Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
gib_fox
Public
スモロ
Clear cache
静脈
スモーカーさんお誕生日の時にpixivに載せてました、でもスモーカーさんが一年分誕生日をローにすっぽかされた話です
タイトルの静脈には「静脈とは、血液が各臓器から心臓に戻る際に通る血管で、名前のない細い静脈が集まって太い静脈につながっています」という、名のつかない感情が心臓に戻っていくまでどのくらいかかるだろう、っていう意味を込めています
冒頭の赤い糸と青い糸のくだりも、静脈と動脈の感じから
あと作中の告白も、白さを告げるという意味合いも含んでたり
個人的にとてもコメディだと思って書きました
1
2
(ペンギン)
ペンギンは、運命や夢を半分は信じるたちだ。そしてもう半分で、それは儚いものだと知っている人間でもある。
運命の赤い糸なんていうものが自分にあるのなら、いつかお目にかかってみたいと語りつつ、心のどこかできっとそんな簡単には見つからないし、この稼業をやっていればさらに遠ざかりそうだとわかってもいる。
それでは、さっき定期便にひらりと紛れ込んでいたこの手紙──というより写真に文字を書いただけの簡素なもの──の主は、果たして信じるタイプなんだろうか。いや全く信じることはなさそうだが、万に一つでも信じることだってあるかもしれない。
「キャプテン見た?」
「いや、船長室にはいなかったぜ」
そう言ってうろうろと船内を探している間に、写真に書かれているたった一つの文面が見えてしまった。青色のインクが滲んでいるが、はっきりと読み取れる。
『たまたま遠くで見かけた』
写真を見ると、今まさにペンギンが乗っている黄色いポーラータング号の背中が、海のはるか遠くに粒のように光っていた。ちょうど太陽が隠れていて灰色の曇り空と、青というより黒に近い海面は、不穏な色に対してゆったりと凪いでいて白波が規則正しく帯のように並んでいる。譲り受けたときから真っ黄色の我らが潜水艇がよく映える画面だった。
(しかしかなり距離があるこれを、よく見つけたもんだ)
と敵ながら感心する。同時に、海上でもっと警戒しなきゃなと気を引き締めた。今はもう一昔前に比べればずいぶん静かな海域が増えたが、まだいつ捕まるかわからない。
たとえこの写真を送ってきた敵が、自船のキャプテンと時折酒を酌み交わすような仲だったとしても。
ペンギンが廊下をもう一往復しかけたタイミングで、ローが船員の部屋から顔を出した。
「キャプテン宛てです」
「おれに?」
意外な顔で写真を受け取るローの片手には、酒の瓶が一本握られていた。今日は珍しくクルーの部屋で飲んでいたらしい。賭け事の途中か、床に散らばるコインはローがいたであろうテーブルの角に積まれていた。ローの勝ちがかなり濃厚であっただろうことが窺えるのに、ペンギンが持ってきた写真を見た途端、
「コインは山分けしろ。おれは部屋に戻る」
と言い捨て、さっさとローは船長室へ歩いていってしまった。残されたクルーは一瞬だけ戸惑ったが、すぐに歓声をあげてローのコインを崩してもう一度分配し、改めて勝負を続けた。
「ペンギンも混ざるか?」
声をかけられ、
「いや、まだ掃除残ってるから」
と辞退し、ローが歩いた方と逆の道を進む。
(キャプテンにとっての赤い糸は、きっとあいつにはつながっていないんだろう)
そもそも赤い糸なんていうのは、もっと情熱的で激しくて、力強く引き寄せるものだとペンギンは勝手に想像をたくましくしていた。だからローとあの写真を送ってきた主のように、年に一、二度だけ会い、昔話と近況を肴に酒を飲み、明け方にそっと帰船をするような過ごし方はしないはずだ。ペンギンには半分ほど夢見がちな部分が残っているから、きっとそうだとうんうん頷いた。
糸はどうして赤いのか。
ペンギンなりの考えでは、ラブやロマンスがバラの花のようであってほしいという願いからではないか、と踏んでいる。やっぱり赤には燃えるような色恋が似合う。いつか麦わらの一味のところでコックをしている男も力説していたし、女性への贈り物に花を選ぶときも、赤系の色味にこだわっていた。「恋はハリケーン!」とのたまったあの男の主張はまさに正しい気がするし、そんな嵐のような恋をして始まり、ゆくゆくは彼女が出来たらいいのになとペンギンは思ってしまうのだ。
(じゃああの二人だと?)
