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片桐
2024-10-14 23:21:18
6018文字
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【あんスタ・紅敬】夕陽の海、すれ違う、二人
ES2年目、バカンスでの話。
『きっといつかの思い出、ひとつ』
https://privatter.me/page/66d487d939b3b
『夏の一日、同じ思い出』
https://privatter.me/page/66e66ef884390
上二つの続きの話。
「全力で来いよ、神崎」
「うむ、いざ尋常に
……
!」
卓球台を挟んで、鬼龍と神崎が真剣に向かい合っている。二人ともちゃんとやったことはないと言っていたが、神崎は器用にラケットを使いこなしているようだ。鬼龍の方はというと、力が強すぎるんじゃないか、あれは。台からオーバーするかネットに当てることが、神崎よりも多い。
「案外難しいな、これ」
「我は結構楽しい♪」
「そうかよ」
にこにこと満面の笑顔の神崎が可愛い。鬼龍に相手をしてもらって嬉しいんだろうな。俺は断ったから。二人が楽しそうなのを見てるだけで、俺は充分
……
というか、この二人の体力にはとてもじゃないがついていけないし、これくらいでちょうどいい。
バカンス二日目は紅月の三人で過ごすことにした。今日から撮影も始まっているが、初日はスタプロからで、リズリンは明後日だ。
あまり日焼けしたり怪我をしてもまずいので、今日はホテル内を見てまわっている。屋内だけでもずっと過ごしていられるくらい、様々な施設が充実している。広いプールやスパ、トレーニングルームはもちろん、スポーツ系は卓球やバドミントン、パターゴルフ、ボルダリングや室内アスレチックもあるようだ。屋外ではマリンスポーツもできるし、本当になんでもあるな。最新設備のゲームコーナーや、カジノまであるらしい。俺たちは行かないが、喜びそうな人物に心当たりはある。
「うおっ
……
、神崎は上達が早ぇな」
鬼龍の正面に来た球は、打ち返せずに高く跳ねあがった。
小気味良い音を立てて何度か跳ねたあと、こちらまで転がってきたので、拾い上げて神崎の方に放った。
「鬼龍はもっとできそうなものだと思っていたが」
「細かい動きは苦手なんだよ。ラケット使う球技とか体育の授業くらいしかやらねぇし、中坊の頃はそもそもまともに出てねぇから
……
」
「まあ、授業はきちんと受けていたが俺もほとんどやったことはないな」
「小学校はドッジボールとかバスケとかサッカーとかそういうのが多かったしな。そっちならまだ動けんだけど」
それは流石に三人でやれるものではない。ああ、ドッジボールはともかく、バスケとサッカーのシュートをするミニゲーム的なものはどこかにあった気がするな。
「鬼龍殿、我、他の『すぽぉつ』もやってみたい!」
「んじゃ次いくか」
その後も神崎が興味を持ったスポーツに鬼龍が付き合っているのを、俺は本を読んだり、合間に写真を撮ったりながら見ていた。
途中で昼飯を食べにビュッフェ形式のところに行ったけれど、その後はまた運動を再開している。ずっと動き回っている二人は、よく体力が持つなと感心する。途中、見てばかりいないで少しは写真に映れと鬼龍に言われて、バドミントンなど多少付き合ったが、やっぱりついていけん
……
。まあ、鬼龍が上手く撮ってくれたおかげで今後使えそうな写真は用意できたし、不慣れなりにやった甲斐はあったと思いたい。
室内のスポーツを全制覇でもする気なのだろうか、というほど、二人はあれやこれやと手を出していく。あまり触れたことのない種目への興味もあるのだろうが、多分、一緒に体験するのが楽しいのであって、内容は何でもいいのだろうな。
