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楓花
2024-09-15 21:48:36
Public
GD/その他
せめて、夢の中でも
城が、亡くなった父と夢の中で会う話。
原作59巻の話から、城にもお父さんに会わせてあげて欲しいなあと思って書いたものです。ちょっと城が別人っぽくなってしまった気がしますが、完全自己満足話ということで。
後半少しだけ城篠要素がありますが、カプ要素は薄いです。
城教官の命日は20周年記念画集記載のものですが、詳しい日時は不明の為あえてXX日としています。
今回はこんな話になりましたが、内藤さんとお酒飲み交わしながら息子自慢する城教官とかも書いてみたかった。
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目が覚めて、一番最初にここへ来た。
慰霊碑には今日も色とりどりの綺麗な花が手向けられている。何も変わらずに。
──変わらない、何も。連なる名前の最後に刻まれた、父の名も。
本気で未来が変わると信じていたわけじゃない。だけど、頭の片隅で落胆している自分がいる。夢は所詮、夢。それでもその夢の中で、触れられた手のひらは大きくて。その感触だけは、やけに鮮明だった。
割と長い間そうしていると、ふと頭上から影がさした。
「篠井さん」
「姿が見えたので。どうかしましたか?」
「いえ、特に何もないんです。少し確認したくて──」
「確認、ですか?」
言葉尻を拾って、どういうことかと目で問われる。
失敗した。突然だったからうっかり零してしまったが、ここで夢の話をするのは正直恥ずかしい。
言葉に詰まっていると、その静寂が一層居たたまれない空気を増長させた。
篠井さんに真っ直ぐ見られると、どのみち変に隠してもすぐに見抜かれてしまうような気にさせる。
「──夢を、見たんです」
少し躊躇ったが、結局全て話してみることにした。
夢で過去の国会らしき場所にいたこと。
そこで父にあったこと。
それが父が殉職した事件の日だったこと。
──もしかしたら、過去が変えられるんじゃないかと思ったこと。
「でも目覚めてみたら、やっぱりただの夢で。わかってはいたんですけど・・・それならもう少し色んな話をしてみたかった気がします」
篠井さんは、ただ黙って聞いていた。
そして全て聞き終えたあと、漸く静かに口を開いた。
「並行世界、というものを聞いたことがありますか?」
「・・・よくは知りませんが、パラレルワールドとかいう──」
「そうです。世界はひとつではなく、合わせ鏡のように複数の分岐した世界が並行して存在するという考え方です。私も詳しくはありませんが──」
突然突拍子もない話を始めた篠井さんを、思わずまじまじと見る。
「そういうの信じるんですね」
「稀にですが、どうしても説明の付かない不思議な事象というものはあるものです」
それは経験則からだろうか。
言葉の端からそんな風に感じとれる。ただでさえ、そんな経験をしていてもおかしくない人だ。何となく詳しく聞いてみたい衝動に駆られる。
「城は、その別の世界に迷い込んだのかもしれませんね」
「別の世界・・・」
本当に、そんなことがあるのだろうか。
そこでは父が生き延びていて、昔と変わらない生活が続いている。そうして父が隊長として率いる隊で、自分も共に仕事をして──いつか無事に勇退していく父へ、気恥ずかしい思いをしながら労いの花束を渡すような。忙しくも穏やかな、そんな未来が。
「もしもそんな世界が本当にあったら、城はその世界に行きたいですか?」
不意に問われて、俺は一瞬言葉に詰まってしまった。
だけど、少し考えてすぐに首を振る。
幾つもの衝突や困難を乗り越えて今がある。今のこの隊の絆の深さ、この雰囲気は石川隊長あってこそのものだ。最初は憎しみばかりを募らせていた。だけどこの隊で、西脇さんアレクさん、マーティ達沢山の仲間と過ごす時間は、いつのまにか自分にとってかけがえのない大切なものになっていた。
──それに、ここには貴方がいる。
「俺は、今のこの隊が好きですから」
「そうですか──私も、好きですよ」
思いがけず返ってきた言葉に、一瞬ドキリと鼓動が跳ねた。
思わず隣を凝視する。じっと慰霊碑を見つめる篠井さんの横顔は、気のせいか少しだけ微笑んで見えた。
わけもなく波打つ心臓を落ち着かせるように、そろりと慰霊碑に触れてみる。
ひんやりと冷たい石の感触。この世界に父はもういない。だけど父の遺志は引き継がれ今もここに生きている。
その思いを、自分はここで繋いでいくのだ。
父の後ろに、新たな名が刻まれることがないように。夢の中でした、約束のとおり。
そのまま目を閉じる。
すると俺の手の甲へ、不意に篠井さんの手が重ねられた。
その時どこからか一筋の風が吹いて、優しく撫でるようにふわりと髪を揺らした。
それはまるで父の手の感触のようだと、何故だか一瞬そんな風に感じたのだった。
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