mishiadd
2024-10-21 19:11:08
1352文字
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宮本伊織は生きにくい:スクランブル・エッグ

【「ない話」Lv.100】「オーバーイージー」続き。来るところまで来てしまった剣鬼さんとセイバーの可惜夜。
オーバーイージー:https://privatter.me/page/67151a66e4dfe

「ほら、やっぱりだめだっただろう」と伊織は言った。

「やっぱり俺ではだめだった。どんなに模そうとしても、俺はあいつにはなれなかった。――俺は、ここに至ってしまった」







誰も彼もを斬り伏せる、と伊織は言った。その為だけに生きていると。

セイバーは何も言わなかった。やがて、一度だけ軽く肩を竦めた。うっすらと優しい笑みを浮かべて、言った。

「以前から思っていたが、きみは随分露悪的だな」
「そしておまえはそうやって俺の話を聞かずに適当にあしらうな。真面目に取り合わず、なかったことにする。――残念だったな? おまえの好きだった方の俺じゃなくて」
「私がそんなことを言ったか?」
「ああ、言ったとも。俺は優しくない。おまえが好きだった『日向の如く穏やかで人の道を尊ぶ』俺ではない。そいつはもういない。奇遇だな、俺もあいつが好きだったよ。俺自身のことよりも、いくらか」

セイバーが目を伏せる。それから、目線をあげて改めて伊織を見た。

「私が、もうひとりのきみを最初に好きになったのは事実だと思う。彼は綺麗だったから。きっと、きみが綺麗にしてあげていたんだと思う。あまりに眩くて、正しくて――私は、彼に憧れもした」

日向のように穏やかで、あたたかくて、優しくて――

「でもそれは、そうではないきみが、そうあろうとして見せてくれた姿だったから。きっと、私ときみは似ていた。そうではないものに憧れて、そうあろうとしてもがいた。
――そのあがきを、私は貴びたい。憐れみたくない。人と違って生まれてきたきみが、精一杯泰平の世に溶け込んで善くあろうとしたことを、憐れみで片付けたくない。今ここにいる剥き出しのきみの本性を、私には理解のできない怪物あくだと斬り捨てたくない」
「だが実際おまえには理解ができないだろう、俺のことなど。――おまえは、善を為すものだから。清くて正しい英雄だから」

伊織が二刀を抜く。セイバーも、蛇行剣を顕した。――構える。
「セイバー、」と伊織が言った。

「やっぱり俺は、救えないよ。――結局、おまえと斬り合えることが、こんなにも嬉しいのだ。かつて感じたことのない、この胸の高鳴りは――

ぐ、と伊織のつま先に力がかかる。

忌むべきものだ。――やっぱり、おまえに俺は理解できない。理解すべきではない。理解、しなくていい」

伊織が一歩踏み込むと同時に、セイバーも駆け出す。剣先が交わり、間合いを取り、再び鍔迫り合いになる。
激しく打ち合いながら、境内の石畳の上を走り回り、火の粉が飛び、やがて――



伊織の左胸を、翡翠色の美しい剣が、貫いた。



毒気の抜かれた――いっそ少女のように無垢な表情をした伊織が、真っ赤な血を吐く。その呼気に掻き消されて、もしかしたらセイバーの言葉は、伊織には届いていないかもしれなかった。それでも、彼は言った。






理解わかっているよ。私はきみを理解っている。私が好きになったイオリは最初からきみだった。ずっと、イオリはきみだった






石畳に倒れ込む瞬間、血で汚れた伊織の口許が、一瞬強張ったあと――うっすらと笑みを浮かべるのを、セイバーは見た。









『スクランブル・エッグ』・了