今はバスケのフリースロー対決をしている。俺はスマホのカメラを動画モードにして構えた。
「上手く決まったらSNS用にするぞ」
「任せろ、一発で決めてやる」
これは随分自信がありそうだな。本当に一発で決まったらすごいが。
鬼龍の投げたボールが放物線を描いて、ゴールリングに当たることなく中心に吸い込まれていった。おお、今のは格好良いぞ。鬼龍は背が高いし手足も長いから、こういうの、似合うな。
「流石である、鬼龍殿!」
「格好つけといて外したらどうしようかと思ったけどな」
なんだ、自信があったわけじゃないのか? でも、こいつは期待には応える男だからな。
さんざん遊び倒したあとは、洒落たカフェで休憩して、その後は海辺を散歩することにする。夕方ともなれば、海風も心地よい。
しばし歩いていると、連れだってどこかへ向かうUNDEADの四人がいた。日が落ちて来たから、朔間が外に出てきたのだろう。
「あどにす殿、大神殿!」
神崎が乙狩と大神に手を振る。その声に、みんな振り返った。
「紅月はみんなで仲良くお散歩か?」
大神が話しかけてくる。相変わらずの調子に見えるが、いつもよりはしゃいでいるな、これは。
「そんなところだ。UNDEADはどこかに行くのか?」
問いかけてみると、にこにこ楽しそうな表情の乙狩が頷いた。
「ああ。みんなでサンセットクルージングに行くんだ」
「一緒に行くかえ?」
朔間の誘いに、言葉に詰まる。
「いや、俺たちは
……
」
言いかけたところで、鬼龍が割って入った。
「いいじゃねぇか、行ってきたらどうだ?」
「えっ」
顔色一つ変えず、平然と言い放たれた言葉に、思わず動揺の声をあげる。
「
……
おまえはどうするんだ」
「俺はトレーニングでも行ってくるよ。設備がすげぇんだって鉄が教えてくれたし」
神崎も、鬼龍の方を振り返った。UNDEADの連中も含めて、視線が集まる。
「晩飯は神崎が行きたがってた海鮮料理行くんだろ? 終わったら合流するからさ」
「鬼龍殿、
……
」
神崎も言いたいことはあるようだが、どう言っていいのかわからないのだろう。そんな神崎を言い含めるように、鬼龍は告げた。
「神崎、あとでどんな感じだったか俺に教えてくれよ」
「
……
承知した」
「
…………
」
そう言われれば、神崎は従うだろうと、見越して。
「それじゃまたあとでな」
そうして、俺が何かを言う前に、早々にホテルの方に戻って行ってしまった。
船が出発してしばらく。俺はずっともやもやとした気持ちを抱えたまま、デッキの手すりにもたれて、ぼんやりと海を眺めていた。波をかき分けて進む船はもうとっくに陸から遠ざかった。海風がひっきりなしに髪を揺らす。
「余計なこと言ってしまったかの」
朔間の声に振り返ると、朔間と羽風がこちらに寄ってきた。
「いや、別に悪気があったわけではないだろう。それに、神崎は乙狩と大神と一緒に来られて楽しそうにしているからな。誘ってくれて感謝する」
「っていう顔じゃないけどね~?」
まったく思っていないわけではないが、愛想よくする元気もないんだ。というか、こいつらの前で取り繕っても仕方ないしな。
「まぁ、蓮巳くんの気持ちもちょっと分かるかも。鬼龍くん、前からそういうとこあるよね」
自分が身を引けばいい、みたいな。すぐに自分を犠牲にするところ。
……
周りが気づくぐらい、些細な部分でも出ているのだ。例えば、何かを分け合う時に最後でいいとか、足りなければ自分は要らないからとか、周りばかりを優先する。それは鬼龍の優しさでもあり、小さな妹さんの保護者として過ごしてきたからでもあり、
……
多分、もっと、根の深い部分でもある。俺でも簡単には、触れられない部分。恋人という、立場でも。
