多分80億人の為のラブソング

どろさん誕生日おめでとうございます!!!!!!
マーロマの二次創作卓前提のやつです


「やぁ、ロマン君。世界におはようをする準備ができたかい?」
 まだまだ寝ていたい、この布団の中で微睡んでいたい。ずっとここでごろごろしていたい。万人に伝わるそんな切なる願いの元鳥の囀りに逆らって敢行していたロマニの休日の惰眠を妨げたのは、全身が煩い男の寝起きの挨拶だった。正確に言うとその前の物理的かつ直接的な揺さぶりなのだが。
 マーリンはいつだってやかましい男だが、今日の起き抜けの一言はいつもに増して調子の上げ幅がわからない。二日酔い気味のアラサーが寝起きでそれを捌けると思わない方がいいぞぅ。
「朝っぱらからその奇妙奇天烈摩訶不思議ななテンションはどうした」
「奇妙奇天烈とは言うけれどね、世界一のヒットソングの歌詞なんだよ。だから私の勝ち」
「嘘だぁ、何を基準に」
 そんなアップルパイが得意料理と豪語する様な古典的なアメリカの母親が息子を起こす時じみた歌詞なんて聞いたこともない。出鱈目を言うな。
「著作権収益」
 出鱈目どころが思っていたより反論がし辛い客観的かつ具体的な指標だった。これに食い下がろうと言うのなら此方も数字を出すしかないが、生憎と持ち合わせがない。音楽には明るくない、基本的にアイドル専門だ。
……本当に聞いたことないのだけれど」
「絶対にあるし何故断言できるのかを教えてしまってもいいけれど、聞いたら自力で辿り着けなかったことをキミはそれなりに悔しがると思うよ? いいのかい、こんな晴れの日に」
 別にどんな日でもコイツに負けるのは癪だし気に食わないのだが、カーテンの隙間から洩れる光は本日の快晴ぶりを伝えてくれている。こんな日にそんな目に遭うのは確かに堪え難いかもしれない。
 しかしそれとボクが起きるかはどうかは話が別だ。二日酔いでまだ頭が痛いので、コイツと一戦を構えている場合ではない。時間は有限なのだから有効活用しなければ。そう、例えば睡眠とか。
……重い、どけ。二度寝する」
「もう朝ごはんができたから早く起きてきたまえ。二日酔いの為に買ってきたお味噌汁が冷めてしまうよ。最高の一日は朝ごはんから始まるものだ。英国人だって朝食は手を抜かないんだぞぅ」
 朝陽を掛け布団で遮ろうとしたが、朝から妙に元気なマーリンによって勢いよく剥ぎ取られてしまった。天気が良いせいで貝殻から引き摺り出されたヤドカリの気分だ。なんだって朝ご飯を真面目に作ってるんだよ。
「マーリンの作った朝ごはんかぁ〜〜」
「ちょっとなんだい、その反応は」
「いやだって……、君の作るご飯って大体うさぎのエサって感じの内容だし」
 マーリンは普段食事というものにさして頓着しない。かといって不味いわけでもない。栄養バランスにも気を遣っているらしいので、人のよってはロマニより真摯な姿勢だと評するだろう。それでも、ご飯って心の栄養が大切だと切に思うんだよね。少なくともサラダをメインと言い張るメニューはロマニの中では一食に分類されないだけだ。
「キミと違って健康的な食生活を心がけている私に向かって随分とまぁ失礼な言い草じゃないか。だが安心してくれたまえ、主に昨日の残りを温めただけだから」
 昨日の残りというと、デパ地下惣菜の残りである。具体的に何が残っているのかは残念ながら覚えていない。だがデパ地下惣菜の時点でクオリティは保証されている。豪勢な朝食だと断言してもいいだろう。この妙な自信の程も納得だ。
 だがその手柄はマーリンではなくデパートのものだよなぁ?
「それでよく朝ごはん作ったみせました! みたいな雰囲気で起こしに来れたな」
「美味しければそれでいいというか、キミが気にするのはそこだけだろう?」
 それはまぁ、そうだけれど。
 ……はぁ、起きるかぁ。何か胃に入れたい気分にくらいはなってきたし。



 ——さて。
 顔を洗いながら、マーリンの言っていた世界一のヒットソングとやらの正体とやらでも考えてみるとしよう。
 世界一のヒットソングと聞いてなんとなく連想するのはBeatlesや Queenなどのビッグバンドだが、彼等の大ヒット曲ならボクでもなんとなく知っている筈だ。しかし世界におはようなどと、陽気なご家庭の母親が寝坊助の我が子を叩き起こす時のような調子の歌詞は聞いたことがないので恐らく違う。さりとて彼等を差し置いて世界一のヒット曲を飛ばすようなアーティストにも覚えがないのが悩みどころだ。
 となると、英語圏の曲ではないけれどメロディだけ知っている類か? それだと正直言ってお手上げなんだよなぁ。
 いやでもマーリンの口ぶりだと自力で辿り着けて当然かのような言い分だったしなぁ。つまりボクが自力で辿り着けてもなんら不思議ではない曲の筈なのだ。これで本当に知っている曲だとしたら腹立つからここで放り投げるのは絶対に嫌だ。
 けれども何度脳内検索をかけても思い当たる節がない。おかしい。世界一のヒットソングなのだから、百万人の為に歌われたラブソングだって目じゃない筈なのに。

