ぷの
2024-09-13 14:20:33
9885文字
Public レイチュリ
 

最初の代償

まだ付き合いの浅い🛁🦚が一緒に嫌な幸運をくらう話。
※レイチュリのだいぶ手前。
※人がたくさんしんでます。
P2に蛇足を移動。(初出 2024/09/14)
※冒険クエスト「チェックアウト」のネタバレを含みます。

COで言ってた🦚の成功率が低い理由、案件の難易度だけじゃなく人的損耗を極端に避けてるからでは?と思ったところから逸れて、部下と相思相愛の🦚が見たいだけになった。

【蛇足】

 会議が終わるなり端末の呼び出しが鳴ったトパーズは、発信者を確認するとアベンチュリンの袖を掴んで引き留めた。愚痴予告だ。
「ああ、もう、しつこい! 人材奨励部のあの態度、階級を踏み越える快感に取り憑かれてるとしか思えない。二言目には『我々も仕事ですから』、感じ悪いったらないよ」
 通話が終わると、声を潜めながらも強い語気でわあわあ吠えた。その剣幕に怯えたカブが隣を歩くアベンチュリンの足に擦り寄る。
 あまり人のことを悪く言わないトパーズでさえこうなるのは、人材奨励部がたびたび仕事の邪魔をしてくるからだ。向こうの要求に応えればあれもこれもとエスカレートし、雑にいなせば社内規定に背くのかとうるさい。
 アベンチュリンもまた、人事考課の件でしつこく文句を言われ続けてうんざりしている。よそのようにちゃんと部下を育成しろとのお達しだが、無理に押し上げないだけで、育成をしていないわけではない。数は少ないが、アベンチュリンのところから異動したマネージャークラスの人間はだいたいトントンと昇格しているのがその証拠だ。もっと頻繁に出せとせっつかれても、能力と意欲には個人差があるとしか答えられない。
 トパーズが一通り愚痴を吐き終わったところでその話をすると、彼女は訳知り顔で頷いた。
「君のところは他と違うよね。年季のわりに昇格が極端に遅いから、コンプライアンスに問題がありそうに見えるもの」
「評価は文句のつけようがないはずだよ。なにしろ本人たちの自己評価からほとんどいじってないからね」
 アベンチュリンがちくちく文句を言われるのと並行して、部下たちの方も評価が正当か個別に聞き取りをされているようだ。差し戻されたことはないから、本人たちに不満はないはず。
「それだよ。君が右から左に流すのをわかってて調節してる」
「そんなことをしてなんになる? 戦略投資部でキャリアを積めば異動先はよりどりみどりなのに」
 理由がないよね、と首を捻るアベンチュリンに、トパーズは口を曲げた。腰に手を当てて、アベンチュリンの鼻先に指を突きつける。
「表向きはそう言ってしらをきってるわけか。私の記憶が正しければ、君の部下には能力も度胸もあってプロジェクトマネージャーになれる優秀な人材がたくさんいる。階級が足りないからその役に就けないだけでね。本来あの階級であの少人数なら、君の仕事量を回せるはずがない」
 どこかで聞いた台詞だなあとアベンチュリンは目を細めた。今は仲裁してくれるジェイドはいない。
「ベテランは昇格を避けて、新人はきつい篩にかけられ、君の部下はほとんど入れ替わらない。そりゃあパッと見では育成が下手に見えるよ。新人を積極的に受け入れてマネージャーに仕上げろと文句を言われるのもやむなし。私が指摘するまでもないでしょ?」
 その通り、アベンチュリンの部下の顔ぶれはあまり変わらない。会社の組織としてそれが許されているのは特例だ。
「うちの部に配属されて昇格も昇給も要らないなんて人間、よくあれだけ集めたものだよ。油断して引き抜かれて困っても知らないから。私は自分で育てられるし、人が足りなくたって君が育てた人材なんてごめんだから、絶対に声をかけたりしないけど」
 昇格はともかく、なにかにつけて手当てやボーナスを出しているので、給与面では見合ったものになっているつもりだ。引き抜きの話はわからない。そうなっても引き留められる自信はない。
「君はその辺うまくやってるね、トパーズ総監」
「精鋭は精鋭、育成は育成と割り切ってるもの。むしろ君がやらないのが不思議だよ、アベンチュリン総監」
 口ではそう言うものの、ダイヤモンドやジェイドがアベンチュリンの現状を許していることから、何か事情があることは察しているようだ。
 アベンチュリンに下手な人間を預けると、異常なほど怪我人や殉職者が出る。因果関係を証明できない現象は残念ながら過去に幾度も起こってしまった。その経験を経て残ったのが、今の少数精鋭である。
 本人が希望すれば即座にP41以上になれる人間を安く使っている自覚はある。名目を用意して本来の階級ではありえない権限を与えることも頻繁にあるから、実力ははっきりしているのだ。それなのに、人事考課で上がってくる評価には筋の通った欠点があり、うまいこと昇格に足りない。引き上げたい人間からすれば、文句のつけようがないことに文句を言いたいだろう。アベンチュリンはそれを本人の希望だからと都合よく利用して、自分の周りを固めている。
 キャリアと引き換えにするほどの何がアベンチュリンにあるのか、正直よくわからない。ずっと一緒にやってきて生き延び続けている仲間だけれど、プライベートで家族同然だとか、そんな親密さはまるでない。本当にただの仕事だけの付き合いだ。もちろん時間を積み重ねた分だけ思い入れはある。最大限の安全を常に考えているし、できる限りの便宜をはかりたい。意思を尊重して、いつでも手放す心づもりもしている。
「僕としては、生きていてくれたらそれでいい。選り好みをしているわけではないんだけど」
「はいはい。そういうことにしておいてあげる」
 自分のオフィスに着いたので、じゃあねと手を振って、トパーズと別れた。
 中に入ると、部下二人とレイシオがなにやら難しい顔で話し合いをしている。レイシオが連絡をしてきたとき、珍しいことにアベンチュリンではなく部下に用があると言っていたから、会議前に入室許可だけ渡しておいたのだった。
「やあ教授、何かあった?」
「用は済んだ」
 先程の様子からするとあきらかな嘘だったが、部下たちは会釈して離れていってしまった。
「君たち仲いいよね」
「それなりに付き合いが長いからな」
 アベンチュリンの知らないところで情報が共有されていたり、レイシオと部下でこそこそ何かをしていたりすることもある。権限的には問題がない範疇だけれども、なんとなく疎外感を感じる。
「教授は僕とも仲良しだよね?」
 上目遣いで期待を込めて見つめたら、返事の代わりに指で額をバチンと弾かれた。
「もう、これ痛いんだって!」
「ふん」
 嘘泣きの抗議など一笑に付されて終わった。レイシオは自分の手がえげつない威力の本を振り回したりチョークを投げたりしていることを自覚してほしい。まあ、その強さに安心をもらってるんだけど。
 優秀すぎるパートナーが付けられたのは、上がアベンチュリンの幸運を危険視していることも理由のひとつだろう。
 どうか、くれぐれも、彼らに地母神の目が注がれませんように。なるべく穏便なやり方で安全に仕事をして、想定される代償を先回りして彼女の目の外に逃がす。奇特な精鋭たちはこんなアベンチュリンでも信じてくれて、理由を説明しなくても従ってくれる。そのおかげで皆の生存率を上げられる。
 命に代えても、預けられた信頼と命に応えたい。何度も失敗してたくさんの命を取りこぼしてきた出来損ないの決意なんて信じるに値しないだろうけれど、それが偽りのない本心だ。