しちろ
2023-05-07 19:56:06
4992文字
Public LOM
 

もしもアニメ版にドラゴンキラー編があったら

聖剣LOMアニメ版。シャイロとセラフィナ。1)セラフィナがドラゴンキラーだったら。2)シャイロがドラゴンキラーだったら。どちらもセラフィナ視点。pixiv投稿作品。5,000字。

赤き堕帝 ~セラフィナVer.~


「それで、話って何かしら」
 燃え盛る地の底で、炎の舞台の上に男は立っていた。
 頭にターバンを巻き、赤いローブを纏った中年の男。出会ってまだ十分もたっていないが、一見か弱そうなこの男に対して私には不信感しかない。
 なにしろ人を一方的に奈落に引きずり込み、腕試しまでさせてこの言い草だ。
「我に代わって知恵の竜を討伐してもらいたい」
 ふざけた話。
 私はお世辞にも、これまでの人生で人に誇れるようなことはしてきてはいない。
 そのかわり、胡散臭い話やきな臭い話ならばこれまでいやというほど目にし、耳にしてきた。ティアマットと名乗る男の話はそれらのどれよりも、飛び抜けて胡散臭かった。
「罪ならば十分すぎるほどに重ねたわ。私にこれ以上罪を犯せというつもり?」
「罪などと誰がそんなことを言うのだね」
 誰も言わない。思うのは私。
 私はこれまで多くを騙し、奪い、殺してきた。友すら騙して殺す気だった。
 自分のしたことで奈落に落ちたのならば、それも仕方がないと思う。シャイロは誰にも罪はないと言ってくれたけれど、信じるもののためとはいえ、私が許されないことをしたのは間違いない。けれど……こんな形で、などとは望んでいない。
「強き戦士よ」
 男が私に手を差し伸べる。誘うように。
「私は知恵の竜に力を奪われた。竜どもの嫉妬によってだ。弱き者がより強き者に虐げられる、その理不尽をお前は知っていよう。私にはお主の力が必要なのだ」
 嘘だ。私は思った。
 見た目はひ弱。けれど実態は全くそうではないことが、こうして対峙しているとよくわかる。この男は赤いローブの下に、凄まじい力と冷たさと、どす黒く燃える何かを押し隠している。こういう存在を、私は身近に知っている。
「珠魅の核を数多く奪ってきた私なら、知恵の竜の命を奪うのもそうは変わらないだろうというわけね」
「戦士よ、先ほどからそういう言い方をするものではない。騎士のほうは違ったかもしれないが、そなたは望んでしたわけではないだろう」
 優しくすら聞こえる男の言葉に神経を逆なでされた。
 彼女が私に強いたことなど一度もない。お前のように、こんな拒否もできない状況に追い込んで、役割を押し付けようなど。彼女とお前を一緒にするな。そう言いたかった。
「彼女のことは言わないでくれる? 私が好きでやったのよ」
「滅び行く者どもを本心で救いたいと?」
「あなたに話したいことではないわ」
 私の大切な人がそう望んだから、力を貸した。彼女は強く……本当に強く拒んだけれど、私があまりにも強情だったからか、ついには折れた。
 一人で危ないことをさせるよりは、まだマシか……
 深々と嘆息した育ての親の前で、今より幼かった私は無邪気にはしゃいだ。きっとその時には、自分がやろうとしていることの意味の重さを、私はまだよくわかっていなかったのだと思う。そしてそれを理解するころには、もう後戻りできないほど珠魅の核は集まっていた。
「あなたに関係のない話はもういいでしょう。そして私はあなたに関わるつもりもないわ。そろそろ帰してくれないかしら」
「残念だが、それはできない」
 ここまで私を案内した獣人の戦士――ドラグーンのラルクが口を開く。
「セラフィナ。望もうと望むまいと、お前はどのみち協力せざるを得ん。半霊体のまま放っておけば、いずれは無になってしまうのだからな……





「おかえり、セラフィナ」
 家に帰ると、私を待っていたのは家主の笑顔だった。お人よしを絵に書いたような、穏やかな顔。彼を見るといつも温かい気持ちと同時に強い罪悪感に襲われる。
 煌めきの都市から帰った私を、なんとシャイロはマイホームに迎えてくれた。
 シャイロはまるで気にしていないようだったけれど、自分が彼にしたことを思うと胸が痛い。本当は私は、ここにいるべき人間ではないだろう。そう思うくせにここを出ていけないのだから、私という人間はつくづく図々しいと思う。
「何か……あった?」
「別に、何も」
 シャイロは最近、妙に鋭い。
 私は心配かけないよう、なるべく彼と同じような笑顔を繕った。シャイロと出会ったころも、私は薄暗い本心を隠し、こんな笑顔で彼に近づいた。だから今も多分うまくできているはず。
  

 ただいま。おかえり。
 私がティアマットに協力することにした、たった一つの理由。
 私を待ってくれる場所に帰りたい。
 自分がしてきたことなんか差し置いて……まったく、つくづく、私は呆れるほど身勝手だ。


「シャイロ、帰ったばかりだけどちょっと用事ができたの」
「用事?」
「頼まれごと。大したことじゃ、ないけどね」
「それなら僕も手伝うよ」
「あら、シャイロ。あなた、女の子のヒミツの用に、口出す気?」
「そ、それは……僕が行っちゃ、まずいこと……みたいだね」
「そういうこと。料理当番、帰ったら私がやるね」
「そんなの気にしなくていいよ」
 ごめんなさい、シャイロ。
 あの時はだましたけれど、今は巻き込みたくなかった。
 本当の理由は他愛のない話で誤魔化して。私はシャイロにまた隠し事をすることになった。 
「じゃあ私、しばらく出かけるね」
 彼は善良で優しい。
 でも、決してにぶくはない。バレないうちに、ここを離れなくてはいけない。
 手早く支度を整えて玄関を出ると、ラルクが木の陰に身を隠して待っていた。
「ありがとう。待たせたわね」
「もういいのか?」
「荷物を取りに帰りたかったのと、少し、顔を見たかっただけだから。付き合ってくれて感謝するわ。それにしても、ラルク……
 木からはみ出た鎧の尾飾りを見て、私はくすっと笑った。
 そんなに大きな身体を縮こまらせて、わざわざ隠れているとか。
「家族に見つかると、いろいろ面倒なのだろう」
「そんな気を回してくれるなんて、見かけによらず優しいのね」
 私が言うと、ラルクは渋い顔になった。うん、思ったよりは仲良くやっていけるかも。
「まずはノルン山脈だ。少し長い旅になるぞ」
「いいわ、行きましょうラルク」