ミズト
2013-05-26 02:58:18
4445文字
Public 二次元版権二次創作
 

【双花お題(1/3)】考えたらわかることなの?


気付いたのは一瞬のことだった。
それまで君は私にとって、大切な友人であり、信頼できる相棒であった。それは今でも変わらないのだけれど。


「絳攸。こんなところで寝ても休まらないよ」

疲労のあまり卓に突っ伏して眠っていた絳攸に楸瑛は声をかけた。絳攸は少し身じろぎをして、重い瞼を開けた。

……いつの間に

眉間に皺を寄せてため息をつく絳攸の顔色は暗く、まともに食事も睡眠もとっていないであろうことは容易に覗えた。再び筆を取ろうとする絳攸の手を、楸瑛はそっと留めた。

「なんだこの手は」

「今日はもう帰りなさい。そんな状態で働いても捗らないだろう」

………

暫し思案した後、さすがにいつ意識を飛ばしてもおかしくない状態で執務にあたっても良い結果は生まないだろう、と判断したのか、絳攸は筆に伸ばしていた手から力を抜いた。楸瑛はにこりと笑って、「お茶でも淹れよう」と袖を翻した。

そういえば、どうしてお前がここにいるんだ」

「ん?それはもちろん愛の力で

最後まで言葉を紡ぐことを許さない眼差しが刺さってきて、楸瑛は苦笑しながら言い直した。

「こんな時間に灯りがついているのはこの室だけだよ?どうせ君がまた無理して働いてるんだと思ってね、気になって寄ってみたんだ」

「そういうお前こそ、どうしてこんな時間まで朝廷内をうろついているんだ?」

………。えーっと………

楸瑛がお茶と一緒にどこかから持ってきた饅頭にかぶりつきながら、絳攸はふんと鼻を鳴らした。

「どうせ後宮で逢引の約束でもしてたのをすっぽかされて、帰ろうとしたところをたまたま室の灯りが見えたからちょっかい出しに来たってところだろう」

絳攸、どうして君はそこまで私の行動がわかるんだい?そんなに愛されると、さすがの私も照れてしまうな」

「言ってろ」

近頃は楸瑛の睦言にも似た軽口にすっかり慣れてきたのか、以前は顔を真っ赤にして反論していたのに、薄い反応を返すことが多くなった。それがおもしろくなくて、楸瑛はさらに甘い軽口を重ねる。

「ねぇ絳攸、慰めてくれるかい?美しい女人に袖にされ、傷ついた私の心を」

絳攸の白く長い指に自分の手を添えると、

「饅頭もうないのか」

という微塵も色気のない返事(?)が返ってきた。まったくおもしろくない。顔を真っ赤にして本でも投げてきてくれないと、からかい甲斐がないではないか。

「ないなら寝る」

「え?邸に帰らないの」

「その時間が惜しいからな」

言うなり絳攸は立ち上がり、そこにそんなものがあったのかと書簡の陰に隠れて見えなくなっていた長椅子に横になる。

「何か掛けるものはないのかい?」

「さぁ」

ぶっきらぼうに答えて目を閉じる絳攸に、楸瑛は仕方ないなぁ、と、上衣を脱いで絳攸の体に掛けた。

………

絳攸は目を開けて暫く藍色の上衣を見ていたが、せっかくの厚意を無下に扱う気はないようで、再び目を閉じた。

「今日もお疲れ様。倒れる場所は私の胸の中にするんだよ」

……馬鹿常春」

深く息を吸って、長く吐いたと思うと、「この上衣」と絳攸がぽつりとこぼした。

「お前の匂いがするな

「嫌かい?違うものを持ってこようか」

「いや、……これでいい。ありがとう」

礼の言葉とともに、本当に少しだけ浮かべた微笑み。上衣の端を軽く握り、それきり絳攸は穏やかに寝息を立て始めた。何ということはないやりとりだった。なのに楸瑛は目を見開いて言葉を失くした。藍色に包まれて微かに寝息を立てる絳攸をじっと見ていた。どうして今まで気付かなかったんだろう。私は絳攸が好きだったのだ。




絳攸が好き、と気付いたから何をどうすることもなく、二人の関係も過ぎてゆく日常も普段と変わらないままだった。あまりの変化のなさに、楸瑛自身首を傾げるほどだった。絳攸は相変わらず配下らしからぬ態度で王を叱咤し、毎日歩いているはずの職場で迷子になり、その度に楸瑛は苦笑しながら茶を淹れ、迷子の絳攸の手を引いて目的地へと導いていた。

「そうだ絳攸、今夜暇かい?」

王が府庫に休憩(という名の逃亡)をしに行っている間、花の二人も朝廷の離れの四阿で茶を飲みながら休息を取っていた。

「ああ、今夜は時間があるが」

「昨日、新しい銘柄の酒が手に入ってね。一緒にどうだい?」

「ふむ……じゃあ、行かせてもらおうか」

そしてその夜、二人は俥に乗り藍邸へ向かったのだった。




「こんなに強いとは思ってなかったな

楸瑛が新しく手に入れた酒は、口あたりがよく爽やかな果実の香りが鼻に抜け、実に飲みやすかったが、かなり酒精の強いものだった。美味い酒だな、と喜んでくれたまではよかったのだが、気付いた時には絳攸は自分の限度を超えた量を摂取していた。

「絳攸、ほら、お水持ってきたから飲んで」

「いらん酒をよこせ

「もうこれ以上はだめだよ」

目元は朱く、体から力は抜け、話も通じない。完全に出来上がっている。
こんな状態では俥に放り込んで一人で帰らせるのも不安だ。今夜はうちに泊まらせようかな、幸い明日は公休日だし。