「別に、一日中一緒にいる必要はないが。
……
俺たちのため、みたいに、勝手に自分一人で結論づけて。そういう所が、
……
」
きらい、とは言えない。嫌、ではあるけれど。不満、なのも確かだ。
でも、どの言葉もしっくりこない。このもやもやした感情は、色々と複雑に入り交じってる。
……
ああ、そうか。寂しいんだ。なんだか、線引きされているみたいで。
俺がスポーツを拒否したのとは、全然違うだろう、意味が。
深いため息がこぼれる。夕陽を映して煌めく海だって、一緒に見たい人が隣にいなくては、空しいだけじゃないか。だからといって、気分が悪くなってまで無理して乗ってほしいわけでもない。クルージングじゃなくたって、違うところだってよかったんだ。一緒にできることを探せば。
……
。
「蓮巳くんも、いつまでも拗ねてないで楽しんだらどうじゃ」
朔間の言うことも一理ある。こんな機会はそうそうないし、せっかく誘ってくれたのにいつまでも暗い顔をしているのも失礼だろう、が。
「ええい、なんだ」
朔間が突然肩に腕をまわしてきて、更に頬を突っついてくる。正直、ここまでくっつかれると鬱陶しい。
「ほれ、アイドルはいつでも笑顔でいないと。せっかく一緒に来たのじゃから、な」
朔間はそう言って、羽風の方に手を振る。羽風がスマホを向けているから、SNS用の写真を撮るつもりなのだろう。まあ、俺たちは同じ事務所だしな。色々と複雑な関係ではあるが、表向きは仲が良い姿を見せておいて、損はないだろう。
「はぁ
……
。どうせなら多めに撮ってうちにもよこせ」
目を閉じて、一度深呼吸する。それから、撮影用の笑顔を作った。実際の気分はどうあれ、楽しそうな演技くらいはできる。撮影でも、ドラマでも、表情を作る経験も増えてきたしな。アイドルとして求められることには、些細なことでも手を抜いたりしない。
何枚か撮った後、羽風は写真を確認し、感心したように告げた。
「蓮巳くんって、わりと演技派だよねぇ」
「やかましい」
「次は晃牙くんに頼んで三人で撮ろうか」
神崎と乙狩はスマホの操作に不安が残るからな。二人とも、以前よりは使いこなせているだろうが、ここは大神が適任だろう。
「羽風、後で神崎たちの方も撮ってやってくれ。俺よりも羽風の方がいい写真が撮れるだろう」
「もちろんだよ~、それもあとでまとめて送るからね」
そう言って羽風は大神に声を掛ける。大神は嬉しそうに飛んできた。先輩に頼られて嬉しいんだな、あれ。
「へっ、仕方ねぇなぁ。俺様がバッチリ撮ってやるよ」
大神がスマホを構えると、朔間だけじゃなくて羽風まで寄ってきた。
「っていうか、近すぎないか貴様ら」
「えー、俺も別にくっつきたいわけじゃないけど、これくらいのが映えるからね」
「どうせなら良い写真を残したいしの」
そう言われてしまえば反論もしづらい。見栄えの良い写真などは、羽風の方が得意分野だろうしな。
「そういうものか。俺は詳しくないし、任せるが
……
」
仲良しこよしという関係でもないのに、なんだか変な感じだ。いや、仲が良い姿をファンに見せるのが目的なのだからこれで良いのだろうが。何枚か撮ったのを、一緒に見せてもらう。
……
アイドルのオフショットとしては、見栄えが良いのは確かだな。仲良しのお友達、みたいに映っているのがどうにも違和感が拭えないが。
「次は俺が撮ってあげるよー。ほら、アドニスくんと颯馬くんも、こっちおいで」
神崎がちらりと俺の方を伺う。俺が頷くと、素直に寄ってきた。
この三人は元々仲が良いしな。俺たちよりも自然に、いい写真が撮れるだろう。
その後も風景を撮ったり、神崎と二人で撮ってみたりともう少しだけ写真を増やしつつ、突如巻き込まれた一時間程度のクルージングを終えた。
