Hizuki
2018-08-22 12:44:00
5321文字
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愛しき人を迎えに

【グラブル】ジクグラ。2人の結婚式の話。ドイツの結婚式の余興より。フェードラッヘ城内の捏造あります。元の国の慣習に倣って指輪を右手にしています。攫われた大切な人を探しに。




「駄犬達はグランを一体どこまで連れて行ったんだ

心配そうにパーシヴァルが呟いた。
探し始めてもうそれなりに経つ。
日が傾き始め、窓から差し込む光は徐々に橙に色を変えている。
グランが見たいと言いそうな城内の目立った場所は粗方探した。
騎士団の詰所、稽古場、食堂、武器庫、それ以外にも思い当たりそうな場所。
やはり離れても昔の記憶が覚えているのか、すんなりと行くことができたものの、行った先にグランの姿はない。

まさかあそこか?いや、だが
「何か心当たりでも?」

パーシヴァルの問いかけに頷く。
まだ行っていない場所で一箇所だけ心当たりがあった。
とはいえ事件をきっかけに黒竜騎士団が解体された以上、あの場所が残っているとは到底考えにくかった。
だがもうここしか考えられない。
その場所へ足を向けた。
そして心当たりはどうやら正解だったようで、扉の前にランスロットとヴェインの姿があった。
俺達に気付いたヴェインが手を振って迎える。

「あ、ジークフリートさん!パーさんも!」
「見つかっちゃいましたか」
「ここが残っていたとはなぁ

顎に手を当て、感慨深く木製の扉を眺める。
黒竜騎士団の団長室。
かつての、俺の部屋。

「早く行って来い。いつまで大切な者を待たせるつもりだ」

何故ここが残っているのか、と聞く間もなく、パーシヴァルに背中を押される。
タイミングを合わせたかのようにランスロットとヴェインが扉を開け、中に足を踏み入れる。
背中でパタンと閉まる音がして、足音が三つ遠ざかっていく。

また随分と懐かしいところにいるな」
「ランスロット達が教えてくれたんだ。黒竜騎士団の団長だった頃にジークフリートさんが使ってた部屋だって」

扉に背を向けて執務机の椅子に座っているグランに声をかけると、くるりと椅子を回転させてこちらを向き、立ち上がった。
2人から説明を受けたのだろう、連れ出されたことについては何も言わなかった。
夕日がグランの纏う衣を橙色に染め、日中とは異なる姿に目を奪われる。

「ああ、そうだ。どうしてここに?」
「2人にジークフリートさんに縁のある場所を案内してもらってたんだ。そうしたら、とっておきの場所があるって連れて来られたのがここだった」

室内を軽く見回してみても、恐らく当時と変わっている様子は見られない。
それどころか掃除が行き届いていて、俺が使っていた頃よりも綺麗になっているような気がした。
誰の手によってなのかは考えるまでもない。

「僕の知らないジークフリートさんがここに詰まってるんだなぁって」

執務机の正面に周り、机上を嬉しそうに撫でる。
どうということはない動作でさえ愛しい。
グランの側に歩み寄ると、すっぽりと腕の中に収まってしまう身体を抱き締めた。
同じように力を返され、上目遣いでこちらの様子をうかがっている。

「ずっと探してくれたんでしょ?」
「当然だろう」
「へへ、ありがとう」

程なくして身体は離れていき、グランは物珍しそうに室内を見て回る。
グランから伸ばされた手は自身の手を絡め取った。
自然と俺も並んで中を見て歩くことになって。
確かに当時とそう変わりはしないが、事件の証拠を探し求めてひっくり返したような跡が調度品の傷として所々に見えた。
苦いだけでは済まなかったことではあるが、あれがなければグランには出会えていなかったかもしれない。

「さて、無事見つけてもらったし、みんなのところに戻ろっか」
グラン」

一通り見て満足したのか、扉に手をかけようとしたグランを呼び止める。
絡めていた手を一度解き、不思議そうに首を傾げるグランの右手を掬い上げた。
その薬指には先ほど交換した誓いの指輪が輝いている。
正面に跪いて指先に口付けを落とし、ちらりと様子を盗み見れば顔が一瞬で朱に染まった。