うーん、とペンギンは顎に手を当てながら歩いた。危うく通りすがりのハクガンに気づかないでぶつかるところだった。悪い悪いと言いながら甲板に戻るけれど、いつまでも答えが導き出せない。
ふとペンギンの頭に、さっき見た青い文字が浮かんだ。
万年筆で書かれた濃い色をしていた。かすれた部分は空色めいた鮮やかさもある。二人の数奇な人生は、あの青色の線上に乗っかってなんとかバランスを保っているように見えた。
(運命じゃないのなら、別に赤くなくてもいいのか)
そう考えると、腑に落ちる。
たとえ誰かとの赤い糸を見つけて結ばれたとしても、ローもあの男も
解
ほど
いて去ってしまいそうだと感じた。縛られ、守るべきものが現れ、帰る場所が増えることが彼らにとっての心の拠り所ではないのだ。
糸は青いままでいい。細く長く、つながっていればそれで。
……
なんだか我らがキャプテンが突然いじらしい人間に思えてきた。普段は尊大に見られがちで、おれたちに遠慮がなく、麦わらのところにいたときは振り回されて苦労人してた人が。
──甲板の掃除を終えて戻り、そっと船長室を覗いてみると、ローは潜航のための手伝いに出ていて留守だった。
薬品や素材の置かれた調合棚のそばにピンで止めてあるさっきの写真は、やっぱり黄色い潜水艇の姿をくっきりと写して見事な一枚だった。あの男が書きつけた青い文字は「たまたま見かけた」なんて言っているけれど、被写体として選ばれたポーラータングを見つめながら、男──スモーカーはなにを思っていたのだろう。
◇
数日後、一つの島にたどり着いた。
レンガ造の大きな家々が立ち並ぶ、路地裏さえも整頓されたきれいな街だった。海軍の人間が復興に手を貸したらしい。マリンフォードの街並みにも酷似しているそこは海賊にやや批判的だったため、バレないように注意をしながら入る必要があった。幸いペンギンとシャチは普段から顔を隠しているから身元が割れにくい。
買い出しをしながらペンギンは、ローがどこかの店に入っていく後ろ姿を見た。
オリーブ色に塗られ統一された路面店の壁をいくつか通り過ぎると、ガラス張りの店の中にローの髪が見えた。いつもの帽子は目立つからと今日は被らないで外出したのは知っていたから、うまくバレずにここまで来れていることに安堵した。もともとローは騒ぎを起こすようなヘマはしない。
シャチに「キャプテン、あの店にいるな」と言うと、
「もうすぐ誕生日だもんな、白猟の」
と聞かされる。
そういえばそうか。ペンギンは唸った。そして唐突に思い出す。
たしか去年ローは、スモーカーの誕生日にインクを送ったのだ。万年筆はそのまえの年に送ったんだったか。インクの色は無難に青色にしたはずだ。青というよりは群青の、日常でも使えるような。それはちょうど日焼けすると色素が薄れ、濃度を忘れて青くなる。数日まえに送られてきた写真の文字のように。
「
……
一緒になることはねェんだろうけどさ」
シャチが手に抱えていた紙袋からりんごを取り出した。真っ赤に熟して程よい酸味もありそうなそれをひとかじりして、咀嚼する。食べかけをこっちに渡され、文句を言いつつ自分も小腹を満たす。
「たまに休みでも取って、どっか行ってきてもいいのにな」
「白猟と? キャプテンが?」
ペンギンには想像しづらいが、シャチは頷いている。この男の方がよっぽど恋愛的にあの二人のことを捉えているんだろうか。
