たこてい
2023-10-26 07:18:15
3237文字
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期間限定イベント「光くんの受難」ストーリー12話から抜粋

落書きで描いた「赤い糸の解き方.exe」組ソシャゲジューンブライドイベントパロディから書きたかったところだけ



「もういいでしょ。頑張ったよ姉さんは。」
「ダメに決まってるでしょ!このままだと光くんが花嫁にされちゃう!」
「それめっちゃ面白あー、別に殺されるわけじゃ無いんだし。終わったら解放してくれそうだったじゃない。さっさと光くんに話合わせてもらってさあ」
「ダメだよ!好きでもない相手と結婚式なんて!」
どうして?」
「だって特別なことでしょう?可哀想じゃん」
「はっ」

ステンドグラスから差し込む光が、真白な結斗を鮮やかに染め上げている。けれど、彼の目は暗く暗く沈んでいた。そこには色も光も無い。初めて出会った時と、同じ様に。

「いい加減にして。無いんだよ、意味も価値も。あんなものくっだらない制度の一つでしかない。花嫁だとかなんだとか、そんなものに固執してるのなんて頭の悪いガキくらい」
「結斗」
「馬鹿げた儀式も、しょうもない口上も、名前負けの関係も。全部ただの茶番だから。時間の無駄。浮かれたこの格好だってそう。さっさと脱ぎたいからもう帰るよ。我儘言わないで」

いつかと同じ顔で、結斗がこちらを睨んだ。全てを呪うような、全てに怯えたような、そして諦めたような表情で。
そう、そうか。彼は私と違って、見たことがあるのか。
私の実母は、物心つく前に死んでしまっている。だから、私には家族を失った直接的な記憶は無い。もちろん大切な存在だとは思っているけれど。それでも、私の知る家族はお父さんと今のお母さんと結斗だけなのだ。
けれど、結斗は違う。夫婦関係が破綻する瞬間を見てしまっている。それがどれだけろくでなしで、憎い相手であったとしても。家族が壊れていく姿なんて子供にとってはトラウマでしかない。何もかも無駄なのだと、絶望させてしまうなんて簡単だ。

ごめんね結斗。ちょっとお姉ちゃんが考え無しだった」
「うん。わかってくれたなら良いよ。もう帰ろ」
「ううん。帰らない」
「はあ?」

結斗の眉間の皺が、深くなった。
本人自覚があるのかはわからないけどこの子は、人に言うことを聞かせるために機嫌を顔に出す悪い癖がある。理解出来ないこと、気に入らないことがあるとすぐに癖が出てしまう。酷く乱暴で幼稚で不器用な、彼なりの甘え方だ。
いつもより広く露出された額を人差し指でつつく。

「おりゃおりゃおりゃ〜」
「ちょっと」
「デコ出しで狙いやすいねえ。可愛いやつめ」
「話逸らさないで」
「はいはい。もう帰りたいんでしょ?ダメだよ。結斗は今からここで私と結婚式して、大切さを知るんだから!」
「は?」

結斗は一度大きく目を見開いた後、瞳を閉じて、ため息をついた。そして、せせら笑う。今度のは、失望。本当にわかりやすい子だ。

「はは、さっき自分で『好きでもない相手と結婚式なんて!』って言ったくせに。何言ってんの?」
「えっ、結斗お姉ちゃんのこと好きじゃないの?私はこんなに大好きなのに?」
…………そういう話じゃなくて」
「結婚式ってさ、神様の前で永遠の愛を誓うものでしょ?でもさあ永遠の愛って、男女間で成立するものだけじゃないよ。私が結斗を大切に思う気持ちだって、立派な愛だし。なら、誓ってもいいでしょ!」
……

再び結斗の眉間に皺が寄る。でもこれは、いつもの「何言ってんだこいつ?」或いは「ブラコンキモ」の顔だ。気にせず行こう。
彼の両手を掴んで、胸の高さまで持ち上げる。されるがまま、結斗は抵抗もしなかった。繋いだ手を、じっと見ている。安心させたくて、優しく微笑んだ。目は合わないけれど、多分平気。

「えーごほん。白澤結斗くん。貴方はこの私をお姉ちゃんとし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命ある限り心を尽くすことを誓いますか?」
「この流れで俺に先やらせるの?」
「ほら、良いから良いから!」
……誓います」
「よし。じゃあ次は私だね。ちょっとずつ言うから続けて言える?」
「大丈夫。覚えたから」
「えっ一回で!?嘘でしょ!?」
「嘘つかないでしょこんなところで」

はあ、とため息をついた結斗がこちらに向き直る。触れていた手を軽く握り返された。

「貴女は俺を……家族とし、病める時も健やかなる時も、悲しみの時も喜びの時も、貧しい時も富める時も、これを愛し、これを助け、これを慰め、これを敬い、その命ある限り心を尽くすことを誓いますか?」

迷子の子供みたいな瞳が、ようやく私を見た。
わかっている。だって、結斗が価値を見出せていないのは自分の言葉じゃない。誰かの誓いだ。自分にはどうにもならないところで大切なものが壊れてしまうことに怯えている。だから、この式の意味は此処にある。
全部全部大丈夫。お姉ちゃんがついてるから。

「誓いましょう!」

……
「はい!これで完璧!完璧家族!」
「なにそれ」
結斗の言う通り、夫婦関係っていう制度にはね、きっとそれ以上の意味はないよ。でもさ、誰かを愛するっていう誓いはすっごく大切なものだと思うの。気持ちが変わってしまうのは仕方がないけど、それでも、その時の心には嘘なんて吐かせたくない」
……光くんだから?」
「うん。勿論結斗にも。大切な人だから」
…………そう」
「あはは!いやー神父さんとかお客さんとか居たら盛り上がったんだけどね!あとは指輪は兄弟だと違うか」
「姉さんは何付けようか。手錠?」
「未成年の弟に手を出したからって!?ち、違うんです!誤解です!」
「あはは、冗談。本当はね、要らないよ。何にも要らない」


瞳が、溶けそうなくらい優しく細められた。さっきまで子供みたいな顔をしていたのに。


「ドレスも、ベールも、指輪も要らない。何にも無くたって、笑ってる姉さんが世界で一番綺麗だよ」


いつもと違う、遮る前髪の無い表情に突き刺される。結斗いつもこんな顔してたっけ!?かぶりを振ってそのまま手も大きく振り払った。


「ええい!口説くな姉を!」
え、何その反応。珍しいじゃん」
「もう!なんか普段と髪型違うから調子狂うんだけど!」
「へえ。じゃ、これからは前髪上げようかな。俺相手にタジタジの姉さん可愛いし」
「あっふ〜んそういうこと言うんだ〜!女誑しくんは隙だらけのおでこに肉って書いちゃうもんね!」
「じゃあ姉さんのおでこは『にく』ね」
「ミートくんにされちゃう!」

くすくす笑う、私の弟は誰よりも可愛い。ああ良かった。結斗の機嫌も戻ったみたいだし、気を取り直して拳を高く掲げる。

「さ!光くんを取り返さないと!」
「あーもういいや姉さん。俺が話つけてくるよ。多分大丈夫」
「へ?」
「姉さんとこのまま遊んでてもいいんだけどでも、今はそれよりも早く帰りたい」

結斗が今度は真っ直ぐに微笑んだ。そのまま、私の手を引いて歩き出す。

「夕飯はやっぱり、家族と家で食べないとでしょ?」
「そうだね!さあ目指せ一家団欒!」

そして私は、強く強く結ばれたその手を、負けないくらい強い力で握り返した。