「いつお前を困らせてしまうか分からない。いつお前を悲しませてしまうか分からない」

誓いの証は確かにある。
だが、身近に何が起こるか分からないということは身をもって知っている。
恐怖、という感情を最後に持ったのは仕えるべき王を喪った時だった。
同じようにグランがいなくなってしまうことが、こんなにも怖い。

それでもどうか、俺の側にいてくれないだろうか」

叶うのなら、ずっと側にいてほしい。
この命の終わりが来るその時まで。

「僕はもう何があってもジークフリートさんの側から離れるつもりはないよ」

俺の不安を吹き飛ばすようにグランが笑う。
言葉が確かなものであるというように額に口付けが落とされた。

「さっきシルフの前で誓ったんだから」
ああ、そうだったな」

この国の星晶獣も、あの場にいた艇の仲間達も誓いを聞いている。
俺がすべきことは、グランを幸せにすること。
名を呼べば、こちらを見下ろす鳶色の目と視線が重なった。

「愛している」

あまりにも自然に言葉が溢れる。
ただもう一度グランに誓うように。

僕もだよ」

そう言うと膝をついて目の高さを合わせたグランから手を伸ばされる。
するりと手を解き両手で俺の顔を包むと、ゆっくりと唇が重ねられて。
グランがすぐそこにいるのだと分かる。

「ジークフリートさんこそ、勝手にいなくなったりしないでね?」
肝に銘じておこう」

釘を刺すように告げられる。
すぐ戻るつもりで出たものの、数日戻れなかったなんてことは過去に何度もあった。
団長から怒られたことも一度や二度ではない。
身に覚えがあることに思わず苦笑する。

ね、ジークフリートさん」

手を取って立ち上がると躊躇いがちにグランが俺の名を呼んだ。

「もうちょっとだけここにいたいんだけど、ダメ?」
「ん?戻るのではなかったのか?」

その口から出たのは意外な言葉。
戻ろうと先に言ったのはグランの方だった。

「多分戻ったらみんなに囲まれる、よね」

あれだけ目立つ形でグランは攫われていったし、同じように俺も仲間達に送り出された。
当然戻れば囲まれるのは目に見えている。

「ふむ、そうだろうな」
だから、えっと、あの、もうちょっとだけここに2人でいたいなって」

もうちょっとだけ、というのがグランらしい。
戻るつもりではあるけれど、もう少しだけ、と。
邪魔が入ることはないだろうが、念のため部屋に鍵をかける。

「どうしたい?」
「ジークフリートさんの話が聞きたいな」

話をするならば、ここはどうにも堅苦しい。
執務室よりも隣の部屋の方がまだ気楽だ。
グランを横抱きにして室内にあるもう一つの扉に足を向ける。
急に浮いた足元に驚いたのか、しがみつくように俺の首にグランの腕が回された。
執務室から繋がる扉に手をかける。
この部屋自体がここまで整えられているのなら、きっと隣接した休憩用の部屋も同じなのだろう。

「俺の?」
「話せる範囲のことでいいから、ジークフリートさんが団長だった頃の話、聞かせて?」

俺の事情を鑑みたうえで気遣ってくれているのが分かった。
室内を軽く見回すと、やはり思った通り手入れが行き届いている。
騎士団長にと誂えられた高価な調度品が落ち着かず、この部屋よりも簡素な自室で休息を取ることの方が多かった。
そう頻繁に使うことはなかった部屋ではあるが、懐かしいことには変わりないらしい。

「ああ、いくらでも話そう。少し、では済まないかもしれないが」
「ふふ、それは楽しみ」

グランをベッドの端に下ろして座らせる。
その隣に自分も腰を下ろした。

「まぁ遅くなっても3人がうまくやってくれるだろうさ」

上官の不在の対応に慣れたかつての仲間達がいる。
それならば何の心配もない。
俺が騎士団長だった頃の話を、とグランは言った。
当時を思い返し、何があったかと記憶を探る。
さて、一体何から話そうか。

始まりの場所であり、終わりの場所でもあり、そして新たな始まりの場所になる。
どうか俺達2人の行く先に幸多からんことを。