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Hizuki
2017-06-16 11:27:14
4995文字
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FF14
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蒼天に奏でるは賢人の詩
【FF14】暗黒←詩人。歌の話。1ページ目の前提と注意書きをご覧の上でどうぞ。
1
2
彼は力を使う。
人々を守るために暗黒の力を。
僕は歌う。
人の精神を癒す詩を。
「うーん、いなかったわね
…
」
「いなかったねぇ
…
」
キャンプ・トランキルの南西、古アムダプールの遺跡から出たところで、僕らの前を歩いていた2人のララフェル族が溜め息混じりに呟いた。
何やらここに珍しい蝶々がいるらしい、という噂を聞いた2人が真偽を確かめたいと、僕と暗黒騎士のリヒトが半ば強制的に連れて来られたのが数時間前の話。
隅々まで探してみたものの、どうやらお目当てのものは見つからなかったようだ。
「また行くつもりだから、そのつもりで」
黒に染めたローブを纏った白魔導士が言う。
彼女の外見からして、黒魔導士だと誰もが思うだろう。
だが、彼女はれっきとした白魔導士だ。
「よろしくねー」
そして、もう1人の彼女は対照的に白のローブを纏っている。
背に携えているのは呪術用の両手杖。
加えて2人は双子で、今でこそちゃんと見分けが付くが、会って間もない頃は見分けが付かないなんてこともあった。
こちらを振り返った2人から熱意が消えた様子はない。
近いうちにまたここに来ることになりそうだ。
「さて、じゃあ町に戻りますか」
白が唱えた移動魔法の光に包まれ、グリダニアに戻る。
先に飛んだ2人の姿は見えたが、一緒にいたはずのリヒトの姿がない。
「あれ、リヒトは?」
自分の少し後ろを歩いていたのは覚えている。
2人が唸っている最中、振り返ったところに彼はいた。
当然彼にも魔法の効果はあったはずだ。
「何かまだ用事あったのかなー?」
南部森林に何かあったかと考え始めたところで、個人連絡用のリンクシェルが着信を知らせる。
もちろんそれはリヒトからのものだった。
「どうかした?」
『悪い、ちょっと寄り道してから戻る』
「寄り道?」
『2人にもそう伝えておいてくれ』
「リヒト?」
呼びかけに返事はなく、そのまま通信は途切れてしまった。
どうも腑に落ちない。
「何だって?」
「寄り道してから戻るって」
「ふーん、まぁいいけど。あいつのことはスクリオ、あんたに任せるわ」
彼女達に心配をかけるわけにはいかない。
聞いた通りにそう告げる。
「2人はこれからどうする?」
「もう少ししたら別の約束あるからそっち行くよー」
「そっか、じゃあまた今度」
肩を並べて旧市街の方へ歩いていく2人を見送ってから、準備を整えるために宿へ向かった。
彼がどこで寄り道をしているのか、考えるまでもなかった。
行き先に合わせて着替えを済ませて、テレポの魔法を唱える。
光に包まれ、目を開くと土地特有の冷えた空気が肌を刺した。
クルザス中央高地、キャンプ・ドラゴンヘッド。
北東の門を抜け、神意の地を目指す。
崩れかけた建物の左手は広く開けていて、晴れた日には皇都イシュガルドとその入口の大審門がはっきりと見える。
そこにリヒトはいた。
岩の影に身を寄せ、耳をすませると、彼の声が聞こえてきた。
少し距離があるせいで声は小さいが、聞こえない大きさではない。
「なぁ、オルシュファン
…
俺はどうしたらいいんだ
…
?」
丘の上に真新しい碑がひとつ。
その碑の前に腰を下ろしていた。
「どうしたら俺はみんなを守れる?」
答えはない。
ただ僅かに風鳴りが聞こえるだけ。
「どうしたら俺はあいつを
…
スクリオを守れる
…
?」
不意に出てきた自分の名前に胸が騒いだ。
僕は彼にとってどういう存在なのだろう。
