【ミコ東】趣味と実益【カミ東】

イケBBAことミコシ様と東雲さんとカミキリ様の話。ミコ+東←カミ。捏造過多。構図としてはカミ東の行く末を見守り応援しているミコシ様。
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幾ら神とは云え扱える力は須らく万能ではない。
されど、往々にして人間には持ちえない力を使うのもまた神たる所以でもある。



時代の流れか。猛暑を通り越して酷暑と化す昨今の夏の厳しさは”子”にとって随分堪えていると見える。
チャイム音に呼ばれ玄関を開け目に飛び込んでくる滝のように汗を掻いている”子”が上着の裾を引っ張り額の汗を拭う仕草を「それは止めンか」と反射的に諫めてしまったわ。ったく下からまろび出てしまうじゃろがい。
ともあれ、暑さに惨敗し溶けている”子”が紹介した先で上手くやっているか如何か気に掛けて訪れてくれた事に自然と顔が和らぐ。
玄関先での立ち話もなんだ。折角来てくれたのだ中に招き水出し緑茶を振舞おうと提案すれば返ってくる元気の良い二つ返事。何やら壊れたエアコンの修理予定が伸びたらしく今日も暑さに参っていたという。

「あ゛ぁ~涼しいぃぃぃ~お茶冷たくて美味しいぃぃぃ~~……

テーブルに突っ伏している”子”の少し汗ばんでいる頭を撫でると、照れ臭そうに眉根を顰めるも振り払わない姿に撫でる手に愛しい想いが満ちる。

「あれ? ミコシさん、あの人形って前と同じやつだよね?」

雰囲気ちょっと変わった。そう問い掛ける”子”を撫でていた手を止め、再び頭の形に添って手のひらで包み込むように撫でた。

「おうさ。儂の歪ナ想いを抱いたままじゃ不憫で憐レだ」
……そっか」

上目遣いで儂を見詰める”子”の瞳に宿る優しき色。愛嬌のある八重歯を覗かせ顔を綻ばせる”子”にまた心が満たされる。
嗚呼、儂はその顔を見たかった。主の笑顔が見れれば──、未来がズレぬ事ではない限り何だってしよう。

「(さてはて、それもいつマデ持つことヤら)」

胸中独り言ている間に”子”の視線が生まれ変わった”小さき子”から片時も離れないのに気が付いた。

「欲しいのであれバ持って帰るサネ?」
「いやいやいやっ。ミコシさんの大事なモン持って帰れないって」
「ふむ?」

だが、主の目が雄弁に物語っておる。然らば──。

「主に新しいのをツクろうか」

儂の言葉を聞き勢いよく体を起こした”子”の頭から少々鈍く小さな音が指と指の間に産まれるも、”子”は微塵も気にしていない所かそもそも気付いていないらしく身を乗り出しては目を爛々と輝かせておった。

「いいの!?」

此処に来て初めて目にする屈託のない幼いともいえる無垢な願いが神としての庇護欲を存分に掻き立てる。
咄嗟に喉奥まで出かかった感情を一旦飲み込み目と目を合わせ気になる点を訊ねた。

「見た目が何だっテ構わんのであレば。どうジャ?」
「うんっ! うんっ!」

食い気味に頷く”子”に悪い気なぞない。
殊の外可愛いもの好きか、それとも別の理由からかは詮索せんでおこう。
はち切れんばかりに華やぐ心を振り撒きで404号室に帰っていく”子”を見送った儂は早速裁縫箱を取り出そうとした矢先、指の間で煌めていている暁に目線を落とし暫し考えに考えた後、煌めいている暁を”小さき子”の隣に無くさぬよう念じ置いた。

そして、儂自身の想像を遥かに超え真剣に想いを籠め縫ったからか、かなりの神力が注がれ籠められたモノに仕上がってしまったが──、まあ良いじゃろうて。片や碌な物を揃える事すら難しい嘗て人間達が行き交う道の傍らに佇む祠、片や多種多様で豊富な布地や糸、釦類が揃えられている手芸屋では雲泥の差。肌触りから微妙な色味に至るまで妥協なく追求でき、あれやこれや選び思案に耽っている時間が何んとも楽しかった。
故に丹精を込めた会心の出来を無碍にしては心が痛むというもの。

最後の仕上げを残した”それ”と一緒にソーイングセットをスカジャンのポケットに忍ばせ先住神の気配を探る。彼の神が101号室に帰って来たのを確認するや否やサンダルを突っ掛け部屋に赴いた。



「神斬りの、変わりなイか」
「お陰様デ」

先日とは逆に儂が外界から切り離した神域で大方察したのか兎角友好的な相手の態度に一先ず安堵し、本題に入るべくスカジャンのポケットに手を入れ目当ての物を差し出しつつ要望を言の葉にした。

