たこてい
2024-05-21 00:21:16
2992文字
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飛んで日に入る夏の虫

「柘榴の中身は綿だらけ」
主人公の小学生時代の女友達が二人について語ってる話です。この女も主人公に大分脳みそを焼かれています。


(職員に促され話し始める)

⬛︎⬛︎は……友達でした。明るくて、誰にでも好かれる子でしたよ。
はい、本当に、そうでした。
小学生の頃でしょうか。
私、当時仲良くしていた子達から、何故か急に無視されるようになった時期があって。そういうの、女子だと良くあるじゃないですか。理由とかよくわからないけれど。
一人でいた私に、話しかけてくれたのが⬛︎⬛︎でした。何も気にしない子なんです。
凄くマイペースで、周りの目なんて気にならない。それでいて良い子なものですから、みんなから愛されていて。はい、私も好きでしたよ。誰も何も言えないんです。先生にも好かれてましたからね。悪く言おうものなら、あっという間に悪者ですよ。だから、彼女は何でも出来るんです。どんな人間にだって親切に出来て、どんな人間にだって平等に優しい。
例えるならお姫様みたいな子だなと、当時から思ってました。不思議な子でした。好きでしたよ。本当に。………はい。
……仲が良かったのはほんの数年だけです。中学は別だったので。小学生の頃だって、ずっと一緒にいたわけでは無いです。彼女にとって私は、大勢居る友達のうちの一人でしかなかったと思います。いいえ、私だけじゃありません。そうじゃなかった。⬛︎⬛︎には友達が大勢いました。彼女は誰にでも優しかったから。誰にでもすぐ、簡単に手を差し伸べたから。だから、みんな、大勢の内の一人でしかなかった。私も、明石環も。

いいえ!知り合いなんかじゃありません。私はあんな男のこと知りません。でも、彼の話なんでしょう?わかってますよ。⬛︎⬛︎にあの男の話を教えたのは私です。私が聞かれたんです。私が……

ああ、明石ですよね。すみません。私も詳しい事は何も知りませんよ。ああ、虐待されてたらしいですね。どうでも良いです。嫌いなんで。嫌いですよあんなやつ。知り合いでもなんでもないですけど、でも、アイツのことを好いてる人間なんて居ませんでしたよ。嫌われ者でした。会話は成り立たないし、鈍臭いし、汚いし。
……
友達だって言ってました。⬛︎⬛︎は。大好きな友達だって。明石に何か言うと、嫌な顔するんです。それで、「何でそんなこと言うの?」って、私が悪いみたいに。悪いのは、あいつなのに。わかってなかったんです。あの子、人に興味無いから。そうに決まってる。
ああそう、それで、その後喧嘩したみたいで、無視するようになってましたよ。あはは!当然ですよね。そうです。身の程知らずですから。
多分、あの男も好きだったんじゃないですか?みんな彼女のこと好きでしたし。優しくされて、調子に乗ったんですよ。そう。
だってね、⬛︎⬛︎の友達のこと睨むんですよ。⬛︎⬛︎と楽しそうにしてると、あの男、凄い顔で、睨みつけるんです。気持ち悪いんですよ。私もずっと睨まれてました。睨み返してやりたかった。でも、怖いんですよ。怖い。カッター持ち歩いてるんですあいつ。頭おかしいから。だから怖くて。⬛︎⬛︎に仲良くしない方がいいって、何回も言ってたのに。

しかもね、明石は、⬛︎⬛︎のことも恨めしそうに見るんですよ。あんなに優しくされておいて、それじゃ満足できないんです。あの子のこと、愛さないんです。自分以外の人間を構うことを咎めるみたいに。自分側に来ないことを、憎むみたいに。嗚呼、気持ち悪い……
これだけです。私が知ってるのはこれだけ。多分みんなそうです。これしか無いから。もういいでしょうか。


(職員が質問をする)


………
……………はい…………
……小学校の友達と、久しぶりに会ったんで居酒屋に入ったんです。この前。それで、昔の話をしてました。当時の、他の友達の話。⬛︎⬛︎の話もしました。そう、丁度彼女がSNSで海外旅行した写真をあげてて、お金持ちって良いなあなんて、一緒にいた友達は⬛︎⬛︎のことそんなに知らないから、話してて。そしたら、そしたら、居たんですよ、あの男が!明石環が!
凄い乱暴にジョッキ置かれたから!文句言おうとしたら!あいつで!睨まれて、睨まれたんです!聞いてたんですよ!私たちが話してるの!嗚呼気持ち悪い!すぐ出ましたよ!もう、最悪、最悪で!

それで
それで、
なかったことにしたかったのに。

二ヶ月経ったくらいに……⬛︎⬛︎から連絡が来ました………。三年ぶりの連絡は明石環のことで……
何か知ってる?って
丁度あの居酒屋が潰れたって聞いてて。嫌な予感はしてたんです。バイトが死んで、警察が来たって。知りたくなかった。何も知りたくなかったけど、でも、でも、⬛︎⬛︎に頼られたから…………
だから、調べて、調べたこと教えました。次の休みに東京から、こっちに帰ってくるって言われて。で、久しぶりにご飯でも食べようって、約束して………来なくて…………
………
明石環が、殺したんですか?呪い、殺した?


(長い沈黙の後、彼女が急に立ち上がる)


嗚呼!嗚呼そうだ!私は知ってるんです!明石が殺したんだ!呼ばれたって、呼ばれたって言ってた!⬛︎⬛︎は、あいつに呼ばれたって、死んでるのに!私言ったのに!あいつはもう死んだんだって!なのに、呼ばれたからって、聞かなくて、聞かなくて……いつだって………
ああ……のたれ死んだあの男が⬛︎⬛︎を、そんなこと、そんなの、あるわけない!
あいつは何者でもない!あいつは⬛︎⬛︎にとって有象無象の一つに過ぎないんだ!私と同じ!特別でもなんでもない!アレは太陽だったんだ!誰の手にも入らない!手なんて届かない!ましてやあんな、虫ケラみたいな!殺せるはずない!何も残せるはずが無い!あんな奴が⬛︎⬛︎の死因になんて


(興奮する彼女を職員が宥める)


……飛んで火に入る夏の虫って、言うじゃないですか……。羨ましいですよね……
……知ってますか?見たことあります?太陽みたいな人間って、実在するんですよ。空で、輝く、太陽みたいな
でもね、本当の太陽は焼いてくれないんです。何も残してくれないんですよ。勝手に翼が溶けるだけなんです。私たちが勝手に落ちるだけ。太陽にとっては、知ったことじゃないんですよ。
だから、何も残せないんです。私たちは何も出来ないんです。出来ないのに。出来ないから、私は諦めたのに。みんな、みんなそうだった。いつもそう。そうなのに。みんなわかってるのに!あの男は!あの男だけそれが理解できないんです。
何もありやしないのに。二人の間には、何も無いのに
だって、おかしいじゃないですか、あんな、あんな取るに足らない羽虫が、何も無い、何でも無い虫が、焼けこげて真っ黒な点になったんですよ。太陽の黒点に。
そしたら………もう、愛とか絆とか、そんなもので適うわけないじゃん……………


(以降沈黙)