しちろ
2023-05-07 19:56:06
4992文字
Public LOM
 

もしもアニメ版にドラゴンキラー編があったら

聖剣LOMアニメ版。シャイロとセラフィナ。1)セラフィナがドラゴンキラーだったら。2)シャイロがドラゴンキラーだったら。どちらもセラフィナ視点。pixiv投稿作品。5,000字。


紫紺の怨霊 ~シャイロVer.~


「シャイロ、どういうつもり?」

 最近、シャイロの様子がおかしかった。それは確かに認めるわ。
 それにしたって寝耳に水もいいところだった。
 突如、私の目の前に現れた美しい獣人に聞かされたのは、ノルン山脈の知恵の竜が殺された、という話だった。
 知恵の竜。
 ファ・ディールの力と秩序を司る存在だと、魔法史の授業で習ったことがある。強大な魔力を有し、竜語魔法を操るドラゴンは魔法使いにとっても神聖な存在であり、彼らが守護するというマナストーンは渇望してやまない品らしい。といっても竜にしろマナストーンにしろ伝説的な代物で、私もまさか実在するなどとは夢にも思ってもいなかった。だから、授業を聞きながら私が考えたのは、マナストーンが本当にあれば『使える』のかしらなんて、シャイロが知れば嘆きそうなことだったりした。
 まあ、それは余談ではあるのだけれど。
 シエラというドラグーンに話を聞いた私は、耳を疑った。
 まず、知恵の竜は本当に実在しているということ。そして、あろうことかそのうちの一体が殺害されたという(私が言うのもなんだけど)物騒極まる話。
 それより何より――それを為したのはお前の知り合いだ、とシエラは言う。
 そんな馬鹿な、ありえない。
 服装、背格好、年の頃。彼女の言う竜殺しの特徴は、聞けば聞くほどシャイロに当てはまっていた。でも、それでも、私にはとても信じられない。
「知恵の竜であるメガロードも、そのドラグーンである三元老や大した力のない一般の風読み士たちまで容赦なく殺された。私も現場を見てきた。惨いものだった」
「嘘よ」 
 私は断言した。
 私の知る限り、シャイロほど優しく世話好きで正義感の強い人はいない。シエラの語る殺戮者像とはまるで逆だ。シエラの言葉を、私は何度でも否定した。シエラが何か勘違いしているか、人違いに違いない。
「ならばセラフィナ、信じる根拠でも?」
「根拠は……
 私は力を込めて言う。
「シャイロは、とても優しいもの。絶対に、そんなことをする人じゃない」
「戦いの場で、そんなものは何の根拠にもならないな」
 シエラは話にもならないと首を振る。けれどシエラ、あなたはシャイロを知らないからそんな風に言えるのよ。彼は、自分の命が消えそうなときまで他人のことを考えている、どんな罪を目にしても人を憎むことが決してできない。そんな人だ。
 それに、シャイロは……
 彼に失礼なのは承知で、私は思っていたことを正直に話した。するとシエラは、ますます根拠にならないと呆れ顔で言った。
「なにを言っている。黒竜王を倒し、ルシェイメアを堕としたのはあの少年だ」
「えっ」
 そんな話聞いてない。
 半ば茫然としてしまった私に、次に狙われるのは、おそらく骨の城のジャジャラだろうとシエラは言う。もう一体の知恵の竜――シエラの主――は人里遠く離れた神秘の森の、さらに奥深くに住んでおり、おいそれとは近づけないらしい。
 これから骨の城に向かうというシエラに、私は同道することにした。
 ほら、やっぱり人違いじゃないの。
 そう、言ってやるつもりで。


 なのに骨の城にいたのは、紛れもなくシャイロだった。
 シエラは、もう一人の竜殺し――ティアマットのドラグーンを追って、この場にはいない。
 薄暗く不気味な城でシャイロと向き合いながら、私はまだ疑いを捨てきれていなかった。偽物、もしくは似ている誰か? 自分の育ての親のこともあって、誰かの巧妙な変装なんじゃないかとか。
 そうじゃないとわかったのは、シャイロが腰から提げていた骨のカンテラが紛れもなくアーティファクトだと気づいたから。あれはたぶん、シャイロか私にしか使えない。
「ティアマットが何をしようとしているか、知っているの?」
……
 シャイロは答えなかった。
 本人だと悟った私は、次に、シャイロが何も知らないのだと思った。大事なことは何一つ知らされないで、利用されているんだって。そうでなければ、騙されているのに違いない。人の良すぎる彼のことだから、なにか同情するような話でもされて協力しているか、うっかり悪意のある人間と仲良くなっちゃったのよ。……以前の私に、されたみたいに。
 そう、思った。思いたかった。
「何か、事情があるんだよね……?」
 いつだったか、シャイロが私にした質問を、今度は私が彼にすることになった。声は、自分で思うより震えていた。
「ねえ、シャイロ。お願いだから、何があったか聞かせて。私にはまだ何もわからないけれど……けれど、これだけは言える。そういうのは、あなたには似合わない」
 過去には、彼に嘘ばかりついてきた私。でも、これは本心だった。
「どいてくれるかな」
 シャイロがこの日、初めて言った言葉を私はとっさには受け入れられなかった。
「ラルクと合流しなきゃ」
「できないわ。私と一緒に帰りましょう」
 あまりに彼らしくない。
 どうしても聞かないのなら力ずくでもいい。多少傷を負わせてでも、私が連れて帰る。こんな場所にいさせるよりはずっとまし。
 私が槍を構えると、シャイロは剣を抜いた。
「本気なの?」
 互いに武器を向けながら、私は聞いた。
「あなた、私に勝てたことないじゃない」
「そう……だったね」
 私は勝てるはずだった。
 たまに町の剣士と手合わせする程度で、あとはほとんど我流で剣の腕を磨いた彼と、幼いころから珠魅の騎士の手ほどきを受けて育った私。
 旅の最中の稽古でも、玉石の間でも、マイホームに一緒に住むようになってからも。私がシャイロに負けたことなど、今まで一度もなかったのだもの。
 けれど今、私の槍は弾き飛ばされ、シャイロの剣の切っ先が情け容赦なく私の喉元に突き付けられていた。
「セラフィナ」
 私を見下ろす両の眼は、彼のそれとは思えないほどひどく冷静だった。
「僕が、いつまでも君より弱いと思った?」