 ○

 結局答えに辿りつけないまま身支度を終えてしまったので腹の空くままに食卓に座ると、そこにはデパ地下の残滓が広がっていた。品数は多い。多いが総量自体は大したことがない。大したことがない理由に心当たりといえばこの場にある選択肢的にロマニしかいない。でも昨日のボクがやったことなら、もう時効だよね?
「今度こそおはよう、ロマン君。さぁさぁお上がりよ」
「だからキミは作っていないだろう」
「買ってきたのは私なのだから良いのさ。誇るべきは過程ではなく結果だろう?」
「釈然としない気持ちは如何ともし難いんだよ」
「過程を重んじる心が芽生えたんだね、喜ばしいじゃないか。成長おめでとう」
「人のことを何だと……
 これだけは近所のコンビニから買ってきたらしい具沢山の味噌汁を啜ると、貝類の出汁が五臓六腑に染み渡った。対面に座るマーリンも真っ先に味噌汁に手をつけている。結局酒を飲んだ翌日の朝ごはんのメインってこれなんだよね。
「今日は良い天気だねぇ。散歩にでも繰り出したくなるような爽やかな秋晴れだ」
「言っておくけれど、今日ボクは一日中寝るつもりだからな」
「それは困る。今日は午後にバイキングの予約をしてあるのだからそれまでには本調子になってくれたまえ。ほら、キミがミルフィーユを気に入っているあのホテルの」
「用事の良し悪しの話じゃないからな? ……行くけれど」
「なら良いじゃないか。キミだって昨日私にケーキバイキングを強請ろうとしていたのだから、寧ろ丁度良いだろう?」
「だからなぁ、そういう問題じゃな——
 いつもいつもギリギリになって勝手に予定を詰め込もうとするのをやめろという真っ当な社会常識に基づいた説教をしてやろうとした所で、目覚めからの違和感にようやく気がついた。
……ケーキ?」
 マーリンがボクに何かを奢るのは不思議ではない。ケーキも勿論定番で有る。
 だからこれは流しても良い筈だ。けれども。今日だけは違う事を、今思い出した。
 そしてあの曲も確か、実は著作権で保護されていると聞いたことがある。
「おや、ようやく気がついたのかい?」と言わんばかりの顔が目の前にいたので足で少し小突いた。
 マーリンの今朝の浮かれトンチキな挨拶は確か……。検索は……、とりあえず英語から試せば良いか。
 スマートフォンを今日になって初めて開くと、大量のメッセージが通知がSNSに届いている。だが今の用事はそちらではない。ブラウザアプリで動画サイトを開いてからから歌詞を打ち込み検索すると、結構な動画がヒットした。検索結果の一番上を開いて再生すると、反論を唱えられる気がしない程に堂々たる説得力を持つ聴き慣れたメロディが流れてきた。
 これを聴けば確かに、今日という日のおはようの挨拶にこれ以上もなかったのがわかる。わかってもやっぱり鬱陶しいけれども。
「はは。そりゃあ、世界一だろうね」
「面白い話だと思わないかい。元はただの毎日使うようなおはようの曲だったのに、いつしか一年で一番特別な日を祝うものになっていて、でもそれこそが世界で一番ありふれた曲なんだ。朝のリレーは偉大だね。キミも二度寝をしようとせずにカムチャッカの若者からのバトンをしかと受け取りたまえ」
 煩いなぁ。二日酔いで苦しんでいるのは昨日も昨日とてキミが勝手に押しかけてきたからなんだからな。ボクはさっさと寝る予定だったのに。
 ——確かに唐突な用事ではなかったようだけれども、それでもやっぱり普通なら予め言っておけよ。予約までしていたんなら。
「バトンを受け取るような社会性があるのなら、予定を当日や前日に捩じ込もうとするのもやめろ。まだ何かあるなら今のうちに吐け」
……あのペンションで天体観測するのは約束したうちに入るからノーカンだよね?」
「泊まりなんだから具体的な日程の打ち合わせの打診がなかった場合はカウントされますね〜」
「え〜」
「え〜、じゃない。今から腹を空かせる算段を建てなきゃならなくなっただろう。これ食べたら散歩だからな」
「ハイハイ。お誕生日様の仰せのままに」