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Hizuki
2017-07-31 21:40:53
4422文字
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FF14
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高温注意報
【FF14】シ・ルン+光。リムサの宿で起きたトラブルの話。ヒカセンは黒+赤。
1
2
「あ、ルンさん」
リムサ・ロミンサの街中、見知った後ろ姿を見つけてその人の名前を呼んだ。
私の声に気付いたらしい紅い装束がひらりと翻る。
「おう、どうしたこんなところで」
服と同じ紅い羽根付き帽子、腰には彼の武器の細剣。
赤魔法の師匠、シ・ルン・ティア。
「私はちょっとラノシアに用事があって」
「そうだったか。
…
しかしこの暑さは一体どうしたっていうんだ」
空からは容赦なく太陽の光が降り注いでいる。
グローブを外し、ぱたぱたと手で扇いでみるも大した効果はない。
眉間に刻まれている彼の皺が深くなった。
「あー近年稀に見る猛暑だそうですよ
…
。こんなに暑いのは初めてだ、ってみんな口揃えて言いますもん
…
」
「それはまたタイミングの悪い時に来たようだな
…
」
あっという間に汗が噴き出し、つぅと肌を伝う。
タオルで拭っても次から次へと流れてくる。
爽やかな風でも吹けばそれも気にはならないのだろうけれど、ここは海の都。
風は余計に肌をべたつかせるばかりだった。
「そうだ、よかったら冷たいものでも飲んでいきません?宿に部屋取ってるんです」
「お、それはありがたい。オレも宿を取りに行くところだったんだ」
こんな状況では水分補給をしっかりしないと誰だって倒れてしまう。
部屋で汗を流して、何かさっぱりした飲み物で喉を潤して、多少動きやすくなる夜まで待って。
同じ目的地を目指し、歩き出した。
けれど、辿り着いた先で待っていたのは残酷な現実だった。
「空調が故障!?」
受付で告げられたその事実に、思わず2人顔を見合わせた。
カウンターの横にはお詫びの文面が掲示されている。
「悪いな
…
。もう修理に来てもらっていて今日中には直せるって話なんだが、しばらく部屋は地獄だと思うぞ」
「ええー
…
」
申し訳なさそうに受付のミートシンさんが事情を説明してくれる。
この異常気象で設備がやられてしまったらしい。
朝私が出かける前まではちゃんと動いていたから、故障したのはその後。
随分辺りに作業着姿の人が多いとは思っていたけれど、まさかここだったとは。
練っていた計画はあっさりと崩れ去ってしまった。
「代わりに利用者を対象にコスタ・デル・ソル行きの連絡船を無料開放しているからそっちで過ごしてもらえるだろうか。この腕輪を係の者に見せれば向こうの施設を使える」
革製の腕輪が2つ差し出され、そのひとつを受け取って左腕に付けた。
宿泊の手続きだけを済ませたルンさんも同じように腕輪を手にする。
「
…
行きますか」
「
…
そうだな」
漁師ギルド前の船着場で腕輪を見せ、船に揺られてコスタ・デル・ソルへ向かった。
到着してすぐにコスタ・デル・ソルの船着場で同じ腕輪を付けているスタッフにもう一度謝罪され、海岸の北側に臨時で設営されたテントに案内された。
普段なら魔物の姿もちらほら見える場所。
しかしその姿はなく、代わりにイエロージャケットの人達の姿が見受けられる。
宿泊者の安全確保のためにあらかじめ魔物は排除されているようだった。
替えの服と飲食物などのサービスの説明を受けて、着替えるためにルンさんと一度別れる。
自分達が着ていた服はご丁寧に洗濯をして部屋まで届けてくれるらしい。
泳ぐかどうかはさておいて折角の海だからとワンピースタイプの水着とサンダルを選び表に出た。
ルンさんも赤魔導士の装束を脱いで、薄手の半袖シャツにハーフパンツというラフな格好になっていた。
普段は帽子で隠されている耳が露わになり、改めてこの人がミコッテ族であることを思い出す。
尻尾は見えているから分かっているはずなのに、やはりあの耳と言うのは印象が強いものなのだと改めて感じる。
「あっつい
…
」
「口に出すと余計に暑くなるぞ
…
」
「分かってますけど、暑いものは暑いんですー
…
」
初めは波打ち際で海に足を浸けていたけれど、やはりこの暑さには耐えられない。
今は砂浜に立てられたパラソルの下、設置されていたビーチチェアに身体を横たえていた。
何があるか分からないからと一応愛用の杖は側に置いてある。
パラソルが直接の光は遮っているとはいえ、やはり暑いのは変わらない。
もらってきたドリンクは既に空になり、中に入っている氷が溶け出している。
グラスに手を伸ばせば、氷の冷たさがほんのりと伝わってきた。
「ルンさん、どうして赤魔導士は冷気魔法使えないんですか
…
」
氷でふと思い出す。
赤魔法には冷気属性の魔法がないことを。
「オレに聞くなよ
…
自分で成り立ちでも調べてみてくれ
…
」
「ヴァルブリザドー
…
」
「ないものは出ないぞ
…
」
目元を自分の手の甲で覆いながらルンさんが窘める。
雷のヴァルサンダー、炎のヴァルファイア、それなら冷気はヴァルブリザド。
存在しない魔法を空で唱えても何も起こらない。
「そうか、ないなら作ればいいんだ!」
「
…
おい!?」
私が立ち上がって杖を手に取って駆け出すのと同時、ルンさんが起き上がったのか背後でガタッと音がした。