エオルゼアの英雄と呼ばれるようになった彼にとって。
「教えてくれよ
…
オルシュファン
…
」
もう一度彼が呼んだ名前
…
彼が想いを寄せていた人。
ドラゴンヘッドの主たる人物は、もうここにはいない。
リヒトが両手剣を手にしたのは、この場所に騎士の碑ができてからだった。
『守るためには、力が要るから』と。
そして自らの精神力を削って戦う暗黒騎士の力を身に付けて帰ってきた。
暗黒騎士の戦い方に疑問を抱いたのは戻ってきた彼と組むようになってからだった。
吟遊詩人には戦歌がある。
戦場で味方をサポートするための歌。
その中に人の精神に作用する歌がある。
精神力の回復に作用する歌を歌っていたにも関わらず、酷く疲れ切った様子の彼がいた。
同じパーティの魔導士達にその様子はない。
そこで初めて、歌が聞こえていないのではないかということに思い当たった。
イシュガルドを発祥とする暗黒騎士との戦闘経験が少なかったのもある。
暗黒騎士という存在について調べていくと、暗黒の力が外部からの精神に作用するものを遮断している、という記述を見つけた。
つまり、歌の意味がない、ということ。
けれど今の彼からは戦っている時のオーラは感じられない。
(
…
今なら、届くだろうか)
竪琴の絃を弾く。
この歌に乗せるのは、賢人の詩ではない。
ただひとつの、想い。
彼が他の人を想っていると知っていても、自分の気持ちは変わらなかった。
彼と共にいたい、と。
それも遮るように一際強い雪風が吹き抜ける。
…
やはり、この場所では届かないのだろう。
騎士の影響の強い、この場所では。
「
…
スクリオ?」
聞こえた声に思わず手を止める。
彼が近づいてくる気配を感じ、ついさっきここに着いた体を装う。
服に薄く乗った雪を払い、身を隠していた木の影から出る。
「やっぱりここだったか。
…
みんな心配してるよ」
「
…
悪い、お前にも手間かけちまったな
…
」
「僕はいいよ。勝手に探しに来ただけだから」
リヒトの頭の上にも同じように雪が乗っている。
自分より先に来ていた分、白が濃い。
気にする様子のない彼を見かねて、そっとそれを払った。
「
…
帰ろう、このままだと身体壊すよ」
「
…
あぁ」
「部屋取ってあるから先にグリダニアに戻ってて。僕の名前を出したら入れてもらえるようにしてある」
先に戻ってと僕が促した理由を問いたげに、僕の顔を見る。
「折角ここまで来たんだ。挨拶くらいはしていかないとね」
つい先程まで彼がいた碑を示す。
僕にとっても全く知らない人物という訳ではない。
「分かった、待ってる」
彼が光に包まれ、それが消えるのを見届けてから碑の前に膝をつき、祈りを捧げた。
碑に立てかけられた盾は騎士が彼を救った時のものだという。
一角獣の紋章が描かれた盾には大きく亀裂が入っていた。
仲間を守る、ということにこだわるようになったのは、イシュガルドの教皇を討った後。
その片鱗は風の噂で騎士の最期を聞いた後から見え始めていた。
彼を縛っているのは騎士か。
それとも、彼自身か。
きっとどちらもなのだろう。
「
…
いつか、彼を貴方から解放してみせます」
リヒトを守ってくれたことには感謝している。
「次にここに来る時は貴方という鎖から解放した時です」
宣戦布告。
解放する手立てはまだない。
けれどいつか見つけて、やってみせる。
立ち上がって、碑に背を向けた。
「彼を守ってくれて、ありがとうございました」
来た時と同じように魔法を唱え、彼が待つグリダニアに戻った。
あらかじめ取っておいた部屋に入ると、装備を外し、ラフな格好でソファに腰掛けるリヒトの姿があった。
気を張り詰めたような様子はなく、落ち着いているようだった。
「お待たせ」
ミューヌさんが持たせてくれた紅茶の入ったポットとカップが乗ったトレーをソファの前のテーブルに置いた。
「おかえり」
「ただいま」
弓を置き、上着を脱いで壁のフックに引っかけると、彼の左隣に腰を下ろす。