「絳攸、今夜は泊っておいき。紅邸には文をしたためておくから」

「うー、だめだ、黎深様が

絳攸の養い親の黎深は藍家を毛嫌いしている。養い子である自分が藍家の者の邸に世話になるのは良い気持ちではないだろう、と、酔い潰れていても気にしているのである。

「でも、こんな状態では帰らせることはできないよ。紅尚書が君に何か言ってきたら、全て私のせいにしてくれていいから。今夜は泊っておいき」

紅尚書の耳には入らないよう家人に言付けることも考えたが、隠し通せるとは思えないし、隠そうとしていたことを知られるとどうなるか、想像するのも恐ろしかったので浅はかな考えは捨てた。
絳攸は渋々、というように首を縦に振った。家人に文と客用の寝所の用意を言いつけて、楸瑛は絳攸の腕を引いた。

「ほら絳攸、しっかりして」

うー……。どこに行く……

「寝所だよ。今夜はもう寝よう」

楸瑛に導かれるまま、おぼつかない足取りで絳攸は後をついてゆく。

「もう飲まないのか

「今日はもう駄目。君よっぽどあのお酒気に入ったんだね、誘ってよかったよ」

客用の寝台に腰掛けさせ、冷水を差し出す。絳攸はだるそうに受け取り、ちびちびと飲み干した。
酔いのせいで睡魔が襲ってきたのか、水の入っていた器を持ったまま、絳攸は寝台に横たわる。

「君みたいな人でも、酔い潰れたらそこらへんの人間と変わらないね。可愛いなぁ」

くすりと笑いながら、力の抜けた手から器を取る。

「まったく、髪も解かないで

そう言って、絳攸の髪紐に手を伸ばした時だった。

「!」

絳攸の腕が、楸瑛の首に巻きついた。

「ちょっと、絳攸?」

耳元にすり寄られ、楸瑛の顔に一気に血が上った。

「絳攸ねぇ、絳攸ってば」

「なんだ

「えっと、離してくれないと、動けないんだけど」

「何か問題があるのか」

「私が寝られないんだが

「む?別に寝られるじゃないか」

至近距離で視線が合って、楸瑛は自分の鼓動が聞こえるような気がした。

「えーっと、私は別の室で寝るんだけど」

「どうして」

どうして!?もしかして君の中で、私は君と同じ寝台で寝ることになっているのかい!?
楸瑛は泣きたいような笑いたいような複雑な表情で声なく叫ぶ。

「え、っと、どうして、とは」

「広いんだからここでも寝られるだろう」

「いや、それはまぁそうだけど」

「俺と一緒じゃ寝られないって言うのか」

「いや、えっと、どう説明するべきなのかな」

楸瑛は暫く絳攸と見つめ合って、淡い期待を含んだ質問をした。

「どうして私と一緒に寝たいの?」

絳攸は、自分の顔の横に流れ落ちる楸瑛の黒髪にやわく触れて言った。

「いい匂いがする……よく眠れる」

心満ちたようにため息をついてそう言われれば、楸瑛は絳攸の腕を解くことなどできなかった。




いい匂いがする。
温かい。
程よい重み。
穏やかな寝息。
とても落ち着く

…………え?」

疑問に目を開くと、視界いっぱいによく見知った綺麗な顔。

―――――!!!!!!!!」

絳攸の絶叫で、楸瑛は目を覚ました。




ぎゃあぎゃあ喚く絳攸をなんとかなだめすかし、昨夜の出来事を説明すると、絳攸はにわかには信じられないといった顔で楸瑛を見つめていたが、嘘をついている様子はないと判断し、同時に顔を真っ赤にしてうつむいた。

「おいしい?」

朝餉兼昼餉を一緒に食べながら、楸瑛は問うが、答えはない。
一口一口、まるで苦虫を噛み潰すように咀嚼している様子をみれば、味はあまりわかっていないだろうな、と想像できた。

………悪かった」

「何がだい?」

「何がだい?じゃないだろう!というかお前も一緒に寝るな!!」

「だって、いい匂いがしてよく眠れる、なんて言われちゃあねぇ。拒んだら男が廃ると思わない?」

「それは女相手限定だろうがっ!!俺は男だ!!」

普段と変わらぬ様子でぷりぷり怒鳴りつける絳攸は、確かによく眠れていたようだった。声に張りがあるし、顔色もいい。本当に、私の匂いが安眠に役立ったのかと思うと、楸瑛は躍る胸の内を隠すのに一苦労した。
ひとしきり怒鳴るとすっきりしたのか、絳攸は菜を威勢よくかき込む。本当に君は見ていて飽きない。

何をじっと見てるんだ」

「ん?君のこと好きだなぁと思って」

「昨日の今日でそういうことを言うな気持ち悪い」

にべもなくあしらわれて、楸瑛は苦笑で本心を隠した。

多分私は君を好きなことに気付かないように努めていたのだ、無意識に。
でももうそれはきっと無理。
この感情のせいでいつか君と今のままでいられなくなることも、なんとなくわかる。だからこそ無意識に、気付かないようにしてきたのだろう。
どうすればいいのだろう。今はまだ平気なふりをしていられても、いつか隠しきれなくなった時は?
疑心と怒りと驚きの眼差しで、二度とその手に触れることも許されなくなるのだろうか。

君を手離したくない。今のままでもいられない。

考えてもわからない。考えたらわかることなの?

「楸瑛」

絳攸の声で、思案に沈んでいた意識が浮上する。

「どうした?気分でも悪いのか。宿酔いか?」

こちらの気持ちなど露ほども知らず真っ直ぐな眼差しを向ける君。

「ううん、君がおいしそうに食べてくれるから、嬉しくてね」

そう言って楸瑛は箸を動かし、見えない未来への憂いから一時目を背けた。


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お題への落とし方が雑