モチベーション②

pixivにアップしてるモチベション(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=22922532 )のその後。



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「え、浮気されたら?」

 チャンドラ博士の滞在は三日間しかない。
 あと数時間で艦を降りてしまうチャンドラを探してうろついていたら、艦の食堂で飲み物を買っているチャンドラにとんでもない質問をしている奴が居て、その場を見かけたコノエはチャンドラが浮気したらという仮定を想像して戦慄してしまった。
 チャンドラに質問を投げかけたのブリッジクルーの一人で、遊び人のCIC担当男性少尉である。
 またお前か。コノエはCIC担当を殴りに行きたい気分になったが公衆の面前はまずい。まして暴力を振るう現場をチャンドラに見られるわけにもいかない。
 チャンドラの隣にはモルゲンレーテから一緒について来ている女性の部下が居るので心強いのだろう。CIC担当が話しかけても怖がったりはしていないのがせめてもの救い。どうしたものかと思案していると、意外にもチャンドラが真面目に回答について悩み始めたので固まった。
「んー
 コノエが通路で聞き耳を立てているとは気付いていない。
「アレクセイが浮気どうするかなぁ」
 そっと食堂内を覗き、腕を組んで考えるそぶりを見せる愛妻の姿に何故かハラハラしているコノエ。
 若干呼吸が浅くなって冷や汗をかきつつも深呼吸して落ち着いて考えたら、【コノエが】浮気したらという仮定の話である。
 勿論浮気などするつもりはないのだが、チャンドラの忌憚ない意見が聞けるチャンスでもある。参考までに知っておくのも良いのでは。聞くのが微妙に怖いが。
 ちなみにコノエは浮気しない。正確に言うと出来ない。万が一にでも妻に嫌われるような行動をして離婚届を突きつけられたら数日のうちに物理的に死んでしまうことは数年前の夫婦喧嘩で実証済みだ。
「艦長ってモテるんですよ。艦内にも落ち着いててカッコイイ! って言ってる女性クルーも多くて。やっぱり離れてるとそういう心配もしちゃうじゃないですか。艦長だって若くて可愛い女の子に言い寄られたら出来心でってこともあるかも。もしそうなったら、許します? それとも知らないフリをする? 怒って問い詰めますか?」
「そうだなぁうーん」
 前回浮気を疑われた時は別れ話をされたあと着信拒否されて肝が冷えた。その後すぐに誤解が解けてむしろ熱烈に告白してもらえてそれは最高だったのだが、正直浮気疑惑をかけられる方については二度は要らない体験である。
 というかあいつの質問の意図は何なんだ。何でチャンドラにわざわざそんな話をするんだ、浮気を疑われたらどうする。クソ、今すぐ黙らせに行きたい。手っ取り早く暴力で解決したい!
 コノエは不安から心臓がバクバクしている。これ以上は危険では。好奇心は猫をも殺す、そろそろ素知らぬ顔で食堂内に突入して話を逸らすべきか。
「おこ、おこる? 怒るかなぁ知らないフリとか、出来るかなぁ。許す? うーん、結局は許しそうだけど」
 チャンドラはうんうん唸って悩んだ末にぼそりと「いやでも、そんな事したら死ぬかも」と呟いた。
 その瞬間、コノエの浮気に心を痛めたチャンドラが世を儚んで自ら命を絶つ想像をしてしまい衝動的に駆け寄り、チャンドラの前に立つと叫んだ。
「しない!」
「わっ」
 動揺のあまり主語もなければ声もデカくなってしまった。突然駆け寄ってきたコノエにいきなり怒鳴られた形になりビクッと身体を震わせるチャンドラと驚く周囲の人々。食堂内に居た全員の視線がコノエに集まった。
「びっ、くりしたぁ何なんですかいきなり大きな声やめてくださいよ」
「わっ、うっ! ぜ、っっ、しっ! あっ
「うわ動揺がえぐい」
 『私は浮気なんて絶対にしない!』と伝えるはずが、儚くなったチャンドラの姿が想像でも絶望的すぎて言葉がうまく出ない。
「もしかして今の話聞いてました?」
「ッ!」
 言葉が出ないことに耐えかねてチャンドラの小さな身体をギュッと抱きしめて頷く。チャンドラはコノエの背中をぽんぽんと叩いてあやしてくれながら笑って言った。
「あなたは浮気しないでしょ。私が悲しむようなことすると三日で死んじゃうくせに」
 あははっと笑い飛ばされたが、全くもってその通り。チャンドラはよくわかっている。
「え、死ぬの艦長の方なんですか」
 CIC担当少尉が驚いた声を上げ、へらへらと笑ってこちらを見ているのに気付いた。
 こいつ、絶対に許さない。
 心がスッと冷えていく。コノエは制帽のつばの下から男を睨みつけ、報復を決意した。