように入電する。漁船の計器トラブルだという。交代勤務の班も全員出ることになる。スモーカーは煙草を咥えていない歯をぎちりと噛み締めた。
帰港すると同時に気が抜けたのか、例の部下は糸が切れたようにどっと体調を崩した。本部の応急処置では間に合わず、救急搬送となった。一週間の海上勤務を終えたところだった。
運ばれる途中でドロップに陥り処置を受けているから家族に連絡を取ってほしい。電話口で的確に状況を伝えてくるたしぎの声は震えていた。彼女は今回乗船していなかった。たしぎがいれば、もっと違っただろうか。救急士でもないのに? 帰港までに何度か調子をたずねたが、若い男はその度に問題ありませんと口にした。本人の申告よりよほど不調であったことを見抜けなかったのは、長である自分の落ち度だ。どうすればよかったのか。帰港の判断か。たったあれだけのことで。その、程度を見誤ったからこうなったのではないか。陸が近づくにつれだんだん血の気が引いていった顔。不調のきっかけは何だったというのか。漁船の件も順調に事態は収まった。残る交代勤務はきっちり時間通りだった。やはり休ませるべきだったのか。なにが、なにが。
通話口からこぼれ出た家族の声が揺れた。握る手が震えて受話器が定まっていない。咄嗟に反対の手で掴んだ。「どうしました」がぶれる。訝しむ声は当然だ、息子の職場からの、本人以外による連絡が良い知らせであるはずがない。
遠方の家族がすぐこちらに向かうという旨をたしぎに返した。震えの止まらない手でロッカーを開ける。上段でひしめき合う汚れた薬袋。前に飲んだのはいつだったか。今朝? 昨夜? 歯を磨くときに飲んでいるはずだ、忘れていなければ。
備え付けの鏡がうっすら曇った。息があがっているのだと、目の前の自分の顔が突きつけてくる。むき出しの歯が尖っている。それを隠すように、白く汚れた舌が出てくるのが見えた。がつんと鈍い音を立てて、その険しい顔をひび割ったのは右手の拳。金属を殴打する音が何度もこだまする。米神の血管が呼応して頭を締め付けている。
霞む目を擦りながら作成した報告書を出すと、上司は受け取りながら「しばらく休みなさいな」と言って頭をかいた。
本部を出てようやく火をつけた煙草の煙を吸い込む。少し冴えた頭で、薬をロッカーに置いたままだなと思ったが、そのまま帰路を歩いた。数日飲まなかったところでなにも変わりはしない、どうせ。どれだけ疲れていようとも、あんな一錠では眠れはしない。悪夢を見るよりよほど長い夜が待っている。
早々に二本目を咥えてライターを押したとき、スマートフォンが震えた。知らない番号だった。
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