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ミズト
2013-05-27 02:45:42
3844文字
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二次元版権二次創作
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【双花お題(2/3)】(たったその一言なのに、な。)
俺がかろうじて平静を保てているのは、根底に諦めがあるからだ。
楸瑛と寝床を共にしたあの夜から、絳攸は楸瑛の態度の変化に気付いていた。それはほんの少しの変化だったけれど。
「絳攸、また迷っているのかい?いっそのこと専属の案内人をつけたらどうかな?」
絳攸の一番からかわれたくない部分を的確にいじくりまわす楸瑛の笑顔。完璧に整っているのがこれまた癪に障る。
「まぁ、そんなことされたら私の役目がなくなってしまうから、しないようにね、絳攸」
「俺は迷ってなどいない!よって案内人など必要ない!」
「そうかい、それはよかった」
くすくすと笑いながら楸瑛は自然なしぐさで絳攸の手を取る。絳攸は気付いていた。己を手を握る力が、あの夜の前よりも弱くなっていることに。そしてそんなわずかな変化に気付いてしまう程この男に惚れているのかと、思い知らされるのだった。
いつから好きになったのかはよくわからない。ただ、迷子になった自分の手を引く楸瑛の手を、離したくないと思っていることに、いつだったか気付いてしまった。気付くと同時に、絳攸は静かな諦観と失望をその胸に迎えた。
相手は男で、なんだかんだ言って大切な友人で、頼りになる相棒で。さらには無類の女好きで、男である自分にさえ「可愛い」だの「愛しい人」だの歯の浮くような台詞を冗談でぽんぽん飛ばせる気障野郎だ。万が一にも自分が愛されるなんてことはない。
そう、諦めていたから。だからあの夜のことも、夢を見ていたようなものだと、自分に言い聞かせて。
今夜は望月だよ、と、卓の縁に腰掛けた楸瑛が言った。
「執務が終わったら、うちで月見酒でもどうだい?きっと庭の池に月が映って、とても美しいと思うよ」
絳攸は筆を走らせる手を緩めることなく答える。
「好みの女でも誘えばいいだろう」
「嫌だな、私は女性を簡単に自分の寝所に連れ込むなんて品のない真似はしないよ」
それはつまり今まで抱いてきた数多の女性達は、すべて一夜限りの後腐れない快楽を共にするための対象だったということ。己の領域に踏み込ませるほどの思い入れはないということだ。
最低だな、と絳攸は小さくこぼした。聞き取れたのであろう、楸瑛はひとつ瞬きをしたが、表情は相変わらず、整った軽薄そうな微笑みだった。
「いいだろう、付き合ってやる。というか、お前は俺以外に友人はいないのか?」
「いたとしても、私が一番愛しているのは君だからね。わざわざ他の人間を誘う理由はないだろう?」
甘い声音も人を蕩かすような流し目も睦言に似た軽口も、心に入り込む前に見えない壁に阻まれる。
そんな感覚がもうどれくらい続いているかなんて、考えるのも億劫だった。
楸瑛が取り出した見覚えのある酒瓶を見て、絳攸は即座に拒否の意を示した。
「それは飲まん!」
「え、でも君、これ気に入ってたじゃない」
「飲まん!この前のようなことになったら俺は今度こそ首を吊る!!」
「この前みたいなことになったら、何がいけないの?絳攸」
「ついに脳味噌まで筋肉になったか、この常春頭ぁ!!」
絳攸の頑なな態度が面白いやら可愛いやらで、楸瑛は笑いを抑えることができない。
「大丈夫だよ、今度はちゃんと、君が飲みすぎる前に止めるから。ね?せっかく、君がいつ来てもいいように用意していたお酒なのに、飲んであげなきゃ可哀想でしょ?」
そう憐れっぽい眼差しを向けられれば、絳攸も引き下がる他なかった。
「ちゃんと止めろよ」
「承知しました、お姫様」
涼やかな縁側での月見酒が始まった。
(で、やっぱりこうなるのか
…
)
その辺にしときなよ、という楸瑛の忠告も、ほろ酔いで気分が良くなった絳攸の耳には届かなかった。このくらいなら大丈夫だ、と、調子に乗って飲み続けた結果が、現在縁側で横たわっている絳攸の姿だ。止めろと言ったのは君の方なのに
…
。
今度は酒瓶を隠すくらいしないとだめかなぁ、と、楸瑛は考える。しかし、以前飲んだ時より明らかに少ない酒量で絳攸は酔い潰れていた。空きっ腹だったのだろうかと楸瑛は推測した。
「楸瑛、そこに立て」
絳攸は気だるそうに目の前の池を指す。
「え?」
「そこ。池の前」
なんでまた、と訊いたところで詮無いような気がしたので、楸瑛は素直に池の前へと歩いた。
「これでいい?」
そう言って振り向く楸瑛の姿を、絳攸はじっと見つめていた。
