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氷紀
2024-09-09 14:00:54
5391文字
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迷い込んだ彼らの話 番外
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迷い込んだ彼らの話 番外03
本編に入れきれなかった話。ゲタくんの過去。
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廃墟と化したビル、街の残骸の上空を飛び交う、無数の光。
妖怪の力と、人間の道具が放つものと。
小型ラジオから聞こえる、ざらついたニュースの声。人間が撤退した、街が壊滅した、どこかの国で妖怪が新たな『反乱』を起こした、新たな協定が結ばれて、数日以内に支援物資の弾薬と戦車、航空機が入る云々。
割れた窓の外から聞こえるカラスたちの、悲しい声。川沿いの妖怪たちがまとめて殺された。上流の泉に毒。北の里では狐と狸が内輪もめをしている。逃げ散って行方知れずのモノの名前。焼け死んだ木霊たちの遺言。
ココニイタヨ。ココデオシマイ。ワスレナイデ。
守りたかった筈の人間と妖怪が、互いを絶滅させる勢いで殺し合い続けてる。僕にあるのは、戦う力だけだった。毎日頭が割れそうで、それでも僕は目の前の仲間を守りたくて、戦って、戦って、戦い続けた。心を殺して、涙を封じて。せめて可能な限り殺さずに切り抜けるのが、最後の矜持だった。
日に日に混乱は酷くなって、ある日とうとう、ゲゲゲの森を特殊武装の敵に襲撃された。逃げ出せたのは僕と父さんと、ねこ娘と、一反木綿。
……
砂かけと子泣きは、ここを離れては生きられない妖怪たちが居るからと言って、それが最後だった。あとねずみ男は、戦乱の最初の頃に、ぬりかべと一緒に行方知れず。あいつらのことだから、どこかでしぶとく生きてるだろう。
……
そのはずだ。そう信じるのは、僕の自由のはずだ。
森から逃げ出したあと、僕たちは水木さんの墓標がある、あの墓地に拠っていた。新月の夜、闇に紛れて人間の兵器は攻めてきて
――
ドローンの群れの銃口は、墓地の奥まで追いかけてきた。あの弾丸で左足を撃たれて、そこまで逃げられただけでも奇跡みたいなものだった。
僕たちがそこまで執拗に追われる羽目になったのは、少なくとも何割かは僕の戦い方の所為だった。僕が継戦能力だけを奪った人間が、どれくらいの人数なのか
……
もう、とても覚えきれない。そのお陰で“ゲゲゲの鬼太郎”は、人間たちにとって、最悪の妖怪になってしまった。曰く、無駄飯ぐらいの負傷兵ばかりを意図的に増やす、
悪魔の兵器
クレイモア地雷
のように残酷な妖怪だと。
それでも僕は人間を殺したくなかった。
……
殺していいとは、思えなかった。
無人の庫裏ではざらついたラジオの音が鳴っていて、大型ミサイルの標的の都市名が聞こえて、それが今いる街の名だと分かっても、一反木綿に逃げろと叫ぶのが限界だった。空を行けるお前『だけ』なら、今からでも逃げ切れるはずだ、と。
叫ぶ間に、ねこ娘がドローンの銃に撃たれていた。でも撃たれた足で無茶をした僕は、その時点でもう、彼女に駆け寄ることもできなかった。ラジオから聞こえる声。オペレーションクリアザクラウズ、標的は“ゲゲゲの鬼太郎”とその父親
――
僕と父さんは無理でも、ねこ娘まで巻き添えにすべきではなかった。僕と一緒にいたいと言ってくれた、その優しさに甘えて、ついに命まで奪ってしまった。
彼女から僕に狙いを移したドローンの銃口を、黒い夜空を走るロケットの影を、僕は呆然と眺めて
――
その視界を、白い髪が遮った。
あのとき、父さんは悲しそうに笑っていた。
縹色の着物は、血に汚れて真っ黒になっていた。返り血なのか父さん自身の血なのか分からないくらいに。
きっと父さんにも分かっていたんだろう。
この世界にはもう、僕たちの生きる場所は残ってない
――
。
『生きるんじゃ、鬼太郎。心のままに』
最後に聞こえた、その一言。
僕は叫び返したけど、その声は
――
父さんに届いたんだろうか?
「父さん、」
弾かれたように、飛び起きる。
一瞬、自分がどこにいるのか分からなかった。視界に映る古ぼけた柱、縁側と部屋を隔てる、薄ぼんやりとした障子の明かり。ほんの微かな、古びた畳の匂い。
静かな、静かな夜の中
――
ちいさな寝息がひとつ、傍らにある。
ちいさいの。
小さい頃の僕そのままの姿が、寝息を立てている。それでやっと自分の居場所を把握した。ここがどこで、今どういう状況かも。
そうだ、ついこの間、墓のが子供用の布団を手に入れてきてくれたんだ。ちいさいのもそれを気に入って、気が向いたときはそっちで寝ることにしたんだっけ。
僕は密かに、墓のに感謝した。お陰でちいさいのを起こさずに済んだ。
布団の上に身を起こしたまま、深く息をつく。
頬をくすぐるように流れたのは、冷や汗なのか、涙なのか。
わからない。
ちいさいのと出会ってから、過去の夢はほとんど見なくなっていた。でもあの最期の光景を忘れた訳じゃない。まるで呪いのように焼き付いた、記憶。
全ては過去だ。もう終わったこと。第一僕はもう、元の世界には帰らないと決めた
――
思い出したところで、今更どうしようもないのに。
到底、寝直せる気分ではない。傍らで眠るちいさいのの、金糸が混ざった栗色の髪をひとつ撫でてから、僕は布団を抜け出した。
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