「コレで主の髪を切ってはクレまいか」
「は?」

はて。聞き取れなかったかのう。

「コレで主の、」
「いや聞こえてル」
「では頼む」

途轍もなく何か言いたげな面持ちをしておるが、儂が渡した糸切り鋏を受け取るなり小さく括っている後ろ髪の尾に鋏の歯を当てた。程なくして断ち切れる涼やかな音と共に不承不承儂に鋏と白い髪の毛を渡す幼くも男の手から受け取った。
鋏をポケットにしまい代わりに出した儂渾身の作に宵闇色の瞳が瞠る気配に口角がつり上がるわ。
チラリその様子を盗み見つつ、白夜を渾身の作の背中に埋め封をするように縫い閉じる。形として出来上がった”それ”を隈なく解れや不備がないか確認を終え、まだ呆気に取られたまま微動だにせん神斬りの眼前に差し出せば無条件で受け取る様子に笑いを堪えた。

「さて、最後の仕上げに。神力を注げ神斬りの」
「あ、ウン……分かっタ」

よく理解していないなりに神力を注ぐ素直で真面目こと。
ただあやふやな感情では矢張り不安定か。さすれば……

「主を此処に招キ住まわせた者は誰ゾ」

儂の言の葉を聞いた途端、纏い注ぐ神力が確たるものとなった。揺らめき漂うばかりだった仄かな白い光が神斬りの想いが名を成して両掌に包み込まれている”それ”に注がれ満たされていった。
ほう、と息を整え今は此処に居ない我らを招き住まわせた幻影を見詰めている神斬りの手から”それ”をしれっと奪い神域を解除する。
未だ呆けているが、そのうち戻ってくるじゃろて。
夏の暑さとは程遠い熱に浮かされた瞳、耳はおろか顔全体が火照っている初心さがまこと微笑ましい。
して、神斬りの思慕が注がれ満たされた”コレ”を。



「おっ。ミコシさんとカミキリさんじゃ~ん」

流石。儂の予感は今日も絶好調。
たまたま偶然儂と神斬りの前に現れた”子”に出来たてほやほやの”それ”を渡す瞬間をどれほど待ち侘びたか。

「ホレ、待たせタの」
「もしかして前の人形のやつ!? うひょ~!! サンキュー、ミコシさ……?」

「・・・ア」

そうさね。儂がツクったのは神斬りだ。
見た目は勿論の事、持ち運びやすい大きさを考慮しておいたわ。
訝しげに渡された”カミキリ”を見る”子”と、自分そっくりの小さき姿を持つ”子”に動揺する神斬り双方を見詰める儂の顔の皺はさぞ深かっただろう。

「えっと、その
「如何シた」
「まさか見た目がカミキリさんだって思ってなくて吃驚したっていうか、なんつーか……
「因みに”それ”を持ってみテ変わった事はないカ」
「変わった? そういや暑さが少し和らいだよ、──!!」
「気付いたナ?」

儂渾身の作”カミキリ”が齎す力を知った”子”の顔が瞬く間に晴れ渡る。
溢れんばかりの喜びに小さき”カミキリ”を両手で天高く掲げるだけにとどまらず、嬉しさから抱き締め頬擦りする姿に如何せん隣に佇む張本神を横目で見遣れば複雑な感情を隠さずに”子”を食い入るように凝視しておる。若干艶羨が濃いか難儀じゃな。

「これから暑い日はちっこいカミキリさん持ち歩いて外出るわ!!」
「そうかイ」
「ミコシさんっ」
「ん?」
「本当にあんがとなっ」

大事にすっからー、と小さき”カミキリ”を持っている手とは逆の手を振って去って行く”子”に手を振って見送る。
愛おしい”子”が見えなくなったのを見計らってか、スカジャンを控えめにされど力強く引っ張る方へ視線を向ける。

……僕にもツクって」

此処で意地悪するほど儂の性格はひねくれていない。
目線を足元に落として此方と目を合わせないいじらしさ。まま、この流れも儂の予感通りじゃ。
でも、念のため訊かねばならぬ事がある。

「神斬りの。”子”を象ったのをツクれるが──、それに”子”のモノを入れるか否か。如何スル」
「どういう意味……?」
「”あれ”には主の髪、神力が籠められておル。そして、全くもって偶然の産物デ儂は”子”の髪を数本所持しテおる」
「・・・・・待っテ」

スカジャンを掴んでいた手を離しその場で蹲った神斬りが文字通り頭を抱えておるわ。
そうじゃろそうじゃろ。神として想い人のモノは多いに越した事はない。だが、主の純然たる人間に寄り添った道徳心や倫理観が待ったをかける。
葛藤する神斬りの感情が呻き声となって周囲に広がる前に本日二度目の神域を手早く展開させた。

「儂はどちらでも構わン。主に任せル」
「うゥ~うゥ~

見えぬ天秤が左右に揺れ動くかの如く強弱をつけた変声期前の男子の声が間延びする。
そうして、たっぷり悩みに悩んだ神斬りの口から零れ落ちた願望は蚊が鳴くより弱々しいものだった。

東雲さんにバレないよう入れテ……
「任されよウ」

数日後、儂渾身の二作目小さき”子”を愛おしそうに大事に大切に抱き寄せ頬擦りする神斬りの頭を儂は撫でくりまわした。