【Δドラロナ(30年後)】From addiction to liars with love

30年後Δドラロナがわちゃわちゃ喧嘩する話。
転化後Δドなど捏造山盛り。Δヒマ、ヒヨなど。

幸福論 https://privatter.me/page/662cb84d1e26c
悦楽編
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の続きです。


「ただいま……
 転化を機に元々住んでいたマンションから少し離れた郊外へと引っ越したことを後悔はしていない。老後は静かな場所で、という訳ではないが、ドラルクは定年退職後に購入したこの小さな屋敷を存外気に入っている。ロナルドも最初は広過ぎるのではないかと言っていたが、これからの長い吸血鬼生の中でこんなところに住んでみるのも悪くない、ここが吸血鬼ロナルド城マークIIだな、などと嘯いていた。
 但し、先も云ったようにここは郊外だ。新横浜署からも吸対本部からもそれなりに遠く、最寄りの駅からは車で一時間は走らせなければならない。
 そう。吸血鬼として新たに夜を歩む者として生きることになったドラルクは——多忙を極めていた。
「どうしてこうも落ち着かないんだ……前に帰ってきたのは十日も前だと……
 吸血鬼対策本部創始者の嫡孫であるドラルクは、現在トップの席に座っている父の後継として、かつてのような現場ではなく主に経営や監査の部門に携わっている。東奔西走とはこの事で、やれあちらの出資者に挨拶に行かなければ、やれそちらの会議に出席しなければと、特にここ最近はひっきりなしだ。
 吸対を引退した後に名ばかりの取締役会の一員となったドラルクが転化をして暫くすると、それまで吸対や家のことを一手に引き受けていた同じく転化済の父が「ちょっとだけ休ませて」と泣きついてきてから話が変わってきた。仕方なく、あくまで父の代理としてならばと引き受けたが最後、まるで三十余年前を思い出す多忙さに翻弄されている。
 泣きついて来た父はドラルクが根負けして頷いたと同時に、海外で暮らす吸血鬼の母の元へ飛んで行き数十年振りの逢瀬を満喫していることだろう。偶にメッセージアプリで惚気けが送られてくるのだが、この歳 八十歳手前で親の惚気けを浴びるのは精神的なダメージが大きい。吸血鬼は長く生きるうちに頭がポンチになる者もいるというが、あながち間違いでもなさそうだった。
「早く……早くロナルド君の匂いを直吸いせんと、持たん……
 帰ってくる度に嬉しそうに出迎え、出て行くたびに寂しげに見送る伴侶の姿を脳裏に浮かべる。吸血鬼になってから一番不便になったのはやはり日中の移動が困難になったことだ。ロナルドによって吸血鬼化したドラルクだったが、ロナルドのように陽の光を克服することは叶わなかった。陽を浴びれば即死こそせずともすっかり塵と化してしまう。昼の間に移動するには陽の光の一切入らない密閉空間——棺桶にでも入って移動するしかなかった。
 それでも工夫は凝らしていた。時間短縮のために完全遮光の窓ガラスを嵌め込んだ特別仕様の車を利用するなどしているし、空路を使う際は父に頼み込んでこれも特別仕様の、陽光の入らない部屋のある自家用を利用している。そうでもしないと、月に一度もこの屋敷に帰ってくることは出来なかっただろう。
 その上ドラルクは、吸血鬼になっても貧弱だった。体質の変化は確かにあったが、虚弱な体質はまた別の形になって出現したのだった。
「ロナルド君? 帰ったよ……痛っ!」
 薄暗い廊下を歩きながらドラルクはこの屋敷で待っている筈のロナルドの姿を探す中、開かれっぱなしの扉に肩をぶつけた。正確に言えば、開け放された扉を視界に入れぶつかる直前に足を止めることができたのだが、ぶつかると認識した瞬間にドラルクの腕から下が塵と化した。
「っ!」
 ドラルクの体はちょっとした衝撃や、精神的な動揺でも、斯様に塵となる体になってしまっていた。着込んだスーツの片腕が内側の質量を無くしてダラリと垂れ下がる。体重の数パーセント分の質量を失くしてバランスを崩しかけたドラルクだったが、二、三歩蹈鞴 たたらを踏みつつもなんとか転倒は避けることが出来た。
「はぁ……怪我にならないのはいいが……
 痛みなども特になく、ダンピールだった時のように怪我をすることもない。だがこれほど脆い体質は便利かと言えばそうとは言えなかった。
 ドラルクはその場で膝をつき、塵の傍に体を寄せると頭の中で体の形を思い描いた。この体になって一番最初に覚えたことは、塵になった部位を素早く元に戻すコツだ。塵は直様ドラルクの体へと集まり、袖の下の中へと入り込んでいく。数秒とかからず腕が元の形に戻り、それを確認するようにドラルクは形作られた手を掲げ、何度か握って開いてを繰り返した。
 すっかり元通りになった手で落としていた上着を拾い上げる。この能力と言うか体質は、元のドラルクの家系に流れる血とロナルドの不死性が合わさってしまった結果なのかもしれない。
 ドラルクは気を取り直し、再び屋敷内を歩いて回った。ダンピールだった頃の癖でつい鼻先を上に上げたが、ロナルドの気配は当然感じられない。……というか、吸血鬼同士で感じられるはずのセンサーすら働かず、ロナルドの居場所が掴めなかった。
……ロナルド君?」
 どういうことだろうか。気配探知ほどではなくとも同胞の、しかも親吸血鬼を嗅ぎ分けるドラルクの六感はそこそこの精度を誇る。だが屋敷のどこを探しても、ロナルドの姿は見当たらなかった。
 事ここに至ってようやくドラルクはスマホを取り出し、メッセージアプリを起動する。ロナルドとのメッセージ画面に新着通知はなく、ざわりと鳩尾の奥で臓腑が波立つような感覚を覚えたドラルクは寝室へと足を向けた。
 やはりそこにもロナルドの姿はない。代わりに、綺麗に整えられたキングサイズのベッドの袂に紙切れが一枚置いてあるのを見つけ、ドラルクは急いでそれを拾い上げて紙面に視線を走らせた。
…………なっ」
 ドラルクの手から、ただの紙切れがひらりと落ちる。真の絶句とはこうも言葉が出ないものであることを、ドラルクは初めて理解した。


『実家に帰ります ロナルド』


 真夜中、郊外の屋敷で悲鳴に似た声が響き渡った。



🌊WB