ポットの中身をカップに注ぐと、ふわりとハーブの香りが漂う。
1つをリヒトの前に、もう1つを自分の前に置いた。
一口含めばクルザスで冷えた身体にじわりと温かいものが広がる。
同じようにカップに口を付けた彼を見て、口を開いた。
「ひとつ、聞いてもいいかな」
「何だ?」
「
…
さっき、どうして僕だって分かった?」
あの丘でのこと。
リヒトは『誰』とは言わなかった。
疑問符が付いていたとはいえ、確かに僕の名前を呼んだ。
その理由が聞きたかった。
「お前とどれだけ一緒にいると思ってんだ」
からかい気味に笑って言ったのも束の間、表情が曇る。
カップをテーブルに戻し、彼の言葉を待った。
「
…
歌が、聞こえたんだ」
「歌?」
「スクリオの歌が聞こえた」
聞こえて、いたのか。
届かないと思っていたあの場所で。
「
…
もう長いこと聞いてない気がする」
「
…
そうか」
リヒトからは見えない左手を握り締めた。
今自分はどんな顔をしているのだろう。
彼にどう映っているのだろう。
「なぁスクリオ」
「何?」
「
…
ひとつ、俺から頼みがある」
普段は自分の方が人の頼み事を解決して回っている身。
珍しいと驚いたのと同時に、僕を頼ってくれたことが嬉しかった。
「
…
僕にできることならいいけど」
「お前にしかできないことだよ」
あまりこういうことは言いたくないけれど、エオルゼアの英雄の頼み事とは一体。
しかも、僕にしかできないこと、ときた。
小さく息を吐いてから彼を見る。
「
…
お前の歌が聞きたい」
身構えていたのがふっと解けた。
歌うだけならば他の人間でもできるだろう。
それを、彼は『僕の歌を』と言った。
「そんなことでいいのなら、いくらでも」
場所が宿屋である以上、そう大きな音は立てられない。
竪琴の伴奏もなく、ただ歌声が部屋に満ちていく。
休憩を挟みながら何曲も彼が望むままに。
気づけばポットも空になり、肩に重みを感じて隣に目をやると、僕の肩に頭を預け静かに寝息を立てているリヒトの姿があった。
クルザスでの様子がまるで嘘のよう。
ソファの背もたれにかかっていた毛布を手繰り寄せ、彼と自分の身体にかぶせる。
男2人でかぶるには少し小さいけれど、寒い季節ではない。
「
…
おやすみ、リヒト」
そう呟いて目を閉じ、ゆっくりと眠りに落ちていった。
翌朝の目覚ましは双子からのリンクシェルの着信だった。
いつの間にかソファの肘掛を枕にしていたリヒトを起こさないように身支度を整える。
粗方支度が済んだ頃、ゴトッと何かが落ちるような音がした。
音のした方を見れば、寝返りの拍子に床に転がり落ちた彼の姿。
「ごめん、起こした?」
「いや
…
目、覚めた
…
」
まだ日はそう高くない。
起こすにしてもまだもうしばらくは後にするつもりでいた。
ぶつけたところをさすりながらゆるりと起き上がる。
「
…
どこか行くのか?」
僕の様子を見て彼が問う。
「白黒コンビから呼び出し。リヒトも来てってさ」
「今度は何だって?」
「今日こそコロポックルを連れて帰るんだって」
「植物園?」
自分の名を聞いたリヒトが大きく伸びをした。
彼女達からの連絡は急なことが多かった。
それもいつものことと知っているからこそ、彼の声に笑みが混じった。
目的を告げれば、行き先をぴたりと言い当てる。
「そう。イディルシャイアで待ってるって言ってたよ」
「んじゃ、準備するか」
昨日のような表情はもう見えない。
リヒトの用意が整うのを待ってから宿を後にした。
テレポの行き先は待ち合わせのイディルシャイア。
2人と合流し、目的地へ向かう。
先陣を切るのはもちろん彼だ。
背の両手剣を抜き、赤と黒が混じったオーラを身に纏った。
その力は彼の精神力を削っていく。
「よし、行くぞ」
そして僕はまた、リヒトの背を追いかける。
今日も彼は力を使う。
僕を守るために暗黒の力を。
今日も僕は歌う。
彼に届かない賢人の詩を。
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