その後はUNDEADの四人と別れ、鬼龍と合流した。先に風呂に行き、それから神崎が行きたがっていた店で食事を摂った。鬼龍は本当にトレーニングルームに行って、南雲も呼んで一時間ほどいたらしい。なんだかいつもより饒舌なのは、俺の口数が減っていたからだろう。神崎は、内心は知らんが船から降りて合流したあとは、何事もなかったかのようにしている。
子供じみた対応をしているのは俺だけなのかもしれないが。そう簡単に、もやもやした気持ちは消えない。
その夜、部屋に戻ったタイミングで、羽風から大量に写真が送られてきた。
「羽風からだ」
「あの男、写真の腕は良いな」
ツンとした対応の神崎に、思わず苦笑が漏れる。何年経っても、未だに気に入らない男というのは変わらないらしい。
昔の羽風を考えると、分からなくもないが。最後は同じクラスだったが、学院に居た頃ならこんな距離の近い写真も撮ることはなかっただろう。
……
朔間とも、な。
写真の中の俺たちは、ただクルージングを楽しんでいる仲の良い友人たちに見える。そんな写真を見ていて、つい感傷的になってしまった。
「
……
」
手を止めていたら、鬼龍が横から覗き込んできた。それから、少し間があって、言った。
「ああ、よく撮れてるんじゃねぇか?」
「あいつらとこんな風に写真を撮ることになるとは思ってもみなかったがな」
「ま、確かに、ちょっと妙な感じはするな。いい写真だけどよ」
いくつか、写真を確認する。
……
やっぱりこんなにあいつらと距離が近いの、慣れん。鬼龍や神崎とはあるのにな。
神崎たちの写真も、よく撮れていた。同じような距離感だけど、俺たちと神崎たちとは、全然違うな。まあ、撮れ高はかなりあったから、SNSや今後の仕事用にも困らないだろう。
とりあえず羽風に返信をしておくか。少々癪だが、朔間にも礼を伝えて貰うようにメッセージを送った。
その後は、見られて困るものもないので、鬼龍にスマホを渡してやる。
「ん、あぁ」
「我も風景など撮ってみた」
そうして神崎もスマホを渡した。
……
多少、ブレているのもあったが、昔よりは上達したな。えらいぞ。
しばし写真を見ていた鬼龍が、スマホを返してくる。
「ありがとよ」
返されたスマホは、そのまま充電器につないだ。
「慣れないことをしたら疲れたな。俺は休むぞ」
九時も過ぎたから、もういいだろう。就寝の支度のために俺は洗面所に向かう。
「っ
……
」
「鬼龍殿
……
」
鬼龍が何かを言いかけたのと、神崎が鬼龍を呼ぶ小さな声はしっかり耳に届いた。けれど気づかないふりをして、洗面所に入る。
扉をきっちり閉めてしまえば、部屋の声は聞こえない。なにか話しているのかもしれないが、俺は、聞くべきではないことだろう。
無感情に歯磨きなど終えて顔を上げると、鏡に映る自分は、酷い顔をしていた。きっと船に乗ってからずっと、こんな顔をしていたのだろう。二人が心配して声をかけてきたくらいだ。
我ながら、さっきの笑顔の写真とは別人のようだと自嘲する。演技派などとからかいたくもなるだろうな、これでは。
でも。でも、な。
距離を置かれて、些細な我儘すら言ってもらえない恋人とはなんなのだ。二人の時だって、恋人らしいこと、する時だって。いつもどこか遠慮しているの、気づいてないとでも思っているのか。
喧嘩したいわけじゃない。でも、泣きそうになる。
昨日は楽しかったのに、今日だって、楽しくなかったわけじゃない、のに。こんなことさえ、思い出の一つとして笑える日は来るのだろうか。
なんだか、すごく、疲れた気がする。寝て起きたら、少しは気持ちも、変わってくれるだろうか。
そんな淡い希望に縋るように、二日目の夜を終えた。
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