ただたとえ「休みを取っていいですよ」と言っても、ローは真っ先にスモーカーのところへ行こうという思考回路には至らない。たった一人でふらふらと旅をする。そこで手に入れた土産や聞いてきた話をたくさんクルーたちに聞かせてくれるだろう。けれどひそかに別で買っておいた他愛のない土産を、そっとG5へ一つだけ送る。大抵は酒、葉巻、珍しいハーブか紅茶である。勝手に送りつけて文句も言われない様子を見ると、相手も迷惑ではないのかもしれない。ローからたまに飲みに行こうと誘いをかけても、断られているのを見たことがないし。
「たぶん
……
一緒には行かねェんだろうけどさ」
また似たようなセリフを吐いて、シャチが真剣なローの横顔を盗み見ていた。ペンギンはりんごを食べ終えたあとの芯をベンチの横にあったゴミ箱に捨て、同意する。
気まぐれな贈り物や酒の誘いは、記念コインの収集という彼の趣味にもう一つ新しい趣味が加わったようなものだ。「それってどうなの?」と言うにはペンギンたちもローも、互いに年を取りすぎて注意をするほどでもない。自分たちはとっくに大人で、それぞれがそれぞれの意志で動いていい。いくら同じ海賊団のクルーでも、個々の欲求は尊重され、できる限り優先されるべきだ。
頭でっかちに御託を並べはしたが、要はペンギンは、ローがあの白猟のスモーカーと過ごす夜をもしも設けたいと思っているのなら、それは自分たちに許可などもらわず好きに動いていいと思っている。なんなら二、三日、いや一ヶ月くらい。
(でもシャチが言うように、そこまでの関係は望んでいないんだろうなァ)
海賊なら奪うまでだ。でも我らが船長は、別にあの巨大な男を奪いたいわけではないのだ。ただちょっと困らせたり、いいものを送りつけて満足したいだけ。
ペンギンは路地に立ち止まり、シャチに問いかけた。
「白猟にさ」
「うん」
「絆されてる、っていうのかな、ああいうのは」
シャチが「あ」と声を上げ、冷や汗をかいている。ペンギンはすぐにその目線の方向を追った。自分のうしろ、店のドアが開いてローの頭が風に揺れている。いつもは帽子で隠れている目が、今日はくっきりと日の下に晒されていて、ペンギンをじっと見る目がますます力を増したように思える。
ローはムッとしている。唇を尖らせて、ぎこちない表情だった。
(なんだかローさんのこの顔つき、久しぶりに見たな)
とペンギンは吹き出しそうになる。
──かつてスワロー島でみんなで暮らしていたとき、うまくいかないことがあると決まってこんな顔をしていた。ベポより力仕事ができなかったとき、シャチよりうまく髪が切れなかったとき、そしてペンギンより要領よく料理を運べなかったときにも。
ローという男は昔から負けず嫌いではあるが、その悔しさという衝動で動かされるのではなく、ちゃんと理由を考えてから次の行動をする人間だった。けれど今回のスモーカーへのこれ──プレゼントの送りつけやときどき飲みに行くこと──に関しては、理由よりも先にローのしたいことをしているような自由さがあった。ペンギンたちはみな、ローには心の赴くままに動き、のびのびとしていてほしい。だからこれは、ローにとっていい傾向だと思っていた。
けれどいざそこを突かれるとローの中で必死に理由を組み立てようとしてしまって、こんな表情をしているんだろう。
(やっちまった)
そんな言い訳や行動への説明を考えることなく過ごしてほしいのに。やっと手に入れた自由なんだから。
ペンギンは下唇を噛んだあと、「あの」とどうにか言葉を紡ごうとした。しかしあえなくローに遮られてしまう。
「絆されてる、んじゃねェと思うが」
まごついた言い方はやっぱり幼少期に戻ったように思えた。ちょっとだけ年下の弟のような男が、精一杯なにか取りつくろう様子をペンギンは単純に懐かしく感じた。
