Hizuki
2016-02-11 23:57:44
2859文字
Public FF14
 

キャンプ・ドラゴンヘッドの事件簿

【FF14】オル光。雪の家の頃、ドラゴンヘッドでちょっとした事件が起きた話。




月が空に昇りきる頃、私は自分に宛がわれた部屋ではない、別の場所にいた。
側の棚に材料を揃え、調理台に向き直る。

よし」

ほんのりと甘い香りのする包みを手に取って開けると茶色の塊が姿を現す。
チョコレートだ。
これを受け取るために少し出かけていた。
手でざっくりと割ってから細かく包丁で刻んでいく。
ヴァレンティオンなんて、自分には縁遠いものだと思っていた。
何度も他の冒険者とパーティを組んで出かけていると、仲良くなることは当然ある。
もちろん、そういう関係になっていった人達も見てきた。
けれど、自分が他の人に向けていたのは信頼の方だったと思う。
この人なら少し無茶しても大丈夫。
この人なら命を預けられる。
それが今、自分に想いを向けてくれる人がいて、その人に応えたいと思っている。
そしてその人のためにヴァレンティオンの準備をしている、なんて。
準備だってドラゴンヘッドの調理場を預かるメドグイスティルさんの計らいでできている。
チョコレートを刻むのも大分慣れてきた。
自分の身や仲間を守るための武器は幾度となく握っているけれど、誰かのために包丁を握ることの大変さを身をもって知った。
1つめの包みを刻み終え、2つめの包みを開けようとしたその時だった。

「そこにいるのは誰だ?」
「えっ?」

耳に飛び込んできたのは、ここの主としてのオルシュファンの声だった。
驚いて振り返ると見回り用のランタンを手にしたオルシュファンと、今日の夜警担当の兵士の姿があった。

「なっ!?」
「オルシュファン!?」
「何故ここにお前が
「オルシュファンこそ
「私は例の音が聞こえると報告を受けてここに来たのだが

オルシュファンが話していたことを思い出す。
『夜中にトントン、と何かを叩いている音が聞こえた』と。
もしかして、いや、もしかしなくても。

「それ、原因私かも?」
「どういうことだ?」

兵士が耳にした何かを叩く音というのは、きっと私がチョコレートを刻んでいた音なのではないか、と。
ここ数日、というのもピタリと当てはまる。
それこそ最初は力加減が分からなくて、包丁で刻む時のやや大きな音が聞こえていたのだろう。
キャンプの周囲で動きがなければ夜はとても静かだし、多少の音でもよく聞こえる。
思い当たることをかいつまんで説明すると、オルシュファンと兵士が顔を見合わせる。
試しに音を立ててみせると、「あ、この音!」と一致したようだった。

まさか騒動の原因が自分だったなんて。

「あのごめんなさい騒ぎ起こしちゃって

ただ頭を下げるしかない。
私のせいで、他の人の手を煩わせている。
オルシュファンをはじめ、ドラゴンヘッドの人達の厚意でここに置いてもらっている身。
迷惑をかけたり、騒ぎを起こしたりすることはしない、と決めていたのに。

「チョコレートそうか、ヴァレンティオンか」

確認するように彼が呟く。
一瞬冷たい空気が流れ込み、すぐに途絶えた。
もう一人いた気配が遠ざかっていく。
兵士を夜警に戻したのだろう。

「事がそこまで大きくなっていないとはいえ、心配をかけたのは事実だ。その手の傷のこともある。お前に罰を与えねばならぬな」

原因は私にあるのだから受け入れる以外にない。
はい、と言葉を返した。
身構えていると、コツンと頭に弱い衝撃が伝わった。
顔を上げて目を開けると、大袈裟に何かを払うように手を振っているオルシュファンの姿。

痛い」
「罰だからな私も痛い」

苦笑いしながらオルシュファンが言った。
振っていた右手を擦ると、まじまじと私の手を見つめられた。

「しかしお前の手の方が痛々しいなあまり戦いに出ても怪我をして戻ってきたところは見たことがないのだが
「戦闘とは勝手が違うもん

応急手当用のテープまみれになっている私の手にオルシュファンが唇を寄せる。
これまで戦いしかしてこなかった自分には世界が違った。
今は大したことはできないけれど、いつかは。

お前のことだ。きっとすぐに上達するのだろうな」
どうだろうね」

『いつか』が一体いつになるのかはわからない。
遠い未来かもしれないし、近い未来なのかもしれない。

「さて、お前の邪魔をしないように戻るとしよう。楽しみにしているぞ」

期待を込めた目で言い残すと、静かにオルシュファンは去っていった。



こうして、ドラゴンヘッドで起きた不審音騒動は幕を下ろした。
想い人の期待に私が応えられるのかどうか、その結末を知る者はまだいない。