杖にエーテルを込めて魔力を解き放てば、足元に氷塊が形成され一時の間を置いて砕ける。
その欠片を魔力で留め、拾い上げた。
「作るってそういうことかよ
…
」
「本職こっちですもん私。はー
…
ひんやりして気持ちいいー
…
」
安心したようにルンさんが息を吐く。
今日はレイピアを持ってきていないし、流石に何もない状態から赤魔法は使えない。
存在しない魔法ならばなおさら。
氷に顔を寄せれば、肌に触れる冷気が心地いい。
「そういう魔法の使い方はなしだろ
…
」
「今は非常時ですー
…
はい、これルンさんの分」
声音に呆れの色が見える。
確かに普通の術士なら、そんな使い方はしないだろう。
もうひとつの欠片をルンさんに渡すと、やはり気持ちいいのか目が細められる。
魔力で留めているとはいえ元は氷。
長時間使うほど持ちはしない。
外気温でじわじわと溶け始め、砂浜に水跡を残していく。
それでも今の熱気を冷やすのには十分なものだった。
「あーでもこれ私達だけで使うのもったいないな
…
」
辺りを見回せば同じ腕輪を付けた人達の姿が見える。
海の中で熱を冷ましている人や、さっきの私達と同じようにチェアで横になっている人。
暑いのはみんな同じ。
「ルンさん、ちょっと手伝ってもらえます?」
「
…
何しようって言うんだ?」
何かを察したらしいルンさんがレイピアを手に取る。
もしかしたら何を考えているのかもう分かっているのかもしれない。
ルンさんの方を向いて微笑む。
「面白いことです」
空調の修理が終わったという報せが届いたのは、夜が姿を見せ始めた頃だった。
やっと部屋に戻れる、と一人また一人船に乗り込んでいく。
臨時施設も徐々に撤去されていき、砂浜に腕輪を付けた人の姿はもうほとんどない。
その様子を見て私達も船に乗った。
船内には先程まで忙しなく動いていたスタッフの姿も多く、どうやら今回の件の最終便のようだった。
「おう、おかえり。不便をかけて悪かったな」
宿に戻ると一安心した様子で受付の人が声をかけてきた。
「いえ、何だかんだ言っても楽しめましたし」
こういった機会でもないと海で過ごすなんてことはお互いにまずないだろう。
…
実際のところは暑さのせいでのんびりできたとは言いがたいけれど。
「
…
そういやあんたらだろ?現地で氷配ってた2人組って」
ミートシンさんが部屋の鍵を取り出しながらそう口にした。
「先に戻ってきた人達が話していたんだ。黒魔導士の女性と赤魔導士の男性が配ってたってな」
思わずルンさんと顔を合わせていると、カウンターの上に2つ鍵が置かれる。
「こっちで用意した覚えはないし、一体誰かと思っていたが、あんた達の武器を見て気付いたよ」
―
遡ること数時間前。
砂浜の開けた場所を選び、そこに氷塊を作り出した。
そしてそれをルンさんのレイピアで手のひらほどの大きさに割れば、音を聞きつけた人達が集まってくる。
「涼しさのおすそ分けですー!よかったらどうぞー!」
砕いた氷を集まってきた人達に手渡すと、暑さにぐったりしていた顔がぱぁっと明るくなる。
人伝いに話が広まっていき、いつの間にか新たな人達が顔を見せていた。
辺りが徐々に暗くなって私達の周りの人が落ち着いた頃、そのタイミングを見計らったように修理完了の報せが届いたのだった。
「ありがとう。おかげで大きな問題が起きなくて済んだ」
「それはよかった」
「普通の奴ならあんなことやり始めるなんて誰も思わないだろうさ」
もう一度ミートシンさんに頭を下げられる。
その場の思い付きだったとはいえ、やってみてよかったと思う。
「本当に助かった。ゆっくり休んでくれ」
鍵を受け取って部屋に向かう。
何の偶然か、ルンさんの部屋は私の部屋の隣だった。
部屋までの廊下を並んで歩く。
「まさかこんなことになるとは思ってなかった」
「オレもだ」
「でも楽しかったしいいか
…
わわっ!」
石の床の隙間に引っかかったのか、バランスを崩し倒れそうになったところをルンさんの腕が支えてくれる。
「おっと、大丈夫か?」
「だ、大丈夫です
…
って何してるんですか!」
身体を支えていた腕が離れたかと思うと、ふわりと足が地面から浮いた。
横抱きにされていて、ルンさんの顔が近い。
これはいわゆる。
「弟子に何かあったら責任は師匠に来るからな」
「誰かに見られたらどうするんですか!」
恥ずかしさで昼間とは違う意味で熱い。
肩を貸すとか、方法は他にもあるはずなのに。
「部屋までもう少しだから暴れるなっての」
あと少しの距離だと言うのにどうしてこんなことになっているのか。
ルンさんも疲れていることに変わりはなく、余計な体力を使わせるのも申し訳ないと抵抗を諦める。
部屋の前で下ろされ、下を向きながら部屋の鍵を開ける。
「あれだけ魔力を使ったんだ。しっかり休めよ」
「
…
ルンさんも。手伝ってくれてありがとう。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
挨拶をして部屋に駆け込んだ。
師匠と弟子と言うには近すぎた距離。
さっきのことは全部この暑さのせいにしてしまおう。
暑くてルンさんもちょっとおかしくなっていたのだと。
熱いシャワーで熱をごまかして、汗を洗い流す。
気温の熱は冷ませても、心の熱を冷ます氷はない。
髪を乾かすと、早々にベッドに倒れ込んだ。
明日起きたら、記憶から消えているように願って。
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