ローの手にはなにも握られていなかった。この店ではめぼしいものを見つけられなかった証だ。金メッキの剥がれそうな店のドアベルが、ローの退出にからからと寂しい音を立てている。シャチもその様子をわかっていて、後ろ頭をかいていた。
「ペンギン、シャチ」
「は、はい」
「一年くらい、留守にする」
「一年?」
「そうだ、今は平和でクルーたちの健康状態もいい。旅をするなら今だろ」
「そりゃ、あんたの放浪癖は知ってますけど
……
一年も?」
「三人でキャプテン代理、がんばって勤めてくれよ」
勝手にそこに含まれたベポを不憫に思いながら、ペンギンは目を白黒させた。
「おれは絆されてねェって証明したい」
「根に持ってます? おれが言ったこと」
「そんなんじゃねェが
……
たしかに近ごろ海兵相手に気を許しすぎたとは思ってる」
そういう自覚はあったのか、とペンギンは驚いた。てっきりからかっているだけで、大した意味もないのだと思っていた。
結局その日は船に戻り、夕飯の時間にローからクルーたちに少しずつ話がいった。旅に出るための本当の理由は伏せられて、あとから知ったベポと、旗揚げ三人の秘密になった。
さらに数日経って、船長は旅立っていった。
船を降り、「いってらっしゃい」「お土産楽しみにしてます!」「無理はするなよ」と温かな声をかけられ、身軽そうな背中を見送りながら、ペンギンは忘れていたことを思い出す。
「今年の白猟への誕生日プレゼントは、なしってことかな」
「すっぽかされたんだな、白猟」
「おれたちから送る?」
「キャプテンからじゃなくてすみません、って?」
事情を知っている旗揚げ三人はひとしきり唸って悩んだ挙句、次に寄った街から海軍支部宛に郵便物を送った。
「ベポの手形を押しとこう、なんかかわいさで許してくれるかも」
というシャチのよくわからない提案も、そのときばかりは神の啓示のように思えた。そもそも許すも許さないも、あれはローが勝手にやっていることで他にもたくさんプレゼントをもらうあてはあるだろう。嫌いな海賊から一つ減ったくらいでとやかく言うような男ではない。
──と思っていたが。
G5から電伝虫が鳴り、大慌てでベポが受け取った。もちろん他のクルーにバレないようにだ。
『ローはどうした』
スモーカーのその声に、「獰猛な獣みたいな声してる」と身をすくませながら白熊の獣は助けを求めた。ペンギンは情けねェなとぼやいて通話を変わる。
「キャプテンなら留守ですよ、今はのんびり放浪中」
『そうか
……
いや、いい。ああお前らからの郵便物は見た』
「届いたんだ。オメデトウゴザイマス三十九歳」
『
……
切るからな』
それだけを言って通話は終わった。目を閉じたスモーカーの顔形の電伝虫は、ローが七武海にいたときに共同戦線を張って、その連絡用に譲り受けたものだ。咥えている葉巻が憎たらしくもかわいくも見える。
「白猟、残念がってた?」
「そんな感じでもなさそう」
「ちゃんとお礼の電話かけてくるなんて偉いね」
「いやいや、お礼言われてないし」
「電話をかけたってことが礼代わりなんだろうな」
「海賊相手に簡単には言えないだろ。それにプレゼントがローさん名義じゃなかったから、あの電話はキャプテンの生存確認も兼ねてるな」
つなぎの上から軽く小突き合いながら、三人で甲板に並んで立つ。
今ごろローはどこでなにをしているか。旅をすると言い出したが、ちゃんとおれたちに話してくれただけでもいいことか。ドレスローザやワノ国のときはちょっと悲しかったもんな。そんなことを頷き合いながら、ペンギンたちはひそかに旅の無事を願った。
1
2
広告非表示プランのご案内