楸瑛はその眼差しに捕まえられて、言葉を失くした。
水の鳴る音と、草木の擦れる音だけが漂っていた。
「
…
ああ」
絳攸が視線を逸らして、楸瑛は息を詰めていたことに気付く。
「ねぇ、どうしたの?何がしたかったんだい」
「別に何も」
「何もないわけないだろ。白状したまえ」
努めて軽い口調で問いかければ、絳攸は背を向けて小さく答えた。
「月の下に立つお前を見たかっただけだ」
眠い、今夜は泊めろ、と、尊大なお願いが後に続いた。
実のところ、絳攸は酔い潰れてなどいなかった。
酒は回っているが、いつかの夜のように、理性も記憶も飛ばすほどではない。
「ほら絳攸、しっかりして」
狡い考えだ。酔ったふりをして強引に言いくるめれば、楸瑛の隣でまた眠れるかもしれない。今度はそれを忘れないように。愚にもつかぬ策だが、楸瑛はうまく騙されてくれているようだ。
寝台に運ばれ、腰掛けると、絳攸は目の前の楸瑛の肩に頭を凭せ掛けた。
「絳攸?」
「一緒に寝ろ
…
」
「一緒に寝て翌朝怒られるのは私なんだけどな
…
」
苦笑する楸瑛。こいつはきっと何とも思っていない。俺と寝床を共にすることなんて、酔っぱらいの介抱の一環くらいにしか思っていないだろう。だからこそこんな手が使える。
狡くて、女々しくて、愚かな。
「一回寝たら二回も三回も同じだろうが」
「
…
まったく、朝起きたら自分の言ったこと忘れてるんだろうねぇ、君」
酔ったふりで楸瑛の耳元にすり寄る。ああこの男はなんて良い匂いがするのだろう。頬に触れる黒髪もまるで清流のように滑らかで。
「しょうがないな、君と一緒に寝られるなら、少し怒られるくらい我慢しよう」
楸瑛は酔っぱらいの我儘を受け入れることにしたようだ。大したお人好しだなと絳攸は霞む頭で考える。寝台に横たえられ、楸瑛も隣にすべりこむ。また酔って寝ぼけたふりで、逞しい胸に額をこすりつけた。
「ちょ、っと
…
絳攸」
さすがに度が過ぎただろうか。不安に思ったが、楸瑛は体を離すことはしなかった。静寂が二人の間を支配して、数拍。
楸瑛の指が絳攸の顎をそうっと掴んで、何が起きているのか理解した頃には、楸瑛の唇は離れていた。
「君は、ひどい人だね、本当に」
軽い笑いを含んだ普段の口調とはがらりと変わって、泣いているような、それでいて優しい声だった。
もしかして、俺はもう眠っていて、これはやけに現実味のある夢なんじゃないだろうか。考えているうちに眠気が限界まで襲ってきて、絳攸は重い瞼を閉じた。
朝餉を食べている絳攸がいやに大人しいので、楸瑛は不審に思った。朝起きた時も、声を荒げることはなく、顔を林檎のように真っ赤に染めて俯いただけだった。
「絳攸?」
「なんだ」
「静かだね」
「俺はいつも静かだろうが」
え、それ本気で言ってる?と口には出さず、楸瑛は絳攸の様子を覗う。
「なぁ」
「ん?」
「ゆうべ、変な夢を見た気がするんだが」
ほんの一瞬、楸瑛は表情をこわばらせた。しかし瞬きする間にいつも通りの優しくて綺麗で軽そうな微笑みを作る。
「へぇ、どんな夢?」
「どんな夢だったかな
……
。
……
詳しく思い出せない」
その一瞬で十分だった。絳攸は昨夜の口づけが夢ではなかったのだと確信した。
楸瑛の態度はその夜からも全く変わることはなかった。不自然なほどに。
人に口づけておいて何も変わらないなんて、さすがに鈍感な絳攸も、楸瑛が何かを隠そうとしていることはわかっていた。たとえば、自分に対する想いとか。
あの口づけが、日常の冗談と同じものだとは思えなかった。泣きそうな声を聞いたから。ひどい人だと非難した、その真意は。
「明日は望月か」
ぐるりと月が欠けて、再び満ちる頃。
「お前の邸に、月を見に行きたい」
走らせていた筆を止めて、ぽつりと零す。
隣に立って茶を啜っていた腐れ縁の男の、逡巡する間。
そのわずかな時間が、絳攸の諦観と失望を揺らがす。
「
……
そうか、じゃあ、来る?あいにく君の好きな酒は切らしているけど」
壁が薄く、脆くなる。何かを隠そうとする声が、楸瑛の瞳の奥の戸惑いが、らしくなく拙い言葉が、壁を越えて入り込む。
言ってしまってもいいのだろうか。あの夜のことを覚えていると。問い質してもいいのだろうか。口づけたのはなぜなのかと。
好きだと言ってもいいのだろうか。
(たったその一言なのに、な)
俺もお前も、その一言が言えずに、こんな愚かな駆け引きをしている。
あの夜の、月下に立つお前が、眼裏からずっと消えない。まるで、甘い呪いにかかったように。諦めたくて、諦められなくて、愛したくて、愛せない。
声にできない「好き」の言葉で、体中雁字搦めだった。
+++++